これまた強烈な情報が出てきました。NHKは昨日、2022年3月期決算(財務諸表・連結財務諸表)を公表したのですが、相変わらず巨額の金融資産を保有するとともに、おそらく1万人を超えるであろう職員に対し、昨年に引き続き、1人あたり約1573万円の人件費を計上していることが明らかになりました。NHK職員はまさに「現代の貴族」であり、NHKとは「利権の塊」だと言わざるを得ないのです。
目次
金融資産は1.3兆円に!
NHKは昨日、2022年3月期決算を公表しました。
さっそくですが、NHKの連結財務諸表から判明する、NHKが保有している金融商品(※オフバラ項目の年金資産を含む)の金額を確認しておきましょう(図表1)。
図表1 NHKが保有している金融資産(連結ベース)
項目 | 2022年3月期 | 増減 |
---|---|---|
現金及び預金 | 1268億円 | +277億円(+27.94%) |
有価証券 | 4291億円 | +107億円(+2.56%) |
長期保有有価証券 | 1196億円 | ▲8億円(▲0.68%) |
建設積立資産 | 1693億円 | ±0億円(±0.00%) |
年金資産 | 4549億円 | +118億円(+2.67%) |
合計 | 1兆2997億円 | +494億円(+3.95%) |
(【出所】NHK連結財務諸表より著者作成)
NHKが保有している金融資産の金額は、前年同期比で494億円増え、もうすぐ1.3兆円の大台に達しようとしています。なんとも贅沢な話です。そして、もちろんこの1兆円を優に超える金融資産は、NHKが過去に視聴者から徴収した受信料が有効に使われなかった証拠でもあります。
土地の時価はいかほどに?コンテンツ二次利用権は?
ただ、ここでいう「1.3兆円」という金額は、あくまでも金融資産に限定した金額です。
現実には、NHKは敷地面積8万2646平方メートルにも達する渋谷の巨大な放送センターを筆頭に、東京、大阪など日本全国の一等地に優良不動産物件を大量に保有しています。
連結財務諸表上の帳簿価額は土地が550億7500万円だそうですが、これはおそらく取得原価に過ぎず、現実に路線価などで時価評価をすれば、下手をすれば土地だけで数千億円から数兆円に達するかもしれません。
というよりも、8万平米を超す巨大な敷地が放送事業(しかも自称「公共放送」)に必要なものなのでしょうか。そもそもNHKが公共放送を自称しているわりには、放送している内容が多岐にわたりすぎているという点についても、常識的な日本国民にとっては理解に苦しむ点でしょう。
さらに、財務諸表に計上されない資産としては、NHKが過去に受信料で製作した番組の二次利用権などがあります。
実際、NHKウェブサイト『番組の二次利用』のページによると、NHKはアニメ番組『おじゃる丸』を例に、NHKの子会社などを通じてDVD、ビデオ、出版物、キャラクターグッズ、イベント、上映、モバイル展開など、商業目的で二次利用していることを認めています。
しかし、これらの番組の製作原資が視聴者の受信料である以上、本来であれば番組コンテンツの利用権は視聴者に帰属すべき筋合いのものであり、NHKが子会社、関連会社などを使って私物化してよいものではありません。
いずれにせよ、NHKを民営化、廃局ないし大幅に事業縮小するなどした際に国庫に返納すべき資産は、ずいぶんとたくさんあることは間違いありません。
- 年金資産を含め少なくとも1.3兆円に達する金融資産
- 時価評価したら数千億円から数兆円に達するかもしれない不動産
- 過去に徴収した受信料で製作したコンテンツの二次利用権
もちろん、NHKが民営化を選ぶのであれば、これらの資産については国庫返納し、身ぎれいになってからの話であることはいうまでもありません。
受信料の「使われ方」にも大きな問題が!
ところで、NHKは今年度決算で、受信料収入が減少したと発表しています。ただ、これについては減少したといっても微々たるものです。図表2は、NHKの損益計算書から主要項目を抜粋し、前年同期との増減を一覧にしたものです。
図表2 損益計算書主要項目
科目 | 2022年3月期 | 前期比増減 |
---|---|---|
経常事業収入 | 7001億8302万円 | ▲235億円(▲3.29%) |
うち、受信料 | 6896億7572万円 | ▲226億円(▲3.23%) |
国内放送費 | 2967億2093万円 | ▲385億円(▲12.37%) |
国際放送費 | 205億3075万円 | +54億円(+27.91%) |
契約収納費 | 486億0903万円 | ▲53億円(▲9.17%) |
給与 | 1114億0925万円 | +20億円(+1.80%) |
退職手当・厚生費 | 517億0774万円 | ▲41億円(▲7.57%) |
(【出所】NHK単体財務諸表より著者作成)
これによると経常事業収入は7001.8億円で、前年同期比235億円減少。うち受信料収入が226億円減って6896.7億円と、7000億円の大台を割り込みました。ただし、減少率に換算すればわずか3%であり、また、人件費についてはほとんど変わっていないという実態が浮かび上がります。
NHKの損益計算書の問題点は、それだけではありません。
7000億円少々の経常事業収入に対し、国内放送費と並んで費用の大きな項目を占めているのが人件費(給与、退職手当、厚生費)であり、また、「契約収納費」、つまりNHKの受信契約を取りに行くコストなどです。
この点、NHKがスクランブル放送化したうえで「放送を受信したければ受信料を支払え」、という仕組みにすれば、契約収納費を大幅に圧縮することができますが、なぜかNHKは頑なにスクランブル放送を拒んでいます。これはおそらく、受信料利権を死守するという動きとも密接にかかわっているのでしょう。
職員1人あたり1573万円の人件費
さて、上記の図表2とは少し金額が一致していませんが、NHKの財務諸表から人件費のデータについても抜き出しておきましょう(図表3)。
図表3 NHKの人件費
科目 | 2022年3月期 | 前年同期比 |
---|---|---|
職員給与 | 1110億2082万円 | +20億円(+1.81%) |
役員報酬 | 3億8843万円 | +0億円(+0.39%) |
退職手当 | 302億5073万円 | ▲23億円(▲6.96%) |
厚生保健費 | 214億5701万円 | +3億円(+1.37%) |
①~④合計 | 1631億1698万円 | +0億円(+0.00%) |
①、③、④合計 | 1627億2855万円 | ▲0億円(▲0.00%) |
職員数 | 10,343人 | ±0人 |
1人あたり | 1573.3万円 | ±0.0万円 |
(【出所】NHK財務諸表P65図表(9)(10)を参考に著者作成。なお、職員数については2022年3月時点のデータが存在していないため、便宜上、昨年のものを利用)
NHKの人件費合計は、偶然でしょうか、前年同期と比べてほとんど変わっていません。職員給与が増えましたが、「退職手当」(※厳密には企業会計でいうところの退職給付費用)が減少したため、プラスマイナスでほぼゼロです。
また、人件費から役員報酬を控除した「職員に対する人件費」についてもほぼ横ばいだったため、結果的に1人あたり人件費も前年同期比同額の1573.3万円でした(※ただし、2022年3月末時点の職員数がわからないので、ここでは便宜上、2021年のものを使用しています)。
なお、ここでいう「職員1人あたり1573.3万円」という数値は、厳密には役員に対する「厚生保健費」も含まれてしまっているため、ほんの少しだけ過大計上ではありますが、基本的には誤差の範囲です。
狭い意味の「給与等」に限定しても異常な水準
また、狭い意味での人件費として、給与・賞与・諸手当に限定したとしても、やはりNHK職員の人件費は異常な水準です。
NHKという組織自体、その事業内容自体、公共性に乏しいにも関わらず、自ら「公共放送」であると騙り、さらには国会などの監視が不十分であることを奇貨として、職員1人あたり、任天堂やトヨタ自動車などの超優良企業をも上回る、1000万円を超える給与を支払っています(図表)。
図表 平均給与比較
区分 | 平均給与 | 出所 |
---|---|---|
任天堂株式会社 | 9,710,405円 | 2021年3月期有報 |
トヨタ自動車株式会社 | 8,583,267円 | 2021年3月期有報 |
NHK | 10,733,909円 | 2022年3月期決算 |
民間平均給与 | 4,331,278円 | 国税庁・2020年12月 |
(【出所】著者作成)
ちなみにこのNHKの平均給与は国税庁が公表する「民間平均給与」の2.4倍(!)というとてつもない水準でもあります。
利権としてのNHK
以上より、財務諸表のごく一部をレビューしただけでも、NHKが公共放送を騙るわりには、巨額すぎる資産を保有していること、民間企業をも大きく上回る給与を支払っていること、受信料の使われ方が乱脈であることなど、いくらでも問題点が浮かび上がってきます。
また、本稿ではまだ紹介しきれていない論点がいくつかあるのですが(たとえばNHKの連結集団内の職員数など)、これらについてはおいおい取り上げていきたいと思います。
それよりも本稿で指摘しておきたいのが、「利権としてのNHK」という論点です。
利権というものはたいていの場合、理屈に合わない存在でもあります。そして、利権を持っている側は常に、自分たちの利権を死守するために無理に屁理屈を考えていますし、ときとして「もっと利権をよこせ」、などと大騒ぎすると、利権を持っていない人たちが「あれ?おかしいぞ?」と気づくこともあります。
もちろん、どんな国においても警察、消防、軍隊、外交、通貨、司法といった公的サービスを維持するために、「税金」などのかたちで国民から強制的にカネを徴収する、という仕組みがとられていますので、「NHKも広い意味では公的サービスを提供する公的組織だ」、という言い方はできなくもありません。
ただ、放送内容や職員に対する待遇、放漫な経営内容に照らし、現在のNHKは「公共的な組織」とはとうてい言えません。
NHKの職員には公務員はおろか民間企業をも上回る破格の給与が支払われていますし、視聴者から巻き上げた受信料で豪奢な施設を建設したりしています。また、NHKが製作している番組も、民放と同じような商業放送っぽいものが多数含まれています。
そして、NHK(と総務省)は「受信料」という利権を守るために、「NHKは公共放送である」などとする屁理屈を編み出していますが、このインターネット時代において、こうした屁理屈が一般国民を納得させられるものでもないでしょうが、それだけではありません。
NHK自身の強欲が、この受信料制度に対する一般国民の反発を強めることに寄与しているのです。
最近だと「割増受信料」の徴収を可能とする法改正がなされましたが(『【総論】強欲NHK待つ「ハードランディング」の未来』等参照)、こうした「何が何でもNHKの受信料利権を守り、拡大する」という態度は、多くの一般国民の反発を招いているであろうことは、容易に想像がつくところです。
NHKを待つのはハード・ランディング・シナリオではないか――。そう思わざるを得ないのが、NHKの乱脈経営ぶりと強欲ぶりです。NHKにとって受信料は何があっても絶対に守りたい利権なのだと思われる反面、受信料を確保するためになりふり構わず動き続けることは、却ってNHK自身に破壊的な反動をもたらします。本稿では「総論」として、NHK問題について改めてまとめておきたいと思います。放送法改正NHK割増受信料法案が成立!総務省が今年2月4日に国会に提出した『電波法及び放送法の一部を改正する法律案』が、先日... 【総論】強欲NHK待つ「ハードランディング」の未来 - 新宿会計士の政治経済評論 |
さらには英国のBBCをめぐっては「ライセンス料廃止」などの動きも生じているところですし、社会全体のインターネット化が進展していけば、いずれテレビ放送における「公共放送」という存在自体が過去の遺物となるでしょう。
いずれにせよ、利権というものはたいていの場合、それを持っている者たちが理不尽に大騒ぎをすることによって自壊への道を歩み始めるものですし、NHKや総務省が現在のような「受信料利権を死守する」という姿勢を続けていれば、NHKに待っているのは、「この日本社会から排除される」という未来なのでしょう。
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退職手当・厚生費のうち、退職手当は303億だそうです。
退職者数がわかりませんが、人口ピラミッドが長方形だとして250人くらい。
退職手当、1人あたり1.2億となるんですが、上場企業の水準と比べてもやけに高くないですか?
役員の退任手当も含まれるそうですけど。
元ジェネラリスト 様
NHKの財務諸表に出てくる「退職手当」は世間一般の「退職金」ではなく企業会計上の退職給付費用です。したがって、現職職員に対する将来の退職給付に備えた費用計上額が含まれています。ややこしいですね。
なるほど、勉強になりました。ありがとうございます。
ニワカがバレました。
PLの書かれた場所的にそう理解すべきでした。
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2020/minkan.htm
>正規、非正規の平均給与についてみると、正規496万円(同1.5%減、77千円の減少)、非正規176万円(同0.9%増、16千円の増加)となっている。
えぐいですねえ。
最近お気に入りの「税金で買った本」という漫画で、図書館の司書資格まで持ってる職員が非正規で、役立たずの公務員が倍以上の給料を貰っているというのが出ていました。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66852
救急医療と同じ構造です。
NHKは、悪法をベースに存在する特殊な法人であるから、一般的な企業と、特に人件費構造を比較してもその意味には疑問があるが、考察してみよう。
まずNHKの給与水準であるが、会計資料に基づく試算、一人当たり年1500-1800万円と云われるものと、図表の1070万円の間には少なからぬ差があるが、これは本質的な問題ではなさそうなので、そのまま考察を進め、仮に両者を足して二で割ると1400万円前後となる。これはOECD諸国のG企業のOWのそれに近いから、この点で、NHKはOECD諸国の類似職種に近い給与を支払っている、と考えることが可能。そうであるなら、賃金水準の問題は、NHKにではなく、比較として掲示されたわが国G企業の低さにこそ存在する可能性がある。
過去30年間において、OECD諸国では大雑把にいって物価が1.5倍に、給与所得者報酬は2倍に増えた。1990年代初頭において、例えば世界大企業ランキング(大きければいい、としない批判もあろうが)の上位には日系企業が過半を占めていたと思うが、いまは見る影もない。
となれば、問題のありかは、わが国G企業の技術革新能力・経営革新能力の不足に起因しているとも考えられる。
さらに言えば、そのような企業行動を起こすに至った経済政策運営にも多大の問題がひそんでいるのだろう。おりしも参議院選挙のただ中であるが、政府を構成する議員の能力資質と、われら有権者国民のそれとは、お互いを写す鏡である。NHKの存在もしかり。
たぶん,大学の同級生にNHK職員がいる人達から見ると普通の給与水準に感じると思います。このスレは医師の方も多いですし。学歴的には同じくらいでしょう。