NHK「ネット課金」なら地上波もスクランブル化せよ

またしても、NHKを巡る奇妙な議論が出てきました。「有識者」とやらからは、「テレビを持っていなくてもスマートフォンなどで積極的に放送を見る人については負担を議論していく必要がある」、という意見が出てきたからです。ただ、ネット課金を突き詰めていけば、地上波をスクランブル化するという議論と、本質的にはまったく同じでもあります。その意味では、こうした議論自体、現在のNHKの「受信料の半強制的な徴収」という在り方に関する問題を、改めて認識するきっかけになり得ます。

「有識者」の第1回目の会議

「ネットの普及で放送を取り巻く環境が変化するなか、NHKの役割に関する議論を本格化させる」として、総務省は「NHKのネット事業」に関する作業部会を設置する、という話題については、先日の『明らかにおかしい、総務省「NHKのネット業務検討」』でも取り上げたところです。

この話題の「続報」でしょうか、21日に開かれた「公共放送に関する有識者会議」の初回会合の様子を、共同通信が昨日報じています。

ネット時代のNHK受信料検討へ 事業拡大の是非も議論

―――2022/09/21付 共同通信より

共同通信によると、会合では、「テレビを持っていなくてもスマートフォンなどで積極的に放送を見る人については負担を議論していく必要がある」、との意見が「有識者」から出た、などとしています。

すでにネットの世界では「課金記事」が一般化

こんな意見を述べる者が「有識者」だ、などと言われても、少々困惑してしまいます。というのも、ネット上ではすでに課金記事というものは一般的に見られるからです。

たとえば米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)や英フィナンシャル・タイムズ(FT)、あるいは日本の日本経済新聞電子版などの場合、電子媒体でも有料での閲覧契約をしていなければ、記事自体を読むことができないことが多いです(詳しい閲覧条件はそれぞれのウェブサイトで直接ご確認ください)。

また、これらの経済・金融系のメディアだけでなく、最近だと日本でも有料化の流れは主要な一般紙(たとえば朝日新聞デジタル、読売新聞オンライン、産経ニュース、あるいは大手地方紙など)にも広がっています(それらがビジネスとしてうまく行っているかどうかは別問題として)。

つまり、もしも将来的にNHKのネット事業が認められ、NHKがウェブ上にコンテンツを配信することになった場合には、NHK自身が「有料会員」と「無料会員」に分け、「有料会員」にはフルコンテンツを、「無料会員」には限定的なコンテンツを提供する、というかたちにすれば良い話ではないでしょうか。

「ネットで課金」なら「地上波でも課金」という議論につながる

というよりも、この議論を突き詰めていけば、現在のように、「NHKの放送を見ている、見ていないにかかわらず、半強制的に受信料を徴収する」という仕組み自体も見直さねばならなくなります。

ネット上だとすでに「有料会員」「無料会員」という区別をつけるという課金技術は確立しているため、もしもNHKがネットで有料配信を始めるならば、地上波の放送でも同じく「有料放送」「無料放送」を分けるべき、といった議論に発展するはずです。

これがいわゆる「スクランブル化」の議論です。

いちおう、NHK自身はスクランブルを導入しない理由(というか言い訳)を、次のように述べています。

なぜ、スクランブルを導入しないのか

NHKは、広く視聴者に負担していただく受信料を財源とする公共放送として、特定の利益や視聴率に左右されず、社会生活の基本となる確かな情報や、豊かな文化を育む多様な番組を、いつでも、どこでも、誰にでも分けへだてなく提供する役割を担っています。

緊急災害時には大幅に番組編成を変更し、正確な情報を迅速に提供するほか、教育番組や福祉番組、古典芸能番組など、視聴率だけでは計ることの出来ない番組も数多く放送しています。

スクランブルをかけ、受信料を支払わない方に放送番組を視聴できないようにするという方法は一見合理的に見えますが、NHKが担っている役割と矛盾するため、公共放送としては問題があると考えます。

また、スクランブルを導入した場合、どうしても「よく見られる」番組に偏り、内容が画一化していく懸念があり、結果として、視聴者にとって、番組視聴の選択肢が狭まって、放送法がうたう「健全な民主主義の発達」の上でも問題があると考えます。

―――NHKウェブサイトより

現在のNHKが「特定の利益や視聴率に左右されず、たしかな情報や豊かな文化をはぐくむ多様な番組を提供している」と自信を持っているのならば、アンケート調査なり世論調査なりを実施してみれば良いのではないでしょうか。

また、スクランブル化をすれば「健全な民主主義の発達」が阻害されるとするくだりについては、正直、支離滅裂すぎて意味不明です。むしろNHK自身、特定の政治的勢力の視点に偏っているのではないかとの疑念も晴れません。

強制課金でもネット課金でも問題は山積

それはともかく、ネット課金の議論が進んだ結果、もしも「ネット環境があればNHKに受信料を支払わなければならない」とういう制度(いわゆる「強制課金制度」)が出来上がれば、そのことは却ってNHKという存在の矛盾を社会が共有するきっかけとなり得ます。

この場合は日経、産経、朝日、読売などの新聞社にとっては、間違いなく不満の声を上げる理由となり得ます。有料会員を獲得するために、これらの新聞社は非常に苦労しているにも関わらず、NHKだけが無条件にネット課金できるとなれば、社会的に見た公平性が著しく損なわれるからです。

また、NHKが日経、産経、朝日、読売のような「有料会員登録したい人が有料会員登録をする」という仕組みを採用した場合は、その仕組みを「地上波でも適用せよ」、という議論に発展するはずです。ネットでも放送でも、「見たい人がカネを払う」というのは、自由主義社会の鉄則だからです。

いずれにせよ、視聴者としては「NHKにカネを払わない」という自由を行使することができず、結果として現在のNHKには自由主義の経済競争原理が働かず、NHKが1万人前後とされる職員に対し、社会通念に照らしても異常に高額な人件費を計上する、といった乱脈経営が放置されています。

もしもNHKが民間企業としての原理を取り入れるなら、スクランブル化は必須です。

また、NHKが公的団体としての原理を取り入れるなら、人件費を国家公務員なみに引き下げるとともに、職員数の削減、業務の大幅な削減、不要資産の国庫返納、職員採用に際しての国籍条項など、公営企業としての統制を受け入れなければなりません。

NHKが現在のような、民間企業と公的団体の「良いところどり」をいつまでも続けることは許されてはならないでしょう。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. 七味 より:

    ひとことだけ・・・

    >スクランブルを導入した場合、どうしても「よく見られる」番組に偏り、内容が画一化していく懸念があり

    編成は経営から独立してるんじゃなかったのかな?

  2. 現役nhk職員 より:

    国民がNHKに逆らうことはできない
    力の差を考えよ
    大人しく契約し、受信料を払いなさい

    1. 攻撃型原潜#$%〇X より:

      へへーー、恐れ入りやした。泣く子と地頭とNHK様には勝てません。

    2. 転勤族 より:

      イヤどす

    3. 農民 より:

       こちらで釣りは珍しいですね。
       でもちょっと考えさせられました。農家が「NHK職員には絶対に野菜を売らん。」とかできれば面白いですね。で「NHKは農家には逆らえぬ。野菜食いたいなら月額千円払ったら購入権をやる。」とか言ってみたい。

       ……どれだけ無茶な制度かよくわかるなぁ。

  3. 犬HK より:

    国民がNHKに逆らうには
    受信契約を結んでいる者は解約し、結んでいない者は引き続き締結しない

    これを徹底すれば放送法の改正やスクランブル云々などせずともNHKは瓦解する

  4. 攻撃型原潜#$%〇X より:

    家にテレビがあり、ちゃんと受信料を払っていたとしても、例えば出先でweb経由でNHKニュースを見るためには更にカネを払わねばならないんですか? それって受信料の二重搾取と違いますか。
    それなら、今時ネットは生活必需品であり捨てられないので、家のテレビはお払い箱にしてwebだけで見ることにしよっと。

  5. わんわん より:

     方向性が違う
    まず議論すべきは↓
    https://sakisiru.jp/27604

  6. 引っ掛かったオタク@敗北主義ニ堕ツル より:

    既得権益の一大牙城を突き崩す政治力を発揮できそうな既存政治勢力は見当たりません
    然りとて喰う寝る遊ぶで手一杯その日暮らしの身の上で新勢力を構築できるとも思えません
    たまさかえんとろぴっきーな怨嗟の声を撒きつつ、
    結局これからも搾取され続けるんでしょう(白眼

  7. 陰謀論者 より:

    個人が鼻歌を歌うのにも課金すべきと考えるJASRAC
    世帯契約を最低でも個人契約、できれば映像端末ごとの契約にと目論むNHK

    既得権益者というものは既得権益の維持どころか傲慢にもそれ以上を求めるもののようです。

  8. sqsq より:

    韓国でもNHKのBS放送視聴できるの知ってます? しかもタダで。
    スクランブル化すれば解決するのに。

  9. 匿名 より:

    これをやったら、通信の自由を奪うことになりますよ。ネットでメール、LINE、なんかやるのは、通信ですよ。そういう通信手段に、通信に関係ない所が課金するなんて。
    これをやったら、グーグルや、フェイスブック、Amazon、なんかから、NHK訴えられます。いや、世界中のWebビジネスやっている企業から、訴えられます。営業妨害だと。
    それで、逸失利益まで請求され、多分、外国企業の場合、その制度を決めたトップまでを請求対象にしますよ。
    放送は、日本国内だけだけど、Webは、ワールド・ワイド・ウェブだから、日本国内の放送法は及ばない。
    NHKが、もし本当に、放送法に忠実でありたいなら、解散することです。もう、歴史的な使命が無くなっているのだから。
    NHKと放送法の使命は終わっています。

  10. ピークを過ぎたソフトエンジニア より:

    お金を取ることを考える前に、NHKの番組の質が下がってきてる気がしてしょうがないですね。
    普段見ないテレビでも複数人同席する場では付けてチャンネルを選ぶ機会はあります。以前は民放はコマーシャルが長すぎるし番組内容までコマーシャルのようだし、流しておくのも苦痛だからNHKにしておこうと思って消去法でそうしてました。しかしNHKの内容が見たくないものだった場合はあたりさわりのない民放に変えます。
    最近は最初から民放であたりさわりのない番組を探します。
    選べるようにしたら採算合わないことがはっきりしてしまうのではないでしょうか。

    1. 新宿会計士 より:

      そもそも最初からテレビをつけないという選択肢もあるかもしれませんね。ちなみに著者自身は自宅にも職場にもテレビはありません。

      1. ピークを過ぎたソフトエンジニア より:

        新宿会計士様
        実際に視聴する時間は一日30分未満ですが、家族で食事する時の環境音的な使い方で付けてます。文句を言いながらも話題にはなりますし。
        ただ、テレビが無くても個人的には全く困らないことは確かです。

        1. 新宿会計士 より:

          音楽ならテレビをやめてアレクサなどにしてはいかがでしょう?

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