北朝鮮が外国人の入国を許可:日本人が渡航すると…?
日本の経済制裁に関する法制は「穴だらけ」ですが、そのなかでもとくに悩ましいのは、日本国民に対し特定国への渡航を禁止するための法制度や手段、罰則などがほとんどないことでしょう。こうしたなかで、北朝鮮が25日から外国人の入国を自由化したとの報道が入ってきました。北朝鮮旅行を巡っては「自己責任」だと主張する者がいますが、これも適切ではありません。北朝鮮旅行の売上代金が核・ミサイル開発の資金源となることは明らかだからです。
経済制裁の7類型
経済制裁とは一般に、「経済的手段を用いて相手国に打撃を与える」ことと定義されます。
これにはいくつかの手段があるのですが、なかでもわかりやすいのが「日本と相手国の間での、ヒト、モノ、カネ、情報の流れを止めること」であり、具体的には次の7類型が考えられます。
経済制裁の7類型
- ①日本から相手国へのヒトの流れの制限
- ②日本から相手国へのモノの流れの制限
- ③日本から相手国へのカネの流れの制限
- ④相手国から日本へのヒトの流れの制限
- ⑤相手国から日本へのモノの流れの制限
- ⑥相手国から日本へのカネの流れの制限
- ⑦情報の流れの制限
(【出所】新宿会計士の政治経済評論)
たとえば、日本政府が北朝鮮に対して課している各種経済制裁はいくつかあるのですが、たとえば「輸出規制」は「②日本から北朝鮮へのモノの流れの制限」、「輸入規制」は「⑤北朝鮮から日本へのモノの流れの制限」、「資本の持出規制」などは「③日本から北朝鮮へのカネの流れの制限」、という類型で理解できます。
また、日本は現在、北朝鮮国籍者の入国を禁止する措置を適用しており、スポーツ大会などの一部例外を除いて、北朝鮮の政府高官などが日本の土を踏むことはできません。
さらに、悪名高き貨物船「万景峰(まんけいほう)号」など、北朝鮮船籍の船舶などは、現在、日本への入港が禁止されていますが、これはヒト、モノ、カネの運搬手段そのものを封じることで、ヒト、モノ、カネ、情報の流れに制限を加える効果が期待されます。
経済制裁として効果があるものとないもの
このように考えていくと、日本から北朝鮮に対する経済制裁は、上記①~⑦のうち、とくに②、③、④、⑤についてはほぼ完全に止める措置が発動されているほか、日朝間をつなぐ物理的な直行便、交通手段そのものが存在しない状態だと考えて良いでしょう。
また、⑥、つまり北朝鮮から日本への投資に関しても、現状でほとんど残高はないと考えて良く、もしも北朝鮮国籍者からの投資と判明すれば、国連対北朝鮮制裁決議や外為法などに基づき資産凍結措置を発動することも可能でしょう。
もちろん、『外為法改正が改憲に匹敵する理由』でも指摘したとおり、上記のうちとくに②、③、⑤、⑥については経済制裁として発動するための外為法上のハードルが高すぎるため、これについてはもう少し緩和することが必要です。
ただし、北朝鮮やロシアのように、あからさまに国際秩序に脅威を与えている国のような事例だと、この外為法第10条第1項に基づく閣議決定の対象とすることができるのです。
ただ、残り①、⑦については、どうでしょうか。
このうちとくに⑦に関しては、以前から当ウェブサイトにて指摘してきたとおり、たとえばスパイ防止法のような、情報の漏洩を取り締まったり罰したりするなどの包括的な法制はありません。現在、中国が「反スパイ法」で外国人を含めた取り締まりを強化しているとされますが、日本にはそのスパイ取締法自体が存在しないのです。
日本人は北朝鮮に渡航できてしまう
また、これとともにもうひとつ指摘しておきたい問題点が、①です。
現状、日本政府が日本国民に対し、特定の外国への渡航を禁止することはできません。そのための法制度も手段もなく、また、罰則もないのです。
たとえば、日本政府は日本国民に対し、北朝鮮への渡航を自粛するように呼び掛けています。外務省『海外安全ホームページ』の『北朝鮮 危険・スポット・広域情報』によると、2017年4月10日付で発出された、こんな警告文が掲載されています。
- 北朝鮮が核実験や弾道ミサイル発射を繰り返しています。こうした状況も踏まえ、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決のために我が国がとるべき最も有効な手段は何か、という観点から、一連の我が国独自の対北朝鮮措置を実施しています(「我が国独自の対北朝鮮措置について」)。
- その一環として、人的往来の規制措置、具体的には我が国から北朝鮮への渡航自粛要請が含まれています。
- つきましては、目的のいかんを問わず、北朝鮮への渡航は自粛してください。
(※下線部は引用者による加工)
しかし、この文章を読んでいただければわかるとおり、日本政府は北朝鮮への渡航を「禁止」はしていませんし、もし北朝鮮に渡航したとしても、それだけで何らかの刑罰が下されるということはありません。実際、インターネットのサイトで検索してみると、「北朝鮮に行ってきた」などとする旅行記のたぐいは、いくらでも見つかります。
また、日本は自由主義が徹底している国でもあり、特定国への渡航の自由に制限を加えることが憲法上も難しい、といった見方もあるようです(なお、一定要件を満たした場合には、旅券法第19条等などの規定に基づき、日本政府が国民に対してパスポートの返納を命じることは可能ですが…)。
北朝鮮が入国許可へ
こうしたなかで、ここ3年半に限定していえば、日本国民が北朝鮮に渡航することは困難でした。
北朝鮮がコロナ防疫を理由に国境を閉ざしていたからです。
ところが、北朝鮮当局は25日、同日より外国人の入国を許可したと発表したそうです。
北朝鮮が外国人の入国許可 中国報道、2日間隔離
―――2023/09/25付 共同通信より
北朝鮮、外国人入国を許可 20年1月以来の往来再開―中国報道
―――2023年09月25日21時19分付 時事通信より
こうした記事を見ると、やはり気になるのは、若い人たちなどを中心に、「何の気なしに」北朝鮮に渡航しようとする者が出てこないかどうか、です。
当たり前の話ですが、北朝鮮に面白半分で渡航しようとしないことです。もしも現地で何らかのトラブルに巻き込まれたとしても、日本政府は絶対に助けてくれないからです。
また、よく「自己責任」という単語を耳にしますが、この考え方も間違っています。
たとえ少額であっても、あなたが北朝鮮旅行をすれば、旅行売上代金の一部が核やミサイルなどの開発に使われるであろうことは想像に難くありませんし、また、北朝鮮が何より必要としているのが外貨だからです。
たとえば「北朝鮮に渡航したことがわかった場合、期限を切って、パスポートそのものを没収する」など、北朝鮮への渡航に対しては、何らかのペナルティを課すための立法措置を、日本としてもそろそろ検討しなければならないのかもしれません。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
そんな日韓関係論を巡って、素晴らしい書籍が出てきた。鈴置高史氏著『韓国消滅』(https://t.co/PKOiMb9a7T)。
日韓関係問題に関心がある人だけでなく、日本人全てに読んでほしい良著。
読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。
ツイート @新宿会計士をフォロー
読者コメント一覧
※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。
やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。
※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。
※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。
当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。
コメントを残す
【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました
自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。 |
【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました
日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。 |
昔、中国の貴州省の貴陽に行ったとき、現地で知り合った女性の通訳に北朝鮮に誘われたことがある。黒竜江省の出身だという彼女も行った事はないと話していた。あれ、、行っていたらどうなっていたろう。金正日の時代だから今も危ないがもっと危なかったかもしれない。貴陽の空港は山の中でタラップから降りて出口まであるくスタイルだった。小屋のなかで荷物を受け取りなんだか切ないおもいをしたのをおぼえている。国内線なのに上海から4時間もかかり成田空港から上海までより一時間もかかるのだ。山肌に穴をあけ、ヤオトンというロビンソン、クルーソーみたいな穴蔵生活も盛んな貧困州だったなぁ。当時の中国は貧乏だったが建物や橋などは壮大だった。北朝鮮も見てくれだけは巨大だろう。北京に行く飛行機の中から北の三角のホテルが見えた。
北朝鮮は渡航できてしまいますよね、YouTubeに北への渡航の動画が上がってますし。「朝鮮総連」も出入りしているでしょう、「子供」が人質に取られているのに。もっとも人の流れと同時に金の流れも把握すべきですが。
日本人がすべきは、朝鮮総連の動きと一緒に北朝鮮のことをもっとよく知ること、地政学を勉強することです。地政学的に、北朝鮮は、ロシアは、中国は、台湾は・・・・。日本のメディアを見ると、地政学的な観点から北朝鮮とか分析されることも少ないし、メディアができていないということは、国民もできていないといっていいでしょう。
危険なのは、韓国のニュースはへばりついて見ているのに、北朝鮮を単に「バカの国」とみてバカにしてよく見てないことでしょう。バカの国と思わせることこそが北朝鮮の情報戦の狙いだからです。北朝鮮は決して「バカの国」ではありません、少なくとも「軍部」は優れているでしょうね。
まあ、北朝鮮が長距離ミサイル発射実験とかをしているのに、紙面の1面に反日の記事を載せてホルホルしている韓国とかいう国もどうにかしないといけませんね。韓国は「親北」におかされています。
10年くらい前?日本のメディアも大きく報じていた 「北朝鮮への墓参・遺骨収集事業」 が行われていた時期って、すでに国連の経済制裁が行われていた時ですよね。北朝鮮からの被害を一番受けている日本が、率先して制裁破りをしていたんだから、そりゃ制裁が形骸化するわけです。
第二次安倍政権が制裁の抜け穴を塞ぐために奔走して、アメリカでもトランプが大統領になってからは、かなり抜け穴が塞がれたみたいだけど、それ以前は日本人ユーチューバーがフツーに北朝鮮に渡航して、北朝鮮名物 「ハマグリのガソリン焼き」 を作る様子を撮った動画をUPしたりしていましたからね。今でも 「ハマグリのガソリン焼き」 で検索すれば、動画が大量に出てきます。
長年、北朝鮮に旅行してはまぐりのガソリン焼きを食べることが夢だったのですが、最近そんな化学物質をかけたら腹を壊すだろうと気づきました。
北朝鮮に行くのは自由ですが、アメリカに入国できなくなる可能性があるらしいですから注意した方がいいと思います。
2011年3月1日以降に北朝鮮への渡航歴があると、アメリカのビザ免除プログラム対象外になりますね。
このルールは2019年8月5日より運用されています。
現行のパスポートには特に書いていないが、以前のパスポートには「北朝鮮以外で有効」という語句が入っていた。(This passport is valid for all countries and areas except North Korea)
日本と北朝鮮はお互いを国として認めていない。
おそらく日本のパスポートに入国スタンプは押さないだろう。アメリカではどうやって北朝鮮渡航歴を知るのだろう。
かつてイスラエルに渡航する必要のある人はイスラエル入国用とその他の国入国用の2種類のパスポートを所持していると聞いたことがある。イスラエル入国のスタンプのあるパスポートは受け付けないというアラブの国があったのだ。
利用しているSNSアカウントの開示が、ESTAの申請時には任意で、
ビザを申請する場合には必須になっています。
任意とはいえESTAで開示した場合にはそこで「掘る」のでしょう。
その結果、北朝鮮への渡航歴についてESTA申請時の内容と矛盾していれば
その時点でアウトです。
今回の措置の内容がどのようなものか、単に外国人の入国を認めたというだけなのか、それ以上なのかはわかりませんが、以前に読んだ日本人ジャーナリストによる10年程前の旅行記によると、こんな感じでした。
・すべてガイド付きパックツアー(平壌のみ)であって、個人旅行などはない
・滞在中に自由時間などはなく、移動の際には必ず監視役(ガイド)が同行する
・滅法高額。記憶によれば、北京発着の3泊4日で40万円以上したはず
これはあくまでも日本人向けなので、中国人やロシア人向けは多少違うかもしれません。
滞在中に街をふらふら歩き、現地の人と触れ合う機会など皆無(そんなことしたら、神聖都市平壌市民が汚染されるので)だし、買い物といってもロクに物などない国営百貨店にガイド付きで連れていかれるだけ、食事もあてがわれたものを摂るのみということでした。
今回の措置後はどうなっているかわかりませんが、そもそも北朝鮮行きのパックツアーに参加するためには北京まで出向いて、在北京の旅行会社で購入するよりなく(*)、おまけにかなり高額ということで(支払いをどうしたかは覚えてない……)、とてもではないが気軽に行けるようなところではありません。そうまでして行きたがるのは、よほど酔狂な物好きか、世界中のありとあらゆる秘境を巡りつくし、もはや他に訪れる場所が残ってないなどという数寄者くらいだと思います。そういう意味では、あまり心配するには及ばないような気がします。
まあ、「あしたのジョー」を気取るような人ならば、その限りではないかもしれませんが。
(*) もしかすると、日本に所在する中国系の旅行代理店ならば扱っているかも。
新宿会計士さんがご指摘された③のカネの流れは本当に遮断されているのでしょうか。パチンコマネーが北に流れている、とよく聞きますが、実態はどうなのでしょうか。
他にもネット詐欺やハッキングでお金を盗んでいる、とも聞きます。
瀬取りで分るように、中国や韓国も北に加担しているだろうし、完全な遮断は難しいと感じます。
日本の元締めの総連への監視と捜査、あるいは解体が必要かと思います。