朝日新聞社系の『日刊スポーツ』によると、チューナーレステレビが「想定以上の売れ行き」なのだそうです。もちろん、現時点においては大手家電メーカーが参戦しているわけではなく、販売されている台数も限定的ではありますが、ただ、世の中の常として、ニーズがあればそれに対応した製品が出てくるのも当然のことでもあります。そうなると、「そもそも地上波テレビ放送を映す機械がない」という意味で、地上波テレビの視聴者離れが加速する可能性もあるでしょう。
目次
地上波テレビの三重苦
この点、当ウェブサイトでは約2年半前、コロナ禍直前の『テレビの三重苦:視聴者、広告主、クリエイター離れ』で、現在の地上波テレビ業界自体、視聴者、広告主、クリエイターから同時に見放されかけている、とする話題を取り上げました。
先日の『そもそも視聴率って信頼できるんでしたっけ?』に対し、一部のコメント主様から、いろいろと面白い情報を教えていただき、またそれをもとに様々なサイトを調べると、なかなか興味深いことが判明しました。それは、テレビCMでは「GRP(延べ視聴率)」という概念が重視されていて、関東地区の場合だと「1GRP」を獲得するためにはだいたい10万円くらいだ、ということらしいです。もっとも、先日も報告したとおり、テレビの視聴「率」は視聴「者数」あるいは視聴「回数」とはまったく異なる概念であり、もし自分自身が企... テレビの三重苦:視聴者、広告主、クリエイター離れ - 新宿会計士の政治経済評論 |
このうち「クリエイター離れ」については、私たち一般人でも気軽に体験できる場があります。それが動画サイトです。
かつてのような、情報発信をテレビ局が完全に独占していたような時代ならともかく、現代社会においては有料、無料を含めた動画サイトもかなり充実しており、ツイッターなどのSNSでも動画のリンクを簡単に投稿することができるようになりました。
チャンネル登録者数が数百万人という個人ユーチューバーも出現していますし、もしかするとそれらのユーチューバーが投稿する動画のなかには、「地上波テレビの番組などと比べて圧倒的に面白い」と多くの人が感じるようなものも増えてくるかもしれません。
また、「広告主離れ」という意味では、『ついにネット広告費がマスコミ4媒体広告費を追い抜く』でも取り上げたとおり、株式会社電通のレポートによれば、新聞、テレビ、雑誌、ラジオの「マスコミ4媒体」を合計した広告費の総額を、ネット広告費が追い抜いた、とする話題もありました。
ついに、ネット広告費がマスコミ4媒体広告費を追い抜きました。株式会社電通が先月公表した2021年版の『日本の広告費』によれば、マスコミ4媒体(新聞、雑誌、テレビ、ラジオ)の広告費はコロナ禍で急減した2020年と比べてやや持ち直したものの、成長著しいインターネット広告費に、あっけなく追い抜かれた格好です。本稿ではまず、その事実確認をしておきたいと思います。株式会社電通『日本の広告費』の最新版当ウェブサイトでは例年、株式会社電通が公表している『日本の広告費』というレポートをもとに、インターネット広告費と... ついにネット広告費がマスコミ4媒体広告費を追い抜く - 新宿会計士の政治経済評論 |
つまり、この「テレビ業界の三重苦」という状況は、この2年半で改善されるどころか、ますます悪化しているようにも見受けられるのです。
視聴者離れを加速させかねない「チューナーレステレビ」
さて、この「三重苦」のうちのひとつである「視聴者離れ」については、これをさらに加速させかねない材料が出てきました。それが、以前の『NHKとの契約不要「ドンキテレビ」好調につき再販へ』などを含め、当ウェブサイトでしばしば取り上げてきた、「チューナーレステレビ」です。
NHKと受信契約の締結義務が生じないとされる「チューナーレステレビ」の売れ行きが好調なようです。ディスカウントストアのドン・キホーテが2月中旬から、チューナーレステレビの再販を始めるとの報道に加え、一部のメーカーは同様のチューナーレステレビの発売に踏み切っているのだとか。これなど、NHKの強欲が、結果的にはテレビ業界自体を道連れにしているようなものでしょう。ドンキのチューナーレステレビ『社会はチューナーレスTVによりNHK排除に動くのか』を含め、以前からしばしば当ウェブサイトで紹介してきた話... NHKとの契約不要「ドンキテレビ」好調につき再販へ - 新宿会計士の政治経済評論 |
「チューナーレステレビ」とは、その名のとおり、地上波放送を受信するためのチューナーが最初から内蔵されていない「テレビ」のことです。
この点、俗に「テレビ」が「地上波放送を視聴するための機械」を意味するため、「チューナーレス『テレビ』」というのも、なんだか奇妙な表現ではあります。地上波放送を受信することができない機械のことを「テレビ」と呼ぶこと自体、なんだか矛盾しているような気もするからです。
ただ、社会というものは常々変化していくものですし、当然、言葉の意味も変化していくはずです。
たとえば、東京都内の某有名家電量販店は「XXXXカメラ」と名乗っていますが、これらの店舗を覗いてみると、「XXXXカメラ」という店名にも関わらず、売り場面積に占めるカメラコーナーの割合は微々たるものであり、PC、スマートフォン、家電、おもちゃ、さらには楽器、酒、日用雑貨などを取り扱っています。
「テレビ」も同様であり、チューナーレステレビの出現により、「地上波放送を視聴するための機械」という意味ではなく、「映像コンテンツを視聴するための機械」という具合に、意味が少しずつ変わり始めているのかもしれません。
それはともかくとして、このチューナーレステレビ、その最大の特徴は、「それ単体では地上波放送を受信することができない」、という点にあります(このあたり、チューナーを接続すれば地上波が受信できるようになるものなのかどうかについては、存じ上げませんが…)。
放送法第64条第1項本文が適用されない
ただ、なぜこんな「テレビ」が出現したのかといえば、そこにはいくつかの事情がありそうです。そのひとつは、NHK問題でしょう。NHKについては『現代の貴族・NHK職員の平均人件費は1500万円超』などでも取り上げたとおり、その存在自体が大きな問題です。
これまた強烈な情報が出てきました。NHKは昨日、2022年3月期決算(財務諸表・連結財務諸表)を公表したのですが、相変わらず巨額の金融資産を保有するとともに、おそらく1万人を超えるであろう職員に対し、昨年に引き続き、1人あたり約1573万円の人件費を計上していることが明らかになりました。NHK職員はまさに「現代の貴族」であり、NHKとは「利権の塊」だと言わざるを得ないのです。金融資産は1.3兆円に!NHKは昨日、2022年3月期決算を公表しました。さっそくですが、NHKの連結財務諸表から判明する、NHKが保... 現代の貴族・NHK職員の平均人件費は1500万円超 - 新宿会計士の政治経済評論 |
なにせ、一般家庭から年間13,650円(※地上波のみの契約で口座振替・クレジットカード継続払の場合)という、決して安くはない受信料を巻き上げ、その受信料を使って少なく見積もって約1万人の職員に対し、1人あたり年間1500万円を超える人件費を計上しているからです。
NHKは「民間営利企業ではない」とされているため、NHK自身が製作するコンテンツがどんなにつまらないものであっても、また、NHKの番組がまったく視聴されていなくても、NHKには受信契約に従い、年間7000億円前後の受信料収入が保証されています。
また、NHKは「国営企業」ではないため、職員に対する給与水準なども放漫に決定することが可能であり、国家公務員などと比べても異常に破格の人件費を負担しており、さらにはNHK職員様であれば、NHKが用意した超高級な社宅に格安の賃料で住むことができる、との報道もあるほどです。
当然、「NHKに対して受信料を支払いたくない」と思う国民が非常に多いことは、「NHK党」などといういかがわしい政党が参議院で2議席を保有していることからも明らかであり、それだけNHKの存在が自由経済原理に反する矛盾に満ちたものである、ということでもあります。
(※このあたり、当ウェブサイトでもときどき、読者コメント欄でNHKに対する妙な擁護論を強弁する人もときどき出てくるようですが、正直、論旨は支離滅裂であり、まともに相手にする価値もありません。)
ただ、法的側面から見たチューナーレステレビの最も注目すべき特徴は、「NHKとの受信契約義務が生じない」、という点でしょう。放送法第64条第1項本文の規定を読むと、「協会」、すなわちNHKの放送を受信することができる設備を設置した場合には、放送受信契約を締結しなければならない、とされています。
放送法第64条第1項本文
協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。
チューナーレステレビはその定義上、「協会の放送を受信することができる受信設備」ではありませんので、当然、この放送法第64条第1項本文の規定は適用されず、したがって、NHKとの受信料締結義務は発生しません。
したがって、「テレビは設置したいけれどもNHKには受信料を払いたくない」という人にとっては、チューナーレステレビはうってつけ、というわけです。
すでに地上波は画質で抜かれている
ただ、そのように考えると、果たして「そもそもNHKを視聴したくないという人に、地上波を視聴するというニーズはあるのだろうか」、という疑問が浮かぶことも事実です。しかし、こうした疑問については、「そもそもテレビが映し出す映像は、地上波テレビには限られない」、という視点が抜けています。
じつは、チューナーレステレビの利点は「NHNとの受信契約義務が生じない」という点だけではありません。YouTube、NetFlix、アマゾンプライムといった、おもにインターネットなどを通じて動画を配信するサービスの利用に特化している、という点にあります。
【参考】fire stick 4K
(【出所】アマゾン)
【参考】アマゾンミュージック・アンリミテッド
(【出所】アマゾン)
それに、最近だと地上波テレビと比べ、ネット動画の方が、画質が良い、という事象も生じてきています。
総務省の資料『4K8Kとは 4K8Kの魅力』によると、現在の地上波テレビ放送は2K、つまり約200万画素(=1920×1080)とされます。
しかし、これが4Kになると、画素数はその4倍の約800万画素(=3840×2160)、8Kだとなんと16倍の3300万画素(=7680×4320)にも達します(図表1)。
図表1 画面サイズと2K、4K、8Kの関係
(【出所】総務省HP『4K8Kとは 4K8Kの魅力』)
しかし、総務省が2018年ごろに示した『ロードマップ』(図表2)によれば、地上波デジタル放送については2025年ごろになっても現在の「2K」のままの状態が継続するとされています。
図表2 4K・8K推進のためのロードマップ(※クリックで拡大)
(【出所】総務省『4K8Kの政策 -4K放送・8K放送の推進-』)
つまり、すでに地上デジタル放送は、画質ではBS、CS、ケーブルテレビ、さらにはYouTubeなどの動画配信サイトにはもう追い抜かれているのです。
この点、地上波が4K、8Kに対応するためには、テレビ業界全体としてそれなりのコスト負担を覚悟する必要がありますが、そのコスト負担にテレビ業界が耐えられるのかどうか、という問題もあります。
また、民放各局を含めた地上波自体、「コンテンツがおもしろい」というのであれば、多くの人々に視聴されているはずであり、このインターネット時代にあっても十分に競争力を維持することができるはずです。
しかし、数多くのユーチューバーの存在、有料・無料の動画配信サービスの存在に加え、テレビ広告費がネット広告費に追い抜かれてしまったという事実などに照らし合わせるならば、正直、地上波テレビ業界は4K、8Kなどの設備投資負担に耐えられなくなる可能性が高いでしょう。
日刊スポーツ「チューナーレステレビ、想定以上の売れ行き」
さて、どういう風の吹き回しでしょうか、朝日新聞系のスポーツ紙『日刊スポーツ』が昨日、チューナーレステレビについての話題を掲載していました。
チューナーレステレビ、想定以上に売れてます テレビ受信機能なし、NHK受信料もなし
―――2022/8/9 7:33付 Yahoo!ニュースより【日刊スポーツ配信】
日刊スポーツによると、チューナーレステレビを巡っては、「ネット経由で有料のネット配信動画やユーチューブ、ゲームなどに特化したモニターとして使用できる」のに加え、「NHK受信料が必要ない」などの理由で、「各社から新機種が続々と発売され、いずれも想定以上の売れ行き」なのだそうです。
日刊スポーツによると、ゲオホールディングスが7月22日に全国579店舗のゲオストアで4K対応のチューナーレステレビ43V型を32,780円で、50V型を38,280円で発売したところ、31日までの10日間で計1,000台以上を販売するなど「出足は好調」だそうです(※価格はいずれも税込みだそうです)。
同様に、家電メーカーのドウシシャも6月下旬に24~40型のチューナーレステレビ3機種を、7月下旬に50型をそれぞれ発売したところ、「想定以上の売れ行き」(同社広報)だそうであり、家電量販店のエディオンも6月中旬に43型チューナーレステレビ50台を限定販売したところ、完売したそうです。
ただし、日刊スポーツによると、今のところ大手家電メーカーはチューナーレステレビの市販に「本格的に参戦していない」のだそうであり、現在のところはまだチューナーレステレビが「一部の流行」にとどまっているフシはあります。
しかし、世の中には、ニーズがあれば、たいていの場合、それに対応した製品が出てくるものです。
もしかするとあと数年後に都内の「XXXXカメラ」の店頭に行くと、テレビコーナーに並んでいる商品の半分は「チューナーレステレビ」、または「チューナーありとチューナーなしを選べるテレビ」になっているのかもしれません。
放送法を改正せずとも、NHKを合法的に倒産に追い込むことができるのだとすれば、それはそれで非常に興味深い話だと思うのですが、いかがでしょうか?
View Comments (11)
N国党立花氏には、ぜひTVショッピング形式でチューナーレスTVの動画を作っていただきたい!
しゃべり上手いしいけるやろ。いや、冗談じゃなしに。
動画配信に必要な程度に帯域を絞ったプランで複数年契約すれば、NHK受信料と同額程度でTV本体タダで
配ることもできそうやしね。NHK解約マニュアルも同梱で。
ジャパネットたかたで流しでもすりゃ、NHKにはとんでもない脅威になると思いますわ。
本当にやって欲しいですね。
ディスプレーとして見ても安いし、考えてしまいます。
テレビは、録画しておいたものしか見なくなってしまいました。つまらないと早送り、CM飛ばしをするので、じっくり見るというのが出来なくなっています。
テレビの地上波は届く範囲が決まっている。東京のキー局の電波は関東一円を超えては届かない。地方の系列テレビ局は自分の縄張りに電波を飛ばす施設があるが、縄張り内には有力なスポンサーがない。そこで系列のキー局からスポンサー付きの番組を買う。コストと収入が同時に上がる苦労いらずの仕組みだ。例えば「日立、世界ふしぎ発見」この番組はTBS系列の全国ネットだが、各地方のテレビ局はTBSから番組を購入すると同時に日立の広告費の一部を受け取る。地方テレビ局の職員の給与水準はNHKや東京キー局には及ばないが、その地方では群を抜いて高い。テレビの凋落はまだ始まったばかりだと思う。何といってもテレビをつければ何かやっているのだから。そのうちテレビをつけても「砂あらし」のような画面が見えるという時間帯が増えてくるのではないか。テレビ広告に効果が見られなければスポンサーは番組を提供しなくなる。
ゲーム機やBlu-rayが接続できればチューナーなんて要らない人はもう多いでしょうね。
アマゾンプライムに入ってればkindle fire TVで視聴し放題のコンテンツもたくさんありますし、YouTubeなどのネット動画サービスも楽しめる。
確かに大手家電メーカーはまだ参入していないようですが、ドンキなどがプライベートブランドで売ってる機種は部品が東芝レグザと同じものを使っていたりするようなので、そういうブランドにパーツ単位で卸すメーカーも増えてくるんじゃないでしょうか。
大手がNHKに反旗を翻すのはハードルが高いでしょうしw
私も受信料の自動引き落としから振り込みに変えました。
(一応NHKの放送には必要な物も有りますので)
あまりにも私の考えとは違いすぎる
・高給である。 平均サラリーの2倍以上は本当に必要か?
・職員国籍が明らかになっていない。外国のいろんな侵略が叫ばれているのに
・中国、韓国の放送局が渋谷のNHKに同居している。毎日顔を合わせれば親しくなってしまう
・政治と宗教に付いての分析報道が未だに無い。
一ヶ月を過ぎようとしているのに統一教会だけで無く宗教すべてについて見解を示せ。
尚、振り込みは私が脚を運ぶ必要がありますのでものぐさな私は・・・・・・
契約は「双方の合意に基づく」のが基本ですから
法で契約を義務付けるのであれば従事者給与も国家公務員と同じに
するべきですね
当時としても既にMPEG2を採用した地デジは遅延や画質で良い選択肢とは言えませんでしたからねえ・・・。
南アメリカでMPEG4を使った新形式にした時に日本も合わせれば良かったのですが、関係者各位が「日本の視聴者に高画質など4Kまで必要ない」と怠慢をやって・・・。
こういうNHKやテレビ局に対する反感に対して、彼らは今まで
「見ざる聞かざる言わざる」「分かっているけどどうしようもない」の
どちらかでしか反応していないですね。
とはいえ”逃げ切り”に成功した世代もかなり沢山居るでしょうし、
今の時代の下っ端が”逃げ遅れ”ても彼らは気にしないんでしょう。
恐らく彼らの視点だと”勝ち逃げ”に成功しているんでしょうね。
テレビの語源の tele-vision は遠くの映像という意味なのでネット動画受信機でも問題ないと思う。
アンドロイドで動かすみたいですけど、使用過程でOSの書き換えはできるのかしらん?
あーOS更新されるより先に耐用年数過ぎるかな??
NHKが無ければ、チューナーのコストなんて、大したことが無いから、チューナーレスTVなんて作られなかったでしょうね。