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時限爆弾と化した日韓慰安婦合意

岸田文雄首相による雑な「岸田ディール」のせいで、日韓諸懸案の多くが未解決で積み上がってしまった格好ですが、その「未解決の懸案」のひとつが、いわゆる慰安婦合意です。これは故・安倍晋三総理大臣が朴槿恵(ぼく・きんけい)政権と取り交わし、文在寅(ぶん・ざいいん)政権が破棄したものですが、ここに来て、韓国にとっての思わぬ「時限爆弾」となる可能性が出てきたようです。

岸田ディールの敗北

自称元徴用工問題を巡っては、基本的には「岸田ディール」の敗北である――。

これが、当ウェブサイトにおける現時点の結論です。

今朝の『日韓関係巡る「松川理論」にネットコメントは冷ややか』を含め、これまでに何度となく触れてきたとおり、自称元徴用工問題では、2018年の韓国大法院(※最高裁に相当)の違法な判決も無効化されず、「財団」における求償権も放棄されていません。

日韓関係を巡る「松川理論」というものがあります。これは、自民党・安倍派の松川るい参議院議員が好んで使う詭弁のことで、「日韓諸懸案で日本が誠意ある呼応をしなければ韓国の保守政権である尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が追い込まれる」、「だからこそ日本の誠意が必要だ」、などとする、メチャクチャな主張です。日韓関係界隈には、この「松川理論」を好む人は結構多いようです。岸田ディールの愚岸田ディールは「歴史的」:ただし「良い意味」とは限らないが…歴史的な「岸田ディール」から2週間が過ぎました。「岸田ディール...
日韓関係巡る「松川理論」にネットコメントは冷ややか - 新宿会計士の政治経済評論

尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が遅くとも4年後の2027年5月に終了すれば、かなり高い確率で韓国はこの「求償権」を行使してくるでしょう。

2027年といえば、まかり間違って2024年9月の自民党総裁選で岸田文雄首相が再任されたとしても、自民党総裁としての2期目の任期が終わるタイミングです。岸田首相にとっては、そんな先の話にはあまり関心がないのかもしれません。

良心と知性を日本に要求する韓国メディア

こうしたなか、韓国側では「日本の誠意ある呼応」がなかったことに関連し、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には、中央日報の論説委員によるこんな記事が掲載されていました。

【コラム】日本の良心と知性を期待する

―――2023.03.20 11:04付 中央日報日本語版より

相手に何かを求めるならば、自分たちの側にそれがあるのかを自問してからにした方が良いと思うのですが…。

それはさておき、このコラムでは今回の「岸田ディール」、あるいは韓国から見た「尹錫悦ディール」を巡って、こう不満を述べます。

核心の徴用問題に対する岸田首相の直接の謝罪はなかった。被告企業も賠償には参加できないという立場だ。日本では『完勝』というが、韓国では『屈辱的な交渉』という。韓国大統領は地雷畑のまん中に立っている」。

著者自身は今回のディールが「日本の完勝だった」とはまったく考えていませんが、韓国側ではこのディールがむしろ日本の勝利と認識されているということでしょう。昔から利権を持っている者はその強欲に溺れるといわれますが、その法則の正しさが、改めて確認できた気がします。

ちなみにこの論説委員は、こうも述べます。

日本は韓国人がなぜ憤怒するのかを知っているのだろうか。韓国はカイロ宣言にある通り『奴隷状態』で36年を過ごした。それで敗戦国の日本を相手にした連合国講和会議の正式メンバーとして参加しようとした。臨時政府が第2次世界大戦以前から日本と戦争状態にあり、中国に日本と戦った韓国人師団があり、上海臨時政府が宣戦布告した事実を米国に伝えた」。

日本の35年間の朝鮮半島統治を「奴隷状態の36年」と呼ぶというウソつきぶりにも呆れますが、こうした認識こそ、私たち日本人にとって韓国を「信頼できない国」にしているという点に、どうして気付かないのかが不思議でなりません。

慰安婦合意はどうなった!?

ところで、火器管制(FC)レーダー照射事件、韓国国会議長による天皇陛下への侮辱、仏像窃盗問題、韓国による日本の水産物への輸入規制など、韓国が積み残したままの懸案は多数あるのですが、そのなかでも韓国の約束破りを象徴するものが、自称元慰安婦問題にかかる慰安婦合意破りの問題でしょう。

これに関連し、韓国の「左派メディア」として知られる『ハンギョレ新聞』(日本語版)に20日、こんな記事が掲載されていました。

日本の「慰安婦合意履行」要求…改めて争点化か

―――2023-03-20 08:12付 ハンギョレ新聞日本語版より

ハンギョレ新聞によると、16日の日韓首脳会談で岸田文雄首相が尹錫悦大統領に対し、慰安婦合意の「着実な履行」を求めたとの日本メディアの報道を巡って、この問題が「韓日関係の新たな争点として浮上している」というのです。

具体的には、2015年の合意で日本政府が「和解・癒し財団」に拠出した10億円の残りの活用案などが「問題化することが予想される」として、次のように解説します。

日本政府は2015年の韓日『慰安婦』合意にもとづいて10億円を和解・癒やし財団に拠出しているが、そこから被害者に47億ウォンが支給され、財団には56億ウォンが残っている」。

また、政府は財団の解散を決めた後の2018年、和解・癒やし財団に日本が拠出した10億円を代替することを目的として、予備費103億ウォンを編成し、女性家族部が運用する両性平等基金に拠出している」。

結果的に、韓国には日本が拠出した10億円の残額・56億ウォンと、韓国政府が拠出した103億ウォン、合計約160億ウォンの資金が浮いている状態なのだそうです。

日本は基金の「目的外使用」容認せず

正直、韓国政府の資金の方は韓国が勝手にすれば良い話ですが、それよりも日本が拠出した金額の残額をどうすれば良いかに関し、ハンギョレ新聞は国家安保室の第1次長が18日、YTNとのインタビューで答えたとされるこんな発言を紹介します。

今後両国がさらに行うべき措置は残っていない。和解・癒やし財団の残額を適切に韓国が未来志向的に使えば良い」。

しかし、ここで問題が生じます。

日本政府は残された基金56億ウォンを必ず『慰労金』名目で使うべきだと主張しており、残る被害者は慰労金を受領していないため、これといった解決策は見当たらない状況だ」。

また文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の2017年に外交部直属のタスクフォースが調査したところ、日本政府が朴槿恵(パク・クネ)政権に、少女像の移転▽『性奴隷』という用語の使用禁止▽関連市民団体の説得などを要求し、朴槿恵政権はこれを受け入れていたことが明らかになった。日本政府が『慰安婦』合意の履行を要求してきた場合、これらも問題視する可能性が高い」。

…。

つまり、早い話が、日本は基金の「目的外使用」を認めない、ということです。ここでも安倍晋三総理大臣や菅義偉総理大臣の深謀遠慮が効いているのです。

実際、慰安婦合意を破棄した文在寅(ぶん・ざいいん)政権時代の「タスクフォース」によれば、たしかに朴槿恵(ぼく・きんけい)政権との間で、韓国政府が日本側とこのような合意を取り交わしたことが、ここに来て韓国をかなり厳しい立場に立たせているのです。

本当に韓国のためになったのか

このあたり、岸田「宏池会」政権の在任中は、日本政府がこの慰安婦合意の再履行を要求しないという可能性ももちろんあるのですが、岸田首相が何らかの原因で無事辞任し、後任に「それなりの総理大臣」が就任すれば、自称元慰安婦問題が韓国にとっての「時限爆弾」として炸裂するという可能性が出て来るのです。

このあたり、実務能力がない人物が日本の首相を務めているということは、日本にとっては不幸なのですが、それが韓国自身にとっての幸運である、というものとも限りません。

もしも日韓ともに賢明な首脳が本気で日韓関係を改善しようと思うのならば、「包括的解決」などと雑なことを言っていないで、本来ならば日韓諸懸案を巡って忌憚なき意見交換を行い、懸案をひとつずつ片付けていかなければなりません。

そして、これらの諸懸案については国際法に従い、場合によっては国際司法裁判所(ICJ)や日韓請求権協定に定める第三国仲裁手続など、国際社会の力を借りながら、国際的にオープンな方法で、ひとつずつ解決しなければならなかったのです。

その手続をわざとすっ飛ばしたことが、果たして韓国自身にとって良いことだったのか――。

ちなみに2015年の慰安婦合意は、ジョー・バイデン米大統領がバラク・オバマ政権時代の副大統領だったころに仲介の労をとったものであり、韓国がこの合意を履行しないこと自体、長い目で見て韓国が約束破り国であることを、米国自身も認識するということにもつながります。

正直、現在の米国を眺めていると、中東や極東などさまざまな地域の諸課題がおざなりになってしまっていますが(※今回の「岸田ディール」も米国の極東政策の失敗でしょう)、韓国の無法行為を放置すること自体、米国にとってもいずれ看過できなくなるでしょう。

「文明的な対話」と主張するならば…

ここで思い出しておきたいのが、先ほど紹介した中央日報のコラム記事にある、こんな記述です。

韓日は文明史的な対話を始めることが求められる。前世紀に欧州は2度の世界大戦で衝突したが、和解して経済・安全保障共同体を作った。両国も和解と共存のアジア時代を開かなければいけない」。

文明史的な対話以前に、韓国が必要なのは、自分の国が約束を破り、ウソをつき続けているという事実に向き合うことです。その意味では、今回の雑な岸田ディールが本当に韓国のためになったのか、韓国の皆さんはいま一度、じっくりと考えてみられてはいかがかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (29)

  • 日本はひたすら慰安婦合意を守れといっていればいい
    竹島は国際司法裁判所に引きずり出しましょう

  • 仕事が雑で深慮遠謀の無い岸田氏は、ここに来て日韓両国への時限爆弾か地雷になりました。次の総理総裁は、まさか岸田首相以下のヒトは、首相には成れないでしょう(たぶん)。やはり実務が出来ない人は、国のリーダーになってはいけない見本です。特に周囲がゴロツキ国家ばかりですから、ふらふらではなく、強いリーダーを求めます。

  • 「日本は韓国人がなぜ憤怒するのかを知っているのだろうか。」

    ==> 多くの日本人も憤怒に燃えておるぞよ。
    両国とも納得していない国民が多い岸田ディールの賞味期限は案外短いかも。

  •  自称元徴用工問題についても、自称元日本軍性奴隷問題についても、「解決」という言葉の意味が日本政府と韓国政府とでは180度異なっているため、双方が「解決した」と納得できるようになることは永遠に無いと思います。永遠の平行線、パラレルワールドです。
     現在、自称元徴用工問題は、韓国政府の「財団による第三者弁済案」で解決したように見えているだけで、将来、「やっぱり解決していない」として「ちゃぶ台返し」があることは必定だと思います。
     日韓両国民の「歴史問題」に対する考え方がこれだけ正反対になっている以上、日韓の「和解」というのも永遠に無いと考えるべきだと思います。

  • >>かなり高い確率で韓国はこの「求償権」を行使してくるでしょう。
    日本は、ちゃぶ台返しは想定済とハッキリとプライムニュースで明言してました、韓国は未だ口先で言っただけですから。

    >>日本では『完勝』というが・・・
    日本(日米韓対中国プラス北)と韓国(国内問題)では土俵が違うので勝ち負けは初めから存在しないよ韓国人。

  • イジェミョン党首が逮捕・起訴され、共に民主党が解体されたのち、後任の大統領がハンドンフンであれば・・無事求償権の時効を迎えることが出来るかもしれませんね。可能性の話ですが。

    ともあれ、会計士さんがおっしゃる通り、大法院判決はそのまま。その他の諸懸案はほったらかしなうえ、経済協力がどうとかこうとか。

    何やら既視感が漂っていますね~。

  • ドラえもんみたいな体型のかの国の偉い人「ちきゅうはかいばくだん~」

  • >尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が遅くとも4年後の2027年5月に終了すれば、かなり高い確率で韓国はこの「求償権」を行使してくるでしょう。

    朴政権同様の「新ローソク革命」が巻き起こり、尹政権は4年の満期前に崩壊するような気がします。
    私の記憶では、慰安婦問題合意の直後の韓国世論調査では賛成が反対を上回っていたように思います、にも関わらずあっさりと世論は反対多数、ローソク革命へとつながりました。
    今回の募集工に関しては今の段階で韓国の世論は既に6割が反対、これではあっという間に政権崩壊しかねません。

    次の政権は左派の可能性が極めて大、そうなれば、従来の「慰安婦合意の不履行」に加えて新たに「募集工求償権の行使」と「日本統治の不法性」が問題化され、日韓関係は戦後最悪の状況を更新するものと思います。
    今回の岸田さんの「短期的な日韓関係の改善を目指した行動」が、結果的により致命的な「長期的な日韓関係の改悪」をもたらすことになるのです。

    各種メディアの世論調査で岸田内閣の支持率が上がったと喜んでいるのかもしれませんが、保守層は元々不支持だったので変わらず、韓国好きが多い婦女子が支持に回っただけと推測します。
    長らく自民党を支えてきた岩盤保守層は確実に自民党離れを起こしている現実、正しくご認識くださいませ。

  • 待ちに待った世論調査の結果が出そろってきたようです。

    https://news.yahoo.co.jp/articles/196bbdfe91ec06bc9cf57f02744d281f38ea7605

    ・岸田-尹の日韓首脳会談
    →読売65%、朝日63%、毎日64%が肯定的評価

    ・韓国が発表した徴用工解決策
    →読売58%、朝日55%、毎日54%が肯定的評価

    ・岸田政権支持率
    →読売42%(+1)、朝日40%(+5)、毎日33%(+7)

    (参考:NHKでは7か月ぶりに支持率が不支持率を逆転)

    管理人様は日本国民は非常に賢明とおっしゃいましたがその通りの結果がでました。

    ・サイレントマジョリティたる非常に賢明な大多数は岸田ディールを評価
    ・ノイジーマイノリティたるごく一部がSNS等で岸田ディールを激しく批判

    これらのことが確実に明かされました。

    本件の本尊たる読売新聞はご満悦と言うのが数字からもわかります。
    私は今後も岸田先生が韓国と交流、譲歩するたび支持率が上がっていくと愚考します。

    岸田先生のもと日本の将来は極めて明るいというのが本世論調査の結果でしょう。

    今夜は倍ダブチセットとポテナゲ(大)をおいしくいただきますw

    • 誰からも相手にされてなくて必死ですね。実生活でもそうなのかな?(笑)マスゴミの世論調査を信じてる時点で可哀想としか言いようがない。。。

    • 匿名 様

      大変に興味深いですね。

      今後日韓両国が世論調査でどのような数字を「出してくるか」も争点となりそうです。

      熾烈な情報戦が予想されます。

    • 2年前の前回衆院選。
      朝日新聞は電話+ネットの世論調査でほぼ正確な予想をしました。

      結構侮れないと考えます。

      今回も若者は不支持で高齢者ほど支持。
      韓国では不支持が多数。

      これもほぼ妥当であると考えます。

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