単なる引締め?「総選挙で自民過半数割れ」報道の実情
「次の選挙では自民党は惨敗するに違いない」。こんな観測報道を、最近、ときどき目にするようになりました。ただ、そう主張するのは良いのですが、これらの主張のいくつかは、「基礎票」に関する議論が抜けています。こうしたなか、現代ビジネスが出してきた「自民党が220議席で惨敗する」との予想について、どう考えるべきでしょうか。
目次
数字で見る「小選挙区の特徴」
たった30%の支持で勝てる…かも?
以前の『維新圧勝シナリオは考え辛いが…ボーダー狙い本格化も』などを含め、これまでにしばしば取り上げてきた話題のひとつが、「数字で見る選挙」です。
「衆議院議員総選挙は近いのではないか」、「自民党が惨敗するのではないか」、といった観測報道は最近、とくによく目にするようになってきたのですが、これらの報道などを見ていて違和感を覚える点があるとしたら、自民党と日本維新の会と立憲民主党など主要政党の「基礎票」に関する議論が抜けていることです。
当ウェブサイトではこれまで何度も繰り返し指摘してきましたが、衆議院議員総選挙は、あわせて465議席のうち、小選挙区289議席、比例代表176議席を争います。
このうち176議席の比例代表に関しては、ある程度の「足切り」はあるにせよ、全国11のブロックごとに、その政党が獲得した票数にだいたい比例して議席が配分されます。このため、泡沫政党・少数政党でも議席を得やすい、という特徴があるのです。
しかし、289議席が配分される小選挙区に関していえば、トップ得票者しか当選できず、残りの候補者はすべて落選します(ただし、それでも惜敗率が高ければ、比例復活を遂げる可能性はありますが…)。
(比例復活の論点を無視して)小選挙区「だけ」を考えたら、要するにその選挙区でトップになれれば良いわけですから、極端な話、その選挙区内で全有権者の51%の票を固めていれば、その議員は何度解散総選挙をしようが、絶対に落選しません。
いや、現実には投票率は100%にならないため、全有権者の51%までは必要ないかもしれません。毎回の投票率がだいたい60%の選挙区だと、全有権者の30%の支持があれば、それで十分でしょう。
しかも、これは有力候補者が2人の場合の話であり、有力候補者が3人以上立つようなケース(たとえば自民、立民、維新の3党の候補者が並立するような選挙区)では、当選するために必要な得票率は、さらに下がります。
過去6回分の選挙結果で確認してみよう
「そんな極端な差がつくものか」。
そう疑問に思う方も多いでしょう。
そこで、小選挙区に限って、その衆院選における第1党と第2党の得票差と議席差がどれだけ極端に開いたか、具体的な数値を見ていただくのが早いです。
まずは、2005年以降6つの総選挙における第1党の得票数・得票率と議席数・占有率を列挙してみると、次の通りです。
過去6回の総選挙における第1党
- 2005年:自民…3252万票(47.77%)→219議席(73.00%)
- 2009年:民主…3348万票(47.43%)→221議席(73.67%)
- 2012年:自民…2564万票(43.01%)→237議席(79.00%)
- 2014年:自民…2546万票(48.10%)→222議席(75.25%)
- 2017年:自民…2650万票(47.82%)→215議席(74.39%)
- 2021年:自民…2763万票(48.08%)→187議席(64.71%)
(【出所】総務省『選挙関連資料』データなどを参考に著者作成)
2009年は民主党が3348万票も獲得しているのに得票率は47%あまりに留まっている一方、2014年は自民党がたった2546万票しか獲得していないのに得票率は48%に達しているなど、一見すると不整合っぽいものも見られますが、これは選挙ごとに総投票数や総議席数に違いがあるためです。
それより重要なのは「比率」でしょう。
どの選挙でも第1党が獲得した票数は過半数に達していませんが、2021年のものを除けば、いずれも全体の4分の3前後と圧倒的多数の議席を獲得していることがわかります。これが、勝者総取りの小選挙区制度の恐ろしいところです。
第2党は小選挙区で敗けている
これに対し第2党の得票数と議席数を列挙しておくと、こんな具合です。
過去6回の総選挙における第2党
- 2005年:民主…2480万票(36.44%)→52議席(17.33%)
- 2009年:自民…2730万票(38.68%)→64議席(21.33%)
- 2012年:民主…1360万票(22.81%)→27議席(*9.00%)
- 2014年:民主…1192万票(22.51%)→38議席(12.88%)
- 2017年:立民…*473万票(*8.53%)→17議席(*5.88%)
- 2021年:立民…1722万票(29.96%)→57議席(19.72%)
(【出所】総務省『選挙関連資料』データなどを参考に著者作成)
2005年の民主党、2009年の自民党の得票率は、それぞれ全体の4割近くに達しているのですが、獲得した議席は全体の2割前後にとどまっています(※2017年の立民の得票数、獲得議席数が極端に少ない理由は、当時の最大野党だった民進党が分裂選挙となったためです)。
そして、こうやって眺めてみると、「立憲民主党が惨敗に終わった」などと指摘されることが多い2021年の選挙戦に関していえば、むしろ獲得議席数では2009年の自民党に迫る勢いであり、2012年以降の旧・民主党時代などと比べれば、善戦した方だ、という言い方もできるかもしれません。
これには立民が日本共産党などと選挙協力を行ったという要因も大きく、野党の選挙協力がもっと広範囲に進んだ場合には、自民党の獲得議席数がさらに少なくなっていくおそれもある、ということでもあるのでしょう。
得票のわりに極端な差がつく
ちなみに過去の各選挙における第1党・第2党の得票差と議席差を倍率で表してみると、さらに興味深いことがわかります(図表)。
図表 小選挙区における得票・議席倍率
選挙年と第1党・第2党 | 得票 | 議席 |
2005年:自民対民主 | 1.31倍 | 4.21倍 |
2009年:民主対自民 | 1.23倍 | 3.45倍 |
2012年:自民対民主 | 1.89倍 | 8.78倍 |
2014年:自民対民主 | 2.14倍 | 5.84倍 |
2017年:自民対立民 | 5.61倍 | 12.65倍 |
2021年:自民対立民 | 1.60倍 | 3.28倍 |
(【出所】総務省『選挙関連資料』データなどを参考に著者作成)
たとえば民主党が自民党に対し地滑り的な勝利を収めた2009年に関していえば、民主党は自民党の3.45倍という圧倒的な議席をかっさらったのですが、民主党の候補者の合計得票数は自民党のそれと比べたった1.23倍だったのです。
維新とボーダー選挙区
カギ握るボーダー選挙区
ほかにも2005年はたった1.31倍の得票差なのに議席数には4.21倍の差が、2012年は1.89倍の得票差で議席数には8.78倍という差が、それぞれついていたことがわかります(ただし2014年は得票差が2.14倍に開いたのに議席差は5.84倍に留まっています)。
結局のところ、小選挙区では、本当に「ちょっとした得票差」で獲得議席には圧倒的な差がつくということは間違いなく、選挙を議論する際には、こうした特性を踏まえておく必要があることは間違いありません。
ただし、2021年の選挙では、野党共闘のためか、自民党の候補者が各地で得票差を詰められ、野党統一候補に逆転を許してしまったという事例も多々ありました。
以前の『選挙でカギを握る自民・立民「99人のボーダー議員」』でも指摘しましたが、小選挙区で第2位の候補者との得票差が2万票以内だった選挙区を「ボーダー選挙区」、その議員を「ボーダー議員」と定義するなら、ボーダー議員は自民党に58人、立憲民主党に41人います。
これは、第2位の候補者にとってみれば、「第1位の候補者からあと1万票を奪い取れば選挙結果が逆転する」という意味であり、あるいは「無党派をあと2万人掘り起こして自分に投票させれば選挙結果が逆転する」、という意味でもあります。
そして、自民党で58人が落選危機(?)にあったということもさることながら、立憲民主党側で2万票以内の得票差で逃げ切った議員が41人も在籍しているという点については、興味深い論点でもあります。
野党側は次回選挙で、野党共闘をさらに進め、それを確固たるものにすれば、自民党からさらに議席を奪うことができる(かもしれない)わけですが、それと同時に自民党側が同じことをすれば、野党共闘側がさらに議席を減らしてしまうかもしれない、ということでもあります。
多分、この視点は「自民党憎し」の一部メディアにはスッポリと抜けている点でしょう。
維新という波乱要因
これに加えて現在の選挙情勢を読み辛くしている要因がもうひとつあるとしたら、日本維新の会の存在です。
維新は2021年の総選挙で、小選挙区だけで94人の候補者を立てました。
61の選挙区では当選ラインに程遠い3位か4位に留まりましたが、17選挙区では第2位に浮上し、さらに一部地域に偏っているとはいえ、現実に16人が小選挙区で当選しています(うち15人は大阪府、残り1議席は兵庫県)。
次回総選挙でも、この維新が波乱要因となるであろうことは、想像に難くありません。
ただし、維新の候補者が無条件に勝つ、という意味ではありません。
結果的に野党連合から票を奪えば、結果的には野党連合側が落選し、自民党を利するでしょうし、あるいは逆に自民党から票を奪えば、結果的には野党連合側が勝利を収める選挙区も出てきます。これが、「維新タナボタ効果」です。
いずれにせよ、当ウェブサイトとしては、次回総選挙で日本維新の会がいきなり自民党に代替する政権与党の座に就くとは見ていませんが、「維新タナボタ効果」の出方次第では、野党連合が大きく議席を減らし、維新が最大野党に浮上するという可能性は、十分にあるのです。
ただし、「維新タナボタ効果」が自民党ではなく、野党連合側を利する結果となった場合には、(なぜか)立憲民主党が議席を増やすという効果が生じるのです。
合計すると465議席を超えちゃう現代ビジネスの予想議席
こうしたなか、以前の『岸田首相は「6月に解散しておけばよかった」=髙橋氏』などでは、現代ビジネスが予想した、こんな議席を紹介したことがあります。
現代ビジネスが6月時点で報じた「議席予想」
- 自民…220議席(▲42)
- 公明…*23議席(▲*9)
- 立民…114議席(+17)
- 維新…*75議席(+34)
- 共産…*13議席(+*3)
- 国民…**9議席(▲*1)
- れ新…**6議席(+*3)
- 参政…**1議席(+*1)
- その他…9議席
自民党が(当時の議席から)42議席減らして220議席にとどまる一方、立民は17議席増やして100議席台を回復する、というものです。
これについては以前も指摘したとおり、立民が議席を増やすというのは一見すると不自然な読みではありますが、維新タナボタ効果は自民党側にのみ発生するものとは限らないため、べつにおかしな話ではありません。ただ、せっかく報じるなら、合計議席数が定数を超えてしまうという不整合くらいは解消してほしいところです。
現代ビジネス、再び「自民=220議席」
そして、これに関して現代ビジネスが月曜日、「独自」と銘打って、再び「自民党が220議席台」とする記事を配信したようです。
【独自】自民党情勢調査で「自民41減」「公明10減」…岸田首相は絶句、11月解散を本当に決断できるのか
―――2023.10.09付 現代ビジネスより
この中で再び、現代ビジネスは「自民党が220議席にとどまる」とする、「自民党による選挙情勢分析」を報じたのです。その内訳は、次の通りです。
現代ビジネスが10月時点で報じた「議席予想」
- 自民…261→220(▲41議席)
- 公明…*32→*22(▲10議席)
- 立民…*96→108(+12議席)
- 維新…*41→*69(+28議席)
- 国民…*10→*16(+*6議席)
- 共産…*10→*14(+*4議席)
以前と微妙に数字が変わっているほか、合計して定数を超えてしまった前回の轍を踏まないためか、すべての議席数を示すのではなく、主要政党のみにとどめているというのがミソでしょうか。
この現代ビジネスの記事が本当に自民党の党内調査によるものなのかは存じ上げません。
「独自」と銘打っておきながら、現実にはそれを報じたメディアのでっち上げという可能性もないわけではありませんし、はたまた自民党執行部が党内にハッパをかける目的で、わざと厳しめの数値をリークしているだけという可能性だってあるからです。
自民党は第1党に?
ただ、このシナリオが事実だったとしても、自民党は単独過半数こそ失うものの、引き続き第1党であり続けるということであり、この場合も公明党と合わせて政権を維持すること自体は可能です(公明党が連立に応じれば、ですが)。
また、立憲民主党が躍進するとのシナリオについても6月時点の報道と似ていますが、これも自民党の退勢というよりは、日本維新の会の得票が中途半端に伸びる結果だ、と考えるならば、いちおうは現実の選挙情勢分析と整合します。
この点、岸田文雄・現首相が率いる自民党政権に対し、インターネット上ではさまざまな不満が渦巻いていることはたしかであり、だからこそX(旧ツイッター)などのSNS、掲示板などでは「維新が良い」、「国民民主党が良い」、「新党が良い」といった議論が見られることはたしかです。
しかし、現実に「数字」を見るならば、やはり2009年の「自民党にお灸を据える」式の選挙結果が再来する可能性は、現時点ではさほど高くない、というのが「現実の数字」から見た情勢分析です。
本文は以上です。
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【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
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小選挙区制をめぐる分析にはほぼほぼ異論はないのですが、もしいま解散総選挙をした場合の結果予想については、”肌感覚”として(要すれば明確な根拠はない)、納得しがたい、と感じます。まあそれには選挙区毎の分析が必要なので、そこまでやるほどの情熱もない、ということでしょうか。
支持率回復→解散総選挙で勝利→来年秋の総裁選再選を狙って、内閣改造・党役員刷新を図ったようですが、その目玉が「ドリル優子」の登用では、うーんですよね。国会が始まれば、加藤鮎子こども担当相の政治資金疑惑も、心配です。
続いて、所得税減税をほのめかしたものの、国民の反応は微妙(有難いけれど、財政再建は大丈夫?)なものです。要すれば、「支持率回復→解散総選挙で勝利→来年秋の総裁選再選」の意図が見え見えで、かえって愛想尽かしを喰らっている、と思われます。
論語に「小人(しょうじん)窮(きゅう)すれば斯(ここ)に濫(らん)す」という言葉があります。徳のない人は困ると悪事をしでかす、という意味だそうです。もっとも易経に「窮すれば通(つう)ず」という言葉もあります。窮地に追い込まれれば、名案が浮かび、道が開けるとの意味です。さてさて、岸田首相はどちらかな。
こりゃ今後の選挙の試金石になる、選挙だな。自民党-公明党にひびは入る天下分け目の戦いなる。まず公明党、創価学会の後押しありきでいままできたが集票力に陰りがでたか自党の落選者がでる予測。しかも10議席。比例区候補がほとんどだから深刻である。自民党の落選者は選挙協力の効果はなしということで連立解消をさけぶのではないか。その中には現職総理大臣もふくまれているかもしれない。補充勢力に維新と国民に声をかけるかもしれないが、個別対応になるだろう。大臣クラスで萩生田あたりがあやしいな。落選組かもしれない。旧統一き協会に足を突っ込んだ報いは大きく学会婦人部には嫌われている。面白い選挙になってきた。まずは岸田の再選を阻止しよう。
続いて、所得税減税をほのめかしたものの、国民の反応は微妙(有難いけれど、財政再建は大丈夫?)なものです。
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www
毎度、ばかばかしいお話を。
現代ビジネス:「悪名は無名に勝る。「自民党が現状を維持する」では新宿会計士が自分のサイトにのせてくれないが、「自民党が過半数割れする」ならのせてくれる」
これって笑い話ですよね。
もう自民党には投票しないけどね。
高市さんや杉田さんには申し訳ないけど。
>立民が日本共産党などと選挙協力を行ったという要因も大きく、野党の選挙協力がもっと広範囲に進んだ場合には、自民党の獲得議席数がさらに少なくなっていくおそれもある
2021年の総選挙については、今でも 「立民は共産と共闘したから負けた」 という人が多いけど、これにはずっと違和感を感じていたので、記事に納得。
共産と組むことによって逃げる票と、候補を別々に立てることによって食い合いになる票では、どちらが大きいか? それは後者。
ということは、次の選挙で小選挙区に保守系政党が乱立すると、保守系政党同士で票を食い合って共倒れになるおそれがある、ということだね。
> 「自民党にお灸を据える」
立憲民主党のご先祖様
民主党 政権時代の事を思い出せば、
「自民党にお灸を据える」のは、ありえない
と思ってしまう自分。
今よりもっと、ひどい状態になるのが目に見えるようだから。
そうなったとしても、主権在民:国民の選択の結果か。
国民を騙した 民主党 が一番悪いのは、明らかだが
騙された国民の責任でもある。
自民党大敗の露出が多いのが私も気になってました。
どんな思惑が働いているのか興味深いです。
私の感覚としては、自民公明で50議席以上失うというのは考えづらいです。
(そうなって欲しいとも思いますが・・・)
現代ビジネスを始め、左側の人は年末の解散総選挙をけん制しているのでしょうかね。
財政再建はいいんだけども優先順位がこころもとない。①少子化なのか②防衛費増額なのか①なら恒久的に出産時の金銭サポート、育児休暇の男女同権(中小企業のや個人商店など替えの効かない会社はどうするのか)幼稚園から大学まで学費無料は当然でその他サポートはどうするのか。遠足だぁ!修学旅行だぁ!なにかの大会だぁ!実際困窮世帯は実在しているのだ。②なら風雲急をを告げる。周辺国が怪しい。ロシアは戦争中。中国は台湾侵攻への備えを隠さない北朝鮮は核開発に余念がなく同胞である韓国への敵意をかくさない。日本にたいしても衛星と称してミサイルをぶっぱなしている。韓国は潜在的敵国で常にミサイルは我が国にむいているという。だから自衛隊の装備がまさっていても竹島奪還はできないでいるのだ。くわえてガス代電気代、ガソリン代、の物価高、あとすこしで灯油もあがるし業種によっては重油も上がる。総理になりたいだけの岸田文雄。総理になったらなにをしたいのかの政治家。自民党が大敗ならそれもよしで代わりの政党はきちんとした実務能力と志しをしっかりともってほしい。
たろうちゃん さん、レスどうもです。お気持ちお察しします。
有事の備えや物価高に対する対応を見ていると、岸田や自民党はとても頼りなく、どなたかに変わって欲しい気持ちはありますね。
ただ、自民党以外に政権を担える政党が見当たらない・・・
地道に選挙に行くしかなっそうです。。