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上川陽子外相「産まずして何が女性か」に見る報道問題

今度は、上川陽子氏が「被害者」となったようです。上川氏が18日の静岡県知事選の応援演説で「産まずして何が女性か」と発言したと報じられ、上川氏自身は翌・19日、「私の真意と違う形で受け止められる可能性があるとの指摘を真摯に受け止める」と述べ、発言の撤回に追い込まれたのです。ただ、発言の詳細を調べてみると、上川氏の「うむ」は「出産」ではなく「知事を誕生させる」という意味で用いられていることは明らかだったのですが、問題はそれだけではありません。

三権分立の枠外にいるマスコミ

第四の権力の前に:「三権分立」とは?

「第四の権力」。

冷静に考えたら、これは非常におかしな存在です。

私たちが暮らすこの社会では本来、すべての権力は私たち国民・有権者の監視を受ける必要があります。国会議員は数年に1度の選挙の洗礼を受けなければなりませんし、わが国が議院内閣制を採用している以上、与党も衆議院議員総選挙で勝たなければ、政権を失ってしまいます。

また、裁判官は基本的に国民の選挙で選ばれる存在ではありませんが、それでも(名目上は)最高裁長官は内閣の指名に基づき天皇陛下が任命し、その他の判事は内閣が任命することとされており、加えて最高裁判事に対しては10年に1回、国民審査も行われています(※)。

(※個人的に、裁判官に対する国民の監視の目は不十分だと考えているのですが、この点に関しては、機会があれば、いずれ別稿にて説明したいと思います。)

そして、この三権――立法、行政、司法――は相互に牽制し合っており、結果的に国家権力が誰かひとりに集中したりしないような仕組みが取られている、というわけです。

三権の相互牽制のイメージ
  • 立法→行政…内閣総理大臣の指名、内閣不信任案の決議
  • 行政→立法…衆議院の解散
  • 司法→立法…法律が憲法に違反していないかどうかを審査する
  • 立法→司法…裁判官弾劾裁判(裁判官を辞めさせるための裁判)
  • 行政→司法…最高裁長官の指名、最高裁判事の任命
  • 司法→行政…行政が憲法に違反していないかどうかを審査する

(【出所】首相官邸キッズ『ミミズク博士と社会科を学ぼう!』等)

三権に対する国民の監視
  • 国民→立法…少なくとも数年に1回は行われる選挙(衆院総選挙、参院通常選挙)
  • 国民→行政…衆議院議員総選挙による政権選択
  • 国民→司法…10年に1回行われる最高裁判事の国民審査

相互牽制も国民の監視もない「第四の権力」

これに関連し、現在の日本の政治状況について、ときどき、「アベの独裁」だ、「自民党の独裁」だ、などと主張する人がいることは事実ですが、残念ながらこれは事実に反します。

与党・自民党は2012年12月の衆議院議員総選挙以来、これまで8回の大型国政選挙(衆議院議員総選挙4回、参議院議員通常選挙4回)で少なくとも最大政党に選ばれ続けているからであり、これらの国政選挙はいずれも民主的に実施されたものであるからです。

そして、「第四の権力」とは、「権力の横暴を監視するための機構」という意味で、新聞、テレビなどを中心とするマスメディア業界がときどき使用している用語ですが、「第四の権力」などという規定はもちろん、日本国憲法には存在しません。

マスメディア業界が自分たちのことを勝手にそう述べているだけのことです。

しかし、現実にこの「第四の権力」というものは、間違いなく存在します。というのも、マスメディアは報道の力を使って有権者の投票行動を左右する――たとえば特定の政党を必要以上に勝たせたり、あるいは逆に、特定の政党に「逆風」を吹かせたりする――ことができるからです。

そして、これは冷静に考えたら本当に怖いことです。メディアが必要以上に大きな社会的影響力を持ち、それによって私たち国民の投票行動(の一部または全部)を支配しているのだとしたら、それは日本が完全な民主主義国家ではないことを意味するからです。

第四の権力は国民から選ばれていない!

もちろん、メディアも私たち国民の監視対象に入っているならば――たとえばメディアの数がたくさんあって、虚報、捏造報道などを行ったメディアに法的な制裁を下せる状況があるならば――、話はまだわかります。

しかし、日本の場合は大手メディアの数が非常に限られていて、在京民放5局が大手全国紙5社と同一資本であるため、自称公共放送のNHK、2つの通信社、あとは「ブロック紙」などと呼ばれる有力地方紙などを含めても、10社前後のメディアが日本の情報空間を支配してしまっているわけです。

これら限られた数の有力メディアが「記者クラブ」を通じて官僚機構などと結託し、不適切な報道などを通じて国民の投票行動を歪めているわけですから、本当の意味の「独裁者」とは、じつはマスメディアのことを指しているのだ、といった考え方も成り立つのです。

そして、私たち国民がマスメディアの選定に関わることは、ほとんどできません。

たとえば新聞記者を「国民の代表」などと呼ぶ人もいるのですが、これは事実誤認です。そもそも新聞記者は私たち国民が直接選んだ存在ではないからです。

また、「メディアが不適切な報道を行ったときには、法で罰すれば良いではないか」、などと考える人もいるのですが、(なぜかしりませんが)裁判所は新聞社やテレビ局に対してやたらと甘いため、私たち一般国民が問題報道を繰り返すメディアに法的制裁を下すことは難しい、という事情があることも知っておく必要があります。

いずれにせよ、マスメディアは「第四の権力」と称しながらも、その実情は適切な「監視機構」を欠いた、横暴なる独裁者とまったく同じような存在となりつつあるのかもしれません。

上川陽子氏の「産まずして」発言の真相

今回の「被害者」は、上川陽子外相

こうしたなかで、メディアが「悪しき独裁者」として、またしても不適切な報道を行った疑惑が生じています。

今回の「被害者」は、上川陽子外相です。

共同通信は5月18日付で、上川氏が同日、静岡県知事選挙応援のために静岡市で演説した際に、「産まずして何が女性か」と発言した、と当初は報じていたようなのです。

これが事実なら、まるで「女性は子供を産むのが当然だ」とでもいわんかのような発言であり、もし上川氏が「(子供を)産まずして何が女性か」と発言したのだとしたら、何らかの事情で子供を産むことができないすべての女性に対する侮辱のようなものだといえます。

そして、上川氏はこの発言について、翌・19日付で「私の真意と違う形で受け止められる可能性があるとの指摘を真摯に受け止める」と述べ、自身の発言を撤回しています。

上川外相、静岡知事選での「うまずして何が女性か」発言撤回 「指摘を真摯に受け止め」

―――2024/5/19 11:03付 産経ニュースより

「正直、こんな軽率な発言をする人間に、政治家としての資質などあるとは思えない」――!

そう思われた方も、多いのではないでしょうか。

じつは「上川氏の問題発言」は印象操作

もっとも、現実に上川氏の発言の全体を読むと、上川氏が「(子供を)産む」という意味でそう述べたのではないことは明らかです。共同通信のポストについているコミュニティノートの指摘にもありますが、上川氏が述べた「うむ」とは、「静岡県知事選挙で応援する候補者を当選させる」、という意味だからです。

共同通信の記事の表題だけを読むと、上川氏の発言が、まるで違う意味になってしまいます。正直、大変にミスリーディングであることは間違いありません。

ただ、本稿で取り上げておきたいのは、それだけではありません。どうも複数の人の指摘によると、共同通信は当初配信した記事を何度か差し替えしているらしいのです。先ほど「~と当初は報じていたようだ」、と申し上げるのには理由があって、最新の記事を読んでも、いくつかの部分が当初版と異なっているというのです。

ここで参考になるのが、『事実を整える』というウェブサイトを運営し、X(旧ツイッター)で「Nathan(ねーさん)」(@Nathankirinoha)のハンドル名でアカウントをもつユーザーの方が、共同通信の記事がどう変遷していったかに関し、豊富な証拠付きで事実関係をまとめているページです。

共同通信が上川大臣発言切り取り報道「(この方を)うまずして何が女性か」タイムスタンプも改竄

―――2024/05/19付 『事実を整える』より

同サイトに示されている記事のURLや「ウェブ魚拓」などのリンク、あるいは画像データなどを信頼するならば、共同通信は記事配信後にタイトルや本文を差し替えています(同サイトはこれを「改竄」と指摘しています)。

たとえば、当初の記事のタイトルは『「産まずして何が女性か」と上川陽子外相』となっていたのだそうですが、この「産まずして」の部分を「うまずして」と平仮名に変更しています。どうしてこんな「修正」(あるいは「改竄」)を加えたのでしょうか?

想像するに、漢字の「産まずして」だと「出産」という意味に見えてしまいますが、上川氏は「うむ」という動詞を出産の意味で用いていない以上、記事表題が「産まずして」のままだったとすれば、それは明らかな虚報となってしまう可能性があるからではないでしょうか(このあたりは想像の域を出ませんが…)。

英語版だと「出産」の意で報じた証拠が残っている

いずれにせよ、「産まずして」が「うまずして」に差し替えられた、という可能性は非常に高いと見て良いでしょうが(その具体的な証拠はリンク先記事にも詳しいです)、話はそれにとどまりません。

晴川雨読』というウェブサイトを運営するXの同名ユーザーの方(@Seisenudoku)が、「動かぬ証拠」として、こんなリンクを呈示しています。

Japan minister queries women’s worth without birth in election speech

―――2024/05/18 20:46付 共同通信英語版 “KYODO NEWS” より

元ポストは、これです。

これによると、共同通信英語版の記事では、記事の表題部分ではっきりと「日本の大臣が選挙演説で出産していない女性の価値を問いかけた」、などと述べています(※本稿が公開されている時間まで、このリンク先記事が残っているかどうかはわかりませんが…)。

ちなみに記事のURLも次の通り、記事表題がそのまま含まれているため、英語版の記事タイトルを「差し替え」るためには、URLそのものを修正する必要がありそうです。

https://english.kyodonews.net/news/2024/05/487c82dcc718-japan-minister-queries-womens-worth-without-birth-in-election-speech.html

「福島トリチウム報道問題」に続き、産経ニュースが騒動を報じる

正直、ここまで証拠が揃ってしまうと、共同通信が上川陽子氏を貶める目的で、本人が述べた内容をわざと曲解して伝わるように報じたのではないか、といった疑惑が生じてしまうのです。

ちなみにこの「共同通信の報道」問題を、既存メディアもスルーしているわけではありません。大手メディアの一角を占める産経ニュースが19日夜、共同通信の実名を挙げていないにせよ、「SNSでは«発言が独り歩きしている»«一部分だけの切り取りだ»などと曲解だとの意見が目立つ」、などと報じました。

上川外相「うまずして」発言 SNSで「曲解」批判相次ぐ 専門家「状況を考慮する必要」

―――2024/5/19 18:31付 産経ニュースより

産経が共同通信の実名を挙げていない理由は定かではありません(産経自身も共同通信の配信記事を利用している立場であるためでしょうか?)。

そして、産経ニュースが共同通信などの実名を挙げなかったことについては一部に批判もあるようですし、また、共同通信の記事のタイトルが途中で「産まずして」から「うまずして」に差し替えられた可能性が高い、などの背景情報の記載はありません。

ただ、現実問題としてSNS上で上川氏の発言の「切り取り」に対し、大きな批判の波が発生していることは間違いなく、こうしたSNS上の反応を、大手メディアの一角を占める産経が取り上げたことには意義があります。

差別化を図るのは賢明な戦略

そういえば、産経はつい最近も、共同通信による「福島第一原発トリチウム検出」に関する不適切報道を(やはり共同通信の実名は挙げていないにせよ)報じたばかりです(『「トリチウム」見出し記事のSNS反応を産経が報じる』等参照)。

産経自身が大手メディアの一角を占めていながらも、他の大手メディアが報じない話題を果敢に報じるという姿勢自体は、高く評価して良いのではないでしょうか。

というよりも、いくらマスコミ各社が「第四の権力」を自称していても、SNS空間や独自ウェブサイトなどを足場に活動する在野のファクトチェッカーや専門家らの目を欺くことは難しくなりつつあるのが実情ではないでしょうか(先ほど挙げた『事実を整える』や『晴川雨読』もそうしたサイトの一部でしょう)。

もっといえば、昨日の『「色水を流す水道局」のマスコミに下される経済的な罰』でも指摘したとおり、メディアに対する法的制裁を下すことが難しくても、私たちの日本社会は、彼ら「第四の権力」に対し、経済的な制裁を下し始めているフシがあります。

企業の総広告費は伸びているのに新聞広告費やテレビ広告費が落ち込んでいるのもそうですし、新聞部数が急減しているのも、テレビ視聴時間が激減しているのもそうです。

もちろん、なかにはNHKのように、「国民が不視聴をすることで倒産に追い込む」ということが難しい組織も存在はするのですが、それ以外の新聞社や民放テレビ局の多くも、人々が新聞、テレビを見なくなれば収入源が干上がり、やがては経営に行き詰まる時代が到来するでしょう。

こうしたなかで、産経が既存メディアの闇を積極的に報じれば、そのこと自体、産経が既存メディアとの差別化を図ることにつながりますし、私たち日本国民にとっても「信頼に足る正確な情報源」が増える(かもしれない)ということを意味します。

こうした流れが広まっていくのかどうかを、まずは見極めてみる価値はありそうです。

新宿会計士:

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  • 自称元日本軍慰安婦の老婆が欧州での対日批判集会で「日本が朝鮮半島を火の海にたたき込んだ時に、私は日本軍に慰安婦として強制連行された」との趣旨の発言をした時も、報じる記事が同様に変更履歴無しで変更されていったのを懐かしく思い出します。

    そう言えば、JAXAの時の暴言も共同通信の記者でしたね。

    打ち上げ中止「H3」会見で共同記者の質問に批判相次ぐ ロケットを救った「フェールセーフ」とは
    https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2302/17/news183.html

  • >共同通信英語版の記事では、記事の表題部分ではっきりと「日本の大臣が選挙演説で集散していない女性の価値を問いかけた」
    大事な訳語部分なので、「出産」ですよね。

    • コメント主様

      貴重なご指摘ありがとうございました。早速修正しました。引き続きご愛読のほど何卒宜しくお願い申し上げます。

  • 国会議員による政治の無力化と,財務省による統治の強化の一貫に見えなくもないです。財務省のマスコミコントロール能力が向上してきたかな。だんだん政治家が残念な仕事になっていきますね。
    アメリカは,セックススキャンダル程度は全然国民が気にしない時代に突入してますけど。ドイツもかな。
    人件費削減で記者クラブに張り付いている記者をクビにして,AIに記事を書かせてみるとか。

  • 不祥事を起こしても
    批判されない無敵の権力者が共同通信社
    ニュースが貰えなくなると新聞が書けなくなるので
    非難しようがないのです。

    腐ったマスコミは民主主義も腐らせます。

  •  多くの若者が、テレビも新聞も読まず、ユーチューブなどSNSばかり見ている時代になりつつあります。「第四の権力」などと呼ばれていたこともあったなあ、と懐かしむ時代も、すぐそこでしょう。
     「つばさの党」問題にも見られるようにこういう迷惑系をどう規制するか、あるいは大陸某国のようにSNSを使って他国の選挙等に干渉しようという企みをどう防止するか、そちらの方が気になります。
     テレビや新聞の偏向なんぞ、どうせ廃り行くのだから、放っておいてもよいか、と考えます。

  • 「マスメディアのコノ惨状に憂まずしてナニが言論人か!」
    とか中の人たちが思わないのはもう膿んでるからでせうね…

    • >言論人

      もう、死語ですね。
      そう言えば、こんな言葉あったよね、って感じです。
      もう、こんな気概のある人間は、言論界(これも死語)にはいませんね。与太者の巣窟になってしまいました。 

  • この話題の全体像をよく理解してないので
    申し訳ないのですが
    女性が子供を産まない(産めない)のが問題なのではないのかな
    生物として女性しか子供を産めないのだから将来のために
    産める環境づくりは重要だと思うけど
    こんなことを問題にしてるとますます少子化になるよね
    なんか社会全体として子供を産んで育てること=悪
    みたいな風潮になってるようにも思えます

    • 日本を少子化に導き人口3000万人まで減らすのは国策では?
      少子化対策は「やっているふり」しかしてない

  • googleから金もらってる"日本ファクトチェックセンター"などよりも、Nathan氏や晴川雨読氏のほうが普段からはるかにいい仕事してます。

  • 上川外相には何も期待してないけれども、何が残念化と言うと発言を撤回した事。

    もうこれで、上川は「ちょっと攻撃すればすぐに自身の発言を撤回する奴」という事がバレてしまいましたね。政治家の発言ってそんなに軽いものでしょうか。もっと信念をもって意図を説明してもいいように思いました。このような人物に総理総裁などとんでもない話です。

    共同通信はじめ、ATM連中は反省をしないどころか、味を占めてまたやるでしょうね。

  •  自民党議員の発言切り取り捏造攻撃では毎度ではありますが、明らかに論拠ではなく"所属勢力"によって評価が割れていますね。
     Yahooニュースの関連記事リンクに出てくるだけでも、発言内容ではなく切り取りへの警戒が足りなかったという風な評価をしているのが国民玉木代表、三浦瑠麗氏の記事。
     そして誤解や経緯を無視した「女性蔑視だ」という的はずれな共同通信丸乗っかりを見せたのが、蓮舫と小西(敬称不要)。
     後者の連中は、従前から常にメディアによってガチガチに保護され支援され、"悪夢"の少し前2007年には「女性は産む機械」発言を大いに援護射撃として受け(これも静岡であり発言主旨ではなく喩えに対する批判)、第一次安倍政権を攻撃した。連中も共同通信も全く同じ意図で報道+拡散をしているのでしょう。……議員2人の方は、切り取りを真に受け記事内容を読まずに、お仲間の共同通信に"本当に騙されてしまった"のかもというあまりに救えない可能性もありますが。

     前述の産む機械発言から15年以上。同じ手を使った共同通信とアレら(いちいち名前書きたくない)が、切り取り戦法によってむしろ没落を加速させるという実績になり、成功体験を失敗体験にして後の世にいくらかでも貢献してほしいものです。

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