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    Categories: 金融

日本の対露制裁措置に敏感に反応するロシアのメディア

日本ではほとんど報じられていませんが、日本政府は昨日、ロシアやベラルーシに対する追加制裁措置を講じました。正直、日露間では貿易も金融取引もあまり活発ではないため、日本政府が追加制裁措置を講じたところで、ロシア経済にこれ以上の打撃が生じるのかは疑問ではあります。ただ、ロシアのメディア『タス通信』がこれを大々的に取り上げていたところを見ると、ロシアは苛立ちを感じているのかもしれません。

ロシアに損害を負担させるべき

ロシアによる違法なウクライナ侵略が始まってからすでに100日以上が過ぎました。大変残念ながら、ウクライナ東部・南部を中心に、いまだに戦闘は続いており、無辜のウクライナの人々の生命と財産に、深刻な被害が出続けています。

当たり前の話ですが、こうしたロシアによる無法行為の損害に対しては、最終的にはキッチリとロシアに負担させなければなりません。

ロシアの外貨準備(1月末時点の公称では約6400億ドル)のうち、西側諸国は少なくとも約3000億ドル分を凍結・差し押さえていますので、西側諸国としては、できればこの金額をロシアに返還せず、ウクライナの戦費や復興資金に充てることを検討していただきたいと考えている次第です。

これに加えて私たち日本人はウクライナの代わりにロシアと戦ってあげることはできませんが、その分、経済、金融などの「武器」でロシアの戦争遂行能力を低下させることに寄与しなければなりません。それがまさに経済・金融制裁でしょう。

日本政府が対露経済制裁追加

これに関連し、昨日は外務省、財務省、経産省の3省が連名で、対ロシア制裁パッケージを新たに公表しています。

ウクライナ情勢に関する外国為替及び外国貿易法に基づく措置について

―――2022/06/07付 外務省HPより

これについて気になって調べてみたのですが、主要メディアではあまり報じられているフシはありません。ロシアに対する経済制裁は2月以降、何度も追加で公表されているためでしょうか。あまりニューズバリューがないと判断されてしまっているのかもしれません。

これに関し、具体的な措置は、次のとおりです。

具体的な措置
  • 資産凍結等の措置…ロシアの2つの銀行(モスクワ・クレジット・バンクとロシア農業銀行)とベラルーシのベラルーシ開発復興銀行に対し、7月7日以降、次の①、②の措置を実施する
    1. ①支払規制…支払等を許可制とする
    2. ②資本取引規制…資本取引等を許可制とする
  • 対露輸出規制…ロシア連邦の産業基盤強化に資する物品の輸出の禁止措置を導入する

(※ただし、この2項目のうちの対露輸出規制に関しては、昨日の段階では、具体的な実施日や対象品目はまだ明らかにされていません。)

ここで「支払や資本取引などを許可制にする」、とありますが、おそらく「許可制」にしたうえで、実際には許可を出さない、というかたちで、事実上の支払禁止措置、資産凍結措置を実現する、というパターンでしょう。

この点、邦銀が今回制裁対象に加えられた3つの銀行と取引しているのかどうかは正直存じ上げませんが、そもそも邦銀(3メガバンクなど)はロシア、ベラルーシ両国と大して取引を行っていません(『3メガバンク、対ロシア貸倒引当計上にも関わらず増益』等参照)。

三菱UFJに至っては親会社株主純利益が1兆円超!時事通信によると3メガバンクのロシアに対する貸倒引当金が3000億円を超えた、などとしていますが、そもそも論として3メガがいずれも増益となったこと、そして邦銀全体の対外与信に対し、ロシア関連エクスポージャーが0.2%に過ぎないことを踏まえると、ロシア危機が邦銀の経営に影響を与える可能性はゼロと考えて良いでしょう。時事通信「ロシア引当金、3000億円超 事業継続に苦慮」時事通信に今朝、こんな記事が掲載されていました。ロシア引当金、3000億円超 事業継続に苦...
3メガバンク、対ロシア貸倒引当計上にも関わらず増益 - 新宿会計士の政治経済評論

また、資産凍結措置自体が施行されるのが即日ではなく、1ヵ月の猶予をもって7月7日以降に施行されるとされていることから、現実には、邦銀はこれら3銀行とほとんど取引をしていないと考えておいて間違いないでしょう。

ロシアが苛立ちを感じている(らしい)

この点、日露間の貿易、金融取引自体がそもそもさほど多くないという事情もあり、日本がロシアに対して講じることができる制裁措置も限定的ではありますが、ただ、(実効性の有無はともかくとして)小出しに少しずつ制裁を発表していく措置は、決して悪いものではありません。

というのも、今回の日本政府の措置に対し、ロシアは意外と苛立っているようだからです。

ロシアのメディア『タス通信』(英語版)に昨日、こんな記事が掲載されていました。

Japan to widen export sanctions against Russia

―――2022/06/07 13:32付 タス通信英語版より

日本政府の発表からさほど間を置かず、タス通信は「ロシアの2つの銀行とベラルーシの銀行の資産が凍結される措置が講じられ、あわせて新たな品目の輸出禁止措置が取られた」と大々的に報じました。

内容自体は日本政府の発表とほとんど変わりませんが、タス通信というロシアを代表するメディアがトップ扱いで報じているという事実自体が、ロシアが日本の措置を気にしているという証拠でしょう。

「ロシア外務省は日露協定の実施を一時停止する」

その一方、同じくタス通信には日本関連でこんな記事も出ていました。

Россия приостанавливает соглашение с Японией о промысле морских живых ресурсов

―――2022/06/07 21:29付 タス通信より

ロシア語なのでわかり辛いですが、翻訳エンジンを参考に抄訳してみると、こんなことを述べているようです。

  • 記事タイトル『ロシアは海洋生物資源の収穫に関する日本との合意を中断』
  • リード文「ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、日本政府は日露漁業合意に基づく支払いを凍結する措置を講じたと明らかにした」

タス通信によると、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は火曜日、日本政府の支払凍結措置に対抗するため、ロシア政府は「日本政府が財政的義務を果たすまでは、海洋生物資源の収穫に関する政府間協定の実施を一時停止することにした」、と述べたのだそうです。

「生物海洋資源収穫に関する政府間協定」というのはわかり辛い表現ですが、これは1998年に日露両国が締結した『日本国政府とロシア連邦政府との間の海洋生物資源についての操業の分野における協力の若干の事項に関する協定』のことを指しているのでしょう。

タス通信によるとザハロワ氏は、日本政府が1998年に締結された漁業協定に基づく「協力費」の支払を凍結する措置を講じているため、ロシアとしても「日本側がすべての財政的義務を果たすまで、1998年協定の実施を一時停止する決定を下さざるを得ない」、などと述べたのだそうです。

ロシアに対するあらゆる支払いを見直すべき

この点、日本は今後、ロシアに対するあらゆる支払いを見直していくのは重要かもしれません。

たとえば、ロシアへの入漁ができなくなる(かもしれない)北方の漁民に対しては、ウクライナ関連の制裁を継続している期間は手厚い補償を実施する、というのも合理的な考え方です。

また、「サハリン2」などのプロジェクトについても、現時点では日本は撤退を表明していませんが、原発再稼働や代替資源の開拓などを通じ、やはりエネルギー分野における対ロシア依存についても減らしていくことが望ましいでしょう。

もちろん、こんなことを申し上げると、「現時点でロシアに依存せざるを得ない人たちへの配慮が足りない」、などとお叱りを受けるかもしれません。

ただ、そもそも論として、千島列島や南樺太は、旧ソ連が第二次世界大戦のドサクサに紛れて不法に占領した領土でもありますし、旧ソ連がサンフランシスコ講和条約の締結主体ではない以上、これらの地域が自動的にロシアに帰属すると考えること自体、無理があります。

また、(少々ハードルはあるかもしれませんが)ロシアが敗戦したあかつきには、第二次世界大戦直後のドサクサに紛れて不法に獲得した利権をロシアが手放さざるを得なくなるという可能性だってありますし、日本にとっても千島列島や樺太を含めた北方領土に対し、何らかの権限を取り戻せるかもしれません。

このように考えるならば、日本が短期的にはある程度の犠牲を払いつつも、ロシアに対して「とにかくカネが渡らない」ことを最優先にすることは、長い目で見て日本の国益につながる可能性が濃厚です。

いずれにせよ、日本はすでに経済・金融制裁に参加している以上、ロシアから見れば「戦争に間接的に参加している」のと同じことです。日本としても、どうせやるなら徹底的に、ロシアを追い詰めていくべきなのです。

新宿会計士:

View Comments (12)

  • >日本がロシアに対して講じることができる制裁措置も限定的

    影響力の乏しい規制でも、重ねた前例の一つ一つが対中牽制への道標だったりするんですよね・・。きっと。

  • 今の日本にできることは多くないけど、「蟻のひと噛み巨象を倒す」を夢見て。

  • 遠い未来のことになるかも知れませんが、南樺太およびウラジオストクの円通貨圏化を可能にするためにできる策を構想しておくべきタイミングなのかも知れません。

  • >日本は今後、ロシアに対するあらゆる支払いを見直していくのは重要かもしれません。

    長い目で見て、機会があるごとに適正化していくといいと思います。
    この「協力費」って、ヤクザへの「みかじめ料」みたいなもんですよね。
    こんなのたくさんあるんやろうなぁ。

    • >「協力費」って、ヤクザへの「みかじめ料」みたいなもんですよね。

      それはきっと聯合國という名の20世紀の化石にタカる国際官僚たちと彼らの生活費のことですか。

  • 今の時期に日本が
    対露制裁をこうして正しく
    積み上げておくことは
    良いことでもっと加速するべきです。

    これまで日本は
    先の大戦で騙された中立条約
    破棄されただけでなく
    終戦後にどさくさで領土を掠め取られ
    非道のシベリア虐待された上に
    その後今日まで資源をめぐっても
    敗戦国扱いで不当な交渉を
    甘んじて受けてきました。

    今回のプーチンの蛮行で
    ロシアは今後国力衰退のみならず
    国際社会ではロシアがいわゆる
    敗戦国の立場となることが必定です。

    ロシアが敗戦後、
    国際社会に復帰する過程で
    今積み上げておいた
    対露制裁をただで解除してあげる
    必要などはなく
    ちょっとずつ解除の過程において、
    これまで強いられた
    日本に不利な条件を正しく
    戻していく材料に活用するのが
    国際外交というものなのでしょう。

    なあに、
    今はモスクワでのうのうと
    生活してるロシア国民も、
    敗戦後の経済疲弊の中では
    遠く離れた東アジアでの
    分不相応な権益より
    自分の目先のパンを
    彼ら自身が選ぶように
    してさしあげましょう。

    • 窮地のロシアが
      これまでの尊大傲慢な姿勢を
      反省し改ためて
      日本に頭を垂れてきているというのなら
      寛容な日本人としては憐憫の情も
      多少は湧いて来るかもしれません。

      ただ、
      駐日ロシア大使閣下の発言からも
      日本をナチス扱いなどで誹謗したり、
      軍事演習威圧で虚勢を張ったり
      日本国民の感情逆なでしているありさまです。
      おまけに、
      国際社会と日本の多数派国民良識層に
      背を向けて、ならず者国家とは友愛結ぶ
      鳩ぽっぽさんなんかとつるんで
      しまっているのですから
      同情の余地など感じられません。

  • しかし、北方領土を返還されても正直困ると思うのですw。
    地面の上に住んでるロシア国籍の人間を追放するようなイスラエルやソ連みたいなマネはとても日本には実行できないでしょう。
    ま、香港みたいに出来ればいいのかもしれませんが。

    北方領土はロシアと必要以上に仲良く出来ない理由であり続けて貰うのが実は日本の国益にかなうというのが私の持論です。

    • 仰せの通り、暗黒面のロシアに取り込まれないような心がけ、魔除けとしての日露間の棘の効用は有効に使いたいものです。
      ただ、本来あるべき姿、日露間の国境は本来どこにあるべきかを考える際には、どのように解決するべきか(放置しておくべきか)考える際に初めから失われた領域の奪還や復帰を選択肢から外すのは勿体無いと思います。

      ロシアが一旦手に入れた領土を手放すとき、国境線の変更に前向きになるのは、
      戦乱による疲弊か、経済的に本国から植民拠点への支援ができなくなり、栄養が幹から枝葉の末端に届かなくなり壊死による領域を狭める時(北米西岸からの撤退)、防衛力が弱まり奪われる蓋然性が高まって取引するインセンティブが生じた時(アラスカ放棄)、実際に他国に占領され条約交渉で施政権がない事実を追認する時(南樺太を奪還しポーツマス条約で復帰)、国境未確定が将来自国に不利になりかねないと感じた時、隣国と政治的な友好を高める必要が生じた時、それらの複合形。などでしょうか。
      カムチャッカ半島にはペトロパブロフスクカムチャツキーなど小都市が点在していますが、モスクワとは陸路で繋がっていない陸の孤島です。経済力が足りずにシベリアで人を増やせず、コサックが東漸した16世紀頃と変わらぬ点の支配を何とかモスクワからの海と空からの補給で維持している状態です。経済制裁でどこまで枯らすことができるか注視しています。アメリカカナダの西海岸からロシアが撤退した時の様に。千島樺太もどこまで人口を維持できるかについても。

      在樺太40万人のロシア人について、千島樺太が日本に復帰した際にどの様な対策が取れるか頭の体操はしておいて良いかと思います。

      日本国内に外国籍の居住者や、日本への愛がない帰化者を大量に抱え込むことには治安のみならず不安定化をもたらすリスクは気にするべきでしょう。ドイツにおけるトルコ人移民や我が国の在日問題をみても想像はつきます。
      ただ、何らかの対策や緩和策はあるのではないでしょうか。領土の祖国復帰のメリットと天秤にかける必要はあるかもしれないですけれど。
      例えば、国策で樺太対岸にニュータウンなどを作りインセンティブで千島樺太から移住させることや、かつて新潟で行った帰国支援事業+αなどでロシア系住民を減らす施策、残る住民には国籍は付与せずに2世まで永住権を与える、3世まで渡航のビザ免除などの措置をとる等でリスクヘッジをしながら千島樺太を取り戻した後の姿を思い描くのも頭の体操としてアリだと個人的に感じています。

      江戸幕府は北樺太の間宮海峡に国境碑を置き日露の国境を明確にしていました。ロシアはウクライナ東部と同じ様な手口で侵食し樺太を日本から奪いました。ブチャの悲劇と同じような虐殺を日ソ中立条約を破り侵略してきたソビエトロシア軍に満州、千島、樺太で祖父母の世代は被害を被りました。祖先の苦難を忘れずに毅然とした対応を政府に期待したいと思います。

  • 諸外国(西側)が色々制裁しているから、日本も一緒になって安心(?)して制裁を行っているだけに見えますね。(赤信号みんなで渡れば~的な小心者の行動)

    中共や南北などの暴挙には遺憾砲しか撃ってませんから。

    「現時点でロシアに依存せざるを得ない人たちへの配慮が足りない」などとお叱りを受けるかも
    ⇒広島市民とかでしょうか?でしたら配慮など・・・・ですし、むしろ総理に直撃質問してほしいくらいです。

  • ロシア産の原油、天然ガスについて、

    『国際価格で買う。ただしロシアには1割、ウクライナに9割支払う(賠償)』

    ことを国際的なコンセンサスとすれば、一石二鳥じゃないかな。

    ムリかなー