岸田首相が本日の会見で解散総選挙に言及するのかどうかが注目される点ですが、それと同時に日本維新の会の候補者擁立が間に合っていないなどの事情もあり、よっぽどのことがない限り自民党が大敗する可能性は高くないというのが現時点における選挙分析といえます。ただ、その一方でもうひとつ注目要素があるとすれば、日本共産党の動向ではないでしょうか。
岸田首相は解散総選挙に踏み切るのか
事前の報道によると、岸田文雄首相は本日・13日夕方、記者会見に臨むそうです。
いちおう、表向きの目的は「少子化対策の説明」だそうですが、一部では「6月解散・7月の総選挙」の意向を表明するのではないか、といった観測も見られます。
このあたり、ネット上では、岩盤保守層とみられる人たちを中心に、岸田文雄政権によるいくつかの政策(たとえば増税方針や対韓外交など)に加え、現在、自民党を中心に進められている、いわゆる「LGBT」に関する議員立法への強い不満を表明する人が増えています。
ただ、それと同時に当ウェブサイトにおけるいくつかのシミュレーションに基づけば、「よっぽどのことがない限り」、自民党が次回総選挙で議席を大きく失う可能性は高くありません。
自民党が一律2万票失えば…?
では、その「よっぽどのこと」とは、いったいどんな事態が考えられるでしょうか。
たとえば、「自民党が全国すべての小選挙区で、一律で2万票を失い、第2位の候補者にその2万票が動いた」などのシナリオを置くと、自民党は大敗することになります。
2021年の衆院選では、自民党は全国289の小選挙区のうち、276選挙区で候補者を立て、187議席を獲得しました。比例代表の72議席と合わせて259議席です(※なお、自民党は無所属で立候補して当選した2人を追加公認しているため、事実上、獲得議席は261議席です)。
こうしたなか、自民党候補者が当選した187選挙区で、自民党候補者が一律に2万票を失い、2位の候補者(その多くは立憲民主党ですが、日本共産党や日本維新の会などの候補もいます)が2万票を得たとした場合、自民党は102の小選挙区で議席を失います。
この場合、比例代表の獲得議席数が全く変わらなかったと仮定した場合でも、自民党の獲得議席数は157議席(小選挙区85議席+比例代表72議席)で、立憲民主党の178議席(小選挙区139議席+比例代表39議席)を下回ってしまい、自民党政権が終わってしまうかもしれません。
全国一律小選挙区で自民党が2万票を失い、2位の候補に流れた場合の議席の変化
- 自民:259→157(▲102)
- 立民:*96→178(+*82)
- 公明:*32→*32(±**0)
- 維新:*41→*50(+**9)
- 国民:*11→*16(+**5)
- 共産:*10→*13(+**3)
- れ新:**3→**3(±**0)
- 社民:**1→**1(±**0)
- 無所:*12→*15(+**3)
- 合計:465→465(±**0)
(【出所】2021年総選挙データをもとに著者作成)
一律2万票失う可能性は高くないし、維新の大躍進も難しい
ただ、現時点において「自民党が一律、すべての選挙区で2万票を失い、その分がすべて第2位の候補に移転する」というシナリオ自体、かなり非現実的です。「2万票」の行き先の多くは最大野党である立憲民主党ですが、その立憲民主党が自民党から一律2万票を奪うような状況にはないからです。
敢えて「自民党から一律2万票を奪う」可能性がある政党があるとしたら、日本維新の会や国民民主党くらいかもしれませんが、その場合であっても自民党から奪えるのは、日本維新の会だと9議席が関の山であり、国民民主党に至ってはたった5議席です。
要するに、とくに日本維新の会については、ある程度議席を伸ばす可能性は高いとはいえ、今この瞬間に解散総選挙がなされてしまった場合、候補者擁立が間に合わないがために、選挙では勝てないのです。
それどころか、日本維新の会が立憲民主党から2万票ほどの票を奪った場合、いくつかの選挙区では立民、維新双方の候補者が「共倒れ」となるため、結果的に自民党が漁夫の利を得る格好で議席を増やしてしまいます。
ちなみに立憲民主党から2万票が失われ、2位の候補者にそれが移転した場合は、自民党は310議席を獲得して圧勝します。
全国一律小選挙区で立憲民主党が2万票を失い、2位の候補に流れた場合の議席の変化
- 自民:259→310(+*51)
- 立民:*96→*43(▲*53)
- 公明:*32→*32(±**0)
- 維新:*41→*41(±**0)
- 国民:*11→*11(±**0)
- 共産:*10→*10(±**0)
- れ新:**3→**3(±**0)
- 社民:**1→**1(±**0)
- 無所:*12→*14(+**2)
- 合計:465→465(±**0)
(【出所】2021年総選挙データをもとに著者作成)
また、『維新躍進?それでも岸田首相にとって今こそ解散の好機』などでも触れたとおり、立憲民主党が2万票を失い、それが自民党ではなく日本維新の会に流れた場合にも、少なくない「維新タナボタ効果」が生じることで、やはり自民党は圧勝します。
維新躍進・立民惨敗なら棚ボタ的に自民の議席も増えてしまう岸田首相が13日に会見を実施するとの報道が出てきました。表向きは「異次元の少子化対策の説明」なのだそうですが、はて、本当にそうなのでしょうか?こうしたなか、6月解散・7月総選挙となった場合、選挙プランナーの松田馨氏は自民党も立憲民主党も数議席減らし、日本維新の会が1.5倍に議席を増やすとの予測を示していますが、この場合でも自民党政権、立憲民主党が最大野党、という構図はまだ変わりません。いま解散総選挙が行われた場合、日本維新の会の候補者擁立が間... 維新躍進?それでも岸田首相にとって今こそ解散の好機 - 新宿会計士の政治経済評論 |
このように考えていくと、自民党によっぽどの逆風でも吹かない限り、現時点で解散総選挙を行えば、自民党は議席を大きく減らさないばかりか、下手をすれば「維新タナボタ効果」で議席が増えてしまうのです。
こうした予想が的中し、もしも自民党が圧勝し、あるいは圧勝しないまでもそこそこの勝利を納めれば、岸田政権は事実上信任されたと受け止められるでしょう。
また、立憲民主党はそこそこ議席を減らすかもしれないものの、たとえば「立憲民主党からの離党ラッシュ」などの要因でもない限り、辛うじて最大野党の地位を維持する可能性が高いと考えられます。やはり、小選挙区は「地盤」がものをいうからです。
いくら最近の世論調査で立憲民主党の支持率が下がっているにせよ、比例代表で得票が減ったにしても、小選挙区では議席を維持する可能性が高いでしょう。
日本共産党の動向が興味深い
ただ、逆にいえば、前回の総選挙で「比例中心」で議席を獲得した政党は、それなりに比例票の減少に直面するかもしれません。その典型例が、日本共産党でしょう。
2005年以降で見て、日本共産党は比例代表でコンスタントに7%前後の得票率で10議席近くを獲得し続けており、2014年にはこれが一気に20議席に増えています(ただし2017年に11議席、2021年に9議席に減っています)。
日本共産党の比例代表における獲得状況
- 2005年…得票率*7.25%→*9議席(占有率*5.00%)
- 2009年…得票率*7.03%→*9議席(占有率*5.00%)
- 2012年…得票率*6.13%→*8議席(占有率*4.44%)
- 2014年…得票率11.37%→20議席(占有率11.11%)
- 2017年…得票率*7.90%→11議席(占有率*6.25%)
- 2021年…得票率*7.25%→*9議席(占有率*5.11%)
ただ、野党共闘が「視界不良」を迎えるなか、産経ニュースには12日付でこんな記事が出て来ています。
苦悩続く共産 赤旗部数減少、野党共闘視界不良
―――2023/6/12 19:40付 産経ニュースより
産経によると日本共産党は例の「除名問題」に加え、「党勢回復の起爆剤として期待する野党共闘の再構築」が視界不良であること、そしてなにより党の財政基盤を支えてきた機関紙の部数減少にも直面していることで、「苦悩が続いている」と指摘しています。
これについては、大変興味深い変化といえるかもしれません。
もしも日本共産党の比例代表での得票率が2012年並みの4%台にまで減少すれば、小選挙区と合わせた獲得議席数はトータルで10議席を割り込む可能性も出て来るからです。
一部では「立憲共産党」などと揶揄されるほど、立憲民主党と仲が良かった日本共産党ですが、立憲民主党と仲良く得票・議席を減らすのかどうかには注目する価値がありそうです。
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毎度、ばかばかしいお話しを。
岸田総理の対韓政策への不満で、自民党は比例票の2万票を失うはずだ。
この話は、2023年6月13日時点では笑い話である。
対韓政策で(私も大いに不満ですが)投票先を決めるような有権者はごく限られているでしょうね。大概は景気、経済の良しあしで決めるのでしょう。
株価がバブル期を上回る最高値を記録しましたし。
小選挙区の票より比例の票のほうが他党に流れやすいのでは?
「自民か共産しか選択肢がない」 みたいな選挙区では他党に流れようがない。
自民党の票は維新に流れると予想されます。
それから、立憲民主党に愛想をつかした人も維新に流れそうです。
なので、馬場さんは候補者確保に奔走しているのです。
維新は、大都市部と比例区での議席数の増加が期待されます。
東京及びその周辺地域の小選挙区での候補者擁立だけでなく、比例区も候補者不足で他党に議席が流れることもあり得ます。
数の確保に加えて質の確保のほうもよろしくお願いします。
共産党の面白い所は、地方議会で結構議員数を稼いでいる事です。
まあ、困った時の駆け込み寺のような事をやっているのです。イデオロギー関係無く。
他の政党もこういう所を真似しなくては。
共産党なんて、地方議会での影響力が無ければ、今存在していませんね。