対韓譲歩なしにミサイル情報共有実現:韓国野党が批判

今から3年前のGSOMIA破棄騒動を思い出しておくと、日本が韓国に対する輸出「規制」を撤回することが無意味であるだけでなく、有害ですらあります。こうしたなか、先日の日米韓3ヵ国首脳会合で、北朝鮮の弾道ミサイル探知と追跡に関する情報をリアルタイムで共有することで合意した点に関連し、韓国の野党が「GSOMIAのの事実上の復活」としたうえで、「バラマキ外交であり屈辱外交だ」と批判したそうです。

輸出管理:基本的な事実関係を無視する韓国

長年のコリア・ウォッチングの経験上、韓国ではそもそも基本的な用語が誤っているケースが大変に多く、辟易します。たとえば福島第一原発で発生するALPS処理水を「汚染水」、自称元徴用工のことを「強制徴用被害者」ないし「強制動員被害者」などと呼ぶことなどは、その典型例でしょう。

ただ、誤った用語を使うことで、問題の本質が見えなくなるのは困りものです。日本政府が2019年7月に講じた、韓国に対する輸出管理を厳格化・適正化する措置(対韓輸出管理適正化措置)なども、その典型例のひとつです。

この輸出管理適正化措置、韓国を輸出管理上の「(旧)ホワイト国」リストから除外するとともに、フッ化水素など3品目の対韓輸出を個別許可に切り替えるなどの措置から構成されているのですが、これを韓国側では輸出「規制」と呼び続けています。

そして、日本のこの輸出「規制」を、韓国メディアなどは、2018年10月と11月に韓国の最高裁に相当する「大法院」が日本企業に対して下した判決(自称元徴用工判決)に対する「意趣返し」、「報復」などと決めつけているのです。

しかし、こうした韓国側の呼称は、基本的な事実関係をいくつも無視しています。

対韓輸出管理の厳格化は日本を守るために必要だった?』などを含め、当ウェブサイトではいままでもう何十回、何百回となく繰り返してきたとおり、韓国の輸出管理で「不適切な事案」が生じたことに伴う措置に過ぎず、経済制裁としての輸出「規制」ではありません。

というよりも、日本の外為法上、輸出管理と輸出規制はそもそも根拠条文が異なっていますし、発動要件も違えば、条文の目的自体もまったく異なるのです。

輸出管理適正化に対するGSOMIA破棄通告とその顛末

さらにいえば、日本政府が発動した措置は、一部品目の輸出管理を「包括許可」の対象から外し、「個別許可」の対象に加えるというものですが、現実にフッ化水素などの韓国向けの輸出は継続していますし、日韓貿易高は過去最高水準にもあります。

そもそも論として、日本から韓国への輸出品目の過半を占めているのは「モノを作るためのモノ」、つまり生産財や中間素材(韓国でいう「素部装」)が中心ですし、日本は韓国を「(旧)ホワイト国」から外したものの、依然として「グループB」という優遇対象国に設定し続けています。

「日本の韓国に対する輸出『規制』により韓日関係が悪化し、韓日貿易も停滞している」とする韓国メディアなどの主張は、こうした基礎的な統計事実などをも無視する机上の空論と言わざるを得ないのでしょう。

ただ、この輸出管理適正化措置に対する韓国側の反応が、また強烈なものでした。

韓国政府は2019年8月、日韓間の軍事機密の取り扱いに関する協定である「日韓GSOMIA」(正確な用語は『秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定』)を破棄することを決定し、日本政府に文書で通告。

しかし、日本側はこの韓国側の行動を相手にせず、それどころか韓国は米国側からGSOMIA破棄の撤回を執拗に要求し、結果的にGSOMIAの効力が切れる直前の2019年11月22日になって、韓国側はこのGSOMIA破棄通告の効力を事実上撤回しました。

なお、韓国側はこのGSOMIA撤回措置を巡っては、「終了通告の効力を一時的に中断しただけ」だと言い張っていますが、『あれから1年:いまだにGSOMIA破棄できない韓国』でも取り上げたとおり、国際法にそのような概念はありませんので注意しましょう。

対韓譲歩は無意味

それはともかく、このGSOMIA撤回騒動は、いわば、日本外交の全面勝利のようなものでした。

韓国側の言い分だと、「日本が不当な輸出『規制』を仕掛けてきたからわが国はGSOMIA破棄で対応した」ということなのですが、日本政府は輸出管理適正化措置を撤回することなく、事実上、韓国側のGSOMIA破棄通告を全面撤回させることができたからです。

この事例は、韓国の瀬戸際外交に対し、日本がまともに相手をする必要はないという、非常に良い事例を作ったのです。あるいは、「日本が韓国に譲歩すれば韓国との安保協力が円滑に進む」という考え方が幻想である、という言い方をすればよいでしょうか。

そういえば、先日の『対韓譲歩は無駄!鈴置氏「日本に韓国を動かす力なし」』でも紹介したとおり、韓国観察者の鈴置高史氏も、日本が韓国に譲歩しようがしまいが、「日米韓3ヵ国軍事協力」の進展にまったく影響は生じないとする趣旨のことを指摘しています。

もう少し正確にいえば、日韓関係というものは、日本が韓国に対して譲歩しようがしまいが、うまくいくときはうまくいきますし、行き詰るときは行き詰ります。というのも、結局のところ韓国を動かしているのは「中国への恐怖」だからです。

つまり、日韓関係も結局のところ、「米中の力関係」に依存しているのであり、日本が韓国に対して何らかの譲歩をしたところで、韓国との関係を「改善(?)」することには何も役に立たないのです。

韓国野党議員が「屈辱外交」と批判

こうしたなか、韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)には今朝、こんな記事も出ていました。

韓米日でミサイル警報情報共有、共に民主が「バラマキ外交、屈辱外交」と批判

―――2022/11/15 08:14付 朝鮮日報日本語版より

朝鮮日報によると、カンボジアで開かれた日米韓3ヵ国首脳会合で、3ヵ国がミサイル警戒情報をリアルタイムで共有することに合意したことを巡って、韓国の野党「ともに民主党」の首席報道官が14日、「GSOMIAの事実上の復活」、「バラマキ外交であり屈辱外交だ」、などと批判したのだそうです。

問題の批判は、この首席報道官が公表した『GSOMIAを復活させるなら輸出規制はどうなりますか』と題する論評に含まれていたものだそうであり、「(韓国)政府は無条件でGSOMIA復活を進めているが、これは国益を害するのはもちろん、韓国国民にとって容認できないこと」とも指摘したのだとか。

朝鮮日報はこの合意について、「訓練状況はもちろん、平時においても北朝鮮の弾道ミサイル探知と追跡に関する情報をリアルタイムで共有するもの」としつつ、これについて韓国政府とその周辺では「2016年に締結したGSOMIA以上の情報共有」との見方が相次いでいるのだそうです。

ただ、これに関してこの報道官は、2019年に日本が韓国向けの輸出「規制」を行ったことに言及し、次のようにも主張したそうです。

  • 隣国として善隣友好を望むのならできることではなかった
  • 現在に至るまで日本は現状回復どころか一切の謝罪もない。これが国益のための外交ですか
  • 国益を無視して尹大統領が韓日関係改善のために焦る理由が理解できない

日本政府は引き続き毅然とした対応を!

このあたり、たしかにこの報道官の発言は正鵠を射ています。

少なくとも輸出管理適正化措置を巡っては、日本政府はなにも立場を変えていないからです。

ちなみに対韓輸出管理適正化措置のうち、3品目の輸出許可を包括許可に戻すことは、経産省の一存でできないわけではありませんが、「(旧)ホワイト国」リストから韓国を除外した措置を元に戻すことは、かなりのハードルがあります。なぜなら、「(旧)ホワイト国」リストは、政令に定められているからです。

もしも日本政府が韓国を再び「(旧)ホワイト国」リストに書き加えようとすれば、その政令改正のためのパブリック・コメントを出さざるを得ず、そうなれば日本国民の強い反発にも直面するでしょう。日本政府が輸出管理適正化措置を全面撤回できる可能性は、現時点で極めて低いのです。

いずれにせよ、自称元徴用工問題にしても、自称元慰安婦問題にしても、日本が韓国に対して「譲歩」することは無意味であるだけでなく、有害ですらあります。今回の日米韓首脳会談は、そのことが改めて明らかになった機会だったのではないでしょうか。

日本政府には引き続き毅然とした対応を求めたいと思います。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    韓国の日米側へのスリよりが激しくなって来ましたが、韓国経済がピンチだからでしょう。
    見返りをかなり要求しているのではないですか?
    そして経済が良くなればまた反日反米路線に戻るんでしょう。

    1. レッドバロン より:

      え?韓国経済ってピンチなんですか?(棒)
      経済誌や一部経済評論家は平均賃金は日本を抜いた。
      韓国にも抜かれた日本は貧しくなる一方だ…なんて
      言っていますが?
      日本より豊かな国に日本の協力なんていりませんよね?

  2. 引きこもり中年 より:

    毎度、ばかばかしいお話しを。
    韓国野党:「日本の対韓譲歩なしに、日本とミサイル情報共有するのはけしからん」
    我々:「岸田総理が韓国側と会うのは不安だ」
    これって、笑い話ですよね。

    1. じゃん🐈 より:

      ごめん、笑えない…..

      1. 引きこもり中年 より:

        笑い話が笑えないのですか、現実が笑えないのですか。

    2. ななっしー より:

      大前提として、
      一方的に難癖をつけておきながら仲良くしてやるから見返りよこせと言う国

      百ゼロの難癖をつけられても 50-50 どころかゼロ百で一旦手打ちにしてもまた難癖つけられる国
      との話なので心配の次元が違うかな。

  3. taku より:

     韓国は、ムンジェイン政権では、日米と中国の間で良いとこどりをする「コウモリ外交」(韓国内ではバランス外交と呼ぶらしい)を展開してきましたが、ユンソンニョル政権になって、日米寄りにスタンスを変えつつあるのでしょう(中国の怒りを買わないようにしつつ)。それはそれで、歓迎したいと考えます。
     対韓国では①日米韓②安保(含む北朝鮮)③対中国包囲網についてのみは、協力できるところは推進すれば良いですが、これ以外のこと全てについては、国家間の約束も守らない鬱陶しい国ですので、段階的縮小方針で臨むべき、と考えます。首脳会談に応じたからと、以前の状態に戻してはいけません。

    1. TDa より:

      いつ裏切るかわからない味方(そもそも味方なんでしょうか?)、無能な味方は敵の猛将よりも厄介だと思うのですけどね。

  4. 美濃屋篠兵衛 より:

    文中の韓国報道官の言葉をちょっと改変して、

    隣国として善隣友好を望むのならできることではなかった
    現在に至るまで韓国は慰安婦合意破棄について現状回復どころか一切の謝罪もない。これが国益のための外交ですか
    国益を無視して岸田首相が日韓関係改善のために焦る理由が理解できない

    なんて立憲民主党泉代表がコメントしてくれないかな~。

  5. 匿名 より:

    福島第一原発で発生するALPS処理水の件にしろ、自称元徴用工の件にしろ、事実に基づかない言いがかりを韓国が仕掛けてきている時点で、もう議論成立の余地がないと思ってしまいます。

    韓国は未だに、事実情報に基づき、適切な考察を踏まえた議論ができないのかと、暗澹たる気分になります。

    何でこんなことが繰り返し起こるのかについて、自分の考察を述べるとすれば、「韓国(韓国人)の意識の根底には日本に対する敵意があり、その敵意を日本に対してぶつけることが目的化している」ということかと思います。

    先日、韓国の国会議員が日本の自衛艦旗(旭日旗)を韓国国会の場で損壊したことについて、自分は、相手国の旗に敬意を払うことは相手国に対する敵意がないことを示すためのもっとも原始的な外交上のプロトコルであることを指摘したうえで、韓国の国会議員がこんな狼藉を働くことや、これに対する公然とした非難が韓国国内で起こらないことを捉えて、「韓国には日本に対する敵意があり、かつ、その敵意を公然と示すことについて抵抗がない国なのだ」という趣旨のコメントを行いました。

    これを踏まえた本件に関する自分の見立ては、「韓国にとっては日本に対する敵意を示すことこそが重要な目的であり、そのための手段であれば、事実に基づかない言いがかりであっても構わないという意識が、韓国の国家レベル、国民レベルで共有されている」というものです。

    自分は、上記の見立てを踏まえ、韓国に対して「話の通じない隣人」という生温かい認識で対応するのは、最早日本にとって危険だと考えております。韓国が日本に対して向けているのは「敵意」だという前提に立って、日本は、「敵」にやられないためには何をしなければならないのか、しっかり身構えて対応する必要があると思います。

  6. ラスタ より:

    韓国が日本とのGSOMIAを破棄するなら、
    それは自衛隊と在日米軍の軍事機密情報を日米の敵国に売り渡すという宣言ですね。
    そのうえで韓国という国家がこれからも存続可能なのか。

    自国が不法にデッチ上げた架空請求に日本の譲歩を迫る勝負。
    その賭け金は自国の存亡。
    自国民を人質に取っているようでもあり。
    それはあいつらのせいだと被害者を装ってもいて。
    150年前から変わらないのですね。

    歴史から学ばず眼を背けているとこうなってしまう、典型のようです。

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