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    Categories: 外交

岸田首相は意外と「策士」?歴史認識の立場継承表明へ

岸田文雄・現首相は今日、韓国を訪問し、日韓首脳会談に臨むそうです。これについて一部メディアは「日韓シャトル外交の復活」などと報じています。ただ、岸田首相は「歴史認識を巡る歴代内閣の立場の継承」を表明するそうですが、それをやると日韓関係の「改善」には逆効果かもしれません。韓国メディアの報道によると、韓国政府側は日本に対し、「謝罪」などの誠意ある対応を求めているらしいからです。もし岸田首相が狙ってやっているなら、なかなかの「策士」です。

日韓シャトル「怪談」

岸田文雄首相が7日、韓国を訪問し、日韓首脳会談に臨みます。

これに関して、共同通信は「2011年以来途絶えていた『シャトル外交』が、本格的に再開する」などと報じています。

首相訪韓、午後に首脳会談へ 11年以来の「シャトル外交」

―――2023/05/07 05:30付 Yahoo!ニュースより【共同通信配信】

(※どうでもよい話ですが、著者自身のPCの調子が悪いのか、「シャトル会談」と記載すべきところ、どうしても「シャトル怪談」に誤変換されてしまいます。いったいどうなっているのでしょうか?PCが何者かに乗っ取られてしまったのでしょうか?いちおうすべて見直して訂正したつもりですが…。)

それはさておき、自称元徴用工問題を筆頭とする日韓諸懸案が、本当になにひとつとして解決していないなかで、日韓首脳のシャトル怪談を再開してしまうとは、なかなかに強烈です。

韓国観察者の鈴置高史氏が2年前のデイリー新潮記事で、「韓国が国際法違反状態を是正しない限り、菅義偉総理大臣が首脳会談に応じるのは難しい」としつつ、「だが菅総理が降板し、脇の甘い人が首相になれば、そうした状況も変わるかもしれない」、などと「予言」した内容が、ドンピシャリで当たったからです。

鈴置氏の読みの的確さもさることながら、岸田首相が今回の怪談などを通じ、得意げに韓国との関係「改善」を演じようとしていること、共同通信を含めた本邦のメディアが韓国の日本に対する「二重の不法行為」にまったく言及することなしにそれを報じているのをみると、本当に印象深いところです。

輸出規制ではありませんが…改善ムードに水を差す謝罪利権

ちなみに共同通信の記事には、こんな記述があります。

元徴用工訴訟問題をきっかけに日韓が互いに講じた輸出規制措置の解除を踏まえ、半導体の安定供給について意見を交わす

日本政府が2019年に発表した措置は「対韓輸出管理適正化措置」であって、「輸出『規制』」では断じてありません。ですが、この共同通信の記事では、堂々と「輸出『規制』」と記載されています。ここまでくると「誤報」ではなく、悪質な「捏造報道」のようなものではないでしょうか。

もっとも、例の「利権の3大法則(※)」ではありませんが、せっかく「改善」(?)ムードが見え始めた日韓関係ですが、韓国側が多くを求めすぎることで、その「改善ムード」とやらにも冷や水がぶっかけられる可能性はあると思います。

ここで思い出しておきたいのが、先ほどの共同通信の記事にあった、こんな記述です。

元徴用工問題では、歴史認識を巡る歴代内閣の立場の継承を改めて表明し、韓国政府の解決策推進を後押しする考えだ」。

何を意味しているのかといえば、岸田首相が過去の談話などを改めて継承することで、韓国が求めている「謝罪」の代わりにしようとする、という考えでしょう。

果たして、韓国はこれに満足するのか――。

韓国政府「歴史問題の謝罪、岸田首相が応える番」

その答えは、おそらくは「NO」です。というのも、韓国の日本に対する謝罪要求は、いまや一種の「利権」と化しているからです。

一般に利権とは「不当な利得を固定化する仕組み」と定義されますが、この利権には①得てして理不尽なものであり、②外から壊すのが難しいという特徴があるものの、③いずれ利権を持っている者の強欲や怠惰によりあっけなく自壊する、という3つの法則が存在します。

【※参考】利権の3法則
  • 第1法則:利権とは、得てして理不尽なものである。
  • 第2法則:利権はいったん確立すると、外から壊すのが難しい。
  • 第3法則:利権は保有者の怠惰や強欲で自壊する。

(【出所】著者作成)

じつは、韓国による「謝罪利権」も、この構図そのものです。そのことがよくわかるのが、韓国メディア『東亜日報』(日本語版)に6日付で掲載された、こんな記事でしょう。

大統領室「歴史問題の謝罪、岸田首相が応える番」

―――2023/05/06 08:38付 東亜日報日本語版より

東亜日報によると、韓国政府関係者は5日、同紙の電話取材に対し、「謝罪は日本が考えてすべきこと」としつつも、「今は日本が応える番だ、日本がどうすべきかよく知っているだろう」、などと話したというのです。

東亜日報といえば韓国でも朝鮮日報や中央日報などと並び、「保守メディア」と位置付けられることが多いようですが、その東亜日報の記事ですら、「日本はもっと謝罪せよ」、などと期待感を示している、というわけです。

これも、「日本が韓国に対し謝罪すべきことは何もない」とする立場からすれば「とんでもない話」ですが、「日本が韓国に謝罪して当然だ」とする立場からすれば、非常に自然な発想です。「日本の韓国に対する謝罪」自体もひとつの「利権」ですので、利権を持っている者がその利権の拡大を図るのは当然のことだからです。

「歴史認識の承継」で自称元徴用工問題の解決が破綻?

このように考えていくならば、共同通信が指摘する、岸田首相の「歴史認識を巡る歴代内閣の立場の継承を改めて表明し、自称元徴用工問題の韓国政府の解決策推進を後押しする」という考え自体、むしろ逆効果になりかねません。

もしも岸田首相が韓国に対し、わざと「歴史認識の承継」を言いに行くことで、韓国の歴史認識を煽り、自称元徴用工問題の韓国による「解決策」を破綻させ、もって自ら日韓関係に引導を渡すつもりなのだとしたら、かなりの「策士」なのかもしれません(岸田首相にそこまで深い考えがあるかどうかはしりませんが)。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

さて、韓国を「(旧)ホワイト国」に復帰させるとする輸出貿易管理令の改悪案を巡っては、今年5月末まで、当ウェブサイトの冒頭にガイダンスを掲載し続けることとしています(『パブリック・コメント大募集!入力方法を解説します!』等参照)。

本記事は2023年5月31日まで当ウェブサイトトップページに掲載し続けます電子政府の総合窓口(e-gov)トップからパブリック・コメントを入力する方法についてまとめました。手順が大変わかり辛いのですが、本ページを参考にしながら、是非ともパブコメに積極的に応じていただきたいと思います。また、実際に入力したコメントにつきましては、本記事の読者コメント欄にて入力していただいて構いません(※その際、個人情報などについては消してください)。2023/04/29 20:00追記本記事に関するバックグラウンド等について追記しています...
パブリック・コメント大募集!入力方法を解説します! - 新宿会計士の政治経済評論

同記事への読者コメント欄の報告によると、ゴールデンウィーク中のパブコメ応募件数はさほど多くないらしく、案件番号「595123034」で始まる「受付番号」から判明するコメント件数は、5月7日午前8時時点で5735件に留まっています。

このあたり、パブコメには皮肉のつもりで「韓国の(旧)ホワイト国復帰」を「条件付きで賛成する」などと書き込んでいる方もいらっしゃるようですが、正直、余計なことを記載したところで、政府の担当官はほとんどスルーするでしょう。

したがって、もし同措置に賛成するなら「賛成」、反対するなら「反対」、と、素直に書いた方が良いと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (30)

  • 【随時更新】岸田首相 就任後初の韓国訪問 ユン大統領と会談へ
    2023年5月7日 9時53分
    https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230507/k10014059461000.html

    「今後は対中対北防波堤として機能する」と述べている尹錫悦政権を支える為に、岸田文雄がどれほどの費用を負担するかを決めに行くって事なんでしょうね。

    「踏み倒し」「喰い逃げ」の常習犯相手に、支払いを迫るどころか更に投資するのだろうな、と考えると、竹島を奪い返す・守り抜く力を日本国が手にしていないのが悔やまれます。

    • [社説]日本首相の謝罪・原発汚染水問題、これ以上「屈辱外交」があってはならない
      http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/46660.html

      >両首脳は3月の「トンカツ会合」に続き、今回は「炭火焼肉」晩さん会を開くという。重要な課題を覆い隠して「何を食べるか」ばかりに注目を集め、韓日・韓米日の軍事協力だけを強調することで「韓日関係が改善された」などと誇張しないよう願う。

      岸田文雄的に一番ダメージが少ないのは、中身の無い友好をアピールしつつ、利も損も無い約束をして、食事会に注目が向くようにする、ですかね。

    • 地震が起こった後に首相ができることは閣僚に対応を指示することと、被災地や被災者にお気持ちを示すことくらいだと思います。
      お気持ちを示すのに外遊予定を取り消す必要があるとは思えません。

      有権者が政府にくだらないスタンドプレーを求めなければ、政府も合理的な対応ができるようになると思います。

    • 1週間程度は強い余震に警戒しないといけないし、総理の警護となると現地は迷惑だし、お金や物資をちゃんと送ってくれれば来ない方が良いのではないですかね?

    • ソレ野党が言いそうですね

      適切な対応できていれば
      トップが現場に張り付く行為は無駄以外の何物でもなく
      それを求めて、叩く方が、無能で有害だという認識に改めるべきです

      •  >トップが現場に張り付く行為は無駄以外の何物でもなく

         菅直人と言う「反面教師」がいましたね。彼の場合、無駄どころか原発事故の処理をしている現地スタッフの足を引っ張って水素爆発と言う最悪の事態を招きました。

    • えーと、お三方に質問ですが、これ以上に大きな災害は発生しませんか?
      熊本地震では前震という現象が起きました。
      また、震災地域には地震で地盤に影響がある中、石川県では雨の予報であり、土砂災害が起きる可能性もあります。
      場合によっては災害対策基本法24条により内閣総理大臣が非常災害対策本部を設置する必要があります。

      • 「災対本部を設置することになるかもしれないから、首相は官邸に待機します。」

        余震や二次災害の可能性は常にありますが、程度の予測は困難で、待機や解除の基準を設けるのは不可能でしょう。解除基準はどう設定します?
        石川に限らず災害発生の確率は常にあります。

        災対本部を設置しなくてもできることはありますし、今の段階では二次災害の危険を踏まえて対処を指示し、実際に起これば必要に応じて外遊を切り上げて帰国する、という対応で十分だと思いますが。

        無軌道な首相の待機は内政や外交の停滞を引き換えにするメリットが薄いと思います。

        • >余震や二次災害の可能性は常にありますが、程度の予測は困難で、待機や解除の基準を設けるのは不可能でしょう。解除基準はどう設定します?
          現在、地震から2日が経っています。
          熊本地震では前震から約2日後により規模の大きい本震が起きました。
          また、土砂災害についてはネットで調べられる程度の知識しかありませんが、珠洲市では雨が降っており地震の影響で広島市で起きた土砂災害レベルのことも起きかねないのでは?
          >無軌道な首相の待機は内政や外交の停滞を引き換えにするメリットが薄いと思います。
          言葉が足りませんでしたね。
          今は外交に行くべきではない、予定を伸ばすべきでは?

          ちなみに僕は被災地に行けとは一言も言ってませんので。

    • まあ岸田さんが石川に行ったところでパフォーマンス的なものになるだけでしょうしね。
      ただ、地震被害にあったのが石川ではなく広島でも、今回と同じ行動をとったんですかね。そこはちょっと気になるところですわ。

  • 日韓首脳怪談

    ギャ~~~~~~~~~ア

    岸田さん
    びっくりさせないでよ・・・・。
    (大丈夫ですよね?)

  • 外交ってのは相互主義が基本です。
    日本政府が従来の立場の継承を語るなら、韓国政府も約束事の継承を語るべきですね。
    日本人の多くは、過去の韓国政府の行いからそんな事できる訳ないだろう、口先だけでしかないと冷めた目で見るだけでしょうが、韓国人は屈辱外交だと感情を爆発させるでしょう。
    しかし、本来あるべき基本に立ち返っただけでしかありません。
    しょせん「その程度」なんですよ、韓国の総体としての意識は。

  • 岸田首相の事だから、煮え切らずウダウダ言って、韓国は勝利宣言、日本は何も無かったでオシマイじゃないですか。そもそも行く必要ナシ!
    「パブコメ数は、5月7日午前8時時点で5735件に留まっています。」少ないなあー。GWにスマホ触ってる人!もちろん「改悪やめろ」で投稿済みですよね?

  • 韓国は恨みを蓄積していくので、時計の針を戻すことは出来ません。
    日本が一旦徴用工判決前まで針を戻したとしても、韓国では日本が悪いのに後頭部を殴られたという恨みが一個蓄積されただけで戻らないのです。

    韓国が悪事を働き、日本がそれを許すという現実が、韓国内では、日本が悪さをしたが韓国が我慢をしたと変換し固定化してきました。
    それが日本と韓国の戦後レジームです。
    韓国は悪事を働いてもお咎めなしなので利益を得続け、日本は被害を被ったのに許し、国益を損ない続けてきました。
    この螺旋から抜け出すのは、日本と韓国のどちらか、あるいは両方が変わる以外に道は無いでしょう。

    しかし韓国が変わるのはあり得ないでしょうね。
    それで恥も外聞もなく利益を得続けてきたわけですし、徹底した他責思考の彼らが己の行いを反省する、他者を許すということが出来るわけがないのですから。
    結局日本が変わるしかないのですが、変える道筋を作った安倍路線を、岸田文雄という強い力を持った政治家によって元に戻されてしまいました。

    韓国側にこの体制では不利益な層がいるように、日本側にもこの体制が利益を生んできた層がいることでしょう。
    それが岸田文雄という強い力を持った政治家の力の源なのでは?と邪推します。
    でしたら抜け出す気など更々無いのでしょう。
    失礼ながら、私には岸田文雄に策を練るような知性は感じられず、ただひたすらに暴力的な力を持った政治家であるとしか見えないのです。

  • 国民の期待に沿う事が出来ないのであれば、その職から退くのが国民の真意に叶うのだと思う。岸田首相や官僚の方はきっと韓国との関係を維持するために日本が以前と同様に譲歩した方が国民の多くの支持を集めるものだと思っているのでしょう。ならば国民の前で分かりやすく説明して頂きたい。私は恐らく少数意見かと思いますが、韓国とは極力関わらないで頂きたいと願っています。

  • ユン大統領へ中国共産党様が「激おこ」になった事が最大の功労。
    売電さんがお喜びになった一連のながれの纏めがこの岸田様訪韓。
    日本はアメリカとの付き合いに安心感を持ちアメリカも犬日本に安心感を持ち経済が順調
    東南アジアもこれ以上東南アジア波乱要因は出ない様子に安心し
    ウクライナ侵略が破綻に近づきつつある今中国様が台湾侵攻を諦めるに一歩近づいた模様
    ま、明日にはどうなるか分かりませんが今のところそうみえる。
    キッシーさんの計らいか?アメリカの計らいか? 真偽は分かりませんが良く出来ている?
    と私は思います。

    • 自分にも岸田の訪韓はアメリカの戦略、アメリカが決めた事に見えます
      じゃなきゃ 岸田に訪韓する理由なんてないですよ

  •  私は「前倒しでの岸田訪韓」は、あくまでG7を前にしての「日韓宥和に日本は前向き」との米国向けポーズだと、見ています。
     従って、「歴史認識に関する歴代内閣の立場を今も全体として引き継いでいるし、今後も引き継いでいく」以上の表現はしない、と思っています。ちょこっと1998年の日韓共同宣言を読み上げたって、それで韓国が満足する訳もなく、左派による韓国世論を煽る行為の有効性を再認識させるだけですから。
     原発処理水についても「日本が(IAEAにも出した)資料を提供し、韓国が検討と分析を行う」だけだと思います。それを韓国側が”二か国協議”と呼ぶなら、それはご随意に、ではないでしょうか。
     とはいえ、一抹の不安はぬぐえないとの感もあります。
     まあ今日の午後には、結果が判りますけどね。

  • 都合良く「台湾へのF-16V輸出が遅れる」とか、バイデン政権が中国に対し抑止を発揮する気があるとは到底思えないのですけどね?
    まあ、アメリカにして見れば日本が韓国へ勝手に折れてくれるのは有り難いでしょうなポチ回帰で

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