電力債発行急増でクラウディングアウトが発生中=韓国

まさか、経済学の教科書でいう「クラウディングアウト」の議論をリアルの世界で見ることができるとは思っていませんでした。韓国メディアの報道によると、韓国電力が赤字のため、大量の債券発行を余儀なくされており、これに伴って債券市場では資金調達が難しくなっているのだとか。韓国電力債は政府保証付きなのだそうですが、まさに形を変えた「クラウディングアウト」の論点そのものでしょう。

2022/10/25 21:12追記

誤植を修正しております。

クラウディングアウト

経済学に、「クラウディングアウト」という論点があります。

英語でいえば “Crouding Crowding Out” ですが、これは政府などが国債の大量発行などのかたちで市場からおカネを借りれば、ほかの経済主体(とくに民間部門の経済主体)がおカネを借りられなくなってしまう、というものです。

一国の資金量は限られているため、政府などの信用力が高い発行主体がおカネを借り尽くしてしまえば、政府よりも信用力が低い発行体(企業など)が借りられるおカネは金融市場にあまり残されておらず、したがって、これらの発行体は残り少ないおカネを奪い合うようにおカネを借りなければなりません。

その教科書に載りそうなクラウディングアウトの典型的な事例が、隣国で発生しているようです。

韓国電力の赤字が呼んだ23兆ウォンの債券発行…韓国の資金市場で「ブラックホール」に

―――2022.10.25 08:10付 中央日報日本語版より

韓国メディア『中央日報』(日本語版)の報道によれば、韓国では現在、「江原道レゴランドのABCPデフォルト問題」(※これについては可能なら別稿にて取り上げる予定です)の発生を受け、債券市場が混乱するなかで、韓国電力の債券大量発行が混乱に拍車をかけているというのです。

レゴランド発の資金市場混乱の中で信用度の高い韓電債の発行が続き、社債市場の資金をブラックホールのように吸い込んでいる。だが歴代級の赤字が累積している韓国電力としては今後も追加債券発行は避けられない状況だ」。

赤字の穴埋めで大量発行

中央日報によると韓国電力債は韓国政府の保証がついていて、格付も「トリプルA」なのだそうですが、ただ、それと同時に世界的なエネルギー価格上昇などの影響もあり、今年上半期だけで14兆ウォンを超える営業損失を記録。赤字の穴埋めを目的として債券の大量発行を余儀なくされているのだとか。

このあたり、韓国電力が債務不履行に追い込まれる可能性があるのかどうかという点にも個人的に興味がないわけではないのですが、それよりも重要なのは、まさにクラウディングアウトの論点です。

今年の韓電債は24日までに23兆3500億ウォンきぼで発行された。すでに昨年の全発行額10兆3200億ウォンの2倍を大きく上回った」。

他の企業は当分債券市場で資金を調達するのは困難になるという見通しが強まっている」。

つまり、政府保証が付されていて事実上の韓国政府ソブリンとみなせるような発行体が債券を大量に発行すれば、その分、信用力が低い発行体や政府保証が付されていない発行体にとっては、債券を発行する条件が悪化することをになります。

ちなみに中央日報によると、韓国電力の債券の累積発行額は先月時点で52兆4000億ウォンとなり、昨年末の38兆1000億ウォンより大きく膨らんでいるのだそうですが、韓国の債券市場は3400兆ウォン程度ですので、韓国電力1社だけで、ざっと発行額の2%近くに達している計算です。

韓国の金利は上昇中

それに、そもそも韓国は韓国銀行の利上げなどの影響もあり、金利が大きく上昇しています。韓国国債市場における「イールドカーブ」を描いてみると、韓国の金利水準はこの1年3ヵ月ほどで、どの年限でもだいたい2~3%ポイント程度は上昇していることが確認できます(図表)。

図表 韓国債券市場・イールドカーブ

(【出所】韓国銀行データベースをもとに著者作成)

ただでさえ金利が上昇しているなかで、韓国電力の債券大量発行の影響で利回りの上乗せ幅(スプレッド)が拡大すれば、それだけ多くの企業にとって、資金調達が難しくなることを意味します。これについて中央日報はこう述べます。

政府が支払いを保証する格付けAAAの韓電債があふれ、格付けAA以下の一般社債が投資家にそっぽを向かれる影響も大きくなっている。最優良・高金利である韓電債のため他の企業はさらに高い金利を提示しなければならず資金調達が難しくなったのだ」。

まさに経済学の教科書そのままの現象であり、なかなかに興味深いと感じざるを得ません。この状況が続けば、資金調達ができなくなった企業の倒産ラッシュ、あるいは不良債権の激増による金融危機などが生じる可能性があるからです。

金融緩和したら通貨危機に!

もちろん、こうした状況を改善するために、もっとも手っ取り早いのは、韓国銀行が金融緩和に踏み切り、金融市場にニューマネーを提供することです(あるいは韓国銀行自身が韓国電力債を購入しても良いかもしれません)。

ただ、それをやってしまうと、韓国ウォンの市場供給量が増えてしまうため、ただでさえウォン安のなか、ウォンがさらに下落してしまう可能性があります。そうなると、外貨建て債務の借り換え(ロール)に支障をきたし、最悪の場合、通貨危機が発生してしまいます。

それに韓国といえば、『韓国で不動産PFのリスクが広がってしまった理由とは』でも触れたとおり、不動産ノンリコースローンの問題も無視できません。結局のところ、韓国にとっては「金融危機」か、「通貨危機」か、そのどちらかを選ばねばならない状況が迫っているのかもしれません。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 匿名 より:

    >結局のところ、韓国にとっては「金融危機」か、「通貨危機」か、そのどちらかを
    >選ばねばならない状況が迫っているのかもしれません。

    「両方」やらなくっちゃあならないってのが「韓国」のつらいところだな

    覚悟はいいか?ウリはできてる

    1. 匿名 より:

      右で殴られるか、左で殴られるか、オラオラか…

      個人的にはオラオララッシュが見たいですね。

  2. じゃん🐈 より:

    ブログ主様。
    こんな話が実際に起きていると、
    今後しばらくの間は、忙しくなりそうですね…

  3. みの より:

    江原道の地方政府保障だったレゴランド社債が飛んだ(期日に換金されなかった)事件があったばかりですから、優良企業の社債はもとより政府保障でAAAの公社でも利回り高くても疑心暗鬼で様子見になりますわ。

  4. 匿名 より:

    大丈夫でしょ、日本の新聞は日本は韓国の下請けになるだの、韓国に経済で追い越されたと韓国をべた褒めしたりしてますしおすし。

  5. 親父馬 より:

    韓国の事例が載るなら「反面教師教科書」ですよね?

  6. 匿名 より:

    >ただ、それをやってしまうと、韓国ウォンの市場供給量が増えてしまうため、ただでさえウォン安のなか、ウォンがさらに下落してしまう可能性があります。

    「ウィン・ウィン」では無くて、「ウォン・ウォン」ですな…

  7. Nicolo より:

    Crowding out です。
    小さな事ですが。

    1. 匿名 より:

      そうですよね。調べなおしてしまいましたよw

  8. sqsq より:

    日本で昔、日銀特融というのがあったが、民間にカネ出せる人がいないんだったら韓銀特融しかないんじゃない?

  9. 古いほうの愛読者 より:

    > 韓国銀行自身が韓国電力債を購入しても良いかもしれません
    たぶん,これが最善の解決策でしょう。ウオン安とインフレは進行しますが,韓国経済(特に大企業)にとっては追い風になると思います。ただし,中国と決別して,アメリカの同盟国になることを,はっきり示すことが前提条件です。外貨建て債務の借り換えなど諦めて,国債も中央銀行に買ってもらいましょう。高騰してしまった賃金を,インフレを利用して実質的に抑えることが,韓国の経済成長には必用でしょう。不動産バブルや,国民の借金問題も,インフレが加速すれば緩和されます。

  10. Padme Hum より:

    >英語でいえば “Crouding Out” ですが、

    スペルが間違っていますよ。正しくは”Crowding Out”です。

  11. 岸田、はよ原発まわせよ、 より:

    社債発行するより電気代を上げればいいのでは?
    さしあたり2倍くらいに、、、

  12. Atsh より:

    記事更新ありがとうございます。ここから連鎖倒産多発で彼の国の失われた○年が始まるかは不明ですが(⁠規模が小さいのでバブル破裂の勢いは弱そうですが復元力も低そう) ここの所のあちらの新聞での”日本発経済危機!!! 円安150円衝撃”との設定を見てるとここから日本のせいにすることだけは確定でしょうか。

  13. 一之介 より:

    韓国にとっては「金融危機」か、「通貨危機」かそのどちらか・・・・・
    私は両方の姿を見てみたいと思います。経済学の実践教育の機会として。

  14. トシ より:

    韓国は政策金利3%、預金金利5%、貸出金利8%。

    韓国電力は銀行融資8%ではなく社債5.9%で資金調達をもくろむ。
    だが金利先高観測が強く思うような資金調達ができない。

    投資家から見ればもう少し政策金利が上がり付随して各種金利も上がる。
    現時点では銀行預金がベストであり段階的に定期預金に移行する。

    社債金利が6%を超えてくるとハイイールド扱いで償還リスクが意識される。
    ならばその年限の定期預金を購入するほうがよほど合理的と言える。

    韓国中央銀行は社債市場に資金供給できるか?

    できないことはないが、それをやるとウォン安とインフレが加速する。
    よって大胆な資金供給はできない。

    韓国の債券市場は冬の時代を迎える。
    起業の資金調達は増資や金融機関からの借り入れが主流となる。
    それはそれで経済を冷やすことになる。

    韓国電力問題の本質は原油・ガス高騰を電気料金へ転嫁できないこと。
    不思議なことにどこを見ても電気料金を上げて解決しろとの声は聴かれない。

    韓国では電気など公共料金の値上げは即ローソクデモにつながるとかw

    これからも高金利、資源高は続く。
    韓国経済の各所が壊れていく様を見届けることとしよう。

  15. 新宿会計士 より:

    うわぁ…。こりゃ恥ずかしい。冒頭で綴りが間違っていたorz

  16. 豆鉄砲 より:

    大法院で金融危機にも通貨危機にも関係ありませんと判決を出せば乗り越えられますな。

  17. 匿名 より:

    いよいよ劇場型国政運営のクライマックス感がありますね、劇場いうても茶番劇ですけど。

  18. 匿名 より:

    黒字倒産じゃないから倒産しても安心ですね。もったいなくない。

  19. より:

    そもそも韓国では政策的に、特に産業向けの電気料金が低く抑えられており、そこで生じた赤字は韓電が被ることになっています。従って、昨今のようにエネルギー資源価格が高騰すると韓電は莫大な赤字を抱えることになります。その上、文在寅政権が後先考えずに全原発を可及的速やかに停止するなんて政策を打ち出したため(幸い、本当に全部止まる前に政権交代しましたが)、韓電への影響はさらに大きくなっただろうと見積もられます。
    ゆえに、韓電としては、経営破綻を回避するために、大量の社債を発行せざるを得なくなりましたが、そのことによって「クラウディング・アウト」が発生したのであれば、韓国政府がなんとかするよりありません。韓電が莫大な赤字を抱えるに至ったのは、そもそも政府の長年の政策によるものだからです。たとえ金融引き締め政策に逆行する、あるいは重大な不整合が発生しようとも、韓国政府としては長年のツケを払うよりありません。

    とは言え、たかだか50兆ウォンほどの資金を供給したくらいで果たしてなんとかなるものなのか、桁がいくつか足りないようにも見えますが。

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