香港の「日本の水産物輸入規制」は香港自身に跳ね返る

経済に関する話題、とりわけ「貿易構造」などを議論するに際しては、現実の数字を踏まえて行うことが重要であることは指摘するまでもありません。農水省が最近、日本の農林水産物などの輸出が増えている、などと華々しく発表しているのですが、現実の貿易統計で見て、これらの輸出高が日本全体の輸出高に占める割合はせいぜい2%前後です。こうしたなか、香港が日本の水産物などの輸入規制を講じる方針を示したのだそうですが、これについてどう考えるべきでしょうか。

相手国と品目が大事

普段から当ウェブサイトでは、「経済に関する話題を議論する際には、可能な限り、現実の数字を踏まえて行うべきである」と考えており、これについては「日本の貿易構造がどうなっているか」を考察する際にも、まったく同じことがいえます。

その際に重要なのは「相手国」と「品目」です。

たとえば、2022年のデータでいえば、日本全体の輸出高は98兆1842億円であり、その輸出相手国のトップは中国(19兆0066億円)で、これに米国(18兆2587億円)、韓国(7兆1064億円)、台湾(6兆8577億円)、香港(4兆3574億円)が続きます。

その一方で輸入高については118兆1635億円であり、相手国はやはり中国が24兆8344億円でトップであり、これに米国(11兆7218億円)、豪州(11兆6245億円)、UAE(6兆0233億円)、サウジアラビア(5兆5691億円)が続いている、というわけです。

農林水産物の輸出は「過去最高」というが…

ただ、金額だけでなく、品目別の分解もまた必要です。

たとえば2022年の実績に関していえば、日本にとっての輸出は、「機械類及び輸送用機器」が全体の約60%弱を占めており、それらの多くは半導体等製造装置、半導体等電子部品といった「モノを作るためのモノ」で占められています。

むかしの感覚からすれば、日本はテレビだの、冷蔵庫だの、洗濯機だのといった家電を作って外国に輸出している国、といったイメージを持っている人も多いかもしれませんが、こうしたイメージは正しくありません。

こうしたなか、「日本食が世界で大人気を博している」といった報道を目にすることも増えています。これについては農水省自身が華々しく、たとえば今年2月に『2022年の農林水産物・食品の輸出実績』なるデータを公表し、「過去最高となった」などと宣伝しているほどです。

「2022年の農林水産物・食品の輸出実績」について

農林水産省は、「2022年の農林水産物・食品の輸出実績」を取りまとめました。2022年の農林水産物・食品の輸出額は、過去最高の1兆4,148億円となり、2021年比では14.3%の増加、額では1,766億円の増加となりました。また、2022年12月の農林水産物・食品の輸出額は、単月で過去最高の1,308億円となりました。<<…続きを読む>>
―――2023/02/03付 農林水産省HPより

中国、香港向けが非常に多い

ちなみに農水省によると、「農産物、林産物、水産物、少額貨物」の各実績は次の通りだったのだそうです。

  • 農産物 :8870億円(対前年比+10.3%)
  • 林産物 :*638億円(対前年比+11.9%)
  • 水産物 :3873億円(対前年比+28.5%)
  • 少額貨物:*767億円(対前年比+*1.5%)

なかなかに、大した伸び率です。今後は農業分野が日本の輸出を牽引する、という意気込みも伝わってきます。

ちなみに輸出先は1位が中国、2位が香港、3位が米国だったそうです。これを財務省の統計で見ると、数値は微妙に異なっていますが、「食料品及び動物」、「飲料及びたばこ」の2品目の合計値は、こんな具合です。

  • 中国向け…2375億6221万円
  • 香港向け…1802億8459万円
  • 米国向け…1679億3599万円

時事通信「香港が輸入規制へ」

つまり、農業・農作物分野では、中国と香港が日本にとって重要な輸出相手国、というわけですが、こうしたなかで、こんな記事が出てきました。

香港「大量の水産物」禁輸へ 日本の産地に打撃 処理水放出

―――2023/07/11 16:20付 Yahoo!ニュースより【時事通信配信】

時事通信によると、香港政府の李家超(り・かちょう、ジョン・リー)行政長官は11日、東京電力福島第一原発の処理水が海洋放出された場合、日本からの「大量の水産物の輸入を禁止する」と明言したのだそうです。

これについて時事通信は、こう述べています。

香港は日本食品の輸出先第2位で、日本の水産業への打撃が懸念される

…。

たしかに、これはそのとおかもしれません。香港は日本産の農林水産物などの輸出が多い相手国のひとつではあるからです。

ただ、そもそも論として日本の輸出高(2022年実績で98兆1842億円)に対し、食品などの農林水産品の占める金額は1兆4148億円と、全体の2%にも満たない額です。このさらに一部、香港向けと中国向けの金額は4000~5000億円前後に過ぎません。

むしろ香港自身に影響が…?

むしろ今回の輸入規制が断行された場合、香港に生じる影響も無視できないでしょう。

時事通信によると、「2022年の日本から香港への農林水産物・食品の輸出額は2086億円」とあり、先ほどの財務省のデータとは微妙に一致しませんが(※集計範囲が異なるため)、これについてこんなことが記載されています。

香港では日本食品が広く普及しており、水産物が一部でも禁輸となれば、飲食店や小売店が大きな影響を受けるのは必至だ」。

影響を受けるのが日本の側なのか、香港の側なのかについて、ちゃんと分けて記してほしいところではあります。

ただ、もし香港政府が本気で「日本の放射性物質汚染」を気にするのならば、香港市民の日本旅行を禁止する措置を講じるのが自然です。東京を筆頭に、日本国内で提供されているありとあらゆる食材は、香港基準でいうところの「汚染物質」の影響を受けているはずだからです。

というよりも、東シナ海で取れる海の幸は、中国の原発から放出される、一説には福島第一原発の数倍という「汚染水」に晒されているはずですので同じ基準に照らすならば、香港政庁は香港近海で採れる海産物の使用を禁止すべきでしょう。

いずれにせよ、香港も返還から25年以上が経過するなかで、結局は中国の一部と化しているのは非常に残念と言わざるを得ないでしょう。

本文は以上です。

読者コメント欄はこのあとに続きます。当ウェブサイトは読者コメントも読みごたえがありますので、ぜひ、ご一読ください。なお、現在、「ランキング」に参加しています。「知的好奇心を刺激される記事だ」と思った方はランキングバナーをクリックしてください。

にほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ

このエントリーをはてなブックマークに追加    

読者コメント一覧

  1. ken より:

    農水産物が、全輸出額の2%未満と言うことですが、ぜひ重要視してほしいものです。1次産業に従事するものは、ただ所得を得ているだけでは無く、その地域の土地を守り、いざという時の戦略物資の食料を生み出す者達です。現在の韓国の水産物輸入規制では、水産業者が厳しい現実に立たされています。

  2. 引っ掛かったオタク より:

    科学的根拠に基づかない禁輸措置、中共の意図が不明朗っすなァ
    単なる”嫌がらせ”だけとは考えにくいし、「素部装輸出規制」へのカウンターにしては随分遠廻りな印象
    いずれにせよ中共の施政権が及ぶ地域への渡航注意喚起は明確にやっとくべきでしょーなァ
    害務省と宏池会には…期待できないか

    1. 団塊 より:

      >「素部装輸出規制」へのカウンターにしては随分遠廻りな印象

       こういう嫌がらせをやるようになると良いのですが、日本の政府も。

  3. ムッシュ林 より:

    アルプス処理水を海洋放出した場合の禁輸対象は10都道府県になってますが、なぜか海のない埼玉、群馬、長野も対象になっているのが謎だったりします。アルプス処理水は海のない県は関係ないはずですが…。あと、日本海側の新潟も対象になっていいて、ツッコミどころ満載です。

    1. 団塊 より:

      >なぜか海のない埼玉、群馬、長野も対象になっている…

       日本だけだからじゃありませんか、海に面した所にだけ原子力発電所を建造しているのが。

       ほかには日本同様の島国イギリスもおそらく海沿いだけでしょうけどね。

※【重要】ご注意:他サイトの文章の転載は可能な限りお控えください。

やむを得ず他サイトの文章を引用する場合、引用率(引用する文字数の元サイトの文字数に対する比率)は10%以下にしてください。著作権侵害コメントにつきましては、発見次第、削除します。

※現在、ロシア語、中国語、韓国語などによる、ウィルスサイト・ポルノサイトなどへの誘導目的のスパムコメントが激増しており、その関係で、通常の読者コメントも誤って「スパム」に判定される事例が増えています。そのようなコメントは後刻、極力手作業で修正しています。コメントを入力後、反映されない場合でも、少し待ち頂けると幸いです。

※【重要】ご注意:人格攻撃等に関するコメントは禁止です。

当ウェブサイトのポリシーのページなどに再三示していますが、基本的に第三者の人格等を攻撃するようなコメントについては書き込まないでください。今後は警告なしに削除します。なお、コメントにつきましては、これらの注意点を踏まえたうえで、ご自由になさってください。また、コメントにあたって、メールアドレス、URLの入力は必要ありません(メールアドレスは開示されません)。ブログ、ツイッターアカウントなどをお持ちの方は、該当するURLを記載するなど、宣伝にもご活用ください。なお、原則として頂いたコメントには個別に返信いたしませんが、必ず目を通しておりますし、本文で取り上げることもございます。是非、お気軽なコメントを賜りますと幸いです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

【おしらせ】人生で10冊目の出版をしました

自称元徴用工問題、自称元慰安婦問題、火器管制レーダー照射、天皇陛下侮辱、旭日旗侮辱…。韓国によるわが国に対する不法行為は留まるところを知りませんが、こうしたなか、「韓国の不法行為に基づく責任を、法的・経済的・政治的に追及する手段」を真面目に考察してみました。類書のない議論をお楽しみください。

【おしらせ】人生で9冊目の出版をしました

日本経済の姿について、客観的な数字で読んでみました。結論からいえば、日本は財政危機の状況にはありません。むしろ日本が必要としているのは大幅な減税と財政出動、そして国債の大幅な増発です。日本経済復活を考えるうえでの議論のたたき台として、ぜひとも本書をご活用賜りますと幸いです。
関連記事・スポンサーリンク・広告