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数字で読む「衆院選・自民過半数割れはあり得るのか」

果たして、自民党は次回衆院選で大敗を喫するのか――。その精緻な予測を出すことは現時点では困難ではありますが、前回の選挙結果やいくつかの報道で見る限り、その可能性はあまり高くなさそうです。ただ、なぜそんなことを述べるのかといえば、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』が14日夜、今選挙をすれば自民党が過半数割れを発生させる、といった趣旨の記事を配信しているからです。これについて、これまでの当ウェブサイトにおける「数字を使ったシミュレーション」も交えつつ、検討してみましょう。

解散総選挙の可能性

初めに:おことわり

あらかじめお断りしておきますが、本稿はウェブ主自身の岸田首相に対する感情などを可能な限り排除したうえで、あくまでも「数字」と「理論」を組み合わせることで、次回選挙の動向を読むことを目的としています。

本稿を読んで、「岸田(首相)が選挙に勝つという予測をするのはけしからん!」などと思われる方も、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。

しかし、この手の分析を実施する際には、やはり可能な限り、「数字」を使いながら考察をすることが避けられず、結果的に「自民党過半数割れ・岸田首相の引責辞任」の可能性は高くない、という予測が出てきてしまうのです。

解散総選挙は16日!?…岸田首相自身の正確な発言

それはともかくとして、本論に入っていきましょう。

永田町界隈では解散総選挙が意識され始めているようです。一部メディアは、「野党が内閣不信任案を出せば岸田文雄首相は解散で対抗する」、などとする趣旨の記事を相次いで配信しているからです。その際の判断基準は、16日だといいます。

岸田首相が衆院解散を決断するきっかけは、野党が16日にも提出する可能性がある不信任決議案なのか、それとも単純に、今国会の会期末である21日を前に、天皇陛下がインドネシアにご訪問される都合上、その直前の16日を衆院解散の期日に選ばざるを得ないという技術的なものかは、よくわかりません。

ただ、いくつかのメディアの報道では、この「16日」がひとつの分水嶺とされているようです。

といっても、ここは少し冷静になっておく必要があります。昨日の『岸田首相、不信任案なら即日解散「表明検討」=FNN』でも触れたとおり、岸田首相本人は、「6月中に衆院を解散する」とは、ヒトコトも述べていないからです。

やはり解散総選挙はあるのか、その場合は16日なのか――。いくつかのメディアがこれについて報じているようですが、本稿ではFNNが「独自」と銘打って報じた内容に注目してみたいと思います。これによると野党が内閣不信任案を出してきた場合、岸田首相がその日のうちに「解散を表明することを検討」していることがわかった、というのです。じつにもったいぶった言い方ではあります。また、その具体的な日付については16日が想定されているというのですが、はて?解散総選挙と岸田首相はたして、「解散総選挙」はあるのか――。これに関...
岸田首相、不信任案なら即日解散「表明検討」=FNN - 新宿会計士の政治経済評論

首相官邸ウェブサイトに掲載されている岸田首相の13日付の記者会見録によれば、テレビ東京・官邸キャップの篠原裕明氏が「野党の不信任案が解散の大義となり得るかどうか」、「今国会で衆院解散の考えがあるか」を「単刀直入に」尋ねたところ、岸田首相はこう答えたのです(原文をそのまま転載します)。

まず、岸田政権は外交・内政の両面において、これまで先送りされてきた困難な課題の一つ一つに答えを出していくことが使命だと覚悟して、政権運営をしてきました。御質問の解散・総選挙についても、基本姿勢に照らしていつが適切なのか、諸般の情勢を総合して判断していく、こうした考え方にあります。そして、こうした基本姿勢に照らして判断していくわけですが、今の通常国会、会期末間近になっていろいろな動きがあることが見込まれます。よって、情勢をよく見極めたいと考えております。そして、現時点ではそれ以上のことについてお答えすることは控えたいと考えます」。

どうとでも取れる発言です。

ですが、この発言をもって、「岸田(首相)は不誠実だ!」、などと怒るべきではありません。衆院解散の大権を持つ首相という立場にいる以上、発言は慎重であるべきであり、ここでうっかり「解散します」とも「解散しません」とも述べるべきではないからです。

ただ、この「いまの通常国家」で「会期末になっていろいろな動きがある」こと「見込まれる」、というくだりに関しては、この「いろいろなこと」のなかに、やはり「野党が内閣不信任案を提出すること」が含まれているであろうことは間違いないでしょう。

第7条解散と第69条解散

もっとも、解散総選挙の有無に関する記事についたコメントを含め、インターネット上の一般人の反応を眺めていると、「大義がないのに解散とはけしからん」、といった反応も見受けられるのですが、そもそも憲法上、「大義がなければ解散してはならない」とはどこにも書かれていません。

そもそも衆院解散について定めた条文は、日本国憲法には2箇所出てきます。

ひとつが「天皇の国事行為」について定めた憲法第7条で、同条第3号に定める国事行為が衆議院解散であり、かつ、「天皇による衆院解散」は「内閣と助言と承認により」行われるものである(同条柱書)ですが、ここに「解散に大義がなければならない」とは書かれていません。

日本国憲法第7条

天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

<略>三 衆議院を解散すること。<略>

その一方で、憲法には不信任決議案に対する対抗措置としての解散(第69条)が設けられていますが、これはあくまでも内閣不信任案が可決(または信任決議案が否決された)場合に発動することができるという条文です。

日本国憲法第69条

内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

「憲法学者」(?)らの間では、「内閣不信任案が提出されていないにもかかわらず、首相が衆院解散して良いかどうか」については、議論はあるようです。

しかし、第7条で「内閣の助言と承認に基づく天皇の国事行為」が定められている以上、少なくとも「条文解釈の実務家」という立場からは、「首相(または内閣)はいつでも衆院を解散することができる」と解するのが妥当でしょう。

実際のデータを確認する

データで見る過去の選挙①衆院比例代表

それはともかく、解散したら解散したで、気になるのは現実の「数値」です。

もしも自民党が思いのほか票を失い、大敗を喫した場合は、岸田首相が引責辞任する、というシナリオはあり得るでしょう。

また、現在のところ、最大野党は立憲民主党ですが、その立憲民主党は民間メディアが実施する政党支持率で日本維新の会に抜かれることも増えてきており、ネット上では「立憲民主党が最大野党の地位を失うこともあり得る」、などとささやかれることもあります。

ただ、当ウェブサイトでは『衆院選で「維新勝ち過ぎ」なら岸田内閣崩壊もあり得る』や『衆院選「維新勝ちすぎシナリオ」をより精緻に検証する』などで述べたとおり、それらの可能性はあまり高くなさそうです。やはり衆院選では、小選挙区での獲得議席がものをいうからです。

これについては現実のデータで確認しておく必要があります。

現在のところ、衆議院は全465議席のうち289議席が全国に散らばる小選挙区で争われ、残り176議席が比例代表で、いわゆる「ドント式」により各政党に配分されます。

このうち比例代表については結果的に各政党の得票率と獲得議席の割合が大きくズレたりしないため、獲得票数に応じ、ある程度は平等に配分される方式であるとされます。これについては実際の得票(率)と獲得議席(率)を比較しておくとよくわかります。

2021年実績データ:比例代表における得票(率)と議席(率)
  • 自民…19,914,883票(34.66%)→72議席(40.91%)
  • 立民…11,492,095票(20.00%)→39議席(22.16%)
  • 維新…*8,050,830票(14.01%)→25議席(14.20%)
  • 公明…*7,114,282票(12.38%)→23議席(13.07%)
  • 共産…*4,166,076票(*7.25%)→*9議席(*5.11%)
  • 国民…*2,593,396票(*4.51%)→*5議席(*2.84%)
  • れ新…*2,215,648票(*3.86%)→*3議席(*1.70%)

(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』データを加工)

2021年の総選挙だと、たとえば自民党は34.66%の得票に対し、全体の40.91%の議席を確保しています。また、議席が得られなかった「泡沫政党」や得票率が低い政党(たとえば日本共産党、国民民主党、れいわ新選組)などを除けば、どの政党も得票率と獲得議席率にさほど大きな乖離はありません。

したがって、「自民党1強の一方、野党のなかでも維新、立民の逆転が生じている」などとする各種世論調査を信じるならば、次回衆院選でも比例代表では自民党が「比例第1党」となる一方、「比例第2党」と「比例第3党」の逆転は生じるかもしれません。

単純に、投票率が前回とまったく同じで、比例代表での得票率も立民、維新の両党を入れ替え、その他の主要条件が同じだったと仮定すれば、立憲民主党は前回の39議席から25議席に14議席減らし、日本維新の会派前回の25議席から39議席へと14議席も躍進します。

つまり、比例代表「だけ」で見たら、維新、立民の逆転が生じる可能性は大変に濃厚なのです。

データで見る過去の選挙②衆院小選挙区

ところが、これが小選挙区だと、様子がまったく異なります。くどいようですが、小選挙区は「ウイナー・テイクス・オール」の原則が働き、第1党が議席の圧倒的多数をかっさらってしまうからです。

2021年実績データ:小選挙区における得票(率)と議席(率)
  • 自民…27,626,235票(48.08%)→187議席(64.71%)
  • 立民…17,215,621票(29.96%)→*57議席(19.72%)
  • 維新…*4,802,793票(*8.36%)→*16議席(*5.54%)
  • 公明…**872,931票(*1.52%)→**9議席(*3.11%)
  • 共産…*2,639,631票(*4.59%)→**1議席(*0.35%)
  • 国民…*1,246,812票(*2.17%)→**6議席(*2.08%)
  • 社民…**313,193票(*0.55%)→**1議席(*0.35%)
  • 無所…*2,269,168票(*3.95%)→*12議席(*4.15%)

(【出所】総務省『衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報結果』データを加工)

これによると自民党は小選挙区で50%近い得票率を誇っていますが、それで全体の3分の2近い187議席をかっさらっており、これにたいし得票率でたった18%ポイント少々の差しかついていない立憲民主党が獲得した議席は、全体の20%に満たない、たったの57議席です。

また、日本維新の会は得票率では全体の8.36%でしたが、獲得したのは16議席で、これは全体の5.54%と、やはり得票率と議席率の間に大きな差が生じています。全体の1.5%しか票を得ていないのに3.11%に相当する9議席を得ている公明党は例外でしょう。

逆に言えば、小選挙区ではそれだけ死票が多い、ということであり、また、公認候補者を立てた選挙区では「1位」にならなければ、自党に投じられた票が死票になってしまう、ということでもあります。

データで見る過去の選挙③参院通常選挙

ちなみに参議院議員通常選挙の場合でも、この「小選挙区効果」はてきめんに出ています。参議院の場合、全国47都道府県のうち、「1人区」という事実上の小選挙区が32あり、中選挙区は残り15選挙区に過ぎないためか、結果的に衆院小選挙区と大差ない「死票」が出てしまっているのです。

2022年実績データ:選挙区における得票(率)と議席(率)
  • 自民…20,603,298票(38.74%)→45議席(60.81%)
  • 立民…*8,154,330票(15.33%)→*9議席(12.16%)
  • 維新…*5,533,657票(10.41%)→*4議席(*5.41%)
  • 公明…*3,600,490票(*6.77%)→*7議席(*9.46%)
  • 国民…*2,038,655票(*3.83%)→*2議席(*2.70%)
  • 共産…*3,636,534票(*6.84%)→*1議席(*1.35%)
  • れ新…**989,716票(*1.86%)→*1議席(*1.35%)

(【出所】総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』データを加工)

これに対し、参議院の比例代表は、衆議院以上に、得票数と獲得議席数が綺麗にリンクしていることがわかります(ちなみに2022年の参院比例では、すでに維新と立憲の獲得議席の逆転が生じています)。

2022年実績データ:比例代表における得票(率)と議席(率)
  • 自民…18,256,245票(34.43%)→18議席(36.00%)
  • 維新…*7,845,995票(14.80%)→*8議席(16.00%)
  • 立民…*6,771,945票(12.77%)→*7議席(14.00%)
  • 公明…*6,181,432票(11.66%)→*6議席(12.00%)
  • 国民…*3,159,626票(*5.96%)→*3議席(*6.00%)
  • 共産…*3,618,343票(*6.82%)→*3議席(*6.00%)
  • れ新…*2,319,156票(*4.37%)→*2議席(*4.00%)
  • 社民…*1,258,502票(*2.37%)→*1議席(*2.00%)
  • N党…*1,253,872票(*2.36%)→*1議席(*2.00%)

(【出所】総務省『参議院議員通常選挙 速報結果』データを加工)

衆議院の比例代表は全国をいくつかのブロックに分け、ブロック単位でドント方式を適用しているのに対し、参議院の比例代表は「非拘束名簿方式」で選挙区が設けられていない(=事実上の大選挙区のような状態になっている)などの影響もあるのかもしれません。

すなわち、衆参両院の過去選挙データを眺めるだけでも、比例代表と(小)選挙区の違いは明らかでしょう。

2022年の参院選では、すでに日本維新の会が比例代表で立憲民主党を(たった1議席ですが)上回っており、勢いに乗る同党が今後行われるであろう衆院選でも、比例代表で立憲民主党の獲得議席数を上回るという展開は、十分に考えられます。

この小選挙区制度が気に喰わないと思う人は多いようであり、なかには「死票があまりに多すぎるから、選挙制度を歪めている」、「有権者から結果として選択を奪っている」、「中選挙区に戻すべきだ」、といった主張も目にします。

ただ、先ほどの「解散の大義」云々の議論と同じで、そうした「あるべき論」を述べていても仕方がありません。現実の選挙制度がそうなっている以上、各候補者はその選挙制度のルール内で戦う必要があり、我々有権者もその選挙制度内で投票する必要があるからです。

肝心の維新の候補者擁立が間に合っていない

では、現実問題として、自民党や立憲民主党といった既存政党が議席を大きく減らす可能性があるものでしょうか。

結論からいえば、「①自民党が過半数割れ」、「②立憲民主党が最大野党の地位を喪失」、といった事態が生じる可能性はあります。昨日の『選挙でカギを握る自民・立民「99人のボーダー議員」』でも指摘したとおり、小選挙区での「ボーダーラインぎりぎり」の議員は、自民党と立憲民主党に集中しているからです。

岸田文雄首相は結局、昨日の記者会見では解散総選挙を明言しなかったようです。ただ、それでも現時点における情勢に照らすと、早期解散総選挙の可能性は決して低くありません。なぜなら、そうすることが自民党にとって、非常に合理的な選択肢だからです。これについて、ここ数日、当ウェブサイトで繰り返してきた選挙情勢分析に関連し、本稿ではまた少し違った視点で、「カギとなる自民党・立憲民主党の99人のボーダー議員」について検討してみたいと思います。比例代表の票読みは大変に簡単昨日の『総選挙のもうひとつの注目点は「共...
選挙でカギを握る自民・立民「99人のボーダー議員」 - 新宿会計士の政治経済評論

ですが、その反面、①と②が同時に生じる可能性は高くありません。なぜなら、①自民党が議席を大きく減らすときには、減った議席は立憲民主党に行くからであり、逆に②立憲民主党が議席を減らすときは、減った議席は自民党に行くからです。

この点、とくに自民、立民ともに議席を減らした場合、議席の行き先として可能性が高いのは日本維新の会です。しかし、そもそも早期解散だと、日本維新の会にとって、肝心の候補者自体、擁立が間に合わないでしょう。

ここで参考になるのが、同党の次回総選挙に向けた準備状況です。共同通信によると、日本維新の会の馬場伸幸代表は9日、次期衆院選に向けた小選挙区の候補者について、「当面」、「120~130人程度のめどがついた」、などと述べたそうです。

維新、衆院選へ候補者擁立を加速

―――2023年6月9日19:10付 ロイターより【共同通信配信】

120~130人といえば、289選挙区のうちのざっと42~45%程度であり、逆にいえば半数以上の選挙区で、同党は候補者を擁立できていない、ということです。

もちろん、もしも日本維新の会に対する「順風」が吹き続き、かつ、同党が全国各地のでできるだけ多くの小選挙区で候補者を立てることに成功し、かつ、それらの小選挙区での有権者に対する浸透に成功する、といった条件を満たせば、日本維新の会が大きく躍進を遂げることもできるでしょう。

ただ、当面は最大野党を、そしてゆくゆくは政権与党を狙うという目標自体も結構ですが、その前に、そもそも十分な候補者を立てられていない時点で、今回は準備不足です。

もちろん、比例代表で「大躍進する」という可能性はないわけではないのですが、そもそも比例代表に配分された議席数が465議席中176議席に過ぎないことから、いくら比例で大躍進したところで、獲得議席には限界があります。

「党名ロンダリング」なら、あるいは…

ちなみに共同通信の記事によると、馬場氏は野党第1党の獲得議席を巡り、「3桁は難しいだろう」、「立憲民主党と維新でかなり競ることになるのではないか」などとも述べたそうですが、このあたりが現実的な線、といったところでしょう。

参考までに日本維新の会が前回、小選挙区に立てた候補者数は94人であり、これは自民党(277人)、立憲民主党(214人)どころか、日本共産党(105人)をも下回っています。

日本維新の会にとっての「ウルトラC」があるとすれば、立憲民主党から議員の大量移籍を狙う、というものがあるかもしれませんが、それに手を出してしまうと、まさに「党名ロンダリング」に日本維新の会が手を貸してしまうことにつながります。

このように考えていくと、やはり今回の選挙における候補者は、前回・2021年の小選挙区、比例代表の数値と大きく変わらないと見るべきであり、あとは自民党宇や立憲民主党といった既存政党がどれだけ議席を増やすか(または減らすか)、という議論です。

自民敗北シナリオの実現可能性

現代ビジネス「自民単独過半数割れの衝撃」

こうしたなかで、ウェブ評論サイト『現代ビジネス』が14日、やや理解に苦しむ記事を配信していました。

【独自】自民党の情勢調査、衝撃の数字 自民42議席減で単独過半数割れ、維新が34増、立憲は17増…これで解散はできるのか

―――2023/06/14 19:33付 Yahoo!ニュースより【現代ビジネス配信】

同記事によると、先週末、解散総選挙に備えて自民党が全国的に実施した情勢調査の結果、次の通り、自民党が議席を大きく減らすという予想が出てきたのだそうです。それが次の通りです。

  • 自民…220議席(▲42)
  • 公明…*23議席(▲*9)
  • 立民…114議席(+17)
  • 維新…*75議席(+34)
  • 共産…*13議席(+*3)
  • 国民…**9議席(▲*1)
  • れ新…**6議席(+*3)
  • 参政…**1議席(+*1)
  • その他…9議席

…。

正直、これまで「数字に基づくシミュレーション」こを繰り返してきた身としては、「ずいぶんと唐突な予測だな」、という印象を持ちます。なぜなら、当ウェブサイトで何度か検証してきた過去データに基づく数値の傾向とは逸脱しているようにも見受けられるからです。

というよりも、このシナリオは精緻な予測に基づくものではなく、自民党がいつも出す、「現場を引き締めるための厳しい数字」という可能性の方が高い気がします。

敢えてこの予想が正しいものと仮定すると…?

もちろん、「自民党が42議席減らす」という予想自体は、突拍子もないものではありません。『選挙でカギを握る自民・立民「99人のボーダー議員」』でも指摘した、「2位との得票差が2万票以下というボーダー議員が自民党に58人いる」、という事実とは、さほど乖離しているわけではありません。

そこで、敢えてこの予想が正しいものと仮定するならば、このシナリオ自体は「自民敗北→維新躍進」というシナリオを置いたものであると考えられます。

また、この場合、「なぜ逆風が吹いているはずの立憲民主党が17議席も増えるのか?」と不満をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、これは「維新タナボタ効果」によるもので説明がつきます。

この「維新タナボタ効果」とは、たとえば「1位自民・2位立民・3位維新」という選挙区で、第1位の自民候補から第3位の維新候補に票が流れることで、自民党候補が2位以下に転落し、結果的に立憲民主党の候補者が1位に押し出される現象をさします。

逆に「自民圧勝シナリオ」もあり得る

ただし、『現代ビジネス』が報じたこの予測が「突拍子もないものとはいえない」のと同様、逆の予測もやはりあり得ます。それが「立民敗北→維新躍進」というシナリオです。

このシナリオを想定した場合は、日本維新の会も議席数は多少増えるものの、立憲民主党が転落することで、自民党がむしろ現有議席を増やすという現象が生じ得ます。たとえば立憲民主党が一律2万票を失えば、12議席を失い、日本維新の会が3議席、自民党が9議席を獲得するのです。

これについては先日の『数字で見る衆院選「希望の党が躍進できなかった理由」』でも引用した、こんな図表を再掲しておきましょう(図表)。

図表 2021年衆院選・小選挙区における得票数移動と各政党の獲得議席一覧
ケース X=5,000票 X=20,000票
ケース①自→立 自187→155(▲32議席)
立*57→*88(+31議席)
維*16→*17(+*1議席)
自187→102(▲85議席)
立*57→143(+86議席)
維*16→*15(▲*1議席)
ケース②自→維 自187→181(▲*6議席)
立*57→*61(+*4議席)
維*16→*18(+*2議席)
自187→163(▲24議席)
立*57→*71(+14議席)
維*16→*26(+10議席)
ケース③立→維 自187→190(+*3議席)
立*57→*53(▲*4議席)
維*16→*17(+*1議席)
自187→196(+*9議席)
立*57→*45(▲12議席)
維*16→*19(+*3議席)
ケース④立→自 自187→213(+26議席)
立*57→*31(▲26議席)
維*16→*15(▲*1議席)
自187→242(+55議席)
立*57→**5(▲52議席)
維*16→*14(▲*2議席)
ケース⑤維→自 自187→192(+*5議席)
立*57→*53(▲*4議席)
維*16→*15(▲*1議席)
自187→210(+23議席)
立*57→*45(▲12議席)
維*16→**6(▲10議席)
ケース⑥維→立 自187→184(▲*3議席)
立*57→*61(+*4議席)
維*16→*15(▲*1議席)
自187→173(▲14議席)
立*57→*75(+18議席)
維*16→*13(▲*3議席)

(【出所】著者作成)

このほかにも、過去データの分析としては、当ウェブサイトでは『衆院選「維新勝ちすぎシナリオ」をより精緻に検証する』などのように、もう少し精緻なシミュレーションも実施しているのですが、やはり現状で考えてみて、小選挙区で候補者擁立が間に合っていない日本維新の会がそこまで躍進するシナリオは見えてきません。

当ウェブサイトでは今朝、「かなり可能性は低いが、仮に衆院選で維新が勝ちすぎるならば、岸田文雄内閣自体が崩壊してしまう可能性はあり得る」、と述べました。ただ、これについては最大野党である立憲民主党の動向とも密接にかかわってきます。そこで、本稿では今朝の議論の続きとして、自民党だけでなく、立憲民主党と含めて日本維新の会に票が移った場合のシミュレーションについても加えておきたいと思います。今朝の『衆院選で「維新勝ち過ぎ」なら岸田内閣崩壊もあり得る』では、こんなシミュレーション結果をお示ししました。...
衆院選「維新勝ちすぎシナリオ」をより精緻に検証する - 新宿会計士の政治経済評論

あくまでも2021年の選挙戦の結果だけで見ると、現在、立憲民主党が最大野党の地位を失う可能性、自民党が単独過半数を失う可能性いずれも否定できるものではありませんが、やはり『現代ビジネス』が報じた予想値自体は現実から予測できるものとズレがあるように思えてならないのです。

ただ、一部ではやはり、例の「LGBT法案」などへの反発もあり、岩盤保守層が自民党から逃げ出す動きもみられるかもしれません。その意味では、やはり選挙は「水物」といえるのかもしれません。

新宿会計士:

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  • >ただ、一部ではやはり、例の「LGBT法案」などへの反発もあり、岩盤保守層が自民党から逃げ出す動きもみられるかもしれません。

    岩盤支持層を自民党支持層と安倍支持層に分けて、岸田政権の政策が自民党支持層、安倍支持層、無党派層の其々にどれだけ支持を集めれるかですね。

    無党派層にアピールするネタは子供手当の拡充でしょうが、財源が当初は特別国債で、数年後からは節約や基金創立などで捻出したお金でってなってたような。

    財源に目処がついていない以上、「どうせ増税でしょ?」って疑いがつきまとい、結果、無党派層からの支持は「馬人参」な人が中心となりそうですね。

    岸田文雄は再選するまで独自色を出さないという選択肢を何故取らなかったんですかねぇ…。

  • 私個人としては韓国の自称徴用工問題や通貨スワップなどの対応、LGBT法案なで自民党には完全に嫌気がさしてしまったので、百田新党ができたらそちらに投票したいと思っています。N国党でさえ議席が取れたのですから百田新党ならほぼ確実に議席が取れるでしょう。

  • 現代ビジネスの選挙結果予想を、ハナっから否定する気は無いですが、「かなり突拍子の無い数字の独り歩き」のように思います。一言で言うと「大勢、どうなるんだ?国民の審判は?」というところが、支離滅裂な気がします。いや、マスコミの発表ですから、センセーショナルな方が見栄えが良く、取っ付きやすいという判断かも知れませんが。

    そもそも、与党大敗過半数割れ(はあり得るかも知れないが)、そこに日本維新の会34増はまず妥当、でも国民が1減とは?更に立憲17増、なんと共産、れいわ新撰が3増、コレは今の「風」を読み間違い、いや誤誘導では無いでしょうか。日本人の性格として、そんなにドラスチックな変化は好まないと思います。

    • 現代ビジネスの予想ではなく、記事中にあるように選挙を戦う当事者の自民党が自前で調査した結果をリークしたものですよ。

  • ついに日韓通貨スワップ復活へというニュースが出てしまいました。最悪です。代償に日本は韓国から何を得たのでしょうか。また一方的譲歩。低空威嚇飛行に日本の謝罪がないなどと国防大臣が発言したばかりなのに。
    岸田の徴用工ディールの裏にはこれも含まれてたのでしょうね。
    岸田は大嫌いなので自民には入れたくないけど、他の選択肢があまりないんですよね。外交は選挙の争点にはあまりならないので、自民勝利で終わりそう。

      • 何か言うとき(書くとき)は、その根拠も書きなさいよ。
        学校でそう習わなかった?
        日本の小中学校出ている?

  • 私見ですが、
    ①小選挙区では個人の魅力で勝負。
    ここは実績が効くから自民に影響少。
    ②比例区では半分くらい流出。
    これまでは野党がアホすぎるから圧勝してきただけなので、自民を支持してる人は少ないような。

    声の大きい人に向けてだけ揉み手で愛想を振りまくのではなくて、黙ってるけどイヤだなーと思ってる人も含めて落とし処を提案すれば、勝手に比例票が流れ込んでくると思いますので、維新や国民に注目でしょうかね。

  • 年金問題で政権失うとは思ってなかっただろう。

    次の地雷はなにか?

    日韓スワップ締結なら自民党には入れない。

    • 確かに、岸田政権、国民の神経逆撫で路線爆進中ですなあ。
      どこが、聞く力かな?
      大体において、意味不明な事言うのは、中身が無い、無神経、他人の事が考えられない。
      元々、他人の意見を聞いている人間は、わざわざ、聞く力なんて言わない。
      本当に、今のやり方見ていると、他人の意見を聞くなんてレベルじゃ無くて、自分でも何をやっているか分かっていないんじゃないか?
      自民党で、総理にしてはいけない人間の一人であった事は間違いない。

  • 国益になる筈無い韓国との交流を推し進めようとする自民党の醜態に、嫌気がさした。 自民には投票しない。

  • 今の自民党は支持されておらず足元が抜けています。
    投票は選挙民の唯一の意思表示手段。
    比例の投票先は自民党でないところへ。誰もがそう考え始めているのではないでしょうか。

  • 社会保障はガッツリ削りつつ、韓国への巨額スワップ再開という自民食堂岸田店長には付いていけないなあと。
    逆に勝ち過ぎない範囲でなら他のお店に入れようと思います。

  • 近年では、かつての民主党政権を除けば、岸田首相ほど国民を愚弄し、馬鹿にした政権担当責任者はいたでしょうか。自民党の存在価値そのものを大きく棄損した人物といえるでしょう。加えて、木原、茂木等、岸田首相を取り巻く政権幹部、自民党幹部のネガティブな存在もあり。
    LGBT法案, 韓国への無原則譲歩(レーザー照射問題、自称元徴用工問題、旧ホワイト国への復帰、挙句の果てに、巨額スワップ協定)、国民負担率の一層の増加を隠す姿勢、PBバランスの嘘を今更のように説く財務省一辺倒の政策、そして究極の自己中、自己の地位保全(=私的利益)最優先型の姑息なタイプ。恰好ばかりつけようとする幼稚な心的構造。
    日本が様々な意味でこれから勝負の局面に入っていくなかで、かような御仁に国益に最大限沿った意思決定など望むべくもなし。残念ながら常に政権維持=自己の地位保全が国益に優先している。
    従い、家族は勿論、友人関係他に今回の投票先は非自民の中でまずはもっともまともな政党(つまり、立憲、共産、社民、れいわ新選以外の党)に投票する事を呼び掛けていくつもりです。従来の延長線上でなんとかうまく回していくというのは最早無理。

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