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国際条約の文言を「言葉遊び」と主張する韓国紙コラム

久しぶりに、驚きました。日韓請求権協定などに含まれた「すでに」「最終的」「不可逆的」といった文言を「言葉遊び」と愚弄するコラムが韓国紙に掲載されていたのです。国際条約の重みをまったく理解していない、とんでもない認識と言わざるを得ません。ただ、こうした文章を読んでいると、韓国が自分勝手な「正義」を主張するのみで、国際法や国際社会の常識を無視する国である、という事実に思い当たらずにはいられません。

2022/07/07 12:01追記

本文中の誤植を修正しています。

鈴置氏「正義と言い出したら約束はできない」

当ウェブサイトで連日のように(無断で)宣伝しているのが、韓国観察者の鈴置高史氏が先月上梓した『韓国民主政治の自壊』という新刊書です。この書籍、新書サイズであり、かつ、後書きを含めて266ページに過ぎませんが、内容としては濃厚と言わざるを得ません。

興味深い記述はいくつかあるのですが、本稿で改めて取り上げておきたいのが、次の記述です。

正義は対立する双方にある。だからこそ話し合って妥協点を見つけ、それを守ろうと約束する。これが条約だ。『正義は韓国にある』と言い出して条約を破るのなら今後、韓国とは一切、約束できないことになる」(P118)。

この記述、「日本は法を重視するが、韓国は正義を重視する」といったくだりで出てくるものですが、何度も反芻(はんすう)したいものです。というのも、韓国メディアを眺めていると、「法では日本に理があるかもしれないが、道徳的には韓国の側に正義がある」、といった趣旨の表現に、頻繁にぶち当たるからです。

当たり前の話ですが、「正義」と言い出したら、どんな国にもその国なりの「正義」はあるものです。2022年2月、ウクライナに対し国際法に照らして明らかに違法な侵略戦争を開始したロシアにしても、おそらくは彼らなりの正義があるのでしょう。

町内のゴミ出し時間を守らないAさん

ただ、この「正義」を前面に押し出していくと、それこそ収拾がつかなくなります。

これについては、この「正義」を「自分の都合」という表現に置き換えたうえで、私たち一般人の日常生活について考えていくと、よりいっそうわかりやすいかもしれません。

たとえば町内に住むAさんが、いつも真夜中に道の真ん中にゴミ出しをしているのだとしましょう。その人にとっては、もしかすると「どうしても夜型の生活しかできない」、「眠くて朝のゴミ出しはできない」、という事情があるのかもしれません。これがAさんにとっての「都合」です。

ところが、町内ではカラスや野良猫がゴミを漁るのが問題となっており、このAさんの行動で町内の人が大いに迷惑をこうむっていたとしましょう。このときにはどうすれば良いのでしょうか。Aさんはご町内に対し、自身の都合を理解させることができるでしょうか。

残念ながら、各人が各人の都合で動いていると、社会は廻っていきません。

だからこそ、通常、町内のゴミ集積所には「ゴミは朝に出す」、といったルールが設けられていることが一般的ですし、Aさんもそのルールを守らねばなりません。町内のゴミ捨て場のルールを無視する人がひとりいれば、それだけで町内の美観が損なわれ、害鳥・害獣・害虫が住み着きかねないからです。

もしもAさんが自身の都合でどうしてもそのルールを守ることができないならば、せめて「24時間ゴミ出し可」を謳う物件などに転居すべきでしょう。

ソウル大大学院長「韓日関係は被害者と加害者の共感が必要」

この点、国家もしょせんは「人間の集合体」である以上、国全体の行動についてもまったく同じことがいえます。国際社会に生きるつもりがあるのなら、国家としては最低限、「国と国との約束を守る」、「国際的な法や常識を尊重する」、といった行動を取らなければなりません。

「わが国は正義を重視する国だ」、という言い分は、「わが国は国際社会のルールではなく自分の都合を優先する国だ」、という主張とまったく同じなのです。国際社会における韓国の行動は、「自分の都合を優先して町内のルールを無視し、勝手な時間にゴミを出すAさん」の行動となんら変わりません。

こうした点を踏まえたうえで、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝掲載された、こんな記事を読んでみたいと思います。

【コラム】韓日関係、被害者と加害者の共感から積んで行かなくては(1)

―――2022.07.07 07:54付 中央日報日本語版より

【コラム】韓日関係、被害者と加害者の共感から積んで行かなくては(2)

―――2022.07.07 07:55付 中央日報日本語版より

コラムの執筆者はソウル大学国際大学院長の朴泰均(ぼく・たいきん)氏です。

全部で4000文字近い長文でダラダラと主張が展開されているのですが、この文章、タイトルでも何となくわかるとおり、日韓関係をめぐっては、日本が先の大戦の「加害者」という認識を持ち、「被害者」の「共感」を得るべく努力しなければならない、などと主張するものです。

「被害者、加害者と言い出すなら、韓国こそ歴史捏造の加害者であり、日本はその被害者ではないか」、といったツッコミが即座に出てくる人も多いのではないでしょうか。

ただし、このコラム記事、事実誤認や不見識の箇所があまりにも多すぎ、この論考のおかしな点を指摘したければ、正直、この論考の倍以上の文章量が必要となるほどです(たしか「ソウル大学」は日本統治時代に設立された旧帝大のひとつで、現在でも韓国の「トップレベルの大学」だったはずですが、その大学の国際大学院長を務める人物がこの程度の認識というのも驚きます)。

国際条約の文言を「言葉遊び」と愚弄

こうしたなか、「国際法vs正義」という観点から、本稿でツッコミがてら取り上げておきたいのが、『請求権という前代未聞の用語』という小見出しの下にある、1965年の日韓請求権協定に関連した次の記述です。

韓国が賠償金を要求し続けると、日本政府は最初に独立祝賀金と名付け、後に請求権という聞いたことも見たこともない名前を付けた。韓国政府が請求して受け取ったということだ。請求権資金協定第2条で、両締約国と国民間の請求権問題は最終的に解決されたと規定した。韓日間の条約の間には『すでに』『最終的』『不可逆的』のような言葉遊びが乱舞している」。

正直、この記述には素直に驚くよりほかありません。

この人物が「請求権」という用語が「聞いたことも見たことがない名前」だと認識していることもさることながら、国際条約の文言を「言葉遊び」と切って捨てているからです。正直、国際法秩序、国と国との条約、合意、約束といったものの重みを、この人物はあまりにも軽く考えています。

竹島不法占拠問題や自称元徴用工問題を筆頭に、韓国が国際法や国際合意、国際条約を頻繁に破っていることに関しては、現在はたまたま日本との関係で深刻な問題となっていますが、韓国自身が経済大国となり、世界各国と関わる機会が増えていけば、今度は国際秩序との関係でも問題となるでしょう。

そろそろ「未来志向の関係」は諦めるべき

ちなみにこのコラム、歴史的事実関係のみならず、国際法に対する理解も浅薄なうえ、文章がダラダラと長ったらしいのですが、おそらく一番言いたいのは、『関係回復するには名分が重要』と題した小節にある、次のような趣旨のものでしょう。

韓国社会は日本の非人道主義的な犯罪を非難しこれに対する被害を補償すべきと主張するが、日本政府はすでにその賠償は1965年の韓日協定で終わったと主張する。かと言ってすでに行われた戦略爆撃と韓日協定という歴史を戻すことはできない。特に韓日間の関係回復が重要な現時点で名分の回復はより一層重要だ」。

韓国が主張する「日帝の非人道的な犯罪被害」とやらのなかに、かなりの割合で「歴史的事実に基づかないもの」が含まれているという点もさることながら、日韓請求権協定という国際条約で謳われた「完全かつ最終的な解決」が守れないという時点で、私たちは対応を考える必要があります。

とくに、日韓請求権協定の文言を「言葉遊び」などと愚弄する者がその国を代表する大学に設けられた大学院長を務めているという事実自体、「国際法秩序に基づいた健全で未来志向の日韓関係」とやらを、そろそろ諦める局面が到来しているということを示しているのです。

日韓請求権協定の規定に基づき、国際法的には、日本政府、日本企業、日本国民が韓国政府、韓国企業、韓国国民に対し、何ら「過去の賠償義務」を負っていないことは明らかですが、それと同時に、そのことを「韓国に対して」納得させる必要はありません。「国際社会に対して」説明すれば済む話です。

そのうえで、1965年以降、日本が平和的、紳士的かつ友好的に日韓関係を発展させようと努力してきたという事実、それを受け入れなかったのが韓国側であるという事実についても、あわせてわかりやすく整理していく努力は必要でしょう。

ちなみに当ウェブサイトの【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任』も、こうした目的で作成したものです(※出所さえ示していただければ、引用も転載も無料かつ無制限で行っていただくことが可能です)。

世間では少し勘違いしている人が多いようですが、日韓諸懸案とは韓国の日本に対する「二重の不法行為」の問題です。解決する全責任は、韓国側にあります。そして、日本が議論しなければならないことは、「どうやって韓国に譲歩して折り合いをつけるか」、ではありません。「約束を守らない韓国を、どうやって罰するか」、です。本稿では「総論」として、これまでに当ウェブサイトで触れてきた「韓国の対日不法行為」の数々を、大ざっぱに振り返っておきます。韓国の対日不法行為、尹錫悦政権発足後に「風化」していないか?2022年5月1...
【総論】韓国の日本に対する「二重の不法行為」と責任 - 新宿会計士の政治経済評論

また、韓国の対日不法行為の一覧表(図表)も、こうした趣旨で作ったものです。

図表 韓国の対日不法行為の一覧表(※引用・転載自由)

(【出所】著者作成)

いずれにせよ、日韓関係はごく近いうちに、「新たな局面」を迎えることは、おそらくは間違いないと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (21)

  • >韓日間の条約の間には『すでに』『最終的』『不可逆的』のような言葉遊びが乱舞している」。

    条約は双方合意のうえに発せられるものなのだし、殊に慰安婦合意における「不可逆的」は、韓国側の要請を受ける形で添えられた筈なんですけどね。

  • >国際条約の文言を「言葉遊び」と切って捨てているからです。

    その条約に著名したのでは?

    いやならその時署名しなければいい。

    • こういうと狂っていると思われそうですが

      署名した時、その時の韓国の正義は署名を正しいとしていた
      今現在の韓国の正義は署名を正しいとしていないので署名と条約を否定する

      故に韓国との間にあらゆる約束事の類は意味をなさないのです

  • マンションを売り、代金を受け取ったあとで、「契約書の中身は言葉遊びだ。
    金はもらったがマンションは俺のものだ」と言ったら。

    狂人扱いされるのでは?

  • 1965年に金もらった味が忘れられないんだね。

    「一粒で2度も3度もおいしい思いしたい」

  • >「ソウル大学」は日本統治時代に設立された旧帝大のひとつで、現在でも韓国の「トップレベルの大学」だったはず

    現在筆記試験だけで入学する学生は3割で残りの7割はAO入試のようなものとの組み合わせらしい。延世、高麗大学その他も同じ。
    入試時の提出資料を偽造した等の話はこれにまつわるもの。

    • 旧帝大は、ほとんどノーベル賞を貰っていたと思います(台湾大学を含めて)。
      旧京城大学が貰えないのは当然?

  • 個人的には、鈴置氏の書かれている、「『正義は韓国にある』と言い出して条約を破るのなら今後、韓国とは一切、約束できないことになる」の中の、条約を破るの「なら」は、韓国の大審院が結審した時点で「破った」のであり、その時点で明確に韓国とは「約束できない」ことになったと思うのですが。

    どうして日本政府や外務省はずっと制裁を猶予しているのでしょうかね、企業や個人に対して、韓国とは国の国交は閉じ、民の交流だけ続ける台湾式にすると宣言したら(しなくてもとうにそういう猶予期間は合った気がしますが)よろしいのでは、と感じます。

    • 日韓請求権協定第3条第1項に基づく協議第2項による第3者を交えた仲裁委員会を韓国が無視した段階から条約違反と認識し、それを是正するよう韓国に措置を取れと言っています。
      制裁は実害が生じた部分に対してバランスの範囲が国際的に認められているので、まだ実害が生じていない現段階では制裁を踏みとどまっているのでしょう。

    • 個人的には、鈴置氏の書かれている、「『正義は韓国にある』と言い出して条約を破るのなら今後、韓国とは一切、約束できないことになる」の中の、条約を破るの「なら」は、韓国の大審院が結審した時点で「破った」のであり、その時点で明確に韓国とは「約束できない」ことになったと思うのですが。

      ごもっともです。

      昨今の欧米の法律的な考え方では、「法律違反の行動をすることを決心した段階」では違法行動と認定されず、「具体的で実際的な違法行動を始めた時点」でやっと違法行動の要件が満たされるようです。
      日本政府によると、違法行為の要件は「被告企業の資産が現金化された時」に満たされると宣言してしまったようですが、私は「韓国裁判所が被告企業の資産を差し押さえた時」で十分だったと思います。日韓基本条約は政府間で各々の政府・裁判所を含む全ての国家機関に対してどんな場合に何をすべきかを規定したものであり、民間の行動を規定するものではないのですから。

  • >「わが国は正義を重視する国だ」、という言い分は、「わが国は国際社会のルールではなく自分の都合を優先する国だ」、という主張とまったく同じなのです。

    これが全てですね。

     韓国語・文化はよく知りませんが、韓国語・文化の”正義”とは、我々が知っている正義とは全く違うモノ(邪教の其れかな?、オウム真理教の其れかも。)なので、翻訳するときには正義と訳してはいけないと思います。

    要は、韓国人が”正義”と言ったら、”ご都合主義の勝手な主張”と意訳すべきと思います。

  • こちらのWebをはじめ、いくつかのすぐれた韓国研究Web、さらに嫌韓本ブームと言われましたが膨大な量の韓国に関する書籍が出版され、日本人の読書層に受け入れられ、韓国の特殊性が読書層・知識層を中心に認識され、共有されつつあります。10年ほど前ならいざ知らず、いまさら韓国の策略に陥る人は、いくら人の良い日本人でもずいぶん減ったでしょうし、嫌韓というか離韓というかそういうトレンドは、しばらく続く事でしょう。まあ韓国人の大部分は、日本人のそういう根本的な変化に気づかないでしょうけど。

  • あらま!
    北の金正恩さん与正さん!

    韓国は日韓合意まで『最終的』『不可逆的』という語彙がなかったのかもしれませんが、その後に北との約束ごとや公式発表の度に多用してましたよね。

    あれって北の指導者を相手に『言葉遊び』してたらしいですよ?
    日本はそんなつもりありませんが、『言葉遊び』と認識した韓国が北に使ってたのは問題なんじゃないですかね?

    ちょっと国境沿いのロケットランチャー試し撃ちの特別練習作戦でもしてみたらいかがでしょう?

  • 『言葉遊び』
    言葉を武器にするのが政治です。
    言葉には言葉で対抗するのが民主政治の在り方
    であって、反論出来ないからと議論そのものを
    否定するのは民主政治体制の否定でしかありま
    せん。本当に最高学府の学院長がこの程度の認識しかないのでしょうね。
    歴史をオモチャにしてもてあそんでいたり
    国際会議に出席し国格が上がったなどと見栄え
    だけを気にして騒いでいるのは
    『外交ごっこ』
    に興じているようにしか見えないのですが。

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