「利上げで経済活性化を」?あまりにも斬新過ぎる主張

金利上昇で経済が活性化する、などとする斬新な主張が出てきました。なかなかに面喰います。日銀がなぜ低金利政策を維持しているのかといえば、デフレ脱却にあります。また、円安のデメリットを中傷する人たちは、なぜか都合よく、円建てやドル建ての議論を意図的に混同します。

単位くらい合わせたら良いのに…

先日の『円安デメリット主張なら金額単位くらいは合わせるべき』では、X(旧ツイッター)に投稿された、ちょっとかなり「やばい」ポストを紹介しました。

円安のデメリットを主張するなかで、「1ドル=100円のときの1万円は、1ドル=150円になると6600円になる」という、かなり支離滅裂なツイートだったのです。

当たり前の話ですが、1ドル=100円だろうが、1ドル=200円だろうが、1万円は1万円です。もちろん、その1万円を「ドル換算」したら1ドル=100円のときに100ドルであり、1ドル=200円になれば50ドルですが、それはあくまでも「ドル換算」したときの話に過ぎません。

また、円安になれば1万円を「ドル換算」した価値が落ちることは事実ですが、その反面、ドル建ての資産の円換算額が増えるという効果(いわゆる資産効果)が得られますし、また、外国からの輸入品の円換算額での価格が上昇するため、輸入購買力が低下する反面、輸入代替効果が生じます。

円高?円安?メリットとデメリット

いつもの「円高・円安のメリット・デメリット」の一覧を掲載しておきましょう(図表)。

図表 円高・円安のメリット・デメリット

©『新宿会計士の政治経済評論』/出所を示したうえでの引用・転載は自由

さて、円安について議論するならば、最低限、金額単位を合わせること(ドルと円の議論をまぜこぜにしないこと)が大事であるという点については、改めて指摘するまでもない話ではあります。

「スパムおにぎりが買えないほど貧しい」

しかし、大手メディアにもときどき、円安に関して、円建ての購買力とドル建ての購買力を混同した記事が掲載されることがあるようです。ウェブ評論サイト『プレジデントオンライン』が配信したこんな記事は、その典型例かもしれません。

“スパムおにぎり2個”さえ買えない貧困一直線…知れば誰もが戦慄走る「日本の稼ぎ=名目GDP」のドル建て額

―――2023/10/12 11:17付 Yahoo!ニュースより【プレジデントオンライン配信】

記事を執筆したのはコンサルタントの方だそうですが、記事タイトルにある「スパムおにぎり2個」は、気になります。日本でおにぎり2個が買えない貧困層が出現しているという意味でしょうか?

しかし、これについては記事を読んでみると、内容がわかります。おそらく、この「おにぎり2個」は、本文中のこんなくだりからでてきたものでしょう。

昨年の秋に日本のテレビニュースで、ハワイに行った人が、『スパムのおにぎりを2つ買ったら1000円した』という話をしていました」。

ハワイなど米国で物価が上昇しているというのは有名な話ですが、この記事も日米の為替レートの議論と米国におけるインフレの議論を混同しているフシがあるようです。そのうえ、記事では「日本の名目GDPが増えている」などとしつつも、次のように円安のデメリットを力説します。

なぜ、ドルで換算する必要があるのかという質問を受けることがありますが、日本ではエネルギーの大半を輸入しています。それもほとんどがドル建てです。名目GDPは国の稼ぎですから、ドルで見た場合の購買力が極端に落ちているということなのです」。

利上げで経済活性化という斬新な主張

そもそも論としてこの記事の執筆者の方が、「数字の議論」を理解なさっているのか疑問です。

エネルギーの輸入が多いことは事実ですが、たとえば2023年1月から8月までの輸入額72兆円のうち、鉱物性燃料(石油、ガス、石炭など)の輸入額は18兆円ほどであり、「多い」といっても輸入額の4分の1ほどを占めているに過ぎません。

また、為替相場は年初の1ドル=130円前後から現時点で1ドル=150円前後へと15%ほど円安が進んでいる計算ですが、輸入額の25%の価格が15%上昇したとしても、日本経済全体に与えるインパクトは4%少々、といったところでしょう。

ただ、この記事の末尾では、「やるべきは短期金利を上げること」などとしています。

金利上昇は、負債の多い企業などに負担を強いますが、日本全体から見れば、経済を活性化するためにも必要な策だと考えます。日銀は政府におもねることなく、思い切って短期金利を上昇させるべきです」。

金利上昇で経済が活性化するというのは、斬新な主張です。この執筆者の方は、なぜ日銀が低金利政策と量的緩和政策を維持しているのか、その目的が理解できていないのかもしれません。

いずれにせよ、低金利政策や円安が「望ましくない」と思っている人たちが多いことだけは間違いないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. sqsq より:

    トルコのエルドアンが似たようなことを言っただけでなく、実際にやった。
    インフレ退治のために政策金利を下げさせたのだ。

    「大統領、それは間違ってます!」と言ったら即クビだったんだろう。

    1. より:

      実際に中央銀行総裁のクビが一つか二つ飛んでますよ。

  2. sey g より:

    政策金利を上げて経済活性化することも、あります。
    インフレ率が政策金利より高くなって、金を借りて投資しまくれば儲かる様な状況です。
    投資した物件を担保に金を借りて投資して、その物件を担保に、、、。
    供給能力を超えて需要が遥かにこえたとき、政策金利を上げて需給調整することで、逆に経済活性化することもあります。

    もちろん、需給が全く足りずいつデフレに戻るかもしれない今の日本でやるべきことではないのは確かですが。

  3. めたぼん より:

    最近、他のサイトで「利上げしたらハイパーインフレが起こる」という言説を読みました。
    利上げしたら日銀が債務超過に陥る→世界中で円の投げ売りが起こる→国民も外資も資産を海外に移すキャピタルフライトが起こる、という理論でした。
    普通は利上げ→デフレなので何かがおかしい気がします。
    恐らく日銀の債務超過で円の投げ売りが始まるという流れが違う気がするし、キャピタルフライトが起きても円相場が下がって輸入品の価格が上がるだけでハイパーインフレにはならない気がするし、そもそも恒常的に経常収支が黒字な日本で通貨が暴落というのが考えにくいし、もし通貨が暴落したら世界中で日本製品ブームが起きてしまう気がするし。
    しかし私の拙い知識では、イメージとして何かがおかしいとは思うものの、理解的にハッキリ指摘できません。
    その点、日本でおにぎりを買ってる人がアメリカのおにぎりの値段を気にしても意味が無い、というのはしっくり来ます。
    そのスパムおにぎり2個千円の店というのはハワイの庶民が日常的に買い物をしている店なのか?という疑問もあります。
    確かに日本の物価は上がってますが、個人的には今の物価上昇は円高になったら止まってしまう程度のものであって、まだ継続的に物価上昇が続くサイクルに至っていない気がします。

  4. Masuo より:

    日本の円安が都合が悪い人たちがたくさんいるんでしょう。

    せっかくアベノミクスからのデフレ脱却の出口が見えてきてるのに、ここで水を差すような利上げと増税は断固として反対します。こういう提灯記事が正しく理解されるように、この記事の論考は広くたくさんの人に読んで欲しいです。

  5. 雪だんご より:

    「国の借金=国民の借金」論はそろそろ諦めて、代わりに
    「円安=貧乏」論をプッシュしてきている感がありますね。

    こうなると先日の円安デメリット(笑)を主張していた”インフルエンサー”も
    「観測気球」としての役割があったのかな?と思わされます。
    どんな理論だと騙せそうにないか、どんな風に言葉を選べばいいか、
    そういうリトマス試験紙みたいな役割があるのかも?

  6. x60 より:

    >「1ドル=100円のときの1万円は、1ドル=150円になると6600円になる」という、かなり支離滅裂なツイートだったのです。

    え、そのまんまじゃん。
    名目は10000円でも実質6600円になったという話でしょ

    輸出する時は1.5倍多く貰えるが
    輸入する時は1.5倍多く払わなければならなえい
    単純な話ですね。

    1. 匿名 より:

      うわぁイタタ…

      1. 匿名 より:

        ほんとにね。このx60 氏は「円建」「外貨建」の議論を分けられない時点でドクターナイフ氏と同じレベルかと。

        1. x60 より:

          「円建」でも「ドル建」でも一緒だよ?
          アタマ大丈夫?

          1. 別の匿名 より:

            ええと。。。
            取り敢えず鏡置いときますね。

    2. クロワッサン より:

      x60さん

      抜粋部分だけじゃなく、ポスト全文を読みました?

    3. 匿名 より:

      もしかしてナイフさんご本人ですか?

      1. 某都民 より:

        かもしれないですね、論理的思考のうりが著しくアレな点で。
        ただ、自分が絶対正しいと思っているため、何を言っても無駄な気がします。

    4. 匿名 より:

      >名目は10000円でも実質6600円になったという話でしょ

      違います.
      名目でも実質でも一万円は一万円です.

      >輸出する時は1.5倍多く貰えるが
      >輸入する時は1.5倍多く払わなければならなえい

      それは取り引きがドル建ての時に限定される話ですね.ここの多くのコメント主さん達も指摘する通りドル建ての話と円建ての話を混同しています.

      >単純な話ですね。

      単純なのは貴方の思考です.

      >「円建」でも「ドル建」でも一緒だよ?

      円建てとドル建は一緒ではありません.「単位」が異なります.

      >アタマ大丈夫?

      それをブーメランと云います.

  7. 迷王星 より:

    >金利上昇で経済が活性化するというのは、斬新な主張です。

    これはまた全く斬新極まりない主張ですね.
    この極めて斬新な主張は,原発で喩えれば「制御棒を炉心に押し込めば核分裂反応が盛んになり炉心の温度が上昇する(ので原発の発電量は増加する)」と主張するようなものですから.

    それともこの主張をなさった論者の場合,「経済が活性化する」という言葉の意味や定義が常人と異なるだけかも知れませんね.例えば「経済が活性化する」とは「需要が減少して物価が沈静化さらには下落する」ことだとか.(苦笑)

    1. はるちゃん より:

      いえいえ、日経新聞も「金融の正常化」と称して利上げをしつこく主張しています。安い日本とか円の実力低下だとか、低金利批判に余念がありません。
      誰の意見を代弁しているのか分かりませんが。
      多分外国にお金をばらまいている役所が困るのでしょうね。
      外国で食事する時のワインも安いのにしないといけませんし。

  8. クロワッサン より:

    利上げで冷え込む経済よりも、利上げによる円高でドル換算GDPが増加する事を重視しているようですね。

    >2010年に中国は日本の名目GDPを抜き、世界第2位の経済大国となりました。この当時は、85円程度の円高でしたから、日本の名目GDPも5.9兆ドル程度ありました。

    2010年の後、日本経済の何が問題で、その問題に日銀がどう対処したか、そしてその対策は日本社会にどの様な効果があったか、といったところまで考察すべき主張ではないでしょうか?

  9. ねこ大好き より:

    この方の主旨はドル建て表記で日本のGDPが増える事と、銀行の利子が増えて富裕層に恩恵が行く事の2点ですね。ドル建て表記額が増えて得られるのは、順位に一喜一憂する韓国人的自己満足しかないし、金利上昇は、若年層、壮年の住宅、車、学資ローンの負担増しか無い。銀行の利子が増えて恩恵があるのは富裕層か資産のある高齢層だけです。
    こんなの素人でも考えるのに、専門家を称している人間が論ずるとは噴飯ものです。
    この元記事のコメント欄見ましたが、同調コメントが多く、更にビックリです。ローンの返済額が増えて物価高が更に進み、景気が停滞しますよ、と指摘するコメントは、最初の10個にはありませんでした。
    考え方は多種多様ですが、記事主の論調にシンクロする人もある程度いるのかな、とも思った次第です。うがち過ぎかな。

  10. より:

    常識的に考えれば、順序が逆ですわな。「経済が活性化されたので、過熱を防ぐために金利を上げた」となるはずです。金融政策について詳しいわけではありませんが、乱暴に言えば、金利を上げるのは景気を冷やすため、金利を下げるのは景気をよくするためであると理解しています。この理解が正しいとすると、「景気をよくするために金利を上げろ」というのは、一般的な金利政策の全否定でしかありません。因果関係すら理解できてないのかと言われても仕方ないでしょう。
    もっとも、因果関係すら理解できない人間が、分野は不明ながらもコンサルタントを務められるというのも驚くべき話です。経営コンサルタントだったりしたら、あっという間に顧客の会社を潰しそうですけどね。「何?来客数が減って売り上げは落ちてる?よろしい、店舗面積を2倍にしましょう」などと言いだしかねませんもの。

  11. 匿名 より:

    いや、経済活性化の為には金利上昇が必要だ。管理通貨制度下では名目金利と名目経済成長率には相関関係があり、その二つが近い数字になる事が多い。管理通貨制度下においては国債と現金はほぼ等しくなる。違いは金利がついているかどうかだけだ。そして国は国債の金利分の現金を債権者に支払う必要がある。金利分現金が増えていくのだ。
    経済成長すればインフレが発生し、インフレは通貨供給量の増加だ。そして、通貨供給量の増加は経済成長を促す。つまり、「経済成長=国債の金利分」という事になる。
    日本が経済成長できなかったのは、金利が低かったからだ。金は血液、銀行はその血液を送り出すポンプ、心臓だ。そして、その血液を送り出す強さを決めるのが金利だ。金利が低い状態というのは人体で言えば、超低血圧状態だ。金(血液)が回らないのだ。これでは経済成長は望めまい。
    政府はおそらく、主力の10年物の国債を管理しつつ、他の債権の金利動向によってある程度の経済成長を生み出しつつ、国債金利<成長率という状況とインフレによって国債を圧縮しようとしているのだろう。金利が上がりつつある今、今後の動向に注視していきたい。

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