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剛速球や変化球、酒の力を使ってキシダを騙せ=韓国紙

自称元徴用工問題を巡り、韓国側の「日本に非を認めさせるための努力」の第一段階が失敗に終わったことは、ほぼ間違いないと考えて良いでしょう。『朝鮮日報』の昨日の記事に続き、韓国メディア『ハンギョレ新聞』にも同じような趣旨の記事が掲載されたからです。もっとも、韓国側では尹錫悦(いん・しゃくえつ)大統領に対し、「剛速球を投げようと、変化球を駆使しようと、酒で対決しようと、岸田首相と強く最終談判せよ」と要求する記事も出てきたようです。

朝鮮日報の報道内容

昨日の『日本政府、「賠償に被告企業は不参加」と結論=韓国紙』でも取り上げたとおり、韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)は2日付で、「三菱重工や日本製鉄が「いかなる形であれ被害補償には加わらない」などとする立場を日本政府が最終決定したと報じました。

韓国紙『朝鮮日報』(日本語版)は2日、自称元徴用工判決問題に関し、日本政府は三菱重工や日本製鉄が「いかなる形であれ被害補償には加わらない」、「経団連が『日帝強制動員』という名前を持つ財団には寄付できない」、などとする立場を最終決定したことが「1日までにわかった」と報じました。これが事実なら、まずは歓迎すべき決定でしょう。自称元徴用工での対韓譲歩外務省が国益を売り渡そうとしていた!?以前から当ウェブサイトでは、どうも日本の外務省が自称元徴用工問題を巡り、国益を売り渡そう東しているのではないか、...
日本政府、「賠償に被告企業は不参加」と結論=韓国紙 - 新宿会計士の政治経済評論

朝鮮日報はこれを「(自称元)徴用工問題に詳しい韓日両国の関係筋」が伝えた、などと報じているのですが、記事の内容から判断する限り、おそらく主な情報源は韓国政府でしょう。といのも、朝鮮日報が伝えた日本政府の立場とこれに対する「ある消息筋」の反応の概要が次のようなものだからです。

  • <自称元徴用工判決の被害者である>三菱重工業と日本製鉄の両社は、いかなる形であれ、被害補償には加わらない。被告企業がいかなる形であれ財団に資金を出せば、韓国の大法院判決を認め、賠償金を支払う形になるため受け入れられないからだ
  • 日本政府は経団連による「自発的な寄付」には反対しないものの、その場合でも「日本による朝鮮の植民地支配は合法的に行われた」とする立場上、「日帝強制動員」という名称を持つ団体に寄付はできず、新たな財団を立ち上げなければ寄付金の拠出はできないと考えている
  • これについて東京のある消息筋は「尹錫悦政権が徴用問題解決を急ぐかのような動きを示したため、日本政府はこれを悪用し何の責任も取らないつもりだ」と批判した

…。

そして、もしこの情報源が韓国政府側からも裏付けが取れたものであるのだとすれば、日本政府が韓国側の自称元徴用工問題「解決案」を「蹴った」可能性はかなり濃厚といえます。あの「強気」の韓国政府が、みずから「敗北」を認めた格好だからです。

同じ内容の報道がハンギョレ新聞にも

これに関して「保守系」の朝鮮日報だけでなく、「左派」とされる『ハンギョレ新聞』(日本語版)も3日、やはり同じような趣旨を報じました。

日本政府、被告企業は「賠償に参加しない」方針固めたもよう

―――2023-03-03 06:59付 ハンギョレ新聞日本語版より

ハンギョレ新聞は「外交筋」が2日、次のような説明を行ったのだそうです。

韓日外交当局は強制動員被害賠償に日本の被告企業が参加する問題をめぐり大詰めの交渉を行っているしかし、日本側が被告企業は賠償金に参加しない案を最終決定したことがわかり、政府は日本との交渉を続けるかどうかについて頭を悩ませている」。

これに関し、記事ではまた、日韓外交関係に詳しい消息筋は次のようにも述べているとしています。

  • 被告企業がお金を出すよう韓国政府が(日本側に)圧力をかけてきたが、結局お金を払わない方向に固まっている状況
  • 被告企業の取締役会で(賠償への参加は)背任という反発の声もあがっているようであり、被告企業の最高経営者(CEO)としても独断で決めるのは難しい状況

このあたり、「三菱重工や日本製鉄といった企業が財団にカネを出すことを決定するのは難しい」というのは、まったくそのとおりでしょう。どこかの怪しい自称会計士が運営するサイトに掲載された『日本企業は徴用基金に拠出なら株主代表訴訟を覚悟せよ』なる記事でも指摘されていた論点でもあるからです。

何を勝手に話を進めているのでしょうか。韓国メディア『中央日報』(日本語版)の報道によると、韓国側では自称元徴用工らへの賠償金が足りなくなる事態に備え、韓国の「全軽連」とともに日本の経団連が共同で管理する機構を別途創設する案の検討が(勝手に)進められているようです。何かとツッコミどころは尽きませんが、ひとつだけ指摘しておくなら、もし日本企業が迂闊にもこの案に乗れば、株主代表訴訟を覚悟せねばならない、という点でしょう。お話にならない「肩代わり案」『自称元徴用工問題で並存的債務引受を公式化=韓国政...
日本企業は徴用基金に拠出なら株主代表訴訟を覚悟せよ - 新宿会計士の政治経済評論

いずれにせよ、2日付の朝鮮日報の報道は、3日付のハンギョレ新聞の報道でも裏付けられた格好であり、この記事をもって「韓国による日本に非を認めさせるための努力」の第一弾は、めでたく失敗に終わったと考えて差し支えないでしょう。

「福島汚染水問題に備えて早期解決を」=韓国政府

もっとも、韓国がこれで引き下がるような相手ではないことも間違いありません。

自称元徴用工問題のみならず、竹島不法占拠や火器管制(FC)レーダー照射、慰安婦財団の一方的解散、当時の国会議長による天皇陛下に対する侮辱発言など、日本に対する数々の非礼行為や犯罪行為を働いておきながら開き直るような国だからです。

実際、ハンギョレ新聞の記事には、こんなくだりもあります。

これを受け、合意に失敗した場合、韓国政府が先に最終案を発表し、日本に圧力をかける案が検討されているという」。

ここでいう「韓国政府が先に発表する最終案」とは、「第三者弁済」に日本の被告企業の参加を求める内容が盛り込まれたもので、「日本政府に最終的な圧力をかける」ためのものなのだそうです。

もっとも、ここでハンギョレ新聞はまた、興味深いことを述べています。

福島第一原発汚染水の海洋放出など、韓日関係に影響を及ぼしかねない悪材料が目前に迫っていることも、政府が強制動員交渉を急ぐ理由の一つとみられる。<中略>他の政治的な事案とは異なり、福島第一原発汚染水の放出は健康と直結する問題であり、日本に向けた国内世論を悪化させる可能性が高い事案といえる」。

記事に出てくる「汚染水」とは処理水の誤りであり、「強制動員問題」とは自称元徴用工問題の誤りです(中央日報などが「強制徴用問題」と呼ぶところを、ハンギョレ新聞は「強制動員問題」などと呼ぶことが多いです)。

ただ、ここで重要な点は、「日本が汚染水を海洋放出したら韓国国民の対日感情も悪化する」、という言い分であり、「韓国国民の対日感情が悪化しないうちに、日本は早く韓国に譲歩して自称元徴用工問題を片付けなければならない」、といったロジックが垣間見えるものです。

韓国側の「次回戦」は?

もちろん、こうしたロジックは、屁理屈に過ぎません。

そもそも自称元徴用工問題を含めた日韓諸懸案も、韓国が国民世論(あるいは国民情緒)を国際法に優先して適用させているために生じているものですし、「韓国世論に配慮して日本が諸懸案で韓国に譲歩せよ」というのも、主張としてはまったく成り立っていないからです。

それに「世論」は韓国だけでなく日本にだってあります。「世論の硬化」という意味では、日本国民の多くは韓国に関し、かなり気分を害していることは間違いありませんので、「世論」を理由にするならば、むしろ「日本国民の世論に照らし、日本政府は絶対に韓国に譲歩してはならない」、という結論になるのが自然な流れでしょう。

しかし、韓国側では今回の自称元徴用工問題を巡る「日本に非を認めさせるための努力」の第一段階が失敗に終わったことを認めたうえで、「次回戦」に備えたものと思えるような記事もありました。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に2日付で掲載されたこんな記事です。

【時視各角】4番打者vs8番打者…韓日首脳のリーダーシップ

―――2023.03.02 13:21付 中央日報日本語版より

執筆者は中央日報の東京総局長です。

これによると、尹錫悦(いん・しゃくえつ)韓国大統領は「野球にたとえれば投手兼4番打者兼監督」で、日本の岸田文雄首相は「聞く力」が自慢の「二塁手・8番打者」だ、としたうえで、次のように述べるのです。

尹大統領の『話す力』と岸田首相の『聞く力』の調和を期待した。実際、いくつかの多国間会合で両首脳が対話をすれば互いによく合うという。<中略>両極端は通じ合うものだ。強制徴用者の問題もそうかもしれない」。

岸田首相と尹錫悦氏が「互いによく合う」という主張は、なかなかに新鮮です。

ただ、尹錫悦政権発足以来の韓国が「日本に非を認めさせるための努力」しか行ってこなかった事実に照らせば、「尹錫悦氏なら岸田首相を騙すことができるはずだ」、という主張にも読めるのです。

日本に非を認めさせる努力は終わっていない!

これについてこの「東京総局長」は、おそらくは「日本に非を認めさせるための努力」が失敗に終わったことを前提としているのか、次のように述べます。

ところが外交的手続きがこじれた。外交当局間の交渉が日本のペースになってしまった。交渉の場を一度蹴って出てきてでもバランスをとる努力をするべきだった。ところがずるずると引き込まれ、いつからか韓国が日本に相応の措置を『要請』する立場になった」。

こうした書きぶりは、自称元徴用工問題の妥結に失敗したことを暗に認めている証拠でしょう。

そのうえで注目したいのが、こんな記述です。

『相応の措置』として金大中-小渕宣言の継承を出しながら、あたかも大変なことをするかのように恩着せがましく振る舞う。個人的な考えでは、尹大統領が剛速球を投げようと、変化球を駆使しようと、酒で対決しようと、岸田首相と強く最終談判をすればいい。それでだめなら『交渉決裂』を宣言すればよい」。

日本人が多く読むであろう日本語版に「恩着せがましいふるまい」といった表現が普通に出てくるあたり、一般の日本国民がこれをどう感じるかという点に想像が働いていない証拠ではありますが、それ以上に興味深いのは、「変化球や酒を駆使して岸田首相を騙せ」といわんばかりの論調です。

そのうえでこの総局長氏は、次のように主張します。

体力が枯渇した状況で韓日戦の残りの選択肢は3つだ。<1>屈辱のコールド負けという非難を受けても迅速に終えて次の試合に進む。<2>試合をボイコットする。<3>あきらめずとにかく持ちこたえる」。

逆に言えば、日本にとっての正解は「そもそも試合に応じない」、でしょう。

冷静に考えてみると、対韓外交が混乱したのも、岸田文雄首相が昨年9月のニューヨークで、あるいは11月のカンボジアで、尹錫悦氏との首脳会談に安易に応じてしまったことがその原点です。今回は韓国に騙されないで済んだかもしれませんが、やはり岸田首相の対韓外交に危うさはのこります。

その意味では、韓国による「日本に非を認めさせるための努力」は、終わっていないのです。

新宿会計士:

View Comments (23)

  • > 日本との交渉を続けるかどうかについて頭を悩ませている

    「・・・。」
    なぜROKが、ROKの国内問題について日本に内政干渉してくれと懸命に頼んでくるのでしょうか?不思議ですね。

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    鳩山由紀夫(元)総理:「日韓関係改善のために、私を日本の総理にしろ」
    本当に言いそうだな。
    蛇足ですが、韓国としては、岸田総理より騙しやすい鳩山由紀夫(元)総理を推しているのでしょう。

  • >>「投手兼4番打者兼監督」
    草野球かな?
    それはともかく、その試合は大昔に決着がついたのだと何度言えば……。

  • 韓国に関わらない方が物事はスムーズに進む
    日本はこれだけで良いのですよね。

    韓国が「外交的・国際社会的に」最善の結果を得るには全面的に非を認めて指摘された問題点を改善したうえで「改善したので確認してください」と出るくらいしかなかったでしょう。
    それくらい文大統領らのやらかしは大きい……のですが韓国がそれを官民ともに理解してないので、どうしようもないでしょう。

    結局、韓国と関わっても韓国が何か変わるわけではないので関わらずに、韓国がろくでもない言動をしたら即掣肘する、これくらいしか対策がなくなってしまったのではと思うのです。

  • ゴチャゴチャ言わずに現金化しろ
    何故自国の裁判所の決定に従わないのか?

    • >何故自国の裁判所の決定に従わないのか?

      それは、裁判所は大統領の方針に忖度する存在だからです。
      つまり、三権分立してないんだけど、都合の良い時だけ「我が国は三権分立ニダ」と言います。

  • どっちみち日本の完勝でも0:100の0ですからねぇ。。相手にしないのが一番ですね。
    〉野球にたとえれば投手兼4番打者兼監督
    野球にたとえれば日本の大谷選手と言ってくれれば騙される日本人もいるかもしれませんよ。

  • 酒の力と言えば故中川昭一氏を思い出します。まあ、林外相はそこまでしなくてもやらかす懸念ありますが

  • 中央日報曰く:「大韓民国は大韓民国政府のお金で被害者に賠償する」

    https://japanese.joins.com/JArticle/301581

    「大韓民国政府のお金」→「大韓民国が日本から受領済で、ポッケナイナイしていたお金」と正直に言って欲しいものだ。

  • 韓国は、色々な因縁をつけてフル活用して、日本に非を認めさせる努力をしてますね。
    でも日本としては、イチャモンではなく正々堂々とプレッシャーをかけていってはどうかと思うんですよね。
    例えば、首相の靖国参拝などは、日本の国内問題であり他国が干渉する類の問題では無いと常々思っています。そして、首相は公式に靖国参拝するべきだとも思っています。
    ならば、交渉のカードとして、いつまでも種々の嘘八百の事案を改めないなら、今まで気を遣って配慮してきたことは一切止めるっていう宣言をテーブルに出したらどうかと思うんですよねqその筆頭が靖国参拝。
    我慢して配慮してきたけど、さっさと非を認めないならいい加減配慮やめて参拝するからねって一言言えばいいのにっていうのは違いますかね?

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