「インフレ増税」回避するための対処は「今すぐ必要」
実質賃金同じなのに税負担が増えてしまう累進課税のからくり
このままでは、「インフレ増税」になってしまいます。たとえば所得税額などは名目値で決まってしまいますが、日本では所得が大きくなればその税率も高くなるという「累進課税制度」が採用されています。世の中がインフレとなり、物価が上昇すれば、その分、税率が上がってしまうのです。物価が2倍になり、所得が500万円から1000万円に上昇すると、所得税額は572,500円から1,764,000円へと約3倍に上昇してしまうのです。これは早急な改正が必要です。
日本経済は回復基調に入った!
『金融緩和だけでも強く復活した日本経済=アベノミクス』でも指摘したとおり、安倍晋三総理大臣(故人)が「アベノミクス」を引っ提げて再登板して以来、日本経済は少なくとも雇用が主導する形で強く回復。
財政政策が中途半端なものとなってしまったのは残念ではあったにせよ、現在の日本経済はインフレと成長基調が定着しかかっている状態だと総評することができるでしょう。
たとえば内閣府のデータによると、2023年第2四半期(4-6月期)におけるGDPは名目・季節調整後ベースで589兆4763億円で、これは第二次安倍政権発足直前の2012年第4四半期(10-12月期)の497兆1179億円と比べて、じつに18.58%も伸びています。
また、GDPだけではなく、インフレ率も最近、明らかにゼロないしマイナスを脱しつつありますし、さらに、現在、有効求人倍率は1倍を超過し、失業率水準は一般に「完全雇用」とされる3%を割り込む状況が続くなど、雇用情勢も大変に良好です
グラフで見る日本経済の回復
参考までに、GDP(名目・実質)の推移をグラフ化したものが図表1、インフレ率(総合、コア、コアコア)の推移をグラフ化したものが図表2、完全失業率(反転表示)と有効求人倍率の推移をグラフ化したものが図表3です。
図表1 GDPの推移
(【出所】内閣府『国民経済計算(GDP統計)』データをもとに著者作成)
図表2 インフレ率(総合、コア、コアコア/いずれも年率)
(【出所】『政府統計の総合窓口』ウェブサイト『消費者物価指数』データをもとに著者作成。「総合」は「総合指数」、「コア」は「生鮮食品を除く総合」、「コアコア」は「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」を意味する)
図表3 完全失業率(反転表示)と有効求人倍率
(【出所】完全失業率は総務省統計局『労働力調査 長期時系列データ』、有効求人倍率は政府統計の総合窓口『一般職業紹介状況(職業安定業務統計)』データをもとに著者作成)
経済対策としての減税が検討され始めたが…
こういう状態になってくると、賃上げは近いうちに全業種に波及してくるでしょうし、その過程で従業員に対し賃金を払い渋って来た企業や「パワハラデフレ経営者」が率いる企業は、「人手不足倒産」などを余儀なくされる可能性が濃厚です(まったく同情できませんが…)。
もっとも、物価上昇と賃上げにはかなりのタイムラグが生じるため、経済を腰折れさせないためには、経済対策(とくに減税)などの対策は必須です。こうした中で出てきたのが、所得税や法人税、消費税などの減税という話題でしょう。
「バラマキ」型か転換か 自民党、減税案など浮上
―――2023年9月29日 19:00付 日本経済新聞電子版より
自民若手、消費税率5%への減税求める提言決定
―――2023/10/04 14:37付 産経ニュースより
(※余談ですが、経済対策を「バラマキ」とレッテル張りする時点で、日経新聞の親財務省・反日的なスタンスはバレバレですが…。)
これらはもちろん、自民党内の動きなどを断片的に報じたものに過ぎません。
給与所得控除とは?
ただ、絶対に逃げてはならない論点もひとつあります。それが、「インフレによる実質増税」の論点です。これは、インフレが進行し、賃上げの結果、名目賃金が上昇しても、実質賃金が変わらないときに、給与所得控除や所得税率などが変わらなければ、結果的に増税になってしまう、という現象です。
たとえば所得税法では「給与所得控除」という制度が設けられています(図表4)。
図表4 給与所得控除
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
0円~1,625,000円 | 550,000円 |
1,625,001円~1,800,000円 | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円~3,600,000円 | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円~6,600,000円 | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円~8,500,000円 | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円~ | 1,950,000円 |
(【出所】国税庁タックスアンサー『No.1410 給与所得控除』を著者加工)
これは、給与所得者が経費を損金算入することが難しいなどの事情を踏まえ、便宜的に設けられているものですが(※著者私見)、この給与所得控除の額は近年、引き下げられる(つまり増税される)という傾向にあります。
しかし、社会全体の給与水準が上昇していけば、この料率表自体が不適切なものとなる可能性が濃厚です。
名目物価水準が2倍になり、名目賃金も2倍となれば、実質的な給与の額は変わっていないのに、給与所得控除の額が減ってしまうのです。
累進課税の日本の税制
また、日本の所得税法は、課税所得が増えれば増えるほど税率が上昇するという「累進課税」制度が採用されていて、仮に課税所得が900万円を超えたら、その超えた部分に対する税率は33%(!)にも達してしまいます(図表5)。
図表5 所得税率
課税される所得金額 | 税額 |
1,000円~1,949,000円 | 所得金額×5%-0円 |
1,950,000円~3,299,000円 | 所得金額×10%-97,500円 |
3,300,000円~6,949,000円 | 所得金額×20%-427,500円 |
6,950,000円~8,999,000円 | 所得金額×23%-636,000円 |
9,000,000円~17,999,000円 | 所得金額×33%-1,536,000円 |
18,000,000円~39,999,000円 | 所得金額×40%-2,796,000円 |
40,000,000円~ | 所得金額×45%-4,796,000円 |
(【出所】国税庁タックスアンサー『No.2260 所得税の税率』を著者加工)
つまり、物価上昇に伴い、以前と同じ生活を送るために賃上げがなされたとしても、この料率表が変わらなければ、適用される税率が上昇してしまい、その結果、国民全体が増税されたのと同じ効果をもたらすのです。
これがインフレ増税です。
極端なケースでいえば、課税所得が500万円の人の所得税額は572,500円ですが(※復興税や住民税などを考慮しない)、物価水準が2倍になり、課税所得も2倍の1000万円になれば、税額はその3.1倍の1,764,000円(!)にも膨れ上がってしまうのです。
インフレ増税の回避は必須!
したがって、インフレ増税を回避するためには、税率や所得控除などの仕組みについては、早急な改正が必要です
そして、インフレ増税を回避するための所得税額控除の引き上げ、所得税率の引き下げは、「減税」ではありません。実質増税を回避するための不具合の修正に過ぎないのです。
それだけではありません。
法人税についても「800万円以下の所得に対する軽減税率」の規定を引き上げる必要がありますし、消費税についても簡易課税の上限を5000万円から引き上げる必要があります。これらはすべて同じ理由によるものです。
いずれにせよ、「税収が過去最高となっている」ということは、「国民や企業が国に取られるカネが過去最大となっている」ということを意味します。経済対策としてもさることながら、社会的な不公正の是正という観点からは、減税は「必須」であり、「やって当然」です。
自民党は政権与党として、「インフレ増税の回避」を必ず実現しなければなりませんし、もし自民党がそれをやったからといって、それは「やって当然の改正」であり、特別に素晴らしいことではない、ということだけは、強調しておきたいと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
インフレが進行する社会では、後追いで賃金上昇も起きるが、政府が何も手当てをしなければ、累進課税の罠によって、結果的に増税、そして場合によっては収入減となるという論点は、当たり前のことながら、ちょっとした盲点となっていますね。
世間の風当たりのキツさにようやく気付いたか、このところ減税を匂わすことで、何とか支持率回復を狙っているらしき岸田政権ですが、具体的な規模も、実施時期も口にしないようでは、一度国民のアタマにインプットされてしまった、「増税論者」「財務省ポチ」のイメージは容易に払拭できるものではないでしょう。
「増税メガネ」の色つきのものかも知れませんが、こんな論考を目にしました。
『12月に1兆円大増税隠して”11月に解散総選挙”の姑息…鬼の岸田政権”ウソ減税”に国民は怒っている』小倉健一 MINKABU 2023.10.04
https://mag.minkabu.jp/politics-economy/20982/
曰く、
>岸田首相が、11月中に解散選挙をしないといけないのは、もう一つ理由がある。それは12月に予定されている、防衛費増の財源のための1兆円大増税だ。
>異次元の少子化対策として、効果がほとんどないバラマキをはじめたが、これについても、毎年6000円を社会保険料として徴収する計画が政府内にある。
いずれも、現状では憶測レベルの話。しかし、いかにもありそうというのは、首相ご本人の不徳の致すところ。なにしろ、かつて
>「日本の政治は消費税率引き上げに様々なトラウマがある。成功体験を実感することが大事だ」「消費税を引き上げる、ぜひ、この引上げを円滑に行うことによって、引上げの成功体験を国民の皆さんとともに実感し、未来を考える、こういったことの意味は大変大きい」
などと、発言しちゃってるそうだから。
これは盲点でした。まさにその通りですね。
「インフレ増税」しっかり覚えておきます。
目先の減税も大事ですが、政府には制度設計をしっかりしていただきたい。
公明党の北川一夫が減税は時間が掛かると発言し給付金のほうが即効性があるとの考えを示した。恒久的な減税ならば安心感は広がる。給付金は一回か二回のみで条件つき支給となるから目先の消費にしか繋がらない。さすが「地域振興券」なる奇っ怪なばらまきをした政党の幹部。しかもこのタイミングで言いますか。バカじゃねえの?お前は南無妙法蓮華経とだけやっていればいいんだよ。中国の習近平への親書依頼といい、海水浴発言の山口といいバカばっかしだな、創価学会はよぉ。
ガソリントリガー条約を発効させるか、消費税を引き下げか、廃止か。これを実行するだけで大分ちがう。外国にカネばらまく余裕があるなら、税金をさげやがれ!しかし、国会議員は何人いるんだ?一部の奴だけしか、発信しないじゃないか!半数いや1/3でいい。
北川一夫→北川一雄間違えた!
減税を喜ばない人たちがいる。もともと払ってないから何のメリットもない。
だったら給付金でくれ。
これが公明党の主張でしょう。
>物価水準が2倍になり、課税所得も2倍の1000万円になれば、
物価が2倍になれば、支払う消費税も2倍になります。
年間400万円消費すれば、支払う消費税は約40万円ですが、物価が2倍になれば800万円の消費に対して、支払う消費税は約80万円です。
家計には物価と増税のダブルパンチになります。
所得税も増えてトリプルパンチですね。
「インフレ増税」という言葉、初めて聞いたように思います。
長い間、物価の上がらないデフレの中で生活して来たので「インフレ増税」という現象については、全く認識不足でした。ネットで検索してみると、これは分かっていた現象で、「ブラケット・クリープ」という立派な名前もあるらしいです。
以下のリンクの記事、
そろそろ所得税のインフレ調整検討を(大和総研)
https://www.dir.co.jp/report/column/20230714_011064.html
によると、
「日本はこれまで、ブラケット・クリープに対応するため、物価がある程度上昇する度に、所得税の課税最低限を引き上げてきた(図表参照)。最後のインフレ調整が行われたのは1995年で、・・・」
(引用が長くなるので、ここまでとします。)
ということのようです。
しかしここで、小さなパイ(GDP)の中で「増税だ! 減税だ!」と叫んでいても虚しさが湧いてきます。
少し前に、このサイトの中でどなたかがコメント欄に書いておられた、
「政治家は、経済が分かっていなければならない。」
という言葉を思い出します。塩野七海の「ローマ人の物語-パクスロマーナ」の中からの引用らしいのですが。
政治家が、国家経済の規模(GDP)を大きくする術(すべ)を知っていることが必要かつ重要なことは、ローマの時代から分かっていたことのようです。
政治家や「経済官僚」がパイ(GDP)を大きくすることを考えないで、増税だ!減税だ!などと、「税の事しか考えられない」ことが、この国の悲劇なのかもしれません。
そもそも、日本には、「経済官僚」がいるのでしょうか?「徴税官僚」がいることは分かりますが。
「国家運営」という概念から、「国家経営」という概念に切り替えて行かなければならないのかもしれません。
国家経営といっても、社会主義ではありません。社会主義が経済発展に適さないことは歴史が証明しています。更に、それを証明しつつある国もありますが。
政治家や官僚が、経済を分かっていれば、今となれば高々100兆円の銀行の不良債権の解消のために、国全体の経済発展を犠牲にして、国内の産業の空洞化をもたらすような政策はしなかっただろうし、その結果として、近隣国の強大化を助成して、それに対抗するためにいま防衛増税が必要だ、などというマッチポンプのような国家運営はしなかったのではないか、と思われます。
要は、基本的な経済知識が無いために深謀遠慮の国家経営が出来なくて、その都度の継ぎ接ぎ対策しかできていないのです。
今こそ、政治家と高級官僚には、経済(ついでに歴史も)をしっかり勉強して頂きたいものです。
ご意見に同感です。最近 『サミュエルソンかフリードマンか——経済の自由をめぐる相克』(ニコラス・ワプショット[著]、藤井清美[訳]、早川書房)を読みました。ニューズウィークのコラムで、18年間にわたり 両者が激論を戦わせたことを記述したものです。
日本の経済政策も 増税が好きな財務省とアンチ財務省論者との 公開討論がきちんとしたジャーナリズムのもとで行ってほしいところですが 現在の日本では到底無理そうです。
>『サミュエルソンかフリードマンか——経済の自由をめぐる相克』
アマゾンで調べてみましたら、出版されたばかりで随分と大部の本ですね。
アマゾンレビューも一つも無いです。その内、気が向いたら読むかもしれません。
政治家はバカである。夏目漱石がいったとか。
間違えた。吾が輩はネコである。
だけど「バカ」の方がしっくり来る今日この頃。
あぁ、秋だなぁ、、赤トンボが舞う今日この頃。
トンボと一緒に岸田も山口も北川もきえてくれ!何妙法蓮華経チーン。
コメント失礼します。
経済とは経世済民=世を治め民を救うの略称ですが、財務省や狗総理、その他シンパは意図的に無視して省益に走っている。
現状維持で国民を苦しめ、昔やった消費増税法人減税のバーターなんかで誤魔化し、又自殺者3万人超えを達成してほくそ笑むのではないかと。
インフレ(物価と給料両方上がる)の恩恵を受けない立場を考えてみます。
・官僚(経済成長や規制緩和で権力が減る。昔は「公務員は馬鹿がやる仕事」と蔑まれてたそうで)
・大企業、有名人(インフレはお金の価値が下がるから、皆どんどん使う。起業や投資も増えるから下剋上の危険が増える)
・年金受給者、主婦等(ただ金を貰うだけの立場だから、物価は低い方が嬉しい。昔、年金の物価スライド凍結されてたっけ)
デフレで恩恵を受けてる連中の断末魔を吐き尽くせる日が来ると良いですが…。
>いずれにせよ、「税収が過去最高となっている」ということは、「国民や企業が国に取られるカネが過去最大となっている」ということを意味します。経済対策としてもさることながら、社会的な不公正の是正という観点からは、減税は「必須」であり、「やって当然」です。
必要なのは「減税」ではなく「社会の変化に応じた課税のリストラクチャリング」ではないでしょうか?
あと、文意から新宿会計士さんは「沢山稼いで、沢山納税して、社会に貢献する」という価値観の人とは真逆の価値観に感じました。
課税と再分配には社会的な不公正の調整という機能もあると考えるので、今ひとつ納得がいかないんですよね。
欧米諸国はインフレで表向き悩んでいるようだが、コロナ時に国債たくさん発行している
インフレでお金の価値が下がり、政府の借金の返済負担が実質的に軽くなっている。
日本のGDPが約500兆円で、国の借金は1000兆円?
インフレで10年経てばGDP1000兆円国の借金1000兆円、借金が目減りしていく。
財務省が、誰もがバカにしている「借金で国が滅びる~~」をいつまでも遊んでないで
今こそ優秀な財務省は、国民の豊かさの実感のために、インフレ増税を回避でしょう・・・。
デフレ減税だったら、神速で対処しそうですね財務省。
結局、物価が上がると必然的に消費税の徴収額が増えて政府としては減税したくない。それならば、お金を配った方が得。(将来、そのお金を再び、増税で取り戻せるから)ガソリンも同様だと思います。つまり東大法学部で固められた財務省は頭の良さを武器に、ずるい戦略ばかりを考えているように思います。財務省は一度、人選からやり直さないといけないと思いますね。