例の芸能事務所における元経営者による未成年者による性的虐待疑惑には、オールドメディアによる「都合の悪いことを報じない」とする「報道しない自由」問題という側面もあります。ただ、芸能事務所の社長が本件で謝罪したことなどが海外でも大々的に報じられており、今後はスポンサーの問題にも発展しかねない状況です。こうしたなか、「あの政党」が今度はヒアリングを実施するのだそうです（誰に対して、でしょうか？）。

「報道しない自由」を謳歌するオールドメディア

「報道しない自由」という言葉があります。

これは、おもに日本の新聞、テレビを中心とするオールドメディアに見られる現象で、通常であればかなりのニューズ・バリューがあるはずの出来事を、お得意の「メディア・スクラム」を通じ、「なかったこと」にして葬り去ってしまうという悪しき慣習のことです。

その典型例としては、2009年８月12日、21世紀臨調が主催した麻生総理と鳩山・民主党代表の党首討論会を、ＮＨＫ、在京民放各局、主要全国紙・ブロック紙などが完全に無視し、「なかったこと」にしてしまったという事件が挙げられるでしょう。

詳しくは『立憲民主党の先祖返り、今度のポスターは「変えよう」』などでも取り上げたとおりですが、その結果、政権交代が発生したという意味では、まさに悪質な「メディア・クーデター」そのものです（しかも、大手メディアはその結果について、依然として責任を取っていません）。

また、「報道しない自由」の最近の事例としては、「Colabo問題」や「ＷＢＰＣ問題」などがあるかもしれません。

これは、「東京都若年被害女性等支援事業」などを巡り、ツイッター上で一般人男性が提起した疑念をもとに、東京都などにおけるいわゆる「若年被害女性支援事業」に大掛かりな不正疑惑があるとする問題ですが、多くのメディアはこの問題をほとんど取り上げていません。

これなどもちゃんと調査していけば、東京都全体、あるいは下手をしたら厚生労働省にまで飛び火し、大掛かりな汚職事件に発展する可能性だってあります。メディアがそれをやらないということ自体、この「Colabo問題」も、例の「腐敗トライアングル」に関わっていると考えるのが自然でしょう。

絶賛自壊中のオールドメディア

ちなみに「腐敗トライアングル」は、『【総論】崩壊始まる官僚・メディア・野党「腐敗利権」』などでも議論したとおり、自由・民主主義の原理から逸脱し、不当に大きな政治的権力ないし社会的影響力を握っている官僚とオールドメディア、特定野党の三者が結託しているとする問題のことです。

しかし、「腐敗トライアングル」はその名の通り、腐敗し過ぎていて、現在、絶賛自壊中です。

たとえば『新聞朝刊の寿命は13.98年？』や『新聞夕刊は7.68年以内に消滅』などでも繰り返し取り上げてきたとおり、日本新聞協会などのデータを分析すると、日本の新聞は10年、いや、下手をするとあと５年のうちに、その多くが消滅してしまう可能性が濃厚です。

また、『【滅びゆくメディア】テレビ局の「無礼な取材」の原因』でも指摘しましたが、総務省などの調査に基づけば、テレビの視聴時間は減少の一途をたどっており、早ければあと１～２年のうちに、全国民単純平均でネット利用時間がオールドメディアの総利用時間を追い抜くことは確実でしょう。

問題は、それだけではありません。テレビ業界からは視聴者離れ、クリエイター離れ、広告主離れの「三重苦」が生じており、「受信料利権」を持つＮＨＫの存在が、こうした三重苦に拍車をかけている状況にあります（『チューナーレスＴＶ普及促進でＮＨＫが業界をぶっ壊す』等参照）。

このため、まずは新聞業界が、続いてテレビ業界が、大幅な再編と業態縮小を余儀なくされるというのが当ウェブサイトの「予想」なのです。

性的虐待問題で芸能事務所社長が謝罪

そして、これに関する兆候が、すでにあちらこちらで出てきています。そのひとつが、大手芸能事務所における性的虐待疑惑でしょう。

以前の『【報道しない自由】大手芸能事務所不祥事疑惑を黙殺か』では、著名な大手芸能事務所で元経営者（故人）が未成年者に対し、性的な虐待を行っていたとされる疑惑を取り上げました。

これについては主要メディアが「報道しない自由」を悪用し、しばらく大々的に報じられない状況が続いていたのですが、14日付で事務所の現社長が「何よりも被害を訴えられている方々に対して深くおわび申し上げます」と謝罪する動画と文書を公表したのだそうです。

これを受けて、新聞、テレビなどもいっせいにこの件を報じています（いや、今まで報じていなかったメディアの場合は「報じざるを得なくなった」というのが正しいでしょうか？）

ジャニーズ社長が謝罪　前社長性加害問題で、被害者対策を検討

―――2023/5/14 21:02付　産経ニュースより

【全文】「ジャニーズ事務所」の藤島ジュリー景子社長が動画で謝罪し見解発表　故ジャニー喜多川氏“性加害”問題で

―――2023年5月14日21:03付　TBS News Digより

ジャニーズの藤島社長が謝罪　喜多川氏の性加害問題で

―――2023/05/14付　共同通信より

今までの「報道しない自由」はいったい何だったのか、という疑問はとりあえず脇に置くとしても、さすがにこのインターネット時代において、テレビタレントを多く輩出している事務所の大掛かりな不祥事を、いつまでも「報道しない自由」で隠しおおせると考える方が無理でしょう。

海外で報じられ、スポンサーの問題に発展も

もっとも、この問題の本質は、そこではありません。ハンドリングを間違えれば、「スポンサーの問題」に発展してしまいます。

「企業コンプライアンス」が社会的な課題となる昨今において、ここまでの不祥事が発生していただけでなく、業界全体でこれを隠蔽しようとしたことは、企業にとって株主説明責任上も放置できるものではありません。

これに関連し、共同通信には15日付で、こんな記事が出ていました。

ジャニーズ所属、起用企業に動揺　CM、世間の反応で判断

―――2023/05/15付　共同通信より

共同通信によると、問題の事務所に所属するタレントをＣＭなどで起用している企業の間では動揺が広がっており、現時点では「世間の反応をみながら対応を決める」など、状況を注視している企業も多い一方で、「会社のイメージを損ねる恐れもあるだけに神経をとがらせている」、などとしています。

しかし、この問題はむしろ、英メディア『ＢＢＣ』が大々的に報じるなどしたため、海外でも有名になってしまっており、今回の社長の謝罪についても複数の外国メディアが取り上げています。

Japanese talent agency apologises over claims founder sexually abused boys

―――2023/05/15 11:31 BST付　The Guardianより

Japan boyband agency apologises over sex abuse allegations

―――2023年5月16日 2:28付　AFPBB NEWSより

当然のことながら、同事務所の説明次第では、スポンサー企業にとっても同事務所所属のタレントをＣＭに起用すること自体、外国人株主への説明を困難にする可能性すらあります。

その意味では、この問題は単なる芸能事務所の問題というよりは、むしろ、テレビ業界全体の隠蔽体質の問題であり、そして、「報道しない自由」で隠蔽し切れなくなったという意味においては、テレビ業界の情報支配力の決定的な後退を象徴しています。

今後の展開次第では、後から振り返って、スポンサー企業とテレビ業界・芸能業界の「力関係」が決定的に代わったことを象徴する事件のひとつに位置付けられるのかもしれません。

あの政党、「150議席」のためにヒアリング開始へ

余談ですが、「あの政党」が動くようです。

立民、ジャニーズ問題で16日にヒアリング

―――2023/05/15 18:25付　Yahoo!ニュースより【共同通信配信】

立憲民主党といえば、国会では衆参両院で野党第１党でもありますが、その「最大野党」が芸能事務所の問題で「ヒアリング」（誰に？）を行うのだそうです。

例の「150議席問題」（『自民、立民ともに「早期解散総選挙」で利害は一致する』等参照）もあってか、「なにか目立つことをやりたい」という気持ちもわからないではないのですが、これは基本的に芸能界とメディアの問題であり、国政レベルの話ではありません。

もっとも、読者コメントなどを眺めると、「立憲民主党にはもっとやるべきことがほかにあるのではないか」、といったコメントだけでなく、「どうせ次の選挙が終わったら（同党所属議員は）テレビコメンテーターとかに転職しなきゃいけなくなるから、芸能にも詳しくなっておくのは堅実な行動だ」、といった皮肉もあるようです。