半導体輸出管理強化を輸出「規制」と呼ぶ韓国メディア
日本政府が3月31日に発表した、半導体製造装置23品目の輸出管理強化を巡って、韓国メディアは「輸出規制」と報じた記事がありました。ただ、今回の措置はあくまでも「輸出管理」であり、「輸出規制」ではありません。また、現時点において「り地域」などに対して「壊滅的な影響」を与えることはありませんが、「り地域」と「と地域③」を統合するなどすれば、日本政府はいつでも輸出管理を強化することができそうです。
輸出管理が韓国に「思わぬ流れ弾」の意味
今朝の『【韓国にも流れ弾?】半導体製造装置の輸出管理厳格化』でも説明したとおり、経済産業省が3月31日に発表した外為法に関する省令等の改正案は、「極めて先端的な半導体製造装置」のうちの23品目を、新たに輸出管理の対象にする措置です。
ただし、半導体材料を日本政府がすでに「グループA」(昔の用語でいう「ホワイト国」)に指定している先進国に対して輸出する場合、実質的な影響は、そこまで大きくありません。品目によっては「一般包括許可」という仕組みを使うことができるからです。
しかし、「り地域」(韓国)や「と地域③」(国名不詳)などの場合、品目によっては「特定一般包括許可」を使うことができるものの、「一般包括許可」については使うことができません。そして、「特定一般包括許可」を使う場合、「一般包括許可」の場合と異なり、輸出業者は内部管理体制を作らなければなりません。
これが今朝の記事にいう「思わぬ流れ弾」の意味です。
輸出管理と輸出規制はまったく別物
ところで、輸出管理といえば、これまでに何度も当ウェブサイトで指摘してきたとおり、輸出「規制」とは別物です。
両者、用語としては紛らわしいのですが、まったく異なる概念です。
このうち輸出管理は、安全保障の観点から、軍事転用可能な品目などを輸出する際に、経産省の許可を受ける義務を課す、外為法上の措置のことです。根拠規定は外為法第48条第1項に設けられています。
外国為替及び外国貿易法第48条第1項
国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
条文をちゃんと読むとわかりますが、あくまでも「許可を受ける義務」を課しているだけであって、べつに輸出を「禁止」する条文ではありません。よく誤解されますが、今回の経産省の省令・通達改正案も、特定国への半導体製造装置の輸出を「禁止」するものではないのです。
これに対し、「輸出規制」は第48条第3項に根拠規定が設けられており、これは一定の条件が発動した場合は特定の相手国に特定品目の輸出を制限することができる、というものです。
外国為替及び外国貿易法第48条第3項
経済産業大臣は、前二項に定める場合のほか、特定の種類の若しくは特定の地域を仕向地とする貨物を輸出しようとする者又は特定の取引により貨物を輸出しようとする者に対し、国際収支の均衡の維持のため、外国貿易及び国民経済の健全な発展のため、我が国が締結した条約その他の国際約束を誠実に履行するため、国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するため、又は第十条第一項の閣議決定を実施するために必要な範囲内で、政令で定めるところにより、承認を受ける義務を課することができる。
韓国メディア、今回の措置を「半導体輸出『規制』」と称する
この点、日本政府が2019年7月1日に発表した、韓国に対する輸出管理の厳格化(あるいは「適正化」)措置、さらには昨日発表した半導体材料等の輸出管理対象への追加措置は、いずれも輸出「規制」ではなく、輸出「管理」です。
そして、このあたりの事情を、ほぼ完全に誤解しているであろう記事が、韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に掲載されていました。
日本の半導体装置輸出規制 「影響はほとんどない」=韓国政府
―――2023.03.31 19:39付 聯合ニュース日本語版より
今回の日本政府の輸出管理強化を巡り、聯合ニュースはこれを「先端半導体の製造装置23品目に関する輸出『規制』を強化すると発表した」と誤って表現したうえで、韓国産業通商資源部の次のような説明を報じています。
「日本はこれまでも輸出『規制』を取っていたが、韓国企業は製造装置を支障なく導入してきた。今回追加された品目は軍用に転用されることを防止することが目的であるだけに、韓国企業に及ぼす影響はほとんどないだろう」
…。
なかなか、理解に苦しむ反応です。
日本は今回の半導体製造装置23品目以外に関しても、軍事転用を防ぐ目的でこれまでも輸出「管理」措置を講じてきたことは事実であり、また、用途が確認された品目については、中国であれ、韓国であれ、問題なく輸出されてきたわけです。今後も同じでしょう。
したがって、「韓国企業に及ぼす影響はほとんどない」、という点についてはそのとおりでしょう(※もっとも、これには「もしも韓国において、輸出管理上の何らかの不正行為などがなされていなければ」、という前提条件がつきますが…)。
実際、2019年7月の対韓輸出管理適正化も、フッ化水素など3品目に関する「不適切な事案」が発生したことに対応する措置であり、しかもこの措置は「輸出『規制』」でも何でもなく、基本的には適正化措置発動後も、用途が確認されたものに関しては問題なく輸出許可が下り続けています。
ホワイト国復帰前に半導体製造装置輸出管理強化
もっとも、聯合ニュースによると、日本政府は今回の措置を巡り、「全世界を対象に適用される措置」と説明した、などとしていますが、正確にいえば、「全世界を対象に等しく適用される措置」ではありません。
「い地域①」に指定されている先進26ヵ国(※下記参照)と比べて、韓国(包括許可上の「り地域」)に対して輸出するときの手続は煩雑となる可能性があります。「一般包括許可」が使用できないためです。
「グループA」(い地域①、旧「ホワイト国」)
アイルランド、アメリカ合衆国、アルゼンチン、イタリア、英国、オーストラリア、オーストリア、オランダ、カナダ、ギリシャ、スイス、スウェーデン、スペイン、チェコ、デンマーク、ドイツ、ニュージーランド、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、ルクセンブルク
(【出所】経産省『(輸出管理上の)仕向地』)
ちなみに日本政府は先月、韓国に対するフッ化水素など3品目の輸出許可を「個別許可」制から「特定一般包括許可」が使用できるように変更しましたが、「ホワイト国」からの除外措置は維持されています(『韓国向け輸出管理緩和発表も「ホワイト国除外」は維持』等参照)。
また、『韓国が先制的に日本をホワイト国に復帰:甘すぎる認識』でも紹介したとおり、西村康稔・経産相は先月17日付の記者会見での会見で、この「ホワイト国復帰」については「現時点でなにも決まっていない」、「韓国側のさらなる取り組み状況次第」としたうえで、次のように述べています。
「今後の政策対話を通じて通常兵器キャッチオールの運用状況など、3品目以外の幅広い品目における韓国側の輸出管理の制度、運用状況について更にその実効性をしっかり確認していくということと同時に、韓国側の今後の姿勢を慎重に見極めていきたい」。
つまり、結論的には、今回の日本政府の半導体製造装置に関する措置は、韓国の半導体産業に影響を与える可能性があるのです。韓国を「(旧)ホワイト国」に復帰させる前に、半導体製造装置を輸出管理対象に加えてしまったのですから。
といっても、半導体製造装置等に輸出許可を受ける義務が課されるとはいえ、現状では「と地域③」を除いては、広範囲に「一般包括許可」か「特別一般包括許可」が認められているため、韓国などの半導体産業に「壊滅的な打撃」が生じることはありません。
しかし、「り地域」と「と地域③」を統合するなどの措置を講じれば、「り地域」に対しても「と地域③」に対するのと同様の厳格な輸出管理が適用可能であるというのは、指摘しておいて良い論点のひとつではないかと思う次第です。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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毎度、ばかばかしいお話しを。
韓国メディア:「どうせ、我が国は、輸出管理上の不正行為をするので、すぐに半導体製造装置の輸出管理強化が規制になる」
これって、笑い話ですよね。
蛇足ですが、韓国は輸出管理規制への抗議を、日本にするのでしょうか。アメリカにしたいのでしょうか。
>日本政府はいつでも輸出管理を強化することができそうです
それじゃあ、この間保守サイドからの轟々たる岸田批判は何だったのでしょうか。
保守サイドとやらが何かを分かってる訳では無いからでは?
今回の輸出管理強化は,アメリカ政府の強い意向に基づき日蘭が合意した半導体製造装置関連の実質的な対中禁輸措置に基づくもので,本質的には岸田さんの自発的判断によるものではなくてアメリカ政府からの指示あるいは要請によるものと理解すべきでしょう.
なので,今回の措置は岸田さんの有能・無能とは全く関係ないと思います.
まあ敢えて今回の件で岸田さんをプラスに評価するならば,中共ベッタリの茂木幹事長や林外相を使い続けてはいても,さすがにアメリカ様からの対中半導体関連実質禁輸という具体的な指示は無視せずに従う程度の理性は岸田さんも持ち合わせていることが実証された,という程度でしょうね.
言い換えれば,アメリカ様からの「韓国企業が日本から輸入する製造装置を中共の工場に移転しないようにちゃんと輸出時にチェックして韓国側に韓国内だけで使用すると確約させろよ」という指示に対して,日本として「はい,ちゃんと御指示には従います」という返答を製造装置に関する輸出管理強化の発表によって具体的な行動として示したということでしょう.
そんなにお望みなら輸出規制どころか輸出禁止にしましょう
韓国企業は中国に工場を持っており、そこで半導体を製造していると思うのですが、今回の輸出管理では、三国間貿易として韓国経由で中国の工場へ出荷した場合の日本側の措置はどうなるんでしょう。ホワイト国ではない韓国とは、日本からの輸出時に最終使用場所などを確認の上、輸出OKとなるんでしょうか。
韓国に輸出した物資が、第三国に移動しないための管理なので不可能かと思われます。
今回の輸出管理強化は安倍政権の下で行われた素材に関する管理強化のみならず製造装置に関しても管理を強化する(つまり他国への移転はしないということを韓国側に確約させて輸出する)ということですよ.
ですから,韓国の半導体企業が1件でも製造装置を中共にある工場に勝手に移転して輸出許可を日本政府から受けた時の約束を破ったら,少なくとのその企業への日本からの半導体関連製造装置(のみならず素材さえも)は全面禁輸になる可能性が高い.(日本政府が自分で禁輸とまでは判断しなくても,対中戦略の中心に半導体で干上がらせる戦略を採用しているアメリカ政府から「直ちに切り捨てろ」と日本政府に命令が下ると予測します)
場合によっては,サムスンとハイニックスの片方だけが輸出許可時の約束を破っただけとしても,アメリカ政府からは日蘭両方に対して「裏切り者の韓国半導体は即座に切り捨てろ」と半導体関連素材・装置に関して対中だけでなく対韓全面禁輸の指示が下る可能性もあると考えます.
管理も規制も そもそもの概念の区別が彼等には難しく 理解出来てない可能性が、、、。
放火も防火も同じ文字になる様な国です。少しでも複雑になると、理解が追い付かなくなるのです。
彼らにとって、資材の輸入に何かしらの手続きがあると 規制されたと被害者面するのです。
なので、日本は コメントしたあと全てで「輸出管理は規制ではありません」と淡々と付け加えるのがいいかと。
彼らが理解出来るかどうかは関係ありません。日本人が騙されないための措置です。
(雑感)
韓国:日本は半導体規制をやめろ!
日本:韓国は半導体寄生をやめろ!!
・・。
毎日の更新お疲れ様です。前回の輸出規制とやらは詐称徴用工報復としていましたが今回の管理強化はどうするか見物ですね。外務省から横槍に対しての、或いはマスゴミの印象操作に対して良い対処と思います。
韓国紙は、一記事にひとつは「ウソ」が含まれていますよね。韓国紙の言うことをそのまま報道するので、まだ韓国を信じる日本人がいるんですよね。馬鹿らしい。
韓国人を「息を吐くように嘘をつく」といいますが、韓国人は「最初から」ウソを付いている・ウソで成り立っているという認識をすべきでしょう。
「韓国人の殆どは両班の子孫」というのも巨大な大嘘ですし、韓国人のソウルフード・キムチは「伝統色」ではありません。キムチを固有の食べ物と定義するには、2つの要素が必要です。1つは唐辛子を使っていること、もう一つは白菜を使うこと。白菜は中国原産ですが、栽培が難しく、日本人の農学者が栽培に成功したのは大正時代です。固有の食べ物と認識できるキムチが作られるようになったのは、日韓併合以後です。
このように、韓国はウソにまみれています。我々が覚悟しておくことは、韓国人は絶対に変わらないということでしょう。
「管理」ということばや概念が理解できないから使えないのでは?
同感です。
元々は表意文字体系が前提である言語から表意文字を抹消した結果、コトバの音韻とその内包する意味が乖離してしまって、韓国では一般的な言葉あっても、その抽象的な概念の把握力の激減が起こっているのだと思います。
加えて、動かせない結果が先にある韓国風ロジック(例えば「日本は絶対悪で韓国は絶対善である」)では物事の因果関係が把握出来ないばかりでなく、現状認識までも歪められてしまいます(例えば「レーダー照射事件」)。
その結果、「自分の欲しいものが前提条件なしに無限に手に入れる事が出来ないならばそれは規制されているからに違いない」と考えてしまっているのでしょう。
「輸出管理と輸出規制はまったく別物」
なんですが、オツムの弱い方々にいくら説法しても理解しえもらえないでしょう。
釈迦に説法ではありますが、そもそも法律の正式な名前は「外国為替及び外国貿易法」で輸出管理はその体系の一部となっています(経済産業省HP↓)
https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/01_gaitame/gaiyou.html
輸出管理の「管理」という言葉は便利なのですが、何かをコントロールする・禁止するというニュアンスを連想させて、元々「規制」と誤解されやすい言葉です。しかし、実際の輸出管理に関する日本の条文はよく読めば何かを禁止しているのではなく輸出許可を得るための、ただのプロトコルです。
従って、「輸出”管理”を厳格化した」と言うより「輸出”手順書”を改定しただけよ。何か文句あるのかさ」と言い放つ方が正確です。
即ち、管理を厳格化した==>禁止の範囲を広げたと連想するのに対して
手順を改定した ==> プロトコルをややこしくして提出書類を多くした
の違いであります。(もっとも実務者にとっては後者の方が仕事が増えて大変となりますが)