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    Categories: 金融

トルコが韓国から通貨スワップで資金を引出し=現地紙

溺れる者がお互いに藁を掴み合うような展開、とでもいえば良いのでしょうか。トルコのメディアの報道によると、トルコは韓国との間での通貨スワップ協定に基づき、韓国から10億ドルほどの資金を引き出したのだそうです。韓国メディアは「スワップは外貨準備の補完」などと大々的に報じていた記憶もあるのですが、現実には当てが外れ、トルコを救済せざるを得なくなった格好です。ただ、弱小国同士のスワップは、さまざまな意味で危険なものでもあります。

通貨スワップ概論

通貨スワップのもともとの意味

通貨当局同士が通貨を交換する協定を、一般に通貨スワップと呼びます。

この通貨スワップは、通貨ポジションが弱い国(たとえば発展途上国や新興国)を、通貨ポジションが強い国(たとえば産油国、先進国など)が金融面で支援するときに使われることが一般的です。

通貨ポジションが弱い国は多くの場合、外貨準備の蓄積も少なく、自国通貨も信用力が弱いため、為替市場で投機筋などから自国通貨の売り浴びせを受けると、そのまま通貨危機に陥ってしまうこともありますし、場合によってはその危機が他国に波及したりすることもあります。

1997年のアジア通貨危機も、最初のきっかけを作ったのはタイでしたが、影響を受けた国は非常に多く、結局はタイに加えてインドネシア、韓国が国際通貨基金(IMF)の管理下に入ったほか、ロシアなどアジア圏外にも危機が波及するなど、広範囲な影響をもたらしました。

こうした危機の発生を未然に防ごうとするしくみのひとつが、「チェンマイ・イニシアティブ(CMI)」と呼ばれる多国間協力の枠組みです。これは日本が主導するかたちで2000年5月に「ASEAN+3」で合意され、日中韓とASEAN5ヵ国間で二国間のスワップが多数締結されたというものです。

この点、このCMIは通貨スワップ契約の本数が大変に多くなってしまうことから、2009年にこれを「マルチ化」することで合意され、CMIは発展的に解消され、「チェンマイ・イニシアティブ・マルチ化協定(CMIM)」に結実しています。

日本とASEAN各国のスワップがそのイメージに最も近い

ただし、アジア諸国はこのCMIMでもまだ通貨ポジションが弱いという事情もあるためでしょうか、日本はASEAN5ヵ国とは個別に通貨スワップ協定を結んでいます(内訳はインドネシアが227.6億ドル、フィリピンが120億ドルで、タイ、マレーシア、シンガポールとは30億ドルずつ)。

多くの方がご存じの通り、日本は通貨ポジションが世界最強クラスの国です。

そもそも自国通貨である日本円自体が世界中で取引可能なハード・カレンシーであるのに加え、日本政府(財務省・外為特会)は(さしたる必要もないのに)9月末時点で1.2兆ドルを超える外貨準備を保有しています(このところのドル高や先月の為替介入の影響か、外貨準備は減少傾向にありますが…)。

日本が外国と締結している通貨スワップ(上述のCMIMやASEAN5ヵ国とのスワップに加え、インドとの750億ドル規模の通貨スワップ)は、いずれも基本的には相手国に米ドルで提供するという協定です(マレーシア、インド以外との二国間通貨スワップは、相手国が日本円での引き出しを選ぶことも可能)。

このようなスワップ、すなわち「通貨ポジションが強い国が、相手国通貨と引き換えに、米ドルまたは自国通貨を提供する」という協定こそ、まさにもともと想定されていた通貨スワップのパターンそのものでしょう。

ローカル通貨スワップの2類型

ただ、通貨スワップにはほかにもいくつかの類型があります。その典型例が、「ローカル通貨スワップ」です。

この「ローカル通貨スワップ」、一般には米ドルなどの国際的な通貨ではなく、お互いに自国通貨を交換する、という取引のことを指します。この場合、少なくとも片方の通貨が国際的に通用する通貨であれば、さほど問題とはなりません。

「通貨ポジションが強い国が提供する通貨が、米ドルではなく自国通貨である」という事例は、日本にもあります。たとえば日本が提供する通貨スワップのうち、インドネシアなど4ヵ国に対するものは、相手国が米ドルではなく日本円を選ぶことも可能です。

また、豪州やスイスなど、いわゆる「ハード・カレンシー」と呼ばれる通貨を発行している国が、(米ドルではなく)自国通貨を相手国に提供するというケースもありますが、この場合も相手国にとっては喜ばれるかもしれません。なぜなら米ドルでなくても、豪ドルやスイスフランなら、それなりに使い勝手が良いからです。

しかし、この「自国通貨提供型」(いわゆるローカル・カレンシー・スワップ)に関しては、ひとつ、困ったパターンもあります。それが、「通貨ポジションが弱い国同士」が、米ドルなどの国際通貨ではなく、自国通貨を交換し合う、という取引です。

当ウェブサイトではこれを「融通手形パターン」と呼んでいます。

融通手形とは、もともとは金融機関から借り入れができないほど信用力が乏しくなった企業同士がお互いに向けて振り出す手形のことで、商取引の実態の裏付けがないことから、銀行員にとっては「割引いてはならない手形」の代名詞でもあります。

「信用力が弱い者同士がお互いに空手形を振り出す」という意味では、通貨ポジションが弱い国同士の通貨スワップも、この企業間取引の「融通手形」に似ています。

融通手形型スワップの怖いところ

そして、この「融通手形型スワップ」の怖いところは、危機が容易に波及しかねないことです。

このあたり、以前の『インドによるスワップ外交積極化に落とし穴はないのか』では、南アジアの大国・インドが周辺国と積極的なスワップ外交を繰り広げようとしている、とする話題を取り上げたことがありました。

中国に対抗するためでしょうか、インドが新興市場諸国支援のために、通貨スワップ網を拡充することを検討しているらしい、という報道が出てきました。インド自身にその余裕があるのか、という点は疑問です。インドには米ドル紙幣を印刷する設備はないはずですし、また、インドの通貨・ルピー自体が国際的にはソフト・カレンシーに過ぎないからです。なぜ日本国債はデフォルトしないのか当ウェブサイトでは普段から、「自国通貨建ての国債がデフォルトすることは、基本的にはあり得ない」と申し上げてきました。その趣旨は、現代の通貨...
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ただ、インドはたしかに人口も多く、経済成長率もそれなりに高い国ではありますが、通貨ポジションという意味では決して盤石な国ではありません。だいいち、G20の一角を占めている国でありながら、インドルピーはSWIFTの国際決済通貨ランキングにも登場したことがありません。

SWIFTが公表する国際送金シェアのランキングから、ロシアの通貨・ルーブルはすっかり姿を消してしまいましたが、その分、人民元の決済シェアが目立って増えているという事実は確認できません。また、「G20通貨」と呼ばれる通貨であっても、インド、アルゼンチン、ブラジルなどの通貨は過去に1度もランキングに姿を見せたことがありません。こうした統計データからは、通貨の実力が垣間見えたりするものかもしれません。追い込まれるロシアロシアによるウクライナ侵攻は、国際法的に見れば純粋な「ロシアの違法行為」であるこ...
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そのインドがスリランカ、パキスタン、バングラデシュ、ネパールなどと通貨スワップを締結すれば、相手国が通貨危機に陥りそうになったときにインドとのスワップを引き出し、それによって危機がインドに波及する、といった事態も考えられます。

とくにインドは日本にとって「日米豪印クアッド」の連携相手国でもあるとともに、750億ドルの通貨スワップを締結している相手国でもあるので、インドになにかの事態が発生したときには、日本も何らかのかたちでインドを救済するということが期待されるでしょう。

正直、インドが妙なスワップを始めるくらいなら、『南アジアを支援するクアッド通貨スワップ構想の現実性』などでも触れた、「日米豪印クアッドスワップ」の方がまだマシといえるかもしれません。

昨今のドル高に加え、ウクライナ危機を受けた世界的インフレなどを受け、またしても、通貨スワップ議論が聞こえてきました。今度は「クアッド南アジア通貨スワップ構想」だそうです。米アジア・ソサエティ政策研究所のアキル・ベリー氏がニッケイ・アジアに寄稿した構想によれば、日米豪印4ヵ国が南アジア(スリランカ、パキスタン、バングラデシュ、ネパールなど)の通貨危機を防ぐためのクアッド・スワップを主導すべきだ、というのです。これについてどう考えるべきでしょうか。スリランカのデフォルト南アジアの島国・スリランカ...
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トルコという「危うい国」

最も危なっかしい国のひとつはトルコ

ただ、インドの通貨・ルピーは、現状、さほど脆弱であるとはいえません。

米ドルに対し、年初来で10%ほど下がっていることは事実ですが、日本円や英ポンド、ユーロを含め世界の大部分の通貨がドルに対して下落しているなかで、下落率で見ればむしろマシな部類に入ります。

現在のところ、「最も危なっかしい国」は、インドではなくトルコでしょう。

国際決済銀行(BIS)がほぼ毎週公表している主要通貨の米ドルに対する為替相場のデータを眺めていると、今年に入ってから10月3日時点までの騰落率で、トルコリラは上位3番目にランクインしていることがわかります(図表1)。

図表1 主要通貨・対米ドル相場騰落表(2022年初と10月3日時点を比較、上位10位まで)
通貨 1ドルあたり 騰落率
1位:スリランカルピー 202.7500→362.0000 78.55%
2位:アルゼンチンペソ 103.0400→145.4583 41.17%
3位:トルコリラ 13.2785→18.5621 39.79%
4位:ハンガリーフォリント 323.8309→435.1290 34.37%
5位:ウクライナフリブニャ 27.2782→36.5686 34.06%
6位:日本円 114.9802→144.9099 26.03%
7位:ノルウェークローネ 8.8078→10.8209 22.86%
8位:スウェーデンクローナ 9.0672→11.1371 22.83%
9位:ポーランドズローティ 4.0418→4.9488 22.44%
10位:韓国ウォン 1192.7785→1442.2880 20.92%

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates データより著者作成。なお、1月3日や10月3日のデータがない場合は、それぞれその10営業日前まで遡及したものを表示している。また、データが取得できない通貨についてはランク表に掲載していない)

1位のスリランカは対外債務のデフォルトが発生した国ですし、2位のアルゼンチンは長年、慢性的な外貨不足が生じていることでも知られています。

「利下げでインフレ退治」という理解しがたい政策

こうしたなか、トルコといえば、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領が「金利は悪」という奇妙な価値観を持っていることでも知られており、世界でもおそらくトルコくらいでしか見られない「利下げでインフレに対処する」という政策が行われている(『インフレなのに利下げで通貨安のトルコと通貨スワップ』等参照)国でもあります。

「インフレ下で利下げをする」という、なかなかに珍妙な金融政策運営を行っている国が、トルコです。案の定、通貨は暴落し、外貨準備も激減しているようです(自滅するのは当たり前でしょう)。ただ、そんなトルコが現在、外国との通貨スワップを締結しようとしている、といった報道も聞こえてきます。さらには、トルコは中国とのスワップを引き出していますが、他にもUAEや韓国、カタールとのスワップを引き出す可能性はあるのでしょうか。トルコのマーケット・データトルコの通貨、乱高下!少し目を離している隙に、トルコの金融...
インフレなのに利下げで通貨安のトルコと通貨スワップ - 新宿会計士の政治経済評論

そして、トルコを巡っては数年前から通貨危機のうわさが何度も浮上しているのですが、昨年末はトルコリラの価値が急落した際に、「預金補償スキーム」を導入するなどとトルコ政府が発表したことを受け、リラの価値が一時的に戻る、という騒動がありました(『トルコリラ「預金補償」で乱高下』等参照)。

トルコの通貨が乱高下したようです。「外貨ベースでリラ預金に損失が発生したら、その分を政府が補償する」というエルドアン大統領の発表でリラが買い戻されたそうですが、冷静に考えると、これもなかなか強烈な政策です。エルドアン大統領が「金利は悪」と叫んでみても、リラ建て預金を補償する減資を国債で調達したらますます金利が上がるからです。トルコの通貨が乱高下外為市場では、トルコの通貨・リラが乱高下する展開となっています。WSJのマーケット欄を見ると、20日の取引時間(日本時間の21日1時40分時点)で前日比12%...
トルコリラ「預金補償」で乱高下 - 新宿会計士の政治経済評論

このときには2021年12月20日時点で1ドル=18リラという史上最安値水準を試していたのですが、翌・21日には為替相場が一気に1ドル=13リラほどにまで買い戻される、という、極めて値動きの荒い展開が発生しました。わずか1日で為替相場が一気に30%近く自国通貨高に振れたのです。

ところが、そのトルコの通貨も今年に入り再び下落のペースを速め、ついには8月18日に1ドル=18リラ台という歴史的水準を突破してしまいました。BISデータだと10月3日時点で1ドル=18.56リラ、WSJのマーケット欄だと10月7日時点で1ドル=18.5878リラです。

BISデータをもとに、トルコリラのここ20年分の動きをグラフ化すると、図表2のとおりです。

図表2 USDTRY(トルコリラ)

(【出所】BISウェブサイト “Download BIS statistics in a single file”, US dollar exchange rates データより著者作成)

枯渇する外貨準備

こうしたなか、トルコの外貨準備も現在、急速に枯渇しつつあります。

国際通貨基金(IMF)が発表する世界の外貨準備統計『IRFCL』(※英語版データベースの正式名称は ” International Reserves and Foreign Currency Liquidity” )によると、トルコの外貨準備は7月末時点において1000億ドルすれすれです(図表3)。

図表3 トルコの外貨準備

(【出所】 International Monetary Fund, “International Reserves and Foreign Currency Liquidity” より著者作成)

しかも、トルコの外貨準備の内訳を確認してみると、外貨準備の中核を占めている資産であるはずの有価証券の残高が、コロナ禍以降、ほぼゼロの水準にまで近づいており、なぜか「金」の保有高が40%近くに達している状況です(図表4)。

図表4 トルコの外貨準備の内訳
項目 金額 構成割合
現金預金+有価証券 536.80億ドル 53.01%
有価証券 71.20億ドル 7.03%
現金預金 465.60億ドル 45.98%
IMFリザーブポジション 1.49億ドル 0.15%
SDR 72.65億ドル 7.17%
金(マネタリー・ゴールド) 401.63億ドル 39.66%
外貨準備合計 1012.57億ドル 100.00%

(【出所】 International Monetary Fund, “International Reserves and Foreign Currency Liquidity” より著者作成)

「外貨準備に占める金地金の割合が高い国」といえば、真っ先に思い出すのがロシアですが、金地金というものは、危機に際して正直、あまり役に立たないものでもあります。金を現金化しようとすれば、ゴールド・マーケットが崩れてしまう可能性があるからです。

いずれにせよ、大変に危なっかしい状況といえるでしょう。

トルコの通貨スワップ戦略

こうしたなかで、トルコ自身がその「融通手形スワップ」を推進している国のひとつでもあるのですが、以前の『融通手形?トルコとマレーシアの通貨スワップの危険性』などでも指摘したとおり、トルコは現在、いくつかの国との通貨スワップを推進しようとしています。

脆弱通貨国同士の通貨スワップ協定には、通貨危機を世界に広めかねないというリスクがあります。こうしたなか、次なる通貨危機の候補国のひとつはトルコでしょう。そのトルコでは今年6月に外貨準備高が1000億ドルの大台を割り込み、為替相場も1ドル=18リラの大台を史上初めて突破する可能性が出てきています。そのトルコがマレーシアと通貨スワップ協定を結ぼうとしているようなのですが、これをどう考えれば良いでしょうか。ドル高基調と通貨安への対処雇用統計受け全面的なドル高に先週末に米労務省が公表した雇用統計( “non-far...
融通手形?トルコとマレーシアの通貨スワップの危険性 - 新宿会計士の政治経済評論

そもそも現時点でトルコはアラブ首長国連邦(UAE)、中国、カタール、韓国の4ヵ国との間で、著者自身の試算に基づけば、約264億ドル相当の通貨スワップ協定を保持しています(図表5)。

図表5 現時点でトルコが保有している通貨スワップ
相手国と締結日 トルコリラとドル換算額 相手通貨とドル換算額
UAE(2022/01/19) 640億リラ⇒約35.7億ドル 180億ディルハム⇒約49.0億ドル
中国(2021/06/15) 460億リラ⇒約25.7億ドル 350億元⇒約49.2億ドル
カタール(2020/05/20) リラ(金額不明)⇒50.0億ドル リヤル(金額不明)⇒150.0億ドル
韓国(2021/08/12) 175億リラ⇒約9.8億ドル 2.3兆ウォン⇒約16.0億ドル
合計 約121.2億ドル 約264.2億ドル

(【出所】トルコ中央銀行ウェブサイト等を参考に著者作成。為替レートは国際決済銀行の2022年10月3日時点のものを使用)

しかし、これだけだと心もとないと感じているのか、トルコの当局は現在、著者自身が把握しているだけでも、マレーシア、サウジアラビア、などイスラム教徒が多い国とのスワップ協定締結を目論んでいるのですが、やはりさすがにマレーシアとのスワップは危険すぎます。危機がマレーシアにも波及しかねないからです。

先ほどの「アジア通貨危機」の事例にもありましたが、発展途上国・新興国の場合、ある国で発生した危機は、あっという間に他の国に波及してしまいます。マレーシアはCMIMに参加しているほか、日本と30億ドルの通貨スワップを結んでいるため、危機の際には日本が救済せざるを得なくなるでしょう。

溺れる者が藁を掴み合う?

韓国から総額10億円を引き出し=現地メディア

さて、こうしたなかで昨日は少し変わった記事を発見しました。当ウェブサイトで以前から唱えていた「弱小国同士のスワップが融通手形に似ている」とする仮説の実例となるかもしれない事例です。

South Korea transfers $780 mln to Turkish central bank in swap deal

―――2022/10/06 06:14 GMT+3付 Ahval Newsより

トルコのメディア『Ahval News』(発音は「アフバル・ニューズ」、でしょうか?)が現地時間の10月6日に報じた記事によれば、トルコは自国が保有する通貨スワップのうち、韓国とのスワップ協定に基づき、7.8億ドルを引き出したのだそうです。

Ahval Newsはロイターの報道を引用するかたちで、トルコが韓国とのスワップを引き出し、これに基づき韓国が先週、「合意された20億ドルのうちの一部である7.8億ドル」をトルコの中央銀行に送金したと報じました。また、これまでの金額と合わせると、韓国からトルコに送金された総額は10億ドルに達したのだそうです。

これについてトルコの中央銀行はコメントを発表していないそうですが、その背景としては、2018年の危機以降、トルコが通貨防衛で「1500億ドル(※誤植でしょうか?)」を費やしたことで外貨不足に陥ったことを挙げているのだとか。

また、Ahval Newsの記事だと韓国が送金したのが韓国ウォンなのか、米ドルなのかはよくわかりませんが、想像するに、韓国が送金したのは米ドルではないでしょうか。

その理由はいくつかあるのですが、ひとつはウォン資金は国際送金に不向きであること、もうひとつはウォンを受け取ったところで、トルコにとっては使い道がないことです。おそらく土韓両国であらかじめ決められた条件に従い、払い出すべきウォンを何らかのレートで換算した額を米ドルで送金したのではないかと思います。

このあたり、韓国の外貨準備が9月末で過去2番目に大きな落ち込みとなったことは『外貨準備急減受け通貨スワップの必要性強調=韓国教授』でも取り上げたとおりですが、もしかすると通貨防衛だけでなく、トルコに対する救済資金の貸付という要因もあったのかもしれません。

韓国の外貨準備が9月末時点で前月比200億ドル近く急減したことに関連し、韓国メディアでは「韓国銀行は現在の状況に懸念はない」としつつも、韓国の学者は「スワップの締結などを急ぐべき」とする見解を述べた、などとする記事が掲載されていました。あらためて本稿ではいくつかの事実関係を整理するとともに、韓国が「危機の際に惜しまず通貨を融通してくれる友人」を必要としているのではないかとの仮説を考察しておきたいと思います。外貨準備は過去2番目の減少額昨日の『韓国外貨準備が過去2番目の減少』で「速報」的に取り上げ...
外貨準備急減受け通貨スワップの必要性強調=韓国教授 - 新宿会計士の政治経済評論

通貨が弱い国同士のスワップはいかがなものか

それはともかくとして、Ahval Newsの記事には、こんな記述もあります。

“Ankara is also hoping for a swap deal with Saudi Arabia, and has made moves to improve relations with Egypt and Israel”.

アンカラとはトルコの首都のことであり、ここでは転じて「トルコの当局」という意味ですが、トルコがサウジアラビアとのスワップ締結をもくろんでいると述べています。

(※もっとも、このAhval Newsの記事に出てくる数字は単位がメチャクチャで誤植だらけです。「通貨防衛で2018年以降、外貨準備が1500億ドル減った」だの、「トルコの外貨準備残高が9月末時点で97億ドルだった」、など、公式統計と合致しない数値や明らかにケタ間違いと思われる数値が混在しています。)

ちなみにAhval Newsによると、エルドアン大統領は「トルコの外貨準備は友好国からの支援により強固になってきている」などと述べたのだそうですが、このあたりも非常に興味深いところです。

たしか韓国メディアあたりは、トルコなど通貨ポジションが弱い国とのスワップを含め、「韓国はこれだけの国とこれだけの額のスワップを締結している」と胸を張っていたような記憶もあるのですが、現実にはトルコが韓国に支援要請をしたということですので、韓国にとっては当てが外れた格好なのかもしれません。

もちろん、土韓通貨スワップの規模は当初時点で20億ドル程度と少額でもあるため、トルコが満額、韓国からスワップを引き出したとしても、この程度の金額なら、「平常時ならば」、韓国の屋台骨は揺らがないでしょう。

ただ、トルコは中国からの人民元建てのスワップを引き出したという実例を持っている国でもあります(『トルコが中国との通貨スワップを実行し人民元を引出す』)。

慢性的な外貨不足に悩む中東の大国・トルコは先週、中国との人民元建ての通貨スワップを実行したそうです。トルコ中央銀行のウェブサイトによると、トルコは通貨スワップ協定に基づき、中国人民銀行から人民元を借り入れ、その人民元はトルコ国内企業の人民元輸入代金の決済に使われたのだとか。このプレスリリースを見て、個人的には「溺れる者は藁をも掴む」、「貧すれば鈍する」などの用語が頭をよぎった次第です。トルコの通貨不安トルコといえば、当ウェブサイトでは以前からしばしば注目していた国のひとつです。というのも、「...
トルコが中国との通貨スワップを実行し人民元を引出す - 新宿会計士の政治経済評論

ある意味で「溺れる者が藁を掴み合う」という実例を目撃する機会が到来しているのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (19)

  • 「Ahval」はググる機械翻訳オンラインサービスによると「アフマイ」と耳に聞こえるように感じます。
    で、Ahval News なんですがアブナイ情報源かも知れないので、取り扱い要注意と思います。

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    韓国:「トルコのメディアが、通貨スワップでの資金引き出しを報じたが、事実かは分からない」
    日本:「韓国側が一方的に発表しただけで、事実ではない」
    おあとが、よろしいようで。

  • 自国通貨建の低金利国債を大量に発行している国にとって,インフレや通貨安は実質的な債務削減につながり,増税と同じ効果があります。国民にとっては,消費税として払うか,値上がり分として払うかの違いだけでしょう。
    本題のスワップと連鎖的通貨危機でしょうが,個人的予想では,通貨危機は今回のバブル崩壊過程でも発生すると思います。アメリカも日本も株式バブルは2~4割程度しか解消していなくて,まだ崩壊過程の初期段階なので,これからが本番です。怪しくなりそうな金融機関の名前も幾つか挙がり始めています。韓国は変な国とスワップを締結しないで,自国単体で乗り切ろうとするほうが賢明で,外貨準備で損をするくらいで乗り切れると思います。KOSPIは崩壊が早かった分,値下がりの余地が小さくなっているはずです(現状の景気も日米より悪いはず)。日経平均はダウくらい値下がり余地があります。日米ともコロナで巨額の現金供給をしたために,投資家層が沢山お金を持っていて,株価下落速度が遅いのです。

  • (土韓スワップの存在意義)
    中:人民元を返すアルネ。
    土:無い袖は振れないョ。
    中:韓に借りればヨロシ。
    韓:・・。(沈黙)
    土:ウォンに着るョ・・。

  • 管理人様の有意義な記事を
    高校の必須科目に加えたいです。
    僕が文部科学大臣になった暁には
    誠に勝手ながら加えさせて下さい。
    文学も科学も知りませんがw

  • 意味のないスワップをせっせと結んで、韓国財務省は無能な働き者でしたね。
    韓国にしろトルコにしろロシアにしろナカコクにしろ中進国から先進国になれない国は、社会が公正じゃない。賄賂や血縁、法治より人治、あるいは軍部。専制統治のもと一部の特権階級が富と権力を独占する社会。そんな国が破綻したからといって日本が助ける必要があるのか。私はそんな国は破綻して塗炭の苦しみを味わえばいいと思います。数年前、ミャンマーが民政移管して、ご褒美で世界中の国が軍政時代の借金をチャラにしたけど、形だけの民政が数年続いて、また軍政に戻った。軍部丸儲け。はっきりいってウクライナも相当汚職が酷い。アフリカ援助もなんだか疑問。価値観外交が基本だと思います。最低限の基準でお付き合いする国を選んで頂きたい。そうすれば孫請けスワップ被害も最低限に留める事ができると思います。
    新宿会計士さんの記事のアップが早くて追いつけません。中身が濃いので読むのに時間がかかります。

  • これは早速「韓国式後頭部案件」になることに10₩。
    ウォンを取る子は勝ち組になる。

  • 船が沈んで海に投げ出されたとき、泳げない人に近付いてはいけない。
    泳げない人は必死でしがみついてきて、2人とも沈んでしまうから。

    韓国は自分が泳ぎがうまいわけでもないのに泳げない人に近付いてしまった。
    これからどうなるか。

    韓国は浮き輪を投げてくれる人を探しているようだが、いるかな?

    • sqsq様

      南国は、宗主国中共様が浮輪をなげてくれるか
      宗主国中共様が御自ら身を投げ出し助けてくれる
      夢を見た。
      日本を見て、助ける機会を作ってやったからには
      助けないといけないと叫ぶか
      さぁ~どっちだ。

  • 土韓スワップ・・・土管の間違えじゃね
    どちらか一方から水流しても両側が繋がってない土管だから垂れ流しw

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