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    Categories: 金融

イランのウォン資金凍結問題巡り「国益守れ」=韓国紙

まるで自分たちが被害者だとでもいうのでしょうか。一説には70億ドルともいわれるイランの資金が韓国国内に凍結されている問題で、イラン当局が国際仲裁手続の開始を決定したとの報道もありましたが、これに関連し、韓国紙に掲載されたコラム記事の内容が、なかなかに印象的です。韓国当局によるイランの資金凍結に関連し、まるで自分たちの国も被害者であるかのような言及があるからです。

イランと韓国、浅からぬ因縁

かなり以前の『イランによる韓国船拿捕の裏にある両国の浅からぬ因縁』などでも触れてきたとおり、イランと韓国には金融面で「浅からぬ因縁」があります。

すでにいくつかのメディア報道で取り上げられているとおり、イランの革命防衛隊は昨日、韓国の貨物船をペルシャ湾上で拿捕したようです。表向きは「海洋汚染」を理由にしていますが、その裏では石油代金を巡る不透明なウォン資金口座決済という仕組みと韓国当局による口座凍結、そしてイランがそれに激怒している、という構図が見て取れます。韓国船舶をイラン革命防衛隊海軍が拿捕韓国メディアの報道によると昨日、イラン革命防衛隊の海軍がペルシャ湾を航行していた韓国船籍の船舶1隻を拿捕したそうです。イラン、韓国の運搬船を拿...
イランによる韓国船拿捕の裏にある両国の浅からぬ因縁 - 新宿会計士の政治経済評論

その中核を占めるのが、「イランの資金を韓国が凍結している問題」、です。

改めて事実関係を振り返っておくと、両国関係のカギとなるのは、米国の対イラン制裁を回避するための仕組み作りにあり、なかでもその中核を占めていたのが「韓国ウォンを使った貿易決済」と「物々交換スキーム」の2つの仕組みです。

このうち韓国ウォンを使った貿易決済では、イラン中央銀行が韓国国内の銀行に保有するウォン資金口座を使用して韓国との貿易代金を決済する仕組みのことであり、また、物々交換とは、イランが輸出した原油の代金を韓国から輸入される製品との物々交換方式で決済する、といった方式のことです。

いずれも、非常に不透明かつ非現実的なやりかたであり、とくに「物々交換」に関しては貨幣経済そのものの否定のようなもので、ほぼ「論外」でしょう。実際、この物々交換スキームはかなり早い段階で破綻したようであり、現在ではほぼ使われていません。

ウォン資金決済の仕組み

ただ、前者に関してはある程度の期間、スキームとしては使われていたようです。

たとえば、イランのメラト銀行(Bank Mellat)が2001年に韓国・ソウルに開設した支店を使って、ウォン資金貿易が行われていた、という話題が挙げられます。これについて参考になるのが、韓国紙『中央日報』(日本語版)に2016年1月に掲載されていた、次の記事です。

政府「韓国ウォン口座維持協議を」…イランは返答せず(1)

―――2016.01.28 09:08付 中央日報日本語版より

中央日報によると、取引の概要は、こうです。

  • イランの石油会社が韓国に石油を輸出した場合、韓国の輸入業者はイランの銀行のソウル支店に代金をウォンで振込み、イラン中央銀行はその振込通知を受けて、その石油会社の銀行口座にイランの通貨(イランリヤル)で輸入代金を振り込む
  • 韓国の会社がイランに商品・製品を輸出した場合は、イラン中央銀行はイラン国内の輸入業者が保有する銀行口座からイランリヤルを引き落とし、イランの銀行のソウル支店はウォン資金口座から韓国ウォンを韓国の輸出業者の銀行口座に振り込む

どちらもごく基本的なコルレスの仕組みです。

ウォン自体は国際的な通貨ではない!

ただ、問題は、韓国ウォン自体が厳しく規制されていて、基本的に韓国国外に持ち出すことができない、という点にあります。韓国では外国為替規制が厳しく、日本や香港、米国や欧州諸国、英国などと異なり、韓国国内にあるウォン資金を国外にそのまま移すことができません。

ちなみに、たとえば日本円だと、円のまま日本国外の銀行(たとえば香港のHSBCなど)に送金することができますし、円自体が国際的に広く取引されている通貨ですので、円を円のままで保有していても良いでしょうし、香港市場やロンドン市場などでドルやユーロに両替することも自由自在です。

しかし、韓国の場合はそもそも海外の銀行が韓国ウォン自体を取り扱っていないことも多く、大口送金が難しいのが実情です。また、韓国国内でドルに両替して海外送金するということもできなくはありませんが、両替自体が韓国当局に監視されているため、好きなタイミングでドル転することも難しいでしょう。

したがって、イランにとってはせっかく韓国への輸出で「儲けた」カネを、自国に持って帰ることができないのです。

無理やり持って帰りたければ、韓国国内で金塊や米ドルの現金などに両替し、それらの紙幣を少しずつ航空便で物理的に送るくらいしか手段はないのかもしれません(冗談みたいですが、冗談抜きで、本当にそうだと思います)。

制裁逃れ?迂回路?

ではどうしてこんな不透明な仕組みをわざわざ導入したのでしょうか。

先ほどの中央日報の記事には、こんな趣旨の記述があります。

イランと韓国の貿易額も2011年の174億ドルから昨年(※2015年)は61億ドルと、3分の1に減少した。イランと金融取引が厳格に制限された状況でもそれなりに貿易が維持されたのは、ウリィ銀行と企業銀行に開設された韓国ウォン口座のおかげだった。韓・イラン当局が苦心の末に開いた『う回路』であり『抜け道』だった」。

金融規制専門家のひとりとして、大手メディアが堂々と「迂回路」だ、「抜け道」だといった用語を使うことにも単純に驚いてしまいますが、話はそこに留まりません。

イランの貿易黒字(輸出超過)が続く限り、イランの銀行のソウル支店が保有するウォン資金(正確には同銀名義で韓国国内の銀行のウォン資金口座に保有する資金)は、米ドルなどに両替したうえで本国に送金するなどしない限り、溜まり続けます。

中央日報によると、メラト銀行ソウル支店に溜まっていた金額は、2016年1月時点で3~4兆ウォン程度で、原油価格高騰の影響もあり、一時は5兆ウォン(当時の相場で約5000億円)に達していたこともあったそうです。

しかも、メラト銀行ソウル支店は、実際にウォン資金を「ウリィ銀行」や「企業銀行」などの韓国国内の銀行に開設した金利0.1%の口座に置いていたのですが、その預金を利率の高い定期預金に移し替えようとしたところ、その銀行から拒絶された、というのです。

韓国がイランの資金を自国に拘束しているにも関わらず、低い金利しか支払っていないというのも驚きですが、衝撃はそれにとどまりません。

2018年5月に当時のドナルド・J・トランプ米大統領がイラン核合意(JCPOA)を破棄し、翌年5月にイラン制裁の例外をすべて拒絶したことで、韓国側も同年5月、イランのウォン資金口座を突如として凍結したのです。

その正確な金額はよくわかりません。当時の報道等によれば、約65~90億ドルと幅があるからですが、ただ、その後の報道等によれば、少なく見積もってもだいたい70億ドル、現在の為替相場で円換算すれば約1兆円前後、といったところでしょうか。

2021年1月に発生した、ホルムズ海峡通過中の韓国の船舶をイランが拘束する事件も、おそらくはこれと無関係ではないのでしょう。

韓国は「被害者」なのか?

ただし、イランは韓国の銀行に凍結されている資産の返還を繰り返し要求しているものの、韓国側は「イラン核合意の再建と米国の対イラン制裁解除が必要だ」としてこれを拒絶しており、この資金はいまだに返還されていないようです。

そして、これに関連し、先週はこんな報道もありました。

イラン「韓国が凍結した70億ドル返還を」訴訟…韓国外交部「綿密に対応」

―――2023.08.01 17:01付 中央日報日本語版より

韓国政府「イランが仲裁提起すれば綿密に対応」 凍結資産巡り

―――2023.08.01 15:22付 聯合ニュース日本語版より

これは、イラン当局が韓国に対し、投資紛争解決国際センター(ICSID)を通じ、凍結された資金を返還するよう国際仲裁手続を開始した、などとする報道です。この報道に続き、中央日報には7日付で、こんな「コラム」も掲載されていました。

【コラム】韓国内のイラン凍結口座に8兆ウォン…国益守る方法を考慮すべき(1)

―――2023.08.07 13:35付 中央日報日本語版より

【コラム】韓国内のイラン凍結口座に8兆ウォン…国益守る方法を考慮すべき(2)

―――2023.08.07 13:35付 中央日報日本語版より

記事タイトルに「国益を守る方法を考慮すべき」、とありますが、コラムの記事を読んでさらに印象に残るのは、その記載内容でしょう。コラムではこんな記述が出て来るからです。

韓国-イラン間の韓国ウォン決済口座が2019年5月に突然閉鎖したことで、多くの韓国企業もイラン側のバイヤーなどから受けるべき物品代金などを受けられないケースが多かった。未収金を回収する場合、米国のイラン制裁対象に挙がるのではという不安もある」。

このあたり、あたかも韓国側も被害者であるかのごとき記載に見えてしまいます。

しかし、どこかの国が好きな「被害者・加害者」フレームワークに照らし、「資金凍結されたこと」を「被害」と定義するならば、この場合の「被害者」(?)はあくまでもイランの側であり、決して韓国の側ではないでしょう。

もちろん、原因を作ったのはイランの核開発であり、また、今回のウォン資金凍結も米国による制裁の流れ弾に当たったようなものだ、という言い方もできますが、じっさいにトランプ政権当時の制裁には時間的猶予があり、イランは日本との間では、現在の韓国のようなトラブルは生じていません。

ついでに、もうひとつ印象的なのは、こんな記述です。

イランから受ける未収金の規模は数年前に政府がKOTRAを通じて調査したことがあったが、状況が急激に変わり、その間の延滞利子も発生しているため、政府が正確な規模を再調査する必要がある

…。

あれでしょうか。

韓国では企画財政部も韓国銀行も外交部も、その正確な金額を誰も把握していないということでしょうか?

なんだかよくわかりません。

どうやってトラブルを解決するつもりなのか

ちなみに記事では「(米国やイランなどの)激しい国益競争が目立っている中、イランと取引をした韓国の企業と国民の権益を保護するための政府の積極的な関心と努力がより一層求められる」、などと結論付けられているのですが、具体的に何をどうするのかについてはよくわかりません。

ただ、日本に対する国際法違反問題である自称元徴用工問題にしろ、ラオスにおけるダム崩落事故にしろ、韓国が発生させた国際的なトラブルを見ていると、この韓国という国は、トラブルの解決には極めて後ろ向きであり、不誠実です。

とくに日韓関係に関して韓国がやって来たことといえば、「日本に非を認めさせる努力」ばかりでした(『「日本に非を認めさせる努力」しかしていない韓国政府』等参照)。自分たちが発生させた問題を解決しようと誠実に取り組んできたという事実はありません。

当ウェブサイトに優れたコメントを残してくださる「カズ」様という読者の方が、またしても重要なことを指摘しました。自称元徴用工問題を巡って、韓国政府は「日本に非を認めさせる」ための努力しかしていない、というのです。まったく言い得て妙と言わざるを得ません。もっとも、こうした韓国政府の努力も徒労に終わる可能性が出てきました。福島第一原発ALPS処理水、佐渡金山世界遺産登録という、韓国自身の強欲が作り出した問題がその原因です歴史問題とその対応日韓諸懸案を象徴する「自称元慰安婦問題」日韓諸懸案の象徴であ...
「日本に非を認めさせる努力」しかしていない韓国政府 - 新宿会計士の政治経済評論

(※どうでも良い余談ですが、そんな韓国政府にコロッと騙され、自称元徴用工問題でも慰安婦合意破り問題でも譲歩し、韓国にスワップとホワイト国の地位を与え、FCレーダー照射問題を不問に付すなどの「盗人に追い銭」をした岸田文雄首相という男は、本当に愚かと言わざるを得ません。)

このように考えていくと、韓国がイランとのトラブルをどう解決させるのか(あるいは最後まで解決しないのか)については、興味深くウォッチする価値がある論点のひとつといえるかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (34)

  • >韓国-イラン間の韓国ウォン決済口座が2019年5月に突然閉鎖したことで、多くの韓国企業もイラン側のバイヤーなどから受けるべき物品代金などを受けられないケースが多かった。

    口座が凍結されたことを起因として売掛債権が未回収の韓国企業が存在するのであれば、
    口座が凍結されたことを起因として買掛債務が未払いの韓国企業も存在するって事です。

    貿易バランスを鑑みれば、後者の額が大きいとしたものであり、然るべき機関が金額を取りまとめ、国内的に債権・債務を「振替決済?」すればいいだけのように思えるんですけどね。

    • カズ様

      言われる事は、多分、物心ついたばかりの子供でも直ぐに思い付く事ではないでしょうか?
      でも、一方が訴えるというのだから、相手は未だ物心が付かない子供の如き者だという事ではないでしょうか?

  • 一生懸命に理解しようとして結構まじめに読んだが、結局、「こじらせ屋」が又一つ「こじらせネタ」を増やしたってだけの話でした。
    これ、この国と関わると延々とお付き合いというか、纏わりつかれて、その蟻地獄から抜け出せないってことかも。
    何故なら、この国には「解決」という言葉が辞書にないようだから。契約とか約束とか組立とか、日本の熟語をそのまま使っているらしいが、「解決」という言葉は使ってないのか、使う必要がないのか、知らないのか。
    「解決する」という意識がそもそもこの民族には有るのか?無いのか?
    それにしてもこのまま、70億ドル=約1兆円、ネコババする気なのか?何とか基金もネコババしたみたいだし。ネコババが文化なのか?
    やっぱり、あらゆる面から見て、付き合う相手では無いが、こんな相手に鴨葱するものがいるらしいから、親日国イランから、代わりに払ってなんて言われないか、余計な心配まで出て来る!

  • 飯山陽というイスラム関連の研究者が、日本も30億ドルほどイランの凍結資産があり、イランからそれを返すように要求されているので、韓国と同類だそうです。
    私のような市井の韓国ウォッチャーにとって、あの無法者の韓国と同類などと言われたことは屈辱的であり、衝撃を受けました。
    イスラム側の思考では同じなんですかねえ?
    当のイランの対応からしても日本と韓国ではだいぶ違うように見えるのですが。

    • でも、訴えられている訳ではないのでは?
      凍結「資産」と、今回の貿易「代金」の違い、お金は「意味」付けによって扱いが変わりませんか?

    • 世界中でコロナワクチンの供給が逼迫していた頃、日本が所有するワクチンをイランに提供することで相殺した、との記事を読んだ記憶が。

      • (新宿会計士注:このコメントは暴言、個人情報、名誉毀損、性的、わいせつ、低俗、公序良俗違反その他の事情に相当すると判断したため、削除しました。)

        • 当ウェブサイトにおいては暴言は許可していません。控えてください。

  • こういうことを続けていると遅かれ早から韓国は世界から相手にされなくなるのだと思います。その時になっていつものように日本が悪い‼なんとかしろと言って来るのが容易に想像できますね。で、またまた日本は岸田のような能天気で総理の資質の欠片もない政治家が、まるで林が中国へスパイ容疑で不当に拘束されている日本人を救出?に行って、ヘラヘラした笑顔で嬉しそうに中共と会談したように、韓国に手を差し伸べる?のでしょうかね?未来永劫二度とそのようなことが無いように、宏池会と公明党を選挙で叩き潰しておくことが国家を憂う善良な有権者としての自衛手段では無いでしょうか?と、自称元自民党岩盤支持者の私はつくづく思いますね。

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    ①韓国:「イランのウォン資金は、神が韓国に与えた贈り物である」
    ありそうだな。
    おまけとして、
    ②韓国:「イスラエルから、イランのウォン資金凍結を解除してはならないと命令が来たので、凍結解除できない(いい言い訳ができた)」

    • この場合、それぞれの神が違うのだから、宗教戦争になっちゃいそうで、怖い!

      • >それぞれの神が違うのだから、宗教戦争

        イスラーム教とユダヤ教の神は同じです。
        30年戦争はキリスト教国家同士の宗教戦争の側面があります。

        主権国家の考えが出るほどの残虐行為が双方に出てますが。

        • 神とは、信じる処、教義のこと。知識の葉っぱ(枝葉)では無く、根や幹(根幹)を理解する「知力」を鍛えましょう。

  • 「韓国が加害者なんです!”敵”は被害者なんです!」
    こんな事を韓国人が韓国内で言い出したら危険極まりない自殺行為ですからね。
    そりゃ、韓国のマスコミだって無理やりな擁護をするしかない。

    結局の所、韓国と商売する際は「韓国側が100%前払い、ノークレームノーリターン」を
    条件とするのが一番安全なのでしょうが……当然、韓国側もそれは何としても
    避けたいでしょうねえ。キャッシュを持っていない場合は特に。

  • 既に使ってしまったものの代金支払うのはイラン制裁の範囲外で普通に支払うもの。

    売買契約は米ドル支払いで締結されている。

    輸入して使ってしまった物の代金を支払わない事は韓国の利益でもなんでもない契約違反で犯罪に匹敵する。

    仮に韓国政府が韓国国内の銀行に支払い止めさせたとしても代金の米ドルはキープしなければならず、使い込んじゃったら金融犯罪。

    これだけ明白なあほんだらな事のなにが複雑なのかが理解の範疇外です。
    また日本もーとか言うだろうなとウンザリ。

  • 触らぬ神に祟りなし

    韓国には責任を取る意思も能力もないので 関係を持つ事事態がリスクです。
    しかし、韓国自身が意思も能力もあると勘違いしているところがミソです。
    意思も能力もあると思ってるので 何か問題があると全て相手のせいになります。
    すると、こちらとの認識の齟齬が生じるので 問題解決がグチャグチャになるのです。

    イランが解決するには、徹底的な実力行使しかないのです。

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