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良い意味での豹変?日経「岸田首相が原発新設を指示」

参院選前に「節電ポイント」だのと述べていたのと同じ岸田首相とは思えません。日経などの報道に基づけば、政府は原発17基の再稼働を目指すとともに、岸田首相が原発の新設などの方針も打ち出すのだそうです。まずは原発の再稼働、そして民主党政権の負の遺産である再生可能エネルギー買取制度自体の改廃にも踏み込んでいただきたいところです。

節電ポイントで電力は生まれない

岸田文雄首相の電力政策には不安だらけ――。

当ウェブサイトでは今年6月頃から何度となく取り上げたとおり、政府が進めようとしている「節電ポイント」制度に対しては、個人的にはその有効性を巡って、非常に強い疑念を抱いています。

ポイントで電力は生まれない:いまこそ電力安定供給を』などでも議論したとおり、昨今の電力不足は、菅(かん)直人政権以降の電力政策の失敗に由来する、というのが、現時点における当ウェブサイトなりの結論だからです。

今度は月額640~1,280円、でしょうか。例の「節電ポイント」をめぐり、共同通信は週末、政府が「毎月の電気代の1~2割の減額を検討している」と報じました。この記事をどこまで信じるかはさておき、冷静に計算してみると、例の「月額数十円」と比べればいくぶんかマシですが、それでも我々日本国民が決して少なくない再生エネ賦課金を負担してきたことに照らせば、「1,280円をあげるから節電に協力せよ」とは、ずいぶん無理がある依頼です。「節電ポイントで毎月数十円を稼ごう」当ウェブサイトでも連日のように取り上げている話題の...
ポイントで電力は生まれない:いまこそ電力安定供給を - 新宿会計士の政治経済評論

原発の稼働停止による影響は明らか

資源エネルギー庁の『総合エネルギー統計』をもとに、電源別発電量についての推移を調べてみると、図表1のとおり、2010年に1兆1494億kWhだった日本の発電量は、2020年には1兆0008億kWhにまで減少していることがわかります。

図表1 電源別発電量の推移

(【出所】資源エネルギー庁『総合エネルギー統計』データより著者作成)

実数で示すなら、原子力の発電量が減少したことで、そのまま日本全体の電力供給量が減少していることは明らかでしょう(図表2)。

図表2 原子力の発電量とシェア
発電量(kWh) 割合
2010年 2,882.30 25.08%
2011年 1,017.61 9.33%
2012年 159.39 1.48%
2013年 93.03 0.86%
2014年 0.00 0.00%
2015年 94.37 0.91%
2016年 180.60 1.72%
2017年 329.12 3.11%
2018年 649.29 6.18%
2019年 637.79 6.24%
2020年 387.52 3.87%

(【出所】資源エネルギー庁『総合エネルギー統計』データより著者作成)

原子力発電が発電量全体に占める割合は、2010年の25%から2014年にはゼロ%(!)にまで低下。最新データが整っている2020年時点においても3.87%に過ぎません。

FIT法にも大きな問題が!

また、菅直人政権下の2011年に成立した『電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法』(通称「FIT法」、現在の正式な法律名称は『再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法』)も、非常に大きな問題を抱えています。

この法律では、太陽光発電などで生み出された「再生可能エネルギー」を固定価格で買い取ることとし、その買取資金を各家庭などから事実上強制的に徴収することなどを定めており、その賦課金は、2022年5月からの1年間に関しては1kWhあたり3.45円と決まっています。

毎月260kWhの「モデル世帯」に当てはめたら、毎月897円、年間で10,764円を強制徴収されている計算であり、決して安い金額ではありませんが、もっとおかしな話があるとしたら、各世帯がこれほどの金額を負担させられておきながら、電力の安定供給が実現していない、という点でしょう。

再生可能エネルギーの発電量は、得てして天候などの自然条件に大きく左右されることが多いので(※太陽光などその典型例でしょう)、基本的にはベースロード電源にはなり得ません。

しかも、太陽光発電は全国各地で環境破壊などの問題を生み出しており、さらには現行法制上、発電業者に対して供託金などを義務付けていないため、太陽光発電設備が破損した場合や機能しなくなった場合の修繕・撤去費用の問題などについても未解決のままです。

やはり、天候などに左右される再生可能エネルギーとは異なり、安定して電力を生み出すという意味では原発が最も効率の良い発電手段であることは間違いありません。

いずれにせよ、日本国民が巨額の賦課金の負担を強いられておきながら、電力の安定供給もできておらず、それどころか「節電ポイントで節電に協力せよ」、では、国民の理解は得られないでしょう。

「岸田、豹変す」!?

ただ、安倍晋三総理の暗殺事件以降、やはり岸田首相の顔つきが、多少は変わったような気がします。『安倍総理国葬、原発再稼働…「岸田豹変す」、なのか?』などでも指摘しましたが、もしも岸田首相が「良い意味で」豹変したのであれば、それは非常に歓迎すべき話でもあります。

人間、良い意味で「豹変」することはあるものですが、果たして岸田文雄首相も「豹変」したのでしょうか?岸田首相は昨日の会見で、先週暗殺された安倍晋三総理の国葬を実施する考えを示すとともに、原発を最大9基再稼働すること、医療従事者など800万人を対象にしたコロナワクチンの4回目接種を進めることなどを発表しました。どれも非常に歯切れがよく、わかりやすい説明であり、「検討します」、「注視します」などと述べていたころとは印象がずいぶんと異なります。2022/07/15 08:40追記「再稼働」を「稼働」に修正するなど、当初...
安倍総理国葬、原発再稼働…「岸田豹変す」、なのか? - 新宿会計士の政治経済評論

では、実際のところ、岸田内閣の「本気度」は、いかなるものなのでしょうか。

これに関して時事通信や日経新聞などのいくつかのメディアに、原発再稼働や新設などの記事が出ていました。

原発7基、追加再稼働へ 来夏以降の電力不足解消で―経産省

―――2022年08月24日11時21分付 時事通信より

首相、次世代原発の建設検討を指示 来夏以降17基再稼働

―――2022年8月24日10:53付 日本経済新聞電子版より

このうち時事通信の方の記事によれば、経産相が24日、「来年以降あらたに7基の原発の再稼働を目指す方針を固めた」、としています。

「~の方針を固めた」、とは、なんだか日本語としては奇妙ですが、この点はとりあえず脇に置きましょう。時事通信の記事が事実なら、すでに再稼働が認められている10基と合わせて17基が稼働できる体制となる、ということでしょう。

岸田首相、原発新設に言及か

一方、日経の方の記事では、「来夏以降に最大17基の原発を再稼働」という時事通信の記事と同じ情報に加え、もう一歩踏み込んで、岸田首相が24日午後に官邸で開くGX実行会議で、「次世代型の原子力発電所の開発・建設を検討するよう指示する」、などとも記載しています。

ちなみに原発新設については、「30年以降の課題」として「将来を見据えた次世代原発の開発や建設」を主要な検討項目に据えたとしつつ、経産相審議会も既存の原発よりも安全性を高めた改良型の軽水炉については「30年代に商業運転する」と盛り込んだ工程表案を取りまとめている、などとしています。

つまり、稼働停止中の既存の原発の再稼働に加え、東日本大震災後、初めての新たな原発の建設も盛り込まれた、ということです。

「節電ポイント」などと述べていたころの岸田首相と同一人物とは、にわかには信じられないところです。

ちなみに日経によると、国内に原発は33基あり、このうち電力会社が原子力規制委員会に再稼働を申請しているのは25基で、17基が規制委員会の安全審査を通過しているものの、再稼働したことがあるのは10基にとどまっており、現時点で運転している原発は6基なのだとか。

いずれにせよ、電力不足の抜本的な解消が直ちに実現するというものではないと思われるものの、まずは原発の再稼働を粛々と進めていただきたいところです。

また、日本のエネルギー供給における最も大きな問題であり、菅直人政権の負の遺産でもあるFIT制度そのものの改廃にも、是非とも踏み込んだ議論をお願いしたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (35)

  • >さらには現行法制上、発電業者に対して供託金などを義務付けていないため

    太陽光発電設備の廃棄等費⽤積⽴制度について(エネルギー庁)
    https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/fip_2020/fip_document03.pdf

    >2022年7月より最も早い事業からの積立てが開始する

    稼働開始10年を経過した設備が対象。売電額から天引きされるみたいですね。

  • このニュースには驚きました。
    原発推進に舵を切ったとも言えますから、聞くだけと揶揄された岸田総理が
    初めて(?)何かを決めたように感じますね。

    電力不足への対応は発電量増加、これは小学生でもわかる対策であり
    停止中の発電所があるなら発電量増加が一番近道なのも分かります。
    原発アレルギー持ちはアベガー症候群持ちに多そうなので、国葬反対で吹き上がっているところに
    タイミングを見計らって原発再稼働などをぶつけたのかなと勘ぐっています。

    • 発信のタイミングとその意図はさておき、内容についてはおそらく原子力ムラのロードマップからそう逸脱していないのではないかと愚考いたします
      前の「9基動かす」と同じような…

  • 支持率ageか岩盤固め狙いのガス抜き砲or観測及び宣伝気球に見えてしまうのは、ワタシの性根がネジ曲がっているせいなんでしょう…

    安全審査クリア済みが既に17基あるんすか~ そーっすかー()

  • 三菱が車両にて可搬性のある小型原子力発電ユニットを開発中ときくので、"新設発言" もさほど…

  • 子供のころの喧嘩で「髪の毛引っ張るのナシね」「急所をけるのナシね」というのが暗黙の了解だった。戦争でいえば「原発にミサイル撃つのナシね」
    原発は第二次大戦後にできた。こんな了解が通用するのか。
    日本は原爆など持つ必要ない。中国、韓国の原発をミサイルで狙えると言えば相手は怯むはず。

    • 中国の原発まで届く弾道ミサイル他を日本は今現在持っておらず、その上、敵地攻撃が出来るミサイル保有を頑なに反対する日本人中共党員がいるため、絵に描いた餅です。
      仮に、原子炉にミサイルが命中したとしても、福島第二原発と同じくメルトダウンは起きるでしょうが、原爆のような激しい核反応を起こすほど核燃料棒は密度が高くありません。
      黄砂が毎年日本を襲い、中国韓国の海洋ゴミが大量に日本沿岸に漂着する事実をご存じですか。中国沿岸部にある原発で大量の放射能拡散が起きると大気に漏れ出したものは偏西風に乗って、海に流れ出した放射能は海流に乗って日本へも大きな影響があるので、天に唾するようなものです。
      従って原発攻撃などより、相手にダメージを与える効率からすれば核爆弾が最高ですが、それが日本に必要かどうかはまた別の話です。

    • 福島第一の事故で、原発の建屋が破壊された時の被害というのが、
      ある程度、分かったので、もう気にしないんじゃないかな。

      中国なら、三峡ダムのほうが痛いと思います。

  • 原発の再稼働と新規建設に合わせて、電気料金の値下げをしてほしいでね。

    お隣韓国では、大赤字を出してまで企業電気料金を下げています。日本政府は、国益のためにも韓国のダンピングだと国際社会に訴えるべきです。

    韓国に対して忖度する必要はもうありません。

  • 最初の見出しですが「原発新設」と書かずに「次世代原発の開発・建設」と書いたほうが良い気がします。小型モジュール炉(SMR)の開発でしょうが,実用段階にはもう少し研究が必要で,実際に稼働するまでには10年程度かかる気がします。現在の電力不足には間に合いませんが,長い目で見れば,核融合発電までのつなぎになるでしょう。
    既存原発再稼働は60年超の利用も検討しているようですが,さすがにメンテナンスが大変な気がします。アナログ時代のもので老朽化以上に陳腐化している部分が多いと思います。でも,当面は仕方ないかな。
    太陽光発電の失敗に早目に気付いてよかったですね。
    コロナのほうも,帰国前PCR検査の廃止は有り難いです。ただ,PCRとサーチャージの高さで躊躇しているうちに,座席がなくなってしまって,結局今年の夏の海外旅行は断念しました。それに,フライトが半分以下に減ったままなのを7月には認識していませんでした。

  • 独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
    (逆ぎれされたら面倒なので)
    「日本の原発も、ウクライナのように他国から攻撃される可能性がある」と言い出す人が出てくるでしょう。しかし、これは「日本もウクライナのように他国から攻撃される可能性がある」ということも示しているのです。つまり、「憲法9条があれば、日本は他国から攻撃されない」と「日本の原発が、他国から攻撃される」は両立しないのです。もっとも、「他国からのミサイルは、自分が嫌いなものだけを破壊してくれる」と信じているのかもしれませんが。
    蛇足ですが、北朝鮮と停戦中の韓国の原発は、攻撃される危険性はないのでしょうか。
    駄文にて失礼しました。

    • 私が北の指導者なら必ず原発を標的にするね。
      相手の嫌がることをするのが戦争。勝者総取り。勝てば官軍。勝った後で「あれは事故だ」で涼しい顔。
      正義が勝つのではなく、勝った方が正義。

    • >「日本の原発も、ウクライナのように他国から攻撃される可能性がある」と言い出す人が出てくるでしょう。

      その時こそ
      日本には憲法九条があるから他国から攻撃を受ける可能性は無いから大丈夫だと言って一蹴すれば良いのでは。

    • >北朝鮮と停戦中の韓国の原発は、攻撃される危険性はないのでしょうか。

      「ソウルを火の海にする」という言葉があります。

      多連装ロケット、短距離ミサイル、弾道ミサイル…
      もうすでに多量のこれらが北朝鮮からソウルに向けられている。

      韓国の徴兵では最初にこれが教えられ北との戦争は無理と悟るそうです。
      北はわざわざ原発を攻撃するまでもないのでしょう。

  • 安倍元首相亡き今、岸田首相は「もはやのらりくらりではダメだ」と
    方針を変えたんでしょうかね?

    少なくとも「原発ガー」「自然エネルギーだけで十分!」派よりはずっと現実的だと思います。
    ヨーロッパの各国も「化石賞?なんだそれは?」とシラを切って
    従来の発電方法を増やすみたいですしね。

  • 小型原子力発電装置のことは総裁選のとき高市さんが開発推進を述べてましたね。これを党の方針として引き取ったのでしょう。

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