事態が生じてから「注視する」と言い出す岸田首相
「検討」の次は「注視」だそうですが、事態が生じてから「注視」されても困ります。先日から取り上げている、例の「サハリン2の権益没収」に関連し、岸田首相が金曜日に「大統領令に基づき、契約内容(として)、どのようなものを求められるのか注視しなければならない」などとしたうえで、「事業者ともしっかり意思疎通を図って対応を考えていく」と述べたのそうです。サハリン2の権益没収は当然に予見できた話ですが、まさかコンティンジェンシー・プランすら策定していないのでしょうか?そんな首相で大丈夫なのでしょうか?
目次
ネットで渦巻く岸田首相への不満
「そんな首相で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」
――。
自民党議員のあいだで、そんな会話が交わされたのかどうかはわかりません。
ただ、あくまでも「ネットのヘヴィ・ユーザー」である著者自身の主観ですが、岸田文雄首相をめぐっては、とくに「保守系」とされる人の間で評判が悪いようです。そのなかでもとくに強い表現が、「検討士」ないし「検討使」なるあだ名でしょう。
これには「検討ばかりで問題を先送りしている」、「そのくせ肝心な決断をしない」という意味合いがあるようですが、たった384日の在任期間で非常に多くの仕事を達成した前任者・菅義偉総理と比べると、その仕事の遅さが気になる、という人も多いのでしょう。
菅義偉内閣が本日、総辞職しました。在職日数は384日で、今世紀に関していえば、小泉元首相、安倍総理の2名を例外とすれば、菅総理を含めてすべての首相が1年前後で退陣した格好です。ただ、菅政権の384日は、日本にとって非常に価値があるものだったことは間違いありません。菅義偉内閣は384日で総辞職菅義偉内閣が本日、総辞職しました。菅内閣が総辞職 首相在職384日で幕―――2021年10月04日09時27分付 時事通信より昨年9月16日に就任して以来、菅義偉総理大臣の在任期間は本日までで384日であり、これは森義朗元首相(2000年... 菅総理辞職:日本にとって価値ある384日が終わった - 新宿会計士の政治経済評論 |
サハリン2に拘泥する日本政府
その典型例が、「日本がサハリン2から撤退するかどうか」という、非常に重要な意思決定でしょう。
ロシアがウクライナに対し、違法で不当な侵略戦争を仕掛けてから、すでに4ヵ月以上が経過しますが、戦況は一進一退です。こうなってくると、私たち西側諸国にとっては、いかに一致団結してロシアの戦争遂行能力を削ぐかが重大なポイントです。
しかし、日本政府は日本企業(三井物産、三菱商事)が出資する天然ガス事業コンソーシアム「サハリン2」からは「撤退しない」とする方針を示してきました。
実際、萩生田光一経産相は5月に、「どけと言われてもどかない」と述べたとされています。5月31日付・ロイター『「サハリン2」、どけと言われてもどかない=萩生田経産相』によれば、参院予算委員会で鈴木宗男参議院議員(日本維新の会)の質問に対し、萩生田氏は次のように答えたのだとか。
「サハリン2は、先人が苦労して獲得した権益。地主はロシアかもしれないが、借地権や(液化、輸送)プラントは日本政府や日本企業が保有している」。
正直、この期に及んで日本がロシアにとっての「主要なエネルギー輸出先」であり続けるということの意味を、もう少し深く考えてほしいところです。
一説によると萩生田氏は安倍派の将来のホープ、などともいわれていたそうですが、正直、電力不足を受けた例の「節電ポイント」に加え、今回のサハリン2の対応で、有権者に与える印象がかなり悪化した可能性はあります。
まさか、広島ガスに「忖度」?
想像するに、おそらく萩生田氏の所属派閥の領袖である安倍晋三総理あたりであれば、いったんはサハリン2から撤退し、ロシアが晴れて敗戦し、国力が減退した機会に、樺太・千島ごと取り返す、といったグランドデザインを描くかもしれません。
それに、米国を含めたほかのG7諸国も、「サハリン2」に拘泥する日本の態度は、なんとももどかしいものだったのではないでしょうか。
もちろん欧州連合(EU)諸国のなかでも、とりわけドイツのようにロシア産エネルギーに深く依存している国はありますし、G7を含めた西側諸国がロシアからのエネルギー依存をいかに減らしていくかが非常に悩ましい問題であり続けていることも事実です。
ただ、岸田首相の地元の企業である広島ガスにとって、LNGの調達先の約50%がロシア・サハリンであるとされています(2016年実績、広島ガス『広島ガスの使命(安定供給)』等参照)。
このことから、見る人によっては「岸田内閣は岸田首相の地元の事情に忖度(そんたく)して、サハリン2からの撤退を頑なに拒絶したのではないか」、といった疑いを抱くのも当然のことでしょう。
事態が生じてから「注視する」岸田首相
こうしたなか、「やはり」というべきか、ロシア政府がサハリン2をめぐって、シェル、三井物産、三菱商事の権益を事実上没収する大統領令に署名した、という話題が出てきました(『サハリン2「権益没収」大統領令への対処は政府の責任』参照)。
電力不足のおり、今度は「サハリン2の権益収奪」という話が出てきました。ロイターの報道によると、ロシアのウラジミル・プーチン大統領は30日、サハリン2の現在の国際的な事業コンソーシアムとは別に新会社を設立し、現在のサハリン2への出資者に対しては1ヵ月以内に新会社に出資するかどうかを要求する、とする大統領令に署名したのだとか。電力の安定供給現在の日本が原発再稼働を筆頭に、電力の安定供給に向けた取り組みを加速させなければならないという理由は、いくつかあるのですが、その最たるもののひとつは、現在の日本... サハリン2「権益没収」大統領令への対処は政府の責任 - 新宿会計士の政治経済評論 |
今回のウクライナ侵略戦争勃発を受けて西側諸国がロシアに制裁を加えるなか、ロシアが西側諸国に対しさまざまな不法行為(「非友好国リスト」の作成、「非友好国に対してはドルではなくルーブルでの弁済も可能とする措置」の導入など)を決定していたことを踏まえれば、今回の決定も当然予想されたものです。
しかし、これに対する岸田首相の発言を見ると、ちょっとびっくりしてしまいます。
岸田首相、提示条件を注視 サハリン2「接収」方針受け
―――2022年07月01日18時04分付 時事通信より
時事通信によると、岸田首相は那覇空港で1日、記者団に対し、この「サハリン2の権益没収」に関する大統領令をめぐり、次のように述べたのだそうです。
「契約内容(として)、どのようなものを求められるのか注視しなければならない。事業者ともしっかり意思疎通を図って対応を考えていく」。
検討の次は注視、なのだそうですが、事態が生じてから「注視」されても困ります。
これが菅総理あたりであれば、すでにコンティンジェンシー・プラン(緊急事態に備えた計画)を策定していても不思議ではありませんが、まさかとは思うのですが、岸田首相はこのサハリン2権益接収に関する最低限のコンティンジェンシー・プランすら持っていなかったとでもいうのでしょうか?
ちなみに岸田首相自身が「検討する」だの、「注視する」だのとおっしゃるのであれば、電力不足が懸念される昨今の状況、私たち日本国民の側も政府から「節電してくれ」と要請されたとしても、「わかりました、検討します」、「電力の使用状況、注視します」とでも述べておけば良い、という話でしょう。
まさに、「岸田(首相)は今すぐ辞めろ!」などとツイートしている人たちの本心を探れば、まさに「岸田首相自身が首相になって本当に良かったのかどうか、昨年の自民党総裁選で岸田首相に投票したすべての自民党議員の皆さんには、じっくりと考えていただきたい」、といった意見が聞かれるのではないでしょうか。
それでも「キシダとハサミは使い様」
ただし、当ウェブサイトの場合、少なくとも岸田首相に「今すぐ辞めていただきたい」、などとは考えていません。
その理由はいくつかあるのですが、やはりその最たるものは、「キシダとハサミは使い様」です。
非常に不思議なことに、新聞、テレビを中心としたオールドメディアは、岸田政権に対してあまり舌鋒鋭く追及する姿勢を見せていません。
韓国観察者である鈴置高史氏は、ウェブ評論サイト『デイリー新潮』に6月23日付で寄稿した『尹錫悦はなぜ「キシダ・フミオ」を舐めるのか 「宏池会なら騙せる」と小躍りする中韓』という論考のなかで、岸田政権下のワクチン接種をめぐり、こんなことを指摘します。
「なぜか、日本のメディアは岸田政権に優しい。安倍政権や菅義偉政権だったら『韓国に負けている』とお昼のワイドショーや左派系紙が大騒ぎしたでしょう」。
たしかにこの点は大変に不思議です。日本国内におけるワクチンの3回目接種状況は、一時期、韓国に後れを取っていたにも関わらず、日本のメディアがそれで大騒ぎしたという記憶はありません。なぜか日本のオールドメディア(とくに地上波テレビ局や左派の大手紙など)は、岸田政権に対して異常にやさしいのです。
実際、以前の『じつは岸田政権下でひそかに進み始めている原発再稼働』でも指摘しましたが、安倍、菅政権ではなかなか進まなかった原発再稼働が、岸田政権下で(ほんの少しずつではありますが)着実に前倒しで進み始めているのです。
岸田政権下で、少しずつではありますが、原発再稼働が進み始めているようです。というよりも、もしかすると、安倍政権や菅政権と比べて、岸田政権下のほうが、原発再稼働が進む可能性すらあります。オールドメディアや特定野党の追及の矛先が鈍っているフシもあるからです。あるいは、自民党の「派閥政治」という特徴に照らすならば、やはり岸田政権は結果的に「ステルス型安倍政権」のような状態になるのかもしれません。原発再稼働の必要性少しずつ、良い兆候が出てきたのでしょうか?『「20年ぶり円安」の好機生かすには原発再稼働... じつは岸田政権下でひそかに進み始めている原発再稼働 - 新宿会計士の政治経済評論 |
これなども、仮に安倍政権や菅政権が原発再稼働を進めようとしていたならば、それこそメディアは鬼の首を取ったかのような大騒ぎをしていたのではないでしょうか。
岸田政権がステルス安倍政権になるためには…
したがって、仮に岸田首相がご自身の「地」を出すことができなくなり、安倍総理の考えをどんどんとねじ込める、といった状況が生じれば、それは事実上の「ステルス安倍政権」に近づくかもしれません。
現在は岸田首相が閣僚・政府人事などにおいて、中途半端に自身の考えをゴリ押しすることもあるため(たとえば「宏池会のホープw」で「媚中派」ともうわさされる林芳正氏を外相に据えたことなどがその典型例でしょう)、岸田政権を完全なる「ステルス安倍政権」と呼ぶことはできません。
しかし、『岸田首相にお灸据えたいなら自民でなく宏池会へどうぞ』などでも指摘しましたが、仮に――あくまでも「仮に」、ですが――、岸田首相の出身派閥である「宏池会(岸田派)」の自民党内の勢力が弱まれば、岸田首相の「傀儡」度合いはさらに上昇するかもしれません。
とくに、ただでさえ自民党内の最大派閥である安倍派(清和政策研究会)が今回の参院選で躍進した場合、安倍派だけで参院自民党の半数をうかがう勢力となる可能性もありますので、そうなれば、岸田派の動きはかなり制約を受けるのではないかと思うのです。
なお、手前味噌ですが、最近ツイッター上で『【資料】参院選・自民党「宏池会所属候補者のリスト」』という記事を高く評価していただいているようですが、これは参院選に出馬している候補者のうち、現・元職議員について、著者が知り得る限りで自民党の5派閥のどれに属するかを分類したものです。
「宏池会候補者リスト」についてのリクエストがありましたので、少々「やっつけ仕事」的ではありますが、本稿では選挙区も含め、自民党候補者について調べられる限りのリストを改めて作成してみました。ただし、やはり新人を中心に所属派閥が調べきれないというケースもあります。本稿は決して網羅的なものではありませんので、投票にあたってはくれぐれも自己責任にてご判断ください。先日の『岸田首相にお灸据えたいなら自民でなく宏池会へどうぞ』では、「自民党を支持しているけれども岸田政権については支持できない」という人な... 【資料】参院選・自民党「宏池会所属候補者のリスト」 - 新宿会計士の政治経済評論 |
このあたり、宏池会の人数だけ減って自民党の勢力が増進するようなことになれば、安倍政権が現在でも継続しているかのような政治的効果が得られるかもしれない、などと思う次第です。
View Comments (26)
そもそも岸田首相の一派が宏池会を名乗っているのは非常に違和感がありますね。
宏池会は本来、吉田茂~池田勇人の系譜なので。
既に宏池会を離脱した麻生元首相や菅前首相のほうが、よほどそれらしい。
敗戦した日本を再独立させ、経済の復興から冷戦下での安全保障の確保に尽力した吉田・池田両元首相を考えても、岸田首相のみならず、河野洋平や加藤紘一が宏池会というのはまったく冗談にもなりません。
遅い・ぬるい・口だけ。岸田政権の面目躍如です。
ロシア・中国リスクが口を酸っぱくして言われているのに、国策事業だけは安泰とでも思ってたのでしょうか?
シェルが撤退した時に、日本も撤退を表明しておけばよかったのです。こうなってから撤退と言ったって、ロシアだけでなく欧米も鼻で嗤うでしょう。
1文惜しみの百知らずとはこのことです。
これで、ロシアは天然ガス液化技術を手に入れた訳です。
韓国の自称徴用工問題での差押等に対する対抗策が早々と言及された事と比較すると、ロシアのサハリン2権益没収に対する対抗策の言及は遅いと感じます。
>検討の次は注視、なのだそうですが、事態が生じてから「注視」されても困ります。
泥棒を捕らえて縄をなう《泥縄政権》っぷりは、何だか文在寅政権とダブりますね。
>安倍晋三総理あたりであれば
可能性としては有り得るかも知れませんが、あくまでも可能性に留まる話のように思えます。
〇〇ならと、理想の相手と現実の相手を比較して、現実の相手を比較するのは、あまり意味が無いようのような気がします。
それに、本当に彼らにそんなグランドデザインがあって、存在感を出したいというのなら。
とっくに、そんなグランドデザインの噂が出ているような気もします。現実の彼らって、本当にそんなもの、考えているんですかね?
出てきたら出てきたで、ロシアに警戒されるような気もしますが。
何にしても、不透明な部分が多いので、可能性と現実。あるいは可能性と可能性同士を比較して、優れている劣っていると論じるのはあまり意味が無いのではないかなと。
ファクトが積み上がっていない条件下の話なので、何も判断のしようが無い。
信用できない相手に依存したり助けたりするのはリスクが高いと学んでほしいですね。
泥縄式に対ロシア制裁を積み増したとする
明日でなくてもいつかはそうする必要がある
即座に撃ち込まれる覚悟が日本政府にどれだけあるのか不安が高まって来ました
参議院選挙の争点はこれでしょう
日本の外交史上空前の制裁を発動しましたけど、本人はどこまでわかってやってんのか不安ではありましたが・・・
周りから小突き回される政権のリスクかも。
理想としては自民が比較的圧勝するが、宏池会の勢力が減退して岸田氏の力が無くなる、という形になるのが良いですね。
素直に現政権が嫌なら野党へ、が出来ず、有権者に工夫を強いる状態、というのは健全とは思えませんが、現状の野党の為体では…
政治不信は野党から生まれている部分も(特に立憲民主党には)多分にありますね。
>大統領令に基づき、契約内容(として)、どのようなものを求められるのか注視しなければならない。
どのような条件であっても、ぜひ”中止(撤退)”して欲しいですね。
>事業者ともしっかり意思疎通を図って対応を考えていく
撤退後のプラントを機能的に使えなくしたりはできないのだろうか?
メンテナンスが滞れば、ゆくゆくはそうなるんでしょうけどね・・。
ここで素直に撤退するのも癪に障るんですけどね。
他の方も言っておられるように、もう少し粘るのがいいようにも思われます。
プーチンが武力による恫喝に訴えるようであれば即時撤退ですが、その際はプラントのシステムにロックを掛けるくらいの置き土産はするべきだと思います。
強引に破ろうとすればシステム全体が自壊するおまけつきで。
思うのですが、サハリン2からの撤退を宣言したらロシアは喜ぶでしょう。岸田さんのやり方が正解です。投資した金は日本のものです。ロシアが何を言おうと日本の権益でありロシアが滅んだあとは日本のものになるのです。そもそもロシアはサハリン2で日本にカネと技術を出させるのが目的で、状況が変わればいつでも日本を追い出せると考えていたのは間違えない。何を今さらという感じです。ここは、確実にロシアを滅ぼすことに日本は、今こそ、欧米と連携して努力すべきです。でも、まあ、それができるか否かは日本の国力次第です。国民が貧しくなる一方で消費税、トヨタ看板方式を堅持し、外国人研修生、移民など進めるようでは、もうこの国の将来が無いのは約束されたようなものです。何が悪いって?日本国民がバカなのが悪い。国民がバカなのでトヨタ看板方式みたいな非常に非効率なシステムが疫病のように蔓延している。
変化の激しい時代には麿麿しい宏池会では無理ですね。もう戦時体制なので武家が必要です。