結果的に、増税の結論は来年の税調に持ち越しだそうです。岸田文雄首相が打ち出した、防衛財源を増税で賄うとする構想を巡っては、自民党内でも反発が非常に強く、一部議員はツイッターなどを通じて強く反対する意思を改めて示しています。こうしたなか、今回の「増税一件」は、「宏池会政権」の求心力の低下を通じ、結果的に自民党側があと2年弱の期間、集団指導体制を確立するきっかけになるとすれば、さほど悪い話でもないのかもしれません。
目次
順序が違う!唐突な1兆円増税
防衛費の増額を巡って、岸田文雄首相は先週、「1兆円増税」構想を唐突に打ち出しました。
これに関しては先週の『税収3兆円増えているのに「1兆円の増税が必要」の怪』でも詳述したとおり、端的に言えば「順番が違う」と断言せざるを得ません。そもそも1兆円ていどの財源であれば、わざわざ増税に依存せずとも、歳出削減や経済成長などにより自然に捻出できるレベルのものです。
増税原理主義・財務省の手先としての正体を隠そうともしなくなったのか――。読売の報道によれば、岸田首相は2027年時点で年間1兆円程度の税収増を目指す方針だとしていますが、本末転倒した議論と言わざるを得ません。すでに今年だけで3兆円も税収が上振れているのです。むしろ現在の日本の場合、税金は「足りない」のではなく「取り過ぎている」のです。「年1兆円分を増税で」=読売報道まともに経済学を学べばわかるはずのことを、なぜか理解していない人物が、日本の首相を務めているというのは不幸です。読売新聞オンラインに掲... 税収3兆円増えているのに「1兆円の増税が必要」の怪 - 新宿会計士の政治経済評論 |
問題は、それだけではありません。
『生活保護に学ぶ財政再建:「増税する前に資産を売れ」』などでも指摘しましたが、そもそも国が生活保護を求める国民に対し、「資産を売れ」、「あらゆるものを活用せよ」と要求しているわけですから、国も増税を求めるより先に、「資産を売ること」、「あらゆるものを活用すること」を検討する方が先です。
「資産を売りなさい」、「能力を活用しなさい」、「あらゆるものを活用しなさい」。これは、私たち国民が生活保護を求めようとしたときに、政府が国民に要求する内容です。このこと自体は仕方がないのかもしれませんが、逆もまた真です。もし政府が財源不足に陥りそうになるのなら、増税よりも前に「資産を売りなさい」、「能力を活用しなさい」、「あらゆるものを活用しなさい」と要求する権利が、私たち国民の側には存在するのです。「生活保護の前に資産を売れ」生存権と生活保護日本国憲法第25条第1項によると、すべての日本国民... 生活保護に学ぶ財政再建:「増税する前に資産を売れ」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
巨額の含み益を生じている外為特会、同じく巨額の財政融資資金を筆頭に、役人の天下り先と疑われる無駄な特殊法人、文部科学省が認可しまくっている「F欄大学」への教育経費補助予算など、見直すべきところはいくらでもあります。
何なら、都心部に優良不動産物件等を山ほど保有し、連結ベースで1兆円をこえる金融資産(※年金資産を含む)を抱え込んでいるNHKの改革に手を付けることも必要でしょう。
こうした「やるべきこと」をやらずに増税というのもおかしな話ですし、常識的に考えて、国民の理解が得られるとも思えません。
党内のみならず閣内からも猛反発
ただ、それ以上に今回の「増税ショック」で印象深いのは、自民党内に加え、閣内からも公然と批判の声が上がっていることでしょう。
『高市氏ら党内・閣内関係者からも岸田首相に相次ぐ批判』などでも触れたとおり、高市早苗・経済安全保障担当相や西村康稔経産相らは、閣僚という立場にありながら、「岸田増税」に対しては批判的な姿勢を示しています。
実際、高市氏はツイッターで、「総理の真意が理解できない」、「政府与党連絡会議には私も西村氏も呼ばれなかった」などと情報発信しているほか、複数のメディアの報道によれば、「(これらの発言は)一定の覚悟を持って申し上げている」、「罷免されるなら仕方がない」などとも述べているからです。
ちなみに高市氏は閣僚という立場にありながら岸田首相が唱えた増税方針に異を唱えたことを巡って、一部報道等によれば、「一定の覚悟を持って(批判している)」、「罷免されるなら仕方がない」などとも述べており、むしろ岸田首相側が穏便にことを済ませようとしていることを逆手に取っているフシも見られます。
インターネット上では以前から「宏池会政権はケンカが下手くそだ」と指摘する人もいるのですが、少なくとも本件に関しては、宏池会政権側が高市氏らに気圧されている、という側面があるのではないでしょうか。
朝日新聞「国債発行は許されない」
もっとも、メディアの方は宏池会政権(というか財務省)に親和的であるようです。
たとえば朝日新聞は昨日、「国債発行は許されない」とする社説を掲載しました。
(社説)防衛費の財源 国債発行は許されない
―――2022年12月15日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
朝日新聞の社説は、そもそもの防衛費増額そのものを批判しているようであり、冒頭はこんな記述で始まります。
「政府が戦後初めて、防衛力整備を国債でまかなう方針を固めた。借金頼みの『禁じ手』を認めれば、歯止めない軍拡に道を開く。即座に撤回するよう首相に強く求める」。
個人的には新聞、テレビを含めたオールドメディアが国債を「国の借金」と呼ぶことに強い違和感を抱いているのですが、この点は脇に置くとして、どうして防衛費を国債で賄うことが「禁じ手」なのでしょうか?
また、朝日新聞社説は、こんなことも主張します。
「財政規律は、ひとたび失われると回復が極めて困難になる。巨額の国債を発行し続ける戦後の財政の歩み自体がそのことを示しているはずだ」。
朝日新聞の社説というよりも、財務省のプロパガンダを読まされている気がします。
そういえば、朝日新聞といえば2018年10月ごろ、消費税の増税については「3度目の延期をすることがあってはならない」とする社説を掲載しています。
(社説)10%まで1年 消費増税の先を論じよ
―――2018年10月1日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
これなど、朝日新聞を含めたオールドメディアが、財務省に忖度(そんたく)しているという証拠でしょう(※余談ですが、新聞社は消費税・地方消費税の軽減税率の恩恵を受けているわけですから、その新聞社が消費税増税に賛成の立場から社説を展開したところで、説得力はあまりありません)。
時事通信「反対派の会合はたった5人:増税容認派が巻き返す動きも」
その一方で、時事通信には昨日、こんな記事も掲載されていました。
防衛増税、容認派巻き返しも 反対派、復興財源活用に懸念―自民
―――2022年12月15日07時08分付 時事通信より
これは、岸田首相の防衛費増額のための増税方針を巡って自民党内で反対意見がなお止まらないため、自民党税制調査会が14日、宮沢洋一会長への一任を見送ったとする話題です(※ちなみに宮沢税調会長は岸田首相のいとこです)。
ただ、時事通信はこれについて、こう報じています。
「増税容認派が巻き返す動きも出てきた。首相に譲る気配はなく、防衛財源問題は週内決着へヤマ場を迎えた」。
「出席者によると、『反対意見は賛成より少し多い程度』で増税容認論も目立ってきた」。
この報道が事実なら、自民党内ではあまり増税反対派は多くない、ということでしょうか。
これについて時事通信は、税調関係者の発言を引用するかたちで、当日の会合は「増税を容認する議員に積極的に出席して意見するよう、税調幹部らが促した」としています。
さらに、「13日の集まりで『内閣不信任に値する』との首相批判も飛び出した高鳥氏ら反対派グループ」は、14日にも会合を開いたところ、「出席者は5人にとどまった」、などとしています。
もしも「たった5人しか反対していない」ということであれば、自民党は増税で意思が固まったようなものでしょう。
和田政宗氏が明かす真相
ただ、こうした報道を眺めていて、やはり違和感もあります。
少なくとも著者自身が把握している限り、増税に公然と反対している議員は5人ではないからです。高市早苗氏や西村康稔氏を筆頭に、たとえば和田政宗氏、片山さつき氏、青山繁晴氏、佐藤正久氏、城内実氏など、いくらでも出てきます。
この時事通信の記事を巡っては、和田政宗氏がこんなツイートを発信していました。
和田氏はこの時事通信の記事を「増税推進派の提灯記事」と批判したうえで、「出席者が5人にとどまった」とする時事通信の記述を巡っても、「そもそも5人の会合」に過ぎず、さらに「反対意見が賛成意見より少し多い程度」とする記述についても、「1日目に発言した議員は発言しない仕切り」だと指摘しています。
政治家が直接、ツイッターを通じて情報発信をすることにより、こうやってオールドメディアの印象操作を懇切丁寧に粉砕していくのは、非常に小気味よい話ですね。
「宮沢会長に財源一任」、本当!?
ただ、昨日は結局、この防衛増税の扱いについては宮沢会長に一任された、などとする報道も出ています。
防衛財源扱い、宮沢会長に一任 自民税調
―――2022年12月15日17時31分付 時事通信より
結局、自民党は増税を了承してしまった、ということでしょうか。
これについても、自民党議員のツイートを眺めるのが早そうです。和田氏に加え、片山さつき氏は、これについて議論そのものが来年に持ち越されたと明らかにしています。
とくに和田氏は、「議論はまったく尽くされていない」、「増税なき防衛費増額を実現する」と力強くツイートしています。
これが真相に近いのでしょう。
ちなみにこの「会長一任」とする時事通信の報道に対し、共同通信の方は、「2023年度税制改正では防衛増税の骨格のみを決め、実施時期など詳細の決定は来年の議論に持ち越す」とする税調幹部の談話を引用しています。
防衛増税、実施時期など詳細決定は持ち越し
―――2022/12/15付 共同通信より
この共同通信の記事でも、「増税は既定路線」であるかのように見えますが、少なくとも時事通信の「会長一任」とする記述とは矛盾しているようにも見受けられますが、いずれにせよ、岸田首相が強く主張した増税方針を巡っては、順調に行っていないことだけは間違いありません。
自民党はあと2年弱、宏池会政権を抑えられるか
こうしたなか、個人的には岸田首相率いる「宏池会政権」が独走(というか「暴走」)しているのは、やはり安倍晋三総理が他界したことが強く影響していると考えています。安倍総理という重しを失い、岸田首相ら宏池会政権は、財務省や外務省などの官僚に、やたらと忖度するようになったと考えられるのです。
ただ、今回の「増税」一件でもわかったとおり、岸田首相ら「宏池会政権」に、自民党を円滑に動かす力はありません。
そもそも宏池会自体が自民党内では所属議員数で第5位という弱小派閥に過ぎず、党内第2位の麻生派、第3位の茂木派などと協力しなければなりませんし、宏池会と対立する安倍派(清和政策研究会)は、安倍総理を失ったにもかかわらず、依然として100人近い議員を擁する圧倒的な最大派閥であり続けています。
それに、「(旧)統一教会問題」などで政権支持率が低下しているなか、自身の長男を首相補佐官に任命してみたり、そもそもの適正に疑問がある自派閥の人物を税調会長や外相などの要職に就けてみたり、と、人事面にもさまざまな疑問が頭をよぎります。
なにより、岸田首相に足りないのは、コミュニケーション能力でしょう。
このあたり、もし安倍総理や菅義偉総理あたりであれば、「なぜ増税が必要なのか」をうまく党内に根回しし、少なくとも大規模な閣内不一致を発生させるような失態はしなかったでしょう(※もっとも、その安倍総理も、「後ろから弾を撃つ」石破茂氏を入閣させていたこともありますが…)。
いずれにせよ、自民党政治家らの発言を信頼するなら、増税を巡る結論は来年以降に持ち越しだそうですが、首相自身が力を入れて実現させようとしている増税を巡る異論を抑えることに失敗すれば、そのこと自体が政権の命取りになるかもしれません。
あるいは政権が崩壊しなくとも、政権の求心力は急低下するかもしれませんし、こうなってしまった場合に状況を打破するには、衆院解散総選挙でもするしかないでしょう。
もっとも、この増税騒動を機に、レームダック化した宏池会政権を自民党側がグリップし、今後は今回のような暴走を抑えつつ「集団指導体制」に戻れるのであれば、結果的に「災い転じてなんとやら」、といったところでしょうか。
この場合はあと2年弱、つまり2024年9月の自民党総裁選までの期間は「集団指導体制」としつつ、それまでに岸田首相に挑戦し得る有能な政治家が自民党内で台頭してほしいと感じるのは、著者だけではないと思う次第です。
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そもそも税収は個々の支出と紐ついてるの?
今回、岸田氏はメンツに傷ついたかもしれませんが、顔のない財務省は屁でも無いんでしょうね。
来年にはまた増税の議論をする路線が確定したし、増税をするしないの議論ばかりしてたんで減税の話なんてできもしなくなっちゃいました。むしろ得たものすらあるくらいで。
しかし相変わらず、マスコミの連動はキモいです。どのレベルで気脈を通じているのかよくわからないんですよね。
>この増税騒動を機に、レームダック化した宏池会政権を自民党側がグリップし、今後は今回のような暴走を抑えつつ
国内の話なら言ったあとに軌道修正も可能なのかな?って思うのです♪
ただ、対外の話になると総理がなんか言っちゃうと簡単には取り消せないと思うのです♪
だから、レームダックになった岸田総理が一発逆転狙って変なことしないか、ちょっぴり心配なのです♪
素朴な疑問ですけど、岸田総理には、来年に岸田増税の結論を出せる見通しがあるのでしょうか。それとも(鳩山由紀夫氏と同じく)腹案があるのでしょうか。それとも、ただ問題を先送りしただけでしょうか。(まあ、答えは岸田総理だけが知っていることですが)
別の話ですが、東京都では太陽光パネル設置が義務化されたそうですが、太陽光パネルのメンテナンス費用のことは考えているのでしょうか。(設置費用は1回だけですが、メンテナンス費用は何回もかかります。これも来年に結論を出すのかもしれません)
数年前(コロナ前)にオランダを訪れた際に、歩道に太陽光パネルを貼ってあることに驚きました。「傘でつついても傷まないように表面加工してあるので若干発電効率が低いですが、オランダは面積の小さな国なので」と説明を受け、そのアイデアに感心しました。
わが国は三洋、シャープなど太陽光発電の先駆者だったのですが、政府の政策が混迷した結果、ドイツ、さらには中国企業に大きく追い越され、いまの惨状があります。
都内に戸建てを建設するほどの人なら、設置やメンテナンス経費にたじろぐこともないでしょう。どんどんやっていただきたい。
闇の奥から響く声
「岸田君、、次のミッションはイヌHKのネット課金だ
今度こそ君の手腕に期待する」
岸田も小池も検討だけしていてください。
岸田君(同年齢なのでこう呼ばせてもらいます)という人物は、財務省の小役人の云うことを「聞く力」はあるのかもしれませんが、どうも経済のことを自分で「考える力」及び「考えて判断する力」が全くないように見受けられます。
you tubeたまたま見つけたサイトで、司会の須田慎一郎氏がいみじくも「国民に選ばれたわけでもない有識者や役人が、国民の支持を得た国会議員の声を無視するのか」と指摘しておりました。このあたりの意見、ひょっとしたら須田氏はこちらのサイトをご覧になっているんじゃないかなどと愚察してしまった次第です。
https://www.youtube.com/watch?v=wHEzoxIcIVA
ここに登場して正論を理路正しく述べている城内実議員は、隣県浜松選出の国会議員でありますが、私の地元にこういう国会議員がいないことを、誠に残念に思う今日この頃です。
コーチカイマインドバリバリのキッシーとしては長期政権ニラミ財務官僚の支持をトリツケル為のポチムーヴやも知れやせんが、
宏池会的肝心要の財務省側は既に現政権の将来性を見限っており岸田氏を増税既定路線構築確定の為の捨石とするツモリとかナントカ…
防衛費増額問題も一定の結論に達したようだ。わが国政府(あるいは企業もか)の弊害であるスピード感のない意思決定手法に一石を投じた岸田さんは、よく頑張った。元首相の国葬の件でもそうだったが。
あとは、騒動の中心にいた高市大臣に望むことは、わが国はいまでもアベノミクス体制にあるのだから、10年たってもいまだに出てこない成長戦略を策定していただきたい。経済安保大臣なのだから、これが本業であろう。政局騒動や売名行為に「一定の覚悟」などと、自らを安売りする暇はないはずだ。
どうやら、三原じゅん子姐さんの出番を待つほどのこともなかったな。
支離滅裂で何を主張したいのかいまいち分からない。
防衛費増額問題と言うより、防衛費に託けた増税問題ですね。
防衛費を増額するのは、ロシアのウクライナ侵略・北海道侵略意図、中共の尖閣・沖縄侵略意思、北朝鮮の核・ミサイル開発と恫喝等を考えれば誰が考えても(一部工作員とそれに先導された○○は除く)異論はないでしょう。 (○○はNGワードらしいので伏せます。)
”防衛費は安定財源で”と言う詭弁は自民党内でも否定されたという事でしょう。
ベースの1%部分が既に赤字予算の中なのに、増額の1%部分だけ取り上げて安定財源と言ってもも笑われるだけ。
財務省は増税しか頭にないようですが、政治家ならもう少し高次元の発想をしてほしいもの。
高市さんと西村さんには成長戦略推進期待していますし、岸田さんがこれ以上邪魔しないことを祈ります。
朝日新聞さん、
えらそうなこと言ってないで、世のため人のため率先して低減税率返上して社会に貢献してはいかがですか?率先垂範って知ってます?新聞紙って、ヤギでもなければ食料品じゃあるまいし、人が生きるのに特に無くても困りませんし、なんなら、たばこ税並にしてはいかがですかね。