過去2回と異なる今回の韓国「パーフェクトストーム」
久しぶりに、「パーフェクトストーム」という単語が韓国メディアに掲載されていました。何の話かといえば、韓国の貿易収支が7ヵ月連続の赤字を記録するなか、米FRBの利上げも見込まれており、韓国銀行も追随利上げせざるを得ない、といった懸念です。ただ、今回の「韓国危機」、過去2回とはまったく様子が違います。日本が韓国を支援する可能性が極めて低いからです。
目次
円安歓迎論
昨日の『為替介入で2兆円の利益:安易な増税は「Z」の陰謀か』では、10月の為替介入で日本政府に2兆円前後の利益が発生した可能性が高い、という話題を取り上げました。
このあたり、世の中では誤解している人も多いようなので、改めて申し上げておくと、そもそも日本は巨額の外貨準備を必要とする国ではありません。なぜなら、日本の通貨「円」自体が、国際的に広く通用する通貨であり、また、日本が外国から外貨(とくに米ドル資金など)を大量に借り入れている国でもないからです。
もちろん、日本にも国際的な活動を行っているメガバンクなどを中心に、米ドルなどの外貨を借り入れている企業は存在していますが、メーカーなどに目を転じてみると、国全体としての債務は多くが円建てであり、為替リスクもほとんど負っていませんし、通貨危機が生じる可能性は皆無に近いでしょう。
というよりも、むしろ日本は国として、外国有価証券(とくに外債)を大量に保有しています。2022年6月末時点で金融資産側に計上されている対外証券投資は698兆円であり(図表1)、これには銀行等機関投資家や財務省外為特会が保有する外債などが大量に含まれています。
図表1 日本の対外金融資産・金融負債の残高(2022年6月末)
区分 | 項目 | 金額 |
---|---|---|
対外金融負債 | 貸出 | 262兆円 |
債務証券 | 223兆円 | |
株式等・投資信託受益証券 | 260兆円 | |
その他 | 140兆円 | |
金融負債合計(①) | 885兆円 | |
対外金融資産 | 対外証券投資 | 698兆円 |
対外直接投資 | 239兆円 | |
貸出 | 211兆円 | |
その他 | 181兆円 | |
金融資産合計(②) | 1329兆円 | |
金融資産・負債差額 | ②-① | 444兆円 |
(【出所】日本銀行・資金循環統計をもとに著者作成)
巨額の外貨準備、日本にはそもそも不要
図表1でもわかるとおり、日本全体として海外に対して持っている金融資産の総額(1329兆円)は、海外に対して負っている金融負債の総額(885兆円)を444兆円も上回っていますが、これが俗にいう「対外純債権」のようなものです。
したがって、円安になったとしても、日本で通貨危機が生じる可能性は極めて低いですし、それどころか1兆ドルを超える外貨準備も使い様がありません。
財務省が「日本は財政危機だ」などと騙るのであれば、まずはこの不要な資産である外為特会を処分すべきですし、今なら「円安に対する通貨防衛だ」、などと適当なことを言いながら、「通貨防衛」を名目に外為特会をさっさと売り払う好機でもあるのでしょう。
なお、くどいようですが、日本経済は円安で短期的にはさまざまな悪影響に直面しますが(たとえば物価上昇)、中・長期的に見れば、輸出競争力の上昇と輸入代替効果、対外資産の評価額上昇による資産効果など、さまざまなメリットが生じます。
だからこそ、その「ボトルネック」となっている電力供給事情の改善は、焦眉の急です。とくに電力料金の引き下げと電力供給の安定化のために、原発再稼働や新増設は急がれるといえるでしょう。
韓国に迫る「パーフェクトストーム」
もっとも、上記の議論は日本だからこそ成り立つものであり、自国通貨のポジションが弱く、外国から巨額のカネを借りているような国では成り立たない可能性があります。
そして、なんだか、隣国がきな臭くなってきたようです。
【社説】7カ月連続貿易赤字、パーフェクトストームが押し寄せる=韓国
―――2022.11.02 10:20付 中央日報日本語版より
韓国メディア『中央日報』(日本語版)に本日掲載された社説では、久々に、「パーフェクトストーム」という単語が出てきました。これは、韓国経済に2つ以上の悪材料が同時に発生するリスクのことだそうです。
「過去最高水準の家計負債、急激な金利引き上げ、金融危機後で最安値に落ち込んだウォン相場などが家計と企業を固く締めつけている」。
中央日報が最初に指摘するのは、輸出不振と貿易赤字の拡大です。
韓国の輸出は2年ぶりに減少に転じ、貿易収支も7ヵ月連続で赤字を記録したそうですが、これはアジア通貨危機当時の1997年以来、約25年ぶりのことだそうです。
「きのう産業通商資源部が発表した輸出入統計によると、10月の輸出は前年同月比5.7%減少した524億8000万ドルとなった。2020年10月に3.9%減少してから2年ぶりのマイナス成長だ」。
「輸入は9.9%増えた591億8000万ドルで増加傾向を維持している。これで10月の貿易収支は67億ドルの赤字を記録した」。
貿易赤字の問題:外貨流出リスクが高まるから警戒が必要
ではなぜ、韓国の場合は貿易赤字に警戒が必要なのでしょうか。
端的にいえば、韓国企業は外国(とくに米銀)から多額のカネを借りているからです。そして、それらの借り換えができなくなった瞬間、韓国企業の多くは事業活動停止に追い込まれかねないからです。しかも、これに米FRBによる利上げ見通しが追い打ちをかけます。
「弱り目にたたり目で米連邦準備制度理事会(FRB)が今週に政策金利をもう一度大幅に引き上げると予想される」。
そうなれば、米韓金利差がさらに拡大することにもつながりかねず、それだけウォンの為替市場が不安定化する、ということでもあります。これについて中央日報の社説は、次のように警戒心を述べます。
「今月末の金融通貨委員会で韓国の基準金利を米国に従って上げるほかなく、家計と企業の苦痛はさらに激しくなる見通しだ」。
このあたり、私たち日本人から見れば、不思議な記述です。
そもそも韓国は日本と同じく国内資本市場を対外開放しており、また、中央銀行も金融政策の独立性を持っているはずだからです。
実際、日本は黒田日銀が政策金利をマイナス0.1%としつつ、イールドカーブ・コントロール政策も継続するなど、金融政策は微動だにしていません(図表2)。
図表2 政策金利の日米の違い
(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Policy rates (daily, vertical time axis) データより著者作成)
日米金利差が拡大している以上、円安が進むのも当然の話でしょうし、日本はそれで気にすることは何もありません。
しかし、韓国の場合は、米国に追随して利上げに追い込まれています(図表3)。
図表3 政策金利の米韓の違い
(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, Policy rates (daily, vertical time axis) データより著者作成)
韓国の場合、結局は国内経済の状況よりも、可能な限り、米韓金利差が逆転しないように留意しながらの金融政策運営を余儀なくされているという側面がある、というわけでしょう。
利上げすれば膨張した債務が不良債権化も!
しかし、このままのペースで利上げを続ければ、膨張した債務(とくに『ABCPショックが韓国で金融危機リスクを高める理由』などでも取り上げた不動産PFなど)が一挙に不良債権化するという危険性もあります。
)これに加えて中央日報の社説では、こんなことまで指摘します。
「韓国の主力産業である半導体の見通しまで暗い。半導体需要が減りメモリー半導体を中心に価格が下落し、景気鈍化と米国の制裁で対中輸出が萎縮している」。
肝心の半導体自体が減速すれば、まさに通貨危機ないしは金融危機(あるいはその両方)が同時に襲い掛かってくる、という可能性は、現実の懸念でもあるのでしょう。
ところで、この社説の記述には事実誤認と思しきくだりもあります。
「韓国は97年の通貨危機当時、国民総出で金製品を集める運動をするなど国力を集めて危機を克服した。2008年の金融危機も世界と息を合わせて乗り越えた。こうして韓国は『1人当たり国民所得3万ドル時代』を迎えた」。
この記述は明らかにおかしな話です。
1997年のアジア危機は国際通貨基金(IMF)などの支援で乗り切りましたし、2008年の金融危機は米国から提供された300億ドルの為替スワップ、日本から提供された300億ドル(うち米ドルが100億ドル、日本円が200億ドル相当)によって乗り切りました。
いずれの危機も韓国は自力で乗り越えてはいないのです。
今回の韓国危機は過去2回とはまったく違った展開も
ただ、社説は次のように結ばれています。
「だがいまのパーフェクトストームをめぐる環境と認識はとても深刻だ。与野党が力を合わせるどころか政争でいつになく極限の対立を見せている。再び訪ねてきた国家的危機の前に与野党が力を合わせて解決策を模索することを注文する」。
「どうぞそのようになさってください」、としか言いようがありません。
また、おそらく今回の危機では、少なくとも日本が手助けをすることはないでしょう。すでに日本の金融機関の対韓与信は対外与信全体の1%前後に抑えられているわけですから、極端な話、日本にとっては韓国の債務不履行リスクは十分にコントロール可能だからです。
結局のところ、日本は外国の状況を気にする余裕もなくなるでしょうし、むしろ補正予算を通じた生活者支援、国内の原発の再稼働・新増設の振興、さらには急を要する安全保障環境への対応、台湾など友好国との連携に、政治的資源を費やさなければなりません。
その意味では、今回の「韓国危機」が97年のアジア通貨危機、2008年のリーマン・ショックという過去2回の危機と比べて、まったく違ったものになる可能性は濃厚だと考えて良いのではないでしょうか。
本文は以上です。
日韓関係が特殊なのではなく、韓国が特殊なのだ―――。
— 新宿会計士 (@shinjukuacc) September 22, 2024
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韓国は貿易収支の赤字を出し始めている。
これからは慢性的に外貨繰りが悪くなりそう。
旅行収支の赤字なんか出してる場合じゃないと思うけど。
韓国メディアは日本メディア以下だよ。
今までの流れなら,韓国経済に対し,もっと危機的な状況な状況にある幾つかの国に比べて,それほど危機感を感じていませんでした。ただ,北朝鮮情勢が緊迫してきて,欧米もそろそろ察知しそうなので,それが韓国経済にどういう影響を与えるかは未知数です。日本のマスコミはまだのんびりしていますね。嗅覚が悪いというか,平和ボケでしょう。それとも正常性バイアスが働いているのか。
P.S. 韓国のKOSPIですが,ほぼ完全に株式バブルは終了して,コロナ以前の水準まで値下がりしました。
韓国の債務不履行がタックスヘイブンや欧米、特にイギリスを通じて日本に波及してくる、なんてことは無いんでしょうかね。
米国FRBがFF金利を0.75%利上げする旨を発表したとのこと。
韓国も利上げで追随しないとドル流出が止まらないが、利上げすると国内の不良債権が更に酷くなるはず。
あ、チェンマイ・イニシアチブ・マルチ(CMIM)に頼ろうとしても、
韓国の最大引き出し可能額は 384億ドルですよ。今後の入用に対して足りますかねぇ。
更にデリンク分153.6億ドルを越えるとIMFから物言いがつきますよ。
韓国ファイティン! ですよ。
パーフェクトストームなど映画のタイトルみたいな事を言ってる韓国メディアに、どこか他人事と考えてる所があるのではないかと、彼の国の知識層の危機感の無さを感じます。
私はもはや韓国は経済破綻は避けられないと思います。あとはいかにダメージを少なくし、復旧を進めるかに有ると思います。勿論それは韓国人の問題であり、日本人が間違っても助けるものではありません。新宿会計士さんも再三ご指摘されてるよう、日本が行った精一杯の援助は、彼の国からして見れば時期も遅く、金額も出し惜しみしたもので文句こそ有れ感謝はしていない、という内容でしたから、もう何も出来ません。生暖かく見守るだけです。
少なくとも今世紀中の復興は無理なくらい、彼の国の経済がぶっ飛んで欲しい、というのが私の胸中にある事は否定できません。
中央日報社説の
「だがいまのパーフェクトストームをめぐる環境と認識はとても深刻だ。
与野党が力を合わせるどころか政争でいつになく極限の対立を見せている。
再び訪ねてきた国家的危機の前に与野党が力を合わせて解決策を模索することを注文する」
とありますが、半島の歴史において危機の際には分裂し党争するのが
常識でありまして、与野党が纏まる事なんて「日本が悪い」しか
できないはずです。 諦めて下さい。
1997年アジア通貨危機・2008年リーマンショックの大変な
時も自国だけの努力で克服できたそうですから、今回来るのも
キット大丈夫ですよ。
そー言えば、1929年米国株式市場の暴落から来た経済危機等の
時は日本領だったので、半島は問題無く過ぎましたが、今回のは
どうなるのでしょうか? お人よしすぎる日本は手助けしないだろうしね。
でも大丈夫、宗主国中共様が豊富な米ドル・人民元で助けてくれるさ。
ロイター、ブルームバーグ両方でニュース。
韓国のHeungkukという保険会社が5億ドルの perpetual notes(永久債)の償還オプションを行使しないことを決めた。このようなことは2009年以来初めてだそう。
理由は「韓国における異常に不安定な金融市場と国際的な金利の変動」(“extremely unstable financial market conditions in Korea as well as internationally, including changes in interest rates.”)だそうです。明日から荒れそうだ。 麻生さん、妙な約束するなよ。