ポータルサイトの料金設定を問題視する公正取引委員会

オールドメディアと公取は、インターネットのニューズサイトを問題視し始めたようです。公取は先月公表した『ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書について』と題するレポートのなかで、新聞社やテレビ局から記事がニューズサイトに転載される際の許諾料などを巡って、独禁法違反となり得るとの見解を示しました。オールドメディアが公取に泣きついたのでしょうか。もっとも、記者クラブを通じた情報独占など、オールドメディア側がやって来たことを踏まえると、どうにも共感できません。

情報の流通の自由化

インターネットの出現とネット環境の普及が私たちの生活にもたらしつつあるのは、「情報の自由な流通」ではないでしょうか。

インターネットが出現する前であれば、私たちのような一般人が世の中で発生している出来事を日常的に知るための手段は、テレビ、新聞、ラジオ、それからせいぜい雑誌くらいしかありませんでした。

とりわけ、何らかの事件や事故が発生したときには、私たちは真っ先にテレビやラジオをつけたのではないでしょうか。そのうえで、翌日の新聞でそれについての話題をじっくりと読むというのは、私たちの生活シーンでは、よくみられたパターンだったはずです。

あるいは、朝起きたらまずテレビを点け、家に届いている新聞を広げてからおもむろにトーストにかじりつく、という生活のワンシーンを思い出すかもしれませんし、忙しい一人暮らしの社会人の場合は、朝起きて慌ただしく着替え、自宅の郵便受けから朝刊を引っこ抜き、通勤電車内でそれを読む、というケースもあったかもしれません。

じっさい、2000年代ごろまでは、首都圏や近畿圏などの超満員の通勤電車内で、日経新聞などを器用に4つに折りたたんで、まわりのジャマにならないようにうまく読むというテクニックを身に着けていた人も多かったはずです。

ところが、いまはどうでしょうか。

2010年代以降、スマートフォンなどのモバイル端末の普及が急速に進み、通勤電車内で新聞を読む人の姿が見られなくなりました。

オールドメディア凋落の原因は彼ら自身にもある

もちろん、各種調査によると、高齢層を中心にテレビの視聴時間数は依然として長く、また、日本新聞協会の統計データによれば、新聞部数は大きく減ったとはいえ、依然として日本全体で新聞を購読している世帯は存在しているようです。

ただ、新聞、テレビを中心とするオールドメディアの視聴者数、購読者数が急減していることは間違いなく、この傾向は逆転しないでしょう。

そして、オールドメディアの凋落については、新聞やテレビのメディアとしての使い勝手の悪さもさることながら、新聞社やテレビ局のこれまでの怠惰や傲慢も、その要因であることは間違いありません。

そもそも新聞社やテレビ局、通信社といった大手メディアは、「記者クラブ」という排他的な仕組みを使い、情報を狭い業界内で不当に独占してきました(※官僚機構もまた、記者クラブを通じてメディアを支配してきたフシがあります)。

それだけではありません。

新聞社やテレビ局は、ほかにも国からさまざまな恩恵・特権を与えられてきました。

たとえば新聞社の場合は再販売価格維持制度で売価を統制することが認められてきました(独禁法の例外)し、日刊新聞法で株式の譲渡制限が認められてきました(旧商法・会社法の例外)。最近だとさらに、一定要件を満たした場合には、消費税等の税率の軽減税率まで適用されています。

また、テレビ局の場合はいわずとしれた電波利権で守られており、テレビ局が支払っている電波使用料は、テレビ局の売上高に対し、異常に安い水準に据え置かれています。

公共放送を自称するNHKに至っては受信料制度という「国の保護」により経営が成り立っており、1万人少々の職員1人あたり1550万円という異常に高額の人件費を計上し、下手をすると時価数兆円にも達する資産を蓄え込んでいる始末です。

公取がネットを問題視

いずれにせよ、独占禁止法の趣旨からすれば、新聞、テレビこそ私たち日本国民の「知る権利」を阻害してきた既得権益層の最たるものであり、利権そのものでしょう。インターネットの出現と普及で、その利権構造そのものが現在進行形で壊れつつあるのです。

こうしたなかで、新聞社やテレビ局は最近、ニューズ配信サイト――たとえば、Yahoo!などのポータルサイト――を問題視し始めたようです。

公正取引委員会は先月21日に公表した『ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書』と題するレポートの中で、新聞社などがニューズサイトに記事を配信する際の使用料について警告したのです。

ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書について

―――2023/09/21付 公正取引委員会HPより

(※なお、公取レポートは「ニューコンテンツ」と記載されていますが、 “news” の発音は「ニュー」であって、「ニュー」ではありませんので、念のためご注意ください。)

レポート自体は公取が出したものですが、おそらくはメディア各社が書かせたものでしょう。

公取が言わんとすることは、おそらく、サマリー資料(PDFファイル)の22ページ目に出てくる、こんな記述でしょう。

ニュースポータル事業者によるニュースポータルのレイアウト等の変更により、ニュースメディアサイトへの送客が減少した場合において、ニュースメディア事業者がニュースポータル事業者に対して、許諾料を含む取引条件の見直しを求めたときに、取引上の地位が相手方に優越しているニュースポータル事業者が、その地位を利用して、取引の相手方であるニュースメディア事業者に対し、取引条件の見直しのための交渉を拒絶し、十分な協議をしないまま、取引条件を変更しないことにより、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合は、独占禁止法上問題(優越的地位の濫用)となる。

記述としてはわかり辛いのですが、ポータルサイトのレイアウトやニューズの選択などは、記事を配信している新聞社やテレビ局の収益にも直結するものであるため、ニューズサイト側がウェブサイトのレイアウト変更などを行う場合には、優越的地位の濫用とならないように注意しなさい、ということです。

そのうえで資料のP4では「著作権の行使が可能な場合に、一方的に著しく低い許諾料を設定等する場合、独占禁止法上問題となり得る」、などと述べていますが、要するにニューズサイトが新聞社などに支払う料金の設定方式次第では独禁法違反となり得る、としています。

公取の動きには説得力がない

新聞社やテレビ局の記者クラブ制度などを通じた情報独占には何もメスを入れない公取が、新聞社やテレビ局などの利権を守るために一生懸命に動いているというのも、大変に奇妙な話です。オールドメディアの在り方を長年放置してきた公正取引委員会に、正直、この問題で口出しをする資格があるのかは微妙でしょう。

いずれにせよ、これまで情報を独占してきた新聞社やテレビ局が、自分たちのこれまでの行動を棚に上げ、ニューズサイトの独占から自分たちを守ってくれと公取に泣きつくというのは、なんとも興味深い現象であるといえるのではないでしょうか。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 引っ掛かったオタク@悲観的 より:

    公取が官公庁記者クラブ制度に手ェ突っ込む準備運動…なワケ無いか…

  2. さより より:

    公取自体が、独禁法の意味を分かっているのか?そして、ネット時代というものがどういうものか分かっているのか?を感じさせるニュースですね。
    独占禁止とは、市場に於いてある企業の寡占により自由競争が奪われて、最終的に社会や個人に不利益な状態が生じることを防ぐことを目的とすることですね。
    寡占状態では、市場への新規参入も極めて難しくなります。
    ジャニーズも芸能界の独占力がかなり強かったと言えます。つまり、誰も逆らえないような市場独占です。このような状況下では、独占者の不正も揉み消され、退所者の活動の自由も奪うなど、独占者のやりたい放題がまかり通ってしまいます。
    所が、ネット時代とは、誰でも自由にネットを通じて情報発信が出来る社会のことです。実際、資金も無い無名の個人がSNSや YouTubeなどで、インフルエンサーとなり大きな影響力と収益を得ています。然も、そういう人は多数います。つまり、誰でも、自分の「魅力」一つで勝負出来るのです。
    更に、SmartNewsなどのニューズポータルサイトも収益化しているようです。
    このように、自分の魅力と努力と工夫で、然も、従来のリアル世界とは比べものにならない少ない投資額で、成功出来る可能性が広がっているネット時代に、役人に泣きつこうというのは、如何に今迄独占の旨味に浸かって来たかということですね。
    自分達こそ、独占体質が抜けないのです。
    一社で出来無ければ、複数の新聞社が共同で、ニューズポータルサイトを作ればいいではないですか?
    その結果、他のニューズポータルサイトに記事を流さなくなれば、それが独占禁止法に触れるかどうか?多分、触れないと思います。ただし、その時は、官邸クラブ制のようなリアル世界の特権は、手放さなくてはならないですね。そうしないと自由競争にならないから。
    ここまで書いて来ると、自分達の今持っている特権は手放したくない、自由競争で戦うような努力はしたくないという、オールドメディアの甘えた下心が見えて来ますね。

  3. naga より:

    勝手に料金を決めて払えというのはNHKも同じなんだが。しかも見なくても払えというんだから。 インターネット接続業者や携帯電話の会社等も約款は勝手に変えて承諾しろといてくる。嫌なら変えるしかない。

  4. 7shi より:

    これって日本では、ほとんど話題にもならないけど、欧米では 「オールド・メディア vs ビッグ・テック」 の訴訟にもなっている問題ですね。公正取引委員会の資料にも 「国際協力 米国連邦取引委員会、オーストラリア競争・消費者委員会及びフランス競争委員会と意見交換等を実施」 と書いてあります。

    以前から欧米では、ポータルサイトにニューズ記事を提供していたオールドメディア企業が、ポータルサイトの運営企業に 「適正な掲載料を支払え」 と訴えるケースが相次いでいました。
    話がこじれて、ある日突然、Googleが使えなくなってしまった国もあるそうです。そのため、各国の公正取引委員会が調査に動き出していました。

    記事配信の 「許諾料」 最大で5倍差 公取委が算定方法開示を提言 | 毎日新聞 2023/9/21
    https://mainichi.jp/articles/20230921/k00/00m/040/129000c

    巨大プラットフォームとメディア 公取委がニュース使用料をめぐる 「共同要請」 を認めた背景とは?| 民放online 2022/07/25
    https://minpo.online/article/post-158.html

    >インターネット広告売上高の大半を占めるのが巨大プラットフォームだ。ニュース使用料をめぐる巨大プラットフォームとの交渉力の格差は、メディアの足元をさらに脆弱なものにしていく。公取委によるニュース使用料をめぐるメディアの 「共同要請」 についての見解は、このような内外の状況を踏まえている。

    >レポートでは、EUやオーストラリアの動向も参照しながら、プラットフォームによるニュース使用料の算定基準が曖昧だとされる問題について、公正な競争を促進する観点から 「算定に関する基準や根拠等について明確にされることが望ましい」 などと指摘していた。プラットフォームのデータ開示について、メディアによる 「共同要請」 を認めた今回の公取委の見解は、この指摘の延長線上にある。

    >欧州連合 (EU) では、グーグルなどの巨大プラットフォームによるニュースの利用に対して、メディア業界から 「タダ乗り」 との批判が高まっていた。これを受けて2019年4月、コンテンツ使用に対するメディアの報酬請求権を盛り込んだ新たなEU著作権指令が成立する。

    「今まで散々『優越的地位の濫用』をして、やりたい放題やってきた日本のオールドメディア企業が何を言ってるんだ?」 とは思いますが、「モノやサービスに対して適正な対価を要求すること」 自体は、べつに間違ってはいないでしょう。
    それに、欧米のポータルサイトの中には 「オールドメディアにカネを払うくらいなら、ニューズ記事の掲載をやめる」 というところあったそうなので、日本ではどうなるか、むしろ見ものだと思います。

    なお、世界中でこのような動きが起きている一番の理由は 「オールドメディア企業が立ち上げたニューズサイトや、記事の有料配信で、うまく行っているところがほとんどないから」 だと思います。
    どこの国でも 「新聞社が配信する記事もポータルサイトで読み、新聞社のサイトまでは行かない。有料記事に課金してまでは読まない。」 という人が、ほとんどらしいです。そうすると、記事の有料配信で儲かっているオールドメディア企業なんて、英語圏の有名な数社くらいかもしれません。

    1. さより より:

      確かに、巨大プラットフォームとニューズポータルの2つの問題があります。今、欧米などで問題になっているのは、巨大プラットフォームですね。Facebookも槍玉に上がっているのではないですか?
      しかし、オールドメディアが有料記事で稼げないのは、従来の1社毎のニューズそのものにそれだけの価値が認められていないからです。時代が変わっているのだから、従来通りのやり方やビジネスモデルではやっていけないでしょう。新聞社も合併などして、ニューズ価値=コンテンツ価値を上げる事で対抗するしかないでしょう。
      後、Googleが独占状態にある検索ポータルに対抗する所が出て来なければ、法律だけでGoogleを規制するのは難しいと思われます。今、マイクロソフトなどが、AIを使った検索ポータルを開発している動向などがどうなるか?ソフトバンクの孫正義さんは、投資するらしいですが。

    2. さより より:

      今は時代の大転換期なのに、新しいビジネスモデルの媒体(ネットワーク・プラットフォームやネットワーク・ポータル)に対して、自分達が今まで通りの「在り方」でやって行けて、存在して行けるような料金を払え、というのがオールドメディアの言っていることだと思います。

      外国のオールドメディアのことは分かりませんが、日本のオールドメディアとは、「どういう在り方」をしているものか?
      先ず、新聞社は、顧客=購読者の獲得においては、景品(洗剤・食用油)などを第一誘引としている節があり、新聞の本質である、ニューズ記事の内容を顧客獲得の重要要因としているかどうか疑わしい所があります。
      次に、記事の素になる取材に於いてはどうしているか?
      官邸クラブという制度に依存して、各社同じ記事を書くことに何の疑いも持たず、その他のニューズ記事は、碌な取材活動もせずに、憶測と想像と妄想まで加えて、いわゆるお花畑記事を書いてお茶を濁している。
      何しろ、お客たる購読者は、記事の内容ではなく景品によって獲得できるのだから、中身の濃い質の高い記事を書こうというモチベーションは湧いてこない。
      しかも、大新聞社以外の地方紙は、一つの共同配信会社から同じ内容の記事を貰い、それを紙面に印刷するだけであり、取材は地方の小さな事件や出来事だけ、ということで紙面を作れてしまう。

      以上のような「在り方」をしている新聞社のニューズ記事に値段が付くものでしょうか?
      元々、本来のニューズというコンテンツで勝負するビジネス展開をしてこなかったのに、ネット時代になり行き成り、記事を有料化したとして、そんな記事を誰がお金を出して読もうと思うのでしょうか?

      今の時代、紙を配達することによって成り立っていた、新聞社というビジネスモデルは紙での配達が必要なくなった時代には、ビジネスモデルが消滅しているのだから存立しえないことは明白です。

      これからは、ニューズ記事の中身で勝負しなければならないのだから、それに対応したビジネスモデルを創るべきなのに、それにすら気が付いていないのですね。

      例え、公取が味方をしてくれても、本来の商品(ニューズ価値)の中身が無いのだから、市場には顧客が存在しない。
      それに気が付いて、逸早く、新しいビジネスモデルを創ったところが生き残っていけるということです。

      大手・中小・地方紙は、殆どは潰れることは明白です。
      資金に余裕があるのならば、今のうちに、リストラと合併などをして大きな取材網を造り、良質なニューズ記事や論説解説記事を、社会に供給できる配信会社に生まれ変わるべきであると思いますが。

  5. 生え際 より:

    オールドメディアの動きに反発して、いままで彼らがどれほど優遇されてきたか、現在も独占状態にあるのに公取が対処しないのはなぜだ、などとする反応がポータルサイトから大量に出てきたら面白いと思いました。

    まあ破れかぶれに見えますが、それだけ各社とも余裕がなくなってきているのかもしれませんね。

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