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韓国首相「現在の韓国に通貨スワップは必要ではない」

韓国の首相が、「米韓通貨スワップは必要ない」と発言したそうです。その理由は、「通貨スワップは為替市場の安定を目的としたものではないこと、現在のドル高は世界的な現象であり、韓国の外為市場が危機という状況ではないこと」、といったものだそうです。先週のジャネット・イエレン米財務長官の訪韓時にスワップを断られたための「負け惜しみ」にしか見えないのは気のせいでしょうか。

米国は通貨スワップに「ゼロ回答」

韓国が米韓「通貨」スワップの締結を渇望している(らしい)、とする話題については、これまでも当ウェブサイトでは何度となく取り上げてきましたし、また、先週のジャネット・イエレン米財務長官の訪韓時に、米韓双方が「通貨」スワップ協定締結で合意するに違いない、といった報道もありました。

ただ、現実には『韓国待望の米韓通貨スワップはほぼゼロ回答=財相会談』でも取り上げたとおり、米韓双方は通貨スワップの締結には合意しませんでした。

事前の予想通り、米韓「通貨」スワップは締結されませんでした。韓国政府側の発表でも、米国が為替スワップの再開に含みを持たせたかのような記述はあるにせよ、むしろ「外為市場に関連する協力の強化」を再確認するなど、韓国の事前の報道とはまったく異なる結果が出てきたのではないかと思います。米韓財相会談いちおう、当ウェブサイトでは韓国における通貨スワップ待望論について何度か取り上げたという事情もあるため、「結論」くらいはお知らせしておこうと思います。ジャネット・イエレン米財務長官は19日、韓国を訪問し、秋慶...
韓国待望の米韓通貨スワップはほぼゼロ回答=財相会談 - 新宿会計士の政治経済評論

しかも、韓国政府側としては、イエレン氏が「必要流動性供給装置など多様な協力方案を実行する余力がある」と述べたと発表しているのですが、これに相当する報道発表は、米国側からはいっさいありませんでした(『イエレン氏は本当にスワップに「含み」持たせたのか?』等参照)。

韓国といえば、「言った」「言わない」の議論になりがちな相手国です。こうしたなか、いくつかの韓国メディアは昨晩から今朝にかけ、「米国が通貨スワップ締結に含みを持たせた」、などと大いに報じているようですが、不思議なことに、米財務省のウェブサイトを見たところ、現時点でそれに相当する報道発表は見当たらないのです。そもそも本当にイエレン氏は通貨スワップないし為替スワップに「含み」を持たせたのでしょうか?通貨スワップに関しては「ほぼゼロ回答」だが…今朝の『韓国待望の米韓通貨スワップはほぼゼロ回答=財相会談...
イエレン氏は本当にスワップに「含み」持たせたのか? - 新宿会計士の政治経済評論

この点、現在の米国が韓国と何らかのスワップ協定(通貨スワップや為替スワップ)を締結する可能性は、極めて低いといえます。なぜなら現在の米国が外国と締結しているスワップは、①特別な国際合意に基づく通貨スワップ(NAFAスワップ)、②米国にもメリットがある為替スワップ(日英欧瑞加)、しかないからです。

ただ、『韓国紙「スワップ負け惜しみ」論』などでも紹介したとおり、最近の韓国では「通貨スワップなんかなくても大丈夫だ」、あるいは「通貨スワップで金融危機が防げるものではない」、などとする議論ないし主張が出てくるようになっているようです。

ちょうど1週間前、ジャネット・イエレン米財務長官が訪韓した際、韓国では「米韓通貨スワップ」への待望論がやたらと高まっていました。しかし、ふたを開けてみれば米国側はスワップの「ス」の字も言わず、結果的にスワップは「ゼロ回答」に終わりました。こうしたなか、韓国メディア『中央日報』(日本語版)には今朝、スワップをめぐる一種の「負け惜しみ」のような議論が掲載されていたようです。誤読に基づくスワップ期待韓国では先週、ジャネット・イエレン米財務長官の訪韓にあわせ、米国が韓国との間で通貨スワップの締結に合...
韓国紙「スワップ負け惜しみ」論 - 新宿会計士の政治経済評論

韓国首相「通貨スワップは必要ではない」

こうした流れでしょうか、韓国メディア『ビジネスコリア』に本日、ちょっと興味深い記事が出ていました。

PM Han Says Korea-U.S. Currency Swap Resumption Not Necessary

―――2022/07/27 10:15付 BUSINESS KOREAより

これによると韓国の韓悳洙(かん・とくしゅ)首相は26日の質疑で、「米韓通貨スワップの必要性」を否定したというのです。具体的には、次のような趣旨の答弁を行ったのだとか。

  • 国内の外為市場の安定は、通貨スワップ協定の第一義的な目的には含まれない
  • 現在は外為市場の危機という状況ではなく、むしろ世界的な米ドル高状況である
  • 韓国ウォンは過小評価されているが、為替危機といえるまでの状況にはない

そのうえで、(スワップ協定の)再開が必要だ、という状況ではない、というのが韓悳洙氏の見解でしょう。

なんだか、通貨スワップの締結に米国が応じてくれないことに関する「負け惜しみ」にしか見えないのは気のせいでしょうか?

FOMCでの利上げ後の動きは?

もっとも、秋慶鎬(しゅう・けいこう)副首相兼企画財政部長菅は同じ質疑に関連し、米韓両政府が最近、首脳会談と財務長官会談を通じて、「外為市場での協力拡大の可能性を再確認した」、などと発言したのだそうです。

この点、むしろ米韓首脳の共同声明の原文を読むと、むしろ「公正な為替市場を歪める慣行を除去すること」に力点が置かれていることがわかります。

“To promote sustainable growth and financial stability, including orderly and well-functioning foreign exchange markets, the two Presidents recognize the need to consult closely on foreign exchange market developments. The two Presidents share common values and an essential interest in fair, market-based competition and commit to work together to address market distorting practices”.

この共同声明の内容を突き詰めていけば、韓国の外為市場への介入という行為に対する米国の不信感が見て取れます。

いずれにせよ、日本時間の明日早朝にはFOMCの結果が公表され、利上げのペース次第では、韓国の外為市場ではさらにウォン安が進む可能性もあります。

しかし、韓国が追随利上げに動くのは難しいのが実情です。『「消費者ローンで株を買う」韓国家計、債務破綻急増か』などでも述べたとおり、韓国の個人が過剰な債務を抱えているとみられるなかで、急な利上げは家計の破綻をもたらしかねないからです。

韓国では若年層を中心に、個人債務者がクレジットカードのキャッシングや消費者信用などに手を染め、暗号資産だ、株式だ、先物だといったリスク性の資産に投資し、債務破綻の危機に瀕しているようです。韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝掲載された記事によれば、すでに今年上半期の「債務調整」の申請者数が2年前と比べ30%近く増加しているなか、利上げにより今年下半期にはさらに急増することが懸念されているのだそうです。韓国資産バブルFRB主犯説『不動産市場から「韓国資産バブル」を解説する鈴置論考』を含め、...
「消費者ローンで株を買う」韓国家計、債務破綻急増か - 新宿会計士の政治経済評論

そうなってくると、「韓国は通貨スワップを必要としていない」などとする見解がどの程度の期間、維持されるのかには、注目しておく価値はあるかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (19)

  • >国内の外為市場の安定は、通貨スワップ協定の第一義的な目的には含まれない

    目的はドル資金のショートを補うため

    >現在は外為市場の危機という状況ではなく、むしろ世界的な米ドル高状況である

    その通り、現在、池の水(ドル)を抜いている最中。どの国が最初に資金ショートを起こすか。

    >韓国ウォンは過小評価されているが、為替危機といえるまでの状況にはない

    過小評価なら望ましいレートが頭の中にあるはず。それはいくら?

  • 「“酸っぱいブドウ”ってどういう意味ですか?」 と聞かれたら、この例を挙げるのが最も適当。

    それ程典型的なパターン。

  • あらやだ残念!

    いまちょうど日韓と米韓の通貨スワップしてあげようかってアメリカさんと話してたのに…ざ〜んねん。

    じゃ用意してたお金使っちゃいますね。
    今後は無理よ。

    まぁ用意してたの20ウォンくらい程度の通貨スワップだから本当に必要無いとは思ってたんですけど〜

  • スバラシイ発言ですね。
    韓国は世界も?認めたG8です。ウオンレートも上がって来たようです。
    是非これで中国様にも対応ください。
    若干気になるのは韓中貿易で赤字(輸入が大きい)になってきたことですねえ。
    中国様は朝貢で優しくしてくれるでしょうから今が肝心ですよ。すがりつきなさい。
    あ、余計なことを言ってしまったようですね。
    さよなら、さよなら、さよなら。

  • ってことは、中国から米ドルを工面できる算段がついたのでしょうか?

    但し、通貨スワップで得た人民元を担保に”場外クロスなんかで直接提供される米ドル”への両替レートについては、中国様の思うがままなんでしょうけどね・・。
    *****
    *国民総支給(モラルハザード政策)のススメ

    家計債務の多くはウォン建てなのでしょうから、徳政令なんて不公平な政策ではなく、国民一律で一人当たり4000万ウォン(=家計債務総額/人口?)を支給してみてはいかがでしょうか?
    政策実施時点での家計債務残とは金融機関が強制相殺。「満期のない通貨安定証券(利息は発生)」として支給することで、不胎化も実現しよう!

    なぁ~んてね。

  • もうすぐ月替わり。しばらくすると、当サイト恒例の韓国の外貨準備高の増減についての解説記事が掲載されますね。(ちょっと、たの心配 w)

    「スワップなんて必要ないもん キッパリ 」
    って、結構強気の発言が当局者から出てくるってことは、
    今月は、そっちにはそれほど手は付けなかったってことでしょうか?

    それとも、4,000億ドル超の手持ちに比べたら、
    「100億ドルやそこら、大したことやない!」
    という余裕の表れでしょうか?

  • 対中貿易が赤字ということですので、対中為替スワップを行使するんですかねぇ?

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    韓国:「我が国の首相が、「米韓通貨スワップが必要ない」と言ったが、本当は必要なので、アメリカ側から通貨スワップを申し入れてくれ」
    または[これからは人民元の時代だ。米ドルは必要ない」
    この話は2022年7月27日時点では笑い話である。

    • すみません。追加です。
      思いつきですが、韓国は 文大統領時代に大統領と世界観が一致しない実務者を追放してしまったので、アメリカと通貨スワップの実務交渉ができる人間が、いなくなったということはないでしょうか。

  • 今晩の米FOMCの発表後も同じこと言っているでしょうかね。
    どうなる事やら、たの心配で仕方ありませんw

  • 日本が韓国に対してどうしてもお願いしますと言えば、スワップして頂けると思います。

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