X

「グンゼの経営」に学ぶ「新聞社の衰退は必然」の理由

『朝日新聞GLOBE+』というウェブサイトに4月4日付で興味深い論考が掲載されていました。グンゼという会社の、「善い人が良い糸をつくり、信用される人が信用される糸をつくる」という理念とともに、時代の変化に適合する卓越した経営を引き合いに、現在の新聞社がなぜ人々から信頼されなくなっているのかについて考察した、秀逸な議論です。理念もなく時代に適合できない新聞社が衰退するのは必然かもしれません。

新聞の終焉は時間の問題

朝日新聞の値上げが象徴する現在の新聞業界全体の苦境』でも取り上げたとおり、正直、紙媒体としての新聞の終了は、もう「時間の問題」となってきました。

朝日新聞が値上げします。5月以降、月ぎめ購読料は日経新聞と同様、朝・夕刊セットは4,900円に、統合版は4,000円(いずれも500円アップ)です。朝日新聞は部数の急減に拍車がかかるのでしょうか?ただ、他紙がこれに追随するかどうかはまだわかりませんが、今回の値上げも見方を変えれば、「朝日新聞だからこそできた」という言い方もできるかもしれません。朝日新聞が5月から値上げ:日経新聞と同じ値段に先日の『新聞業界逆風のなかで朝日が2年ぶり2回目の値上げか』で「速報」的に取り上げた「朝日新聞の値上げ」に、続報があり...
朝日新聞の値上げが象徴する現在の新聞業界全体の苦境 - 新宿会計士の政治経済評論

その大きな理由は、2つあります。

1つ目は紙媒体としての新聞が「時代遅れ」になってきたこと。

情報を印刷するために日々、大量の用紙を消費し、刷り上がった新聞を、地球温暖化ガスをまき散らしながら、人力で日々、各地に配達するという仕組みは、どう考えても時代にそぐわないものです。現在の通信環境であれば、ほぼ同じ情報量を、ほぼ一瞬で全国各地に配信することができるからです。

2つ目は、日本の新聞・テレビが「報道の自由」、「報道しない自由」などを悪用し、「角度をつけた報道」がまかり通ってきたこと。

かつて新聞はテレビと並び、「第四の権力」とも呼ばれるほど強い社会的影響力を誇ってきました。2009年8月の衆議院議員総選挙では、マスメディアが結託し、民主党への政権交代を実現させてしまいました(『立憲民主党の先祖返り、今度のポスターは「変えよう」』等参照)。

まずは代表から「変えよう。」いまから12年前の2009年8月、麻生太郎総理大臣との党首討論会の最後に、鳩山由紀夫・民主党代表はヒトコト、「チェンジ!」と叫びました。そして、最大野党・立憲民主党は昨日、あらたなキャッチコピーを発表しました。それはなんと、「変えよう。」、です。麻生総理と鳩山代表の党首討論ちょうど12年前のいまごろでしたでしょうか。麻生太郎総理大臣が衆議院を解散し、日本は選挙に突入。21世紀臨調は2009年8月12日、自民党の総裁でもある麻生総理と、当時の野党・民主党の鳩山由紀夫代表の2名を招い...
先祖返りする立憲民主党、今度の標語は「変えよう。」 - 新宿会計士の政治経済評論

オールドメディアの少数独占が新技術で終焉する

しかも、日本のメディアは資本が極端に少なく、限られた数の全国紙・全国ネットテレビ局・通信社・(自称)公共放送などが情報発信機能を独占しており、さらには記者クラブ、新聞社に対する税制優遇・再販価格維持制度、テレビ局の電波利権などに守られています。

いわば、少数メディアが「報道」という「第四の権力」を握り、それにより国民の世論を捻じ曲げることで、日本の民主主義が機能不全に陥ってきたのです。

このように考えると、新聞社の経営危機も結局のところ、インターネットが発展し、それにより国民がオールドメディアから世論を取り戻す過程で必然的に発生する社会的変化のひとつではないでしょうか。

新聞・テレビを中心とするオールドメディア側と異なり、ウェブ側にはメディア(ウェブ評論サイト、ブログサイト、SNSサイトなど)が無数に存在します。そして、これら無数に存在するウェブメディアが自由に情報を発信し始めたことで、新聞社やテレビ局の社会的影響力が急落しているというのが現状でしょう。

裏を返していえば、新聞社やテレビ局は、これまでオールドテクノロジーによる参入障壁で守られてきたのが、ネットの登場でまったく異次元のところから経営を脅かされているのであり、さらにはネットの登場で「本業」であるところの情報を粗雑に扱ってきたことがバレてしまったのでしょう。

「新聞社の衰退はネットやスマホの普及が原因ではない」

こうしたなかで、『朝日新聞GLOBE+』というウェブサイトに4日付で、こんな記事が掲載されていました。

新聞社の衰退はネットやスマホの普及が原因ではない グンゼという会社から考える本質

―――2023.04.04付 朝日新聞GLOBE+より

記事を執筆したのは朝日新聞の記者の方ではないようですが、記事タイトルでもわかるとおり、新聞業界の衰退について取り扱っている論考です。

記事では冒頭に、こう指摘します。

新聞の存在感が、すごい勢いで世の中から失われている。<中略>主要各社の売上も大幅に落ち込んでおり、今なお底が見えない」。

これについて、巷間で見られる「インターネットやスマホの普及で、新聞が読まれなくなったからだ」、といった分析に対し、この著者の方は、こう断言するのです。

新聞各社の売上が減少し続けているのは決して、インターネットやスマホが普及したからではない。単に経営陣が世間の感覚からずれていて、今もなお間違っているからである

…。

いったいこれはどういうことでしょうか。

著者の方が引き合いに出すのはグンゼの事例です。かつては下着メーカーなどとして有名だったこの会社は、現在、プラスチック製品や省エネ素材、タッチパネル、スポーツクラブ運営など「幅広い分野に進出」しており、売上高1200億円、従業員5000人という大企業です。

著者の方によるとグンゼは明治期、創業者・波多野鶴吉が生糸の品質向上を巡って悩み、こんな結論を出したと説明します。

善い人が良い糸をつくり、信用される人が信用される糸をつくる」。

けだし、名言です。

経営哲学をもとに時代の変化に適合してきたグンゼ、新聞社は?

しかも、グンゼの凄いところは、総合者の波多野の跡を継いだ経営陣の優秀さです。この格言について、著者の方はこう指摘します。

良いものを作るには、先に善い人を育てなければならないという、当然の出発点である。さらに、信用される人でなければ信用される製品など作れないという原点も見出した。そして工場内に従業員向けの寄宿舎を置くと、多くの教室まで設置し、人材育成に多額の先行投資を行うことになる」。

市場環境の変化に伴い、たとえばレーヨンの登場により生糸産業が大打撃を受けたのに対応し、最終製品の製造・販売に事業進出することを決断。

60年代には女性向け製品、70年代にはベビー用品と、自社の強みを生かしつつ、時代に合わせて事業を変化させてきたというのです。そして、プラスチック、塩ビ、特殊フィルムなどの事業領域の拡大が、令和の今ではタッチパネル素材の製造まで手掛ける総合メーカーへの成長をもたらしたのです。

こうしたグンゼの卓越した経営を引き合いに、著者の方はこう指摘します。

新聞社の本質的な強みとは本来、『知性ある記者・編集者』が『取材やエビデンス』に基づき、『信用できる情報』を届けてくれることにあったはずだ。だからこそ戦後、新聞人は知識人とされ、多くの政治家まで輩出し、『第四の権力』と言われるほど国民の強い支持を得続けてきた」。

これこそが、いい加減な情報が流布するインターネットメディアの時代にあって、形を変えながらも守るべき存在意義ではなかったのか。<中略>にもかかわらず、発行部数が減少傾向になると経営陣は各社とも浮足立ち、この一番大事な本質を見失った」。

著者の方によると、現在の新聞社は「自社のコア読者層に迎合し、言説の先鋭化が進み、客観性を失い続けている」と容赦なく批判します。

このあたり、新聞が「『第四の権力』といわれるほど国民の強い支持を得続けてきた」などのくだりなど、正直、あまり同意できない記述もないではないですが、それでも現在の新聞が「知性ある記者・編集者が取材やエビデンスに基づき作った信用できる情報」を届ける手段とは言い難い、という点には、同意する人も多いでしょう。

なにせ、もはや新聞社(やテレビ局)だけが独占的な情報発信者だった時代は終わったわけですし、インターネット上で有象無象の多くの人々が簡単に「ファクトチェック」できる時代になったのです。

オールドメディアが垂れ流してきたのが「質の低い情報」だとバレてしまったのは、ネットというニュー・テクノロジーの影響ですが、もしもオールドメディアが「質の高い情報」を自信をもって人々に届けようと努力していたならば、ネットが登場しても、ここまで急速に経営は傾かなかったのかもしれません。

それに、情報の質が高ければ(あるいは「情報の質が高い」という自信を持っていれば)、米ウォール・ストリート・ジャーナルなどのように、ウェブサイトにて有料ウェブ会員向けの情報提供に特化することもできたでしょう。

経営理念もなく、時代の変化にも適合できない。今まで倒産しなかったのは単純に参入障壁に守られていただけ」――。

参入障壁が撤廃された瞬間、そんな会社が淘汰されるのは時代の必然です。

その意味で、新聞やテレビが人々から見放されるに至った本質的な原因は、「ネットやスマホの普及」だけでなく、新聞やテレビが人々から見放されるような「質の低い情報」を垂れ流し続けてきたことにもあるのだと考えるのは、非常に理にかなった分析ではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (17)

  • グンゼって郡是って書くんですね
    創業者は京都府綾部出身だそうです

  • 「発行部数が減少傾向になると~」などのズレで本質云々の所もちょっと思う所が出て来てしまうけれど、これが朝日系列での限界なのかなあ

  • 繊維メーカーを引き合いに出すなら、グンゼよりカネボウのほうが合ってるような気がする。
    時代に合わせて繊維メーカーから化粧品メーカーになったまでは良かったけど、その後は多角化の失敗、粉飾決算、そして経営破綻・・・。

  • AA) 1年前のスイスの新聞、雑誌、民放ラジオの記事ですが・・・。
    1) スイスの議会委員会が、国内の新聞、ラジオなどのメディアへの(元々あった)補助金をさらに大幅に増額しようとして、国民投票を行うことになった。
    2) 何故なら、スイスでは03年以降に約70の新聞が消滅したなど、オールドメディアが危機的状況にあるから。
    3) そうなった理由は、広告収入の大幅減、購読者数の減少、世界的なインターネット大手との競争―。ニュースや広告はネットに流れ、従来のメディアの購読者数や広告収入は減少。
    新聞、雑誌、民放ラジオ局の広告収入はこの20年間で約4割落ち込んだ。この流れが変わる兆しはない。(別記事に、2000年には20億スイスフラン(約2,525億円)だった紙媒体の広告収入は、20年には4分の1以下に落ち込んだ、ともあり)

    https://www.swissinfo.ch/jpn/politics/%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2-%E5%8A%A9%E6%88%90%E9%87%91-%E3%82%B9%E3%82%A4%E3%82%B9-%E5%9B%BD%E6%B0%91%E6%8A%95%E7%A5%A8/47270608

    BB) そして、その国民投票の結果、補助金を増額するという提案は、見事に否決されました。
    4) 反対を表明したのは保守や右翼系の政党で、補助金反対の波に乗って、右翼系政党は公共放送の受信料を半分にすると主張しているそうな。 
    日本で補助金の案はありえないでしょうが・・、公共放送の受信料を半分にするという政策は自民党から出てこないかな?

    https://minpo.online/article/post-90.html

  •  顧客(読者)が会社(新聞社)に価値を感じない←商品=記事(提供する情報)が劣化している←良質な記事を書く人が育たなかった←人を育てるような理念を持たなかった。

  • グンゼは今はGUNZEとも表記されますが、郡是産業と名乗っていた時代もあります。ついでに言うと、私はグンゼ社の広報担当ではありませんが、少しだけ情報提供します(爆笑)。

    京都府綾部市に大きな工場を持ってます。ココが実質の本社だったようです。繊維製品なら日本一(糸では無く製品として)、特に綿製品肌着では私が知る限り、他のメーカーの追従を許しませんでした。パッケージに「金の品質、銀の価格」と長い間書かれてました(まだあるかな?)。

    しかし、中国からの廉価な品と競合し、低価格品は中国始め東南アジア製の独壇場になってます。同社も普及品レベル(2枚組とか)は東南アジア製造にシフトしました。しかし、今でも中〜高級品は「日本製」のグンゼの支持は根強いです。

    さて、新聞やテレビのオールドメディアが人々から見放されるのは「質の低い情報」を垂れ流し続けてきたことにあるとしたら、それはトップの器量が狭量で、舵取りを誤って転覆したのでしょう。「質の高い品質」を誇るグンゼは、多角化を進め、健全な企業精神がしっかりとしている企業だと思います。

  • グンゼのWikipediaを見ていたら、ジーンズやカジュアル用品を取り扱っている「the dan」を運営しているジーンズ・カジュアル ダンを平成28年4月15日に買収して、完全子会社化しているのですね。
    現在の本社所在地はグンゼ大阪本社の堂島オフィス(JRE堂島タワー 9階)にあるみたいですが、創業の地が広島県庄原市であるそうなので、Wikipediaの本社所在地は、その頃のものだと思われます。
    東広島市にも店舗があり、結構身近なところにグンゼの関連会社あるのだなと思いました。

  • >コア読者層に迎合し、言説の先鋭化が進み、客観性を失い続けている
    それを朝日新聞に言われても説得力が全くないですね。そういう姿勢を批判されているという自覚はあるようですが、今さら態度を改める気もないでしょう。

  • 新聞が「知性ある記者・編集者」が「取材やエビデンス」に基づき、「信用できる情報」を届けていたって思っているのがすごい!
    いいところの大学を出た記者が専門家にちょっと聞いただけで、それっぽく書いた情報しか届けてくれてなかったような…。
    専門分野の人が見れば、ハテナ?という記事を書いていても、専門家が反論、訂正する手段がなかったから、それとなく社会的に信用できそうな情報として扱われていただけじゃないかと思います。
    今なら、物心ついた時からのマニア、その道一筋の専門家、その分野で働く人…。ありとあらゆる分野で記者さんより詳しい人がいて、間違ったものは違うと発信できるから、記者さんの、わかりやすいけど正しくない(ことも多い)情報は価値がなくなったんじゃないかな。
    自分の分野の記事だと、間違ってなくても内容が薄すぎて、使える情報書いてくれよーと思うことしかないし。

    • きたのほうから

      >専門家が反論、訂正する手段がなかったから、それとなく社会的に信用できそうな情報として扱われていただけじゃないかと

      そのとおりと首肯します。取材と称する聞きかじり、知性教養ぶる横柄な文章、それが新聞記事の本質です。嫌われ見下されて当然です。

  • 新聞社がグンゼの社是と同じ思想を持っていれば、ネット時代にあっても多くのファンを維持していたかも知れないし、ファンとの対話の中から新たな生き残る道を早いうちに見いだせたかも知れないですね。よき作り手であろうとすれば、ユーザとの対話は欠かせないと思います。
    以前から新聞社は読者に対して一方的に発信するばかりで対話しているようには見えません。上意下達というか、ご神託というか、天の声というか。それを良しとしてきたようにすら見えます。
    コアな読者として残っているのはご神託をありがたがる人ばかりなのかも知れません。

    話は違いますが、サムスンのSSDを買おうとは思いません。理由はいろいろありますが、作り手を信用できない点は大きいです。タダ同然に安けりゃ買うかも知れませんが。

    • 「天声人語」ですからねぇ。主筆クラスは「我、神の声を神に代わって大衆に伝える者なり」と本気で考えているのでしょう。
      普通なら恥ずかしくて、こんな名称つけられない、という羞恥心すら失う位に。

1 2