「適材適所」「派閥均衡」どちらの視点でも中途半端さ目立つが…
吉と出るか、凶と出るか。主要メディアが今朝までに報じた内閣改造による閣僚人事、党役員人事の概要を眺めると、手放しで絶賛するのは難しい、という印象を抱きます。とくに外相の留任が適切だったのかどうかについては、大変に懸念されるところでもあるからです。さらには派閥均衡の観点からは、安倍派や二階派の軽視が気になります。ただ、加藤勝信氏の厚労相就任、河野太郎氏のデジタル相就任など、興味深い人事も垣間見えます。
閣僚人事・党役員人事
岸田文雄首相の内閣改造・党役員人事の概要が報じられています。
これについて、報道をベースに閣僚ポストと出身派閥、選挙区や当選回数などのデータをまとめておくと、図表1、図表2のとおりです。
図表1 閣僚人事の概要(◎は初入閣)
大臣 | 派閥等 | 選挙区、当選回数 |
---|---|---|
総理大臣 岸田文雄 | 岸田派 | 広島1区【10】 |
総務大臣 寺田稔◎ | 岸田派 | 広島5区【6】 |
法務大臣 葉梨康弘◎ | 岸田派 | 茨城3区【6】 |
外務大臣 林芳正 | 岸田派 | 山口3区【1(参5)】 |
財務大臣 鈴木俊一 | 麻生派 | 岩手2区【10】 |
文部科学大臣 永岡桂子◎ | 麻生派 | 茨城7区【6】 |
厚生労働大臣 加藤勝信 | 茂木派 | 岡山5区【7】 |
農林水産大臣 野村哲郎◎ | 茂木派 | (参)鹿児島【4】 |
経済産業大臣 西村康稔 | 安倍派 | 兵庫9区【7】 |
国土交通大臣 斉藤鉄夫 | (公明党) | 広島3区【10】 |
環境大臣 西村明宏◎ | 安倍派 | 宮城3区【6】 |
防衛大臣 浜田靖一 | 無派閥 | 千葉12区【10】 |
官房長官 松野博一 | 安倍派 | 千葉3区【8】 |
デジタル担当大臣 河野太郎 | 麻生派 | 神奈川15区【9】 |
復興担当大臣 秋葉賢也◎ | 茂木派 | (比)東北【7】 |
国家公安委員長 谷公一◎ | 二階派 | 兵庫5区【7】 |
地方創生担当大臣 岡田直樹◎ | 安倍派 | (参)石川【4】 |
少子化担当大臣 小倉將信◎ | 二階派 | 東京23区【4】 |
経済財政再生担当大臣 山際大志郎 | 麻生派 | 神奈川18区【6】 |
経済安保担当大臣 高市早苗 | 無派閥 | 奈良2区【9】 |
図表2 党役員人事の概要
大臣 | 派閥等 | 選挙区、当選回数 |
---|---|---|
総裁 岸田文雄 | 岸田派 | 広島1区【10】 |
副総裁 麻生太郎 | 麻生派 | 福岡8区【14】 |
幹事長 茂木敏充 | 茂木派 | 栃木5区【10】 |
総務会長 遠藤利明 | 谷垣G | 山形1区【9】 |
政調会長 萩生田光一 | 安倍派 | 東京24区【6】 |
選対委員長 森山裕 | 森山派 | 鹿児島4区【7(参1)】 |
(【出所】報道等。派閥や選挙区、当選回数などについては外部サイト、衆参両院ウェブサイト等を参考に著者調べ)
財相、外相の留任は適切?そして派閥均衡は?
このうち閣僚人事については、外相、財相、官房長官、経済財政担当相の4名、および公明党の「指定席」である国道交通相については留任となったものの、その他の14閣僚が総入れ替えとなる、大幅な改造といえます。また、党役員人事についても、副総裁と幹事長以外の3役が入れ替わりました。
また、閣僚経験者が11人に対し、初入閣も9人いるようです。
正直、個人的には財相と外相については大いに問題があると思いますし、ことに中国の脅威が増すなかで、適性自体にも問題がある人物が「ウソツキ官庁」である外務省を束ねるポストに留任すること自体、大変に困った話でもあります。
もし外相に任命するならば、同じ岸田派の小野寺五典氏あたりでも良かったのではないでしょうか。
気になる点は、それだけではありません。
今回の人事、閣僚・党役員ポストを受け取ったのは、安倍派と麻生派がそれぞれ5つ、岸田派と茂木派がそれぞれ4つ、二階派が2つ、それ以外が4つですが、所属議員数で見れば安倍派と二階派のポストがいかにも少なく見えてしまいます。
主要5大派閥の所属議員数(衆参、8月8日時点)
- 安倍派…97人
- 麻生派…52人
- 茂木派…55人
- 二階派…43人
- 岸田派…43人
(【出所】著者調べ)
こうしたポスト配分の結果、安倍派や二階派などの議員の間で「冷や飯を食わされている」という不満が溜まりはしないかどうかについては気になるところです。
また、前首相でもある菅義偉総理が入閣しなかったというのも気になるところです。これについては菅総理自身にやる気がなかったからなのか、あるいは岸田首相が菅総理の起用を嫌がったのかはわかりません。河野太郎氏がデジタル担当相として入閣しているのは「菅総理の代役」という意味でしょうか?
手堅さも垣間見えるが…
ただ、こうした「党内力学」の議論を別とすれば、今回の人事自体は「手堅い」という部分もあります。同じポストに再任したという事例が2人いるからであり、また、閣僚経験者も(岸田首相を除けば)10人いるからです。
たとえば安倍晋三総理のもとで厚労相を、菅総理のもとで官房長官を務めた加藤勝信氏が、今回、再び厚労相に就任するそうです。厚労相として、あるいは官房長官として、コロナ対応の陣頭指揮を執ってきた加藤氏だけあって、安定感がありそうです。
また、浜田靖一氏については、今から14年ほどまえ、麻生太郎総理の下で防衛相を務めていたという経歴を持っているほか、「ハマコー」の愛称でも知られる故・浜田幸一元衆議院議員の子息としても知られています。
さらに、河野太郎氏に関しては、菅総理の下での「ハンコ廃止」「ワクチン100万回接種」などで功績を残した人物でもあることから、デジタル担当大臣として役所(とくに日本年金機構あたり)の無駄なペーパー行政を撤廃するなど、行政の効率化に手腕を振るっていただきたいと思う次第です。
これにくわえて高市早苗氏が経済安保担当相というのも、考え様によっては興味深いところです。とくに日米両国が「経済版2+2会合」を開始したなかで、日本の側に外相、経産相以外に実力派の経済安保担当閣僚が存在していることは、外相のぐらつきを補ううえでは有益かもしれません。
吉と出るか、凶と出るか…
以上のとおり、現時点において改造内閣・党役員人事が「巧み」といえるかについては、若干疑問が残る部分もあります。ことに岸田首相は統一教会との関係を人選にあたっても留意した、などの報道もあるようですが、今回の人事が国難を乗り切るうえで「本当に適材適所といえるのか」については微妙でしょう。
ただし、とりあえず先月の参院選を乗り切った岸田首相にとっては、衆院解散をしない限り、2024年の自民党総裁選までの2年間については「フリーハンド」を得た格好であり、岸田内閣がこれから本格的に「キシダ色」を出していくつもりなのかもしれません。
いずれにせよ、今回の人事、部分的には興味深い部分があるにせよ、党内派閥への配慮という意味においても、あるいは「適材適所」への配慮という意味においても、全般的に中途半端さが漂います。
このタイミングでこの内容の内閣改造を実施したことが、岸田首相にとって吉と出るか、凶と出るかについては、まだ見えてこないようです。
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今度の組閣も各方面の評価はバラバラですね。
とあるサイトでは「『人事だけ得意』という評判の岸田首相や周辺なりに苦心した末に、実務志向で固めた」と言われてました。
外相の林の再任は頂けないと私も思います。あれだけ中韓対応を失敗しても次の総理も宏池会からという岸田のエゴが透けて見えます。林は総理の器ではないでしょう。
河野太郎は一心不乱に当たれるポジションを与えておいた方が、余計なことを企む暇がなくなっていいのではないでしょうか。段々石破的なポジになりつつありますし。
何はともあれ小泉の子倅が入らなかったのは良かったw
>所属議員数で見れば安倍派と二階派のポストがいかにも少なく見えてしまいます。
前回比で変わってないので、今はその派閥自身はそこは問題提起できないでしょうね。将来はわからないですけど。
岸田首相らしい現状維持の無難な人事だと思いました。
総務はNHKや電波の改革は期待できないでしょうね。
防衛はよくわからないんですが、浜田氏って前の防衛相時代によくない評判を聞いた記憶が・・・思い出せない。
>岸田首相らしい現状維持の無難な人事だと思いました。
ちなみに、褒めていません。
浜田氏は親父さんと違ってメディア露出が少なく前回の防衛相時代は発信力不足を言われていました。ただ、実務面の評価は高かったようです。
ざっと見てみましたが、特段悪い評判は見つかりませんでした。
私の勘違いかもしれません。
更新ありがとうございます。
岸田新内閣の組閣について、林外相は大きな失点に繋がりそうで怖いです。
高市早苗議員や河野太郎議員の起用は評価できますが、もう少し「攻め」に回しても良かった様に思います。
何にせよ岸田総理らしい、もやっとした感じだと思います。
話は変わりますが、国葬の差し止め仮処分申請を行っていた、田中正道氏が率いる「市民グループ」が、東京地裁に申請の却下をされました。
https://nordot.app/930004483272851456
この後、抗告などをすると更に担保金が追加で必要になると思うのですが、最初にいくらぐらい預けたのでしょうか?
件の田中正道氏は訴訟マニアかと思うぐらい、何度も訴訟をして負けていますが、どこが資金を出しているのでしょうか。
気になります。w
>今回の人事が国難を乗り切るうえで「本当に適材適所といえるのか」については微妙でしょう
ならばボクが考える最強の岸田内閣名簿でも披露してはいかがですか、各ポストの任命理由も合わせて。新内閣の適材適所が微妙と断ずるほどなら自民党所属議員の資質を知り尽くしてるのでしょうから。
「微妙」という言葉で「断ずる」ことができるとお考えでしょうか。
「微妙」は、そこまで極端な意味ではないことを表現するために
使う言葉のように思うのですが。
そうですね、岸田首相らしい「無難な布陣」という評価がよろしいのでは、ないでしょうか。
1.世間の注目を集める統一教会ですが、30年近く社会問題になっておらず、これで(例えば祝電をうっただけで)一切排除というのも、行き過ぎかと思います。イベント出席の萩生田さんを党三役へ栄転させたのも、予想通りですが、良い選択かと、思います。
2.安倍派の処遇も、先ほどの萩生田さん、松野官房長官の留任、西村経済産業相への登用、5ポストの確保、「パンツ大臣」こと高木国対委員長の留任ということで、同派からは高い評価と伝え聞いております。割を食ったのは世耕さんかとも思いますが、参院議員との要素もあり、仕方ないでしょう。安倍派の後継争いからは一歩後退かな。同派の後継は◎萩生田〇西村▲世耕△松野×(穴との意)高市で進むと思いますが、萩生田さんは当選回数が若くて、下村、塩谷、高木といった先輩諸氏から嫉視されやすいので、森元総理の後ろ盾、若手の信望あたりが鍵ではないでしょうか。
3.外相は保守派からは受けの悪い林さんの留任ですが、岸田さんからすれば①手堅さ②信頼度からして他の選択はないでしょう。
4.防衛大臣は、私は寺田首相補佐官(結果的に総務大臣)かと予想していましたが、さすがに”首相・外相・防衛相を宏池会”は避けたのでしょうね、無派閥で手堅い浜田さんになりました。経済安保担当相への高市さん、国家安保担当補佐官への岸さん含めて、保守派への配慮でしょう。
5.河野さんですが、私は総務会長あたりへの登用を予想していましたが、デジタル相となりました。軽すぎるような、総裁選の敗者には相応なような、微妙なバランスかと思います。麻生さんも権力欲は強いから、健康に問題なければ、なかなか派閥を譲らないかもしれませんね。
6.鈴木財務相の留任ですが、岸田さんは安保では保守派に配慮するような気もしますが、財政は規律重視に舵を切る、そのため岸田-麻生-鈴木のラインは崩さないとの意と推測します。
7.骨格とは思えないのに、公明党を除き、ただ一人留任となった山際経済再生担当相ですが(これも予想通り)、甘利系の麻生派、岸田さん肝入りの「新しい資本主義」担当で、能力を買われているのでしょうね。将来の幹部候補かも。
8.話題造りで、無理に(?)女性の三原じゅん子さんや、松川るいさんを起用しなかったのも、良かったと思っています。若手で青年局長の小倉さんを折角少子化相に起用したけど、全く話題になりませんね。アナウンサーとのスピード離婚が尾を引いているかな。
麻生さんは河野さんの親父さんから預かった派閥を河野さんに継がせるのに、河野さんにもう少し党務に勤しむことで党内議員に濃い人脈を構築して欲しかったようです。
ところが今回また閣内に入ったことで河野さんの“一匹狼”的立ち位置を固める方に向いてしまいました。
岸田さんとしては河野さんの突破力を活用しつつ自身の後継を宏池会から出すために河野さんの芽を育てない良策だったかと見ました。
やらかしまくった林が再任でメディアスクラムで作り出したトウイツガーで安倍派冷遇か。
どうしようもないな。
20世紀末の悪しき自民党が戻ってきた。
>適性自体にも問題がある人物が「ウソツキ官庁」である外務省を束ねるポストに留任すること自体、大変に困った話でもあります。
佐渡金山の件について言えば、外務省が嘘を吐いたという裏付けは取れていません。せいぜい「疑惑がある」止まりです。
情報の正確性の為に「疑惑がある」といった表現を使う方が宜しいかと思います。
>同じ岸田派の小野寺五典氏あたりでも良かったのではないでしょうか。
これについては同感ですね。
ただ、林外相はメッセンジャーぐらいにしか仕事していないので、目立った得点も失点も無いです。
評判はともかく、積極的に変えなければいけないほどの理由が無い。
変えるのは、中国側から、より態度の悪化を誘い出してからでもいいかと思います。
>前首相でもある菅義偉総理が入閣しなかったというのも気になるところです。
断片的な情報を見る限り、菅元総理は閣内に入ってというよりは、閣外から協力したいという考えのように思えます。
それが、派閥争いみたいな政局に巻き込まれたくないという思いによるものだとすれば、それもまた菅元総理らしいと思います。
ただ、公明党との連携のために岸田総理に協力したりというエピソードも見掛けるので。
日本のために、内閣のためにという思いで、岸田総理への協力そのものは拒まないし、積極的に協力されるように思います。
雑談でも書きましたが、概ね岸田総理らしい、バランスに配慮した無難な組閣だと思います。
個性が無いのが個性とでも言えば良いのでしょうか。メンバーの通り、概ね無難な運営が続くように思います。
蓋を開けてみれば、ほとんど意外性のない人事でした。
高市氏を防衛相に起用したら面白かろうと思ってたんですが、やはり岸田総理はリスクを避けたようです。高市氏を入閣はさせたものの、経済安保担当と言えば聞こえはいいですが、実質的には何の権限も与えないというあたり、岸田総理の人の悪さの表れと見るべきか、それとも「その程度」にしか評価していないのか、どちらとも取れますね。
他には......う~ん、経産相がちょっと「大丈夫か?」とは感じますが......
高市さんは動きにくい処に嵌め込まれたかに見えます。“経済安全保障”の範囲は広すぎる上に複数の省庁の所管を跨ぐので、“大臣”といっても現時点では明確な権限無さそうですし。官僚組織の縄張り張り替えて場所を造ることができるかにかかってくる、かもしれません。
西村さんは秘書官使い潰すので有名だそうですし経産官僚がどこまで耐えられるか、ここで先の芽が残るか否かの正念場でしょうか。
産経新聞によると
『中国外務省の汪文斌(おうぶんひん)報道官は10日の記者会見で、「中国は、中日関係を重視している」とした上で、「日本の新内閣と中国が歩み寄り、両国関係の健全で安定した発展を推し進めるよう期待する」などと要望した。』
とありますが、これ、中国にとって組みやすし美味しい布陣なのでは?と素直に思ってしまいます。最大の懸念はハニトラがんじがらめ噂のリン・ファンジェン外相が留任ですしね、、、、