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立憲民主党「AV禁止法」の衝撃

最近「見せ場」がなかった立憲民主党が、久しぶりに注目を集めているようです。ただし、それが「良い意味」であるとは限りません。むしろ普段から不勉強な人たちが無理くりに法律を作ろうとして「悪目立ち」している、という事例でしょう。果たして「AV禁止法」は、厳しい安全保障環境のなか、原油高などに直面している現在の日本にとって、「喫緊の課題」といえるのでしょうか。

立憲民主党を中心とする「AV禁止法」

「立憲民主党の社会党化」、という表現が思わず頭をよぎりました。『デイリースポーツ』を含めた複数のメディアで昨日、「AV禁止」などとする話題が報じられたのです。

ネット騒然「AV禁止」トレンド1位 立憲民主党が「性行為伴うAV自体禁止」打ち出す 衆院内閣委

―――2022.05.25付 デイリースポーツより

これらのメディアの報道によると、AV、すなわち成人向けビデオを巡り、与野党超党派議員による「AV出演被害防止・救済法案」についての審議が25日の衆院内閣委員会で行われ、立憲民主党の堤かなめ衆院議員が立憲民主党として「性行為を伴うAV禁止」の法律を目指すことを表明したのだそうです。

その趣旨について堤氏は、こんな理由を述べたのだとか。

  • 映画やテレビで殺人のシーンがあったとしても、撮影の際に実際に人を殺すことはない
  • しかし、性行為については実際に撮影現場で行われることもあると聞いており、この場合、妊娠や性感染症、うつやPTSDなどの危険性がある

これについて、どう考えるべきでしょうか。

「心身に害を与えるから禁止」、は合理的な理由にならない

結論からいえば、上記の理由は、どれも「AV禁止法」の合理的な理由になっていません。

もちろん、いわゆるAVに出演した人が心身に深い傷を負うなどの可能性がある、という点については、確かにそのとおりでしょう(AVにもいろんなジャンルがありますので)。また、おそらくは山ほど存在するAVの作成業者のなかには、出演者の身体的・精神的健康の保護に不十分なケースもあるかもしれません。

ただ、それを言い出せば、「労働者に身体的な危機が迫る仕事」など、いくらでも存在します。「ビデオ」つながりで指摘しておけば、アクション映画の世界でも、出演者・スタントマンなどが怪我をしたり、最悪の場合は命を落としたりすることだってあり得るはずです。

この場合、「そのアクション映画を撮影していた業者」の責任が追及されることはあれど、「アクション映画を禁止する」という議論にはならないはずです(※もっとも、最近だとCG技術が発展し、かつてのアクション映画のような危険な撮影が行われることも減っているという話も耳にしますが…)。

あるいは、先日発生した遊覧船の沈没事故にしたって、「痛ましい事故が発生したから、安全を確保するための措置を講じよう」、という話にはなるかもしれませんが、「潮流が速い水域で遊覧船を浮かべるのは危ないから、遊覧船事業自体を禁止してしまおう」、という話にはなりません。

結局のところ、AVに出演する人たちの健康への配慮は、通常の「善良なる管理者としての注意義務」を果たしているかという論点に落ち着きそうなものでしょう。

そもそも成人が自発的に出演しているなら「職業選択の自由」

また、たいていの場合、AVへの出演は、出演者自身の意思で行われるはずです。もしも自らの意思に反して出演させられた場合は、一般不法行為や強要罪などが成立する可能性もありますし、また、「自らの意思に反して働かされる」というのは、べつにAVでなくても生じ得る話です。

このように考えていくと、「殺人と性行為(※)を同列で論じている」というのにも驚きますが、(出演者が成人であるという前提はありますが)その人がどんな仕事をしようが、それはその人の職業選択の自由でしょう。

(※なお、正確に申し上げるなら、すべてのAVで性行為が行われているわけではありませんし、もっといえば、主演が若い女性に限られるわけでもありません。本稿で詳しく触れるつもりはありませんが、このあたりはわざわざ当ウェブサイトで指摘しなくても、おそらく多くの読者の皆さまなら、よ~くご存じのことと思います。)

なにより、日本を取り巻く安全保障環境がますます厳しくなり、原油高などの内外経済環境の変化にも柔軟に対処していかねばならない時代です。立憲民主党の議員の皆さんは、「AV新法」が国政の重要課題として、どれほどの政策的優先順位を持っていると考えていらっしゃるのでしょうか?

「見せ場」が欲しい立憲民主党

ただ、それ以上に気になるのは、現在の立憲民主党が「悪目立ち」しているようにも見えてしまうことです。

先日の『時事通信調査で立憲民主党が支持率最低:4番手に沈む』でも取り上げたとおり、時事通信の今月の世論調査では、政党支持率が2.7%と2020年の国民民主党との合流以来最低水準に落ち込み、公明党や日本維新の会に抜かれてしまいました。

内閣支持微減50.8% 物価高対応「評価せず」5割―時事世論調査

―――2022年05月19日17時14分付 時事通信より

この状況が長続きするのかどうかは、現時点ではよくわかりません。

ただ、立憲民主党の支持率が低下したことを巡り、時事通信がこんなことを報じていたのも、またとても印象的です。

立憲民主党は同0.6ポイント減の2.7%にとどまった。2020年の旧国民民主党との合流以降最低の数値で、初の4番手。2月時点で4.8%あったため、通常国会で見せ場をつくれなかったことが要因とみられる」(※下線は引用者による加工)。

時事通信の記者が述べる「見せ場」が何を意味するかについては定かではありません。

ただ、『衆院議長セクハラ?久々のスキャンダルに歓喜する野党』などでも述べたとおり、想像するに、ここでいう「見せ場」とは「週刊誌片手に舌鋒鋭く政府・与党を追及する姿」であり、また、それの姿を、NHKを含めた地上波テレビ局に格好良く取り上げてもらうことを指しているのではないでしょうか。

立憲民主党さん、久しぶりのスキャンダル追及の時間ですよ!雑誌『週刊文春』が細田博之衆院議長のセクハラ疑惑を報じたことを受け、時事通信は、立憲民主党などの野党がこれを追及する構えだと報じています。週刊誌片手に舌鋒鋭くスキャンダルを追及する機会が得られたことで、どこか立憲民主党が生き生きしているようにも見受けられます。まさに、有権者の立憲民主党からの孤立が加速するかもしれません。立憲民主党は最大野党…。立憲民主党といえば、衆参両院において自民党に次ぐ勢力を有するまぎれもない第2党であり、かつ、最大...
衆院議長セクハラ?久々のスキャンダルに歓喜する野党 - 新宿会計士の政治経済評論

(※もっとも、個人的には衆院議長の「スキャンダル」(っぽいもの)を、どうやって岸田内閣に対する攻撃材料に転化するつもりか、ちょっとだけ興味があります。「岸田文雄首相に対し細田博之衆院議長の任命責任を問う」、などと言いだしたりすれば、それはそれで面黒いと思う次第です。)

その「見せ場」は支持率確保のために有効なのか?

もっとも、「見せ場」ができたとして、このインターネット時代にそれが有権者からの支持を獲得する手段になるとも思えません。

昨日の『新聞の滅亡の原因は「傲慢なオールドメディア」の自壊』などでも議論したとおり、インターネットの出現と急速な普及により、新聞、テレビを中心とするオールドメディアは、社会的影響力を加速度的に失い始めています。

朝日新聞の元記者の方がご著書を上梓されるのだそうで、これに先立ってウェブ評論サイト『現代ビジネス』に手記を投稿されています。この手記を読んでいくと、オールドメディア側の人たちが何を考えているのかの一端を知ることができるかもしれません。もっとも、非常に残念な話ですが、読んでいても共感できる部分は少ないかもしれませんが…。新聞部数の退勢は明らか一般紙がさほど減っていないという不思議なデータ年初の『「ブログ化する新聞」を待つ未来』などを含め、以前から当ウェブサイトでは、一般社団法人日本新聞協会が『新...
新聞の滅亡の原因は「傲慢なオールドメディア」の自壊 - 新宿会計士の政治経済評論

こうした状況で、これまでのような「新聞やテレビが格好良く取り上げてくれる週刊誌ネタ」を探してそれを追及しようとしても、有権者に刺さるとも思えません。

おそらくはこれまで政策についてろくすっぽ勉強して来なかった「スキャンダル追及専門政党」の皆さんが、なにか新法を作ろうとしたら、今回のような「悪目立ち」する法律しか思いつかない、という典型例でしょう。

いずれにせよ、こんな話題を眺めていると、立憲民主党の「社民党」化は、そう遠くないのかもしれない、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (38)

  • >「潮流が速い水域で遊覧船を浮かべるのは危ないから、遊覧船事業自体を禁止してしまおう」

    これって、「原発事故は大変だから、原発自体を廃止」に繋がりますなあ。理想論を振り回すお花畑左翼にありがちな「キレイな考え」です。
    じゃ、事故を起こすと危険だから、自動車は禁止して歩けば良いし、議員が不祥事を起こすような立憲某党は危険だから、政党自体を禁止しろって事ですわ。

    • 引っ掛かったオタク@ソレにしてもパチンコ換金禁止言い出さないよねなんで? says:

      ソコに客が居て票につながり食扶持を拾えるとおかんがえなんでしょうよ
      包丁…ひとがしぬ実際しんでるそもそも銃刀法による規制の対象となりうる物品が制限なく売買されているのが云々…禁止
      歩行…家屋内の歩行においてさえつまづき転倒骨折要介護のリスクがあるいわんや屋外をやあまつさえ歩行出来ない身体状態のひともいるのにこれみよがしに歩いてみせるとはじんけんしんがい禁止
      こきゅう…CO2排出削減が叫ばれるなか酸素を二酸化炭素にかえてばらまくなどむじかくにもほどがある禁止

      …バカバカしいから立民議員は発言禁止!とは云いませんよいちお民主主義だ
      ただねえ…絶望的に自分たちを客観視できない様をさらし続けるのって…愉しいのかな?愉しいんだろうないつまでもやってんだし()

  • 立憲共産党が目指している社会は「正常な社会」ではなく「清浄な社会」ですから、その内禁酒法や禁煙法を作ろうとしそうですね。

    AVでは騙されての出演などが問題になってますし、他に比べてその手の問題が起き易いとは思いますが、だから禁止というのは反対ですね。

    高額な報酬を受け取る訳ですし。

    トラブル急増!不正ローンで広がる”借金投資”
    https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4666/

    例えば上記の問題がありますが、AV禁止は投資禁止と同レベルではないかと。

    • 訂正です。

      >高額な報酬を受け取る訳ですし。

      >高額な報酬を目当てに出演する人が居る訳ですし。

      です。

  • 成人到達年齢の引下げに伴う弊害(高校生の出演等)を抑止できるようではあって欲しいですね。
    特定分野においては、従来通り「20歳になるまでの保護者の管理責任(同意のない契約の無効)」を継続させるとかですね。

    • むしろ「自己責任」をキチンと叩き込むべくキョーイクをみなおしてなおしやりなおし、家庭学校問わずやってくべきなんじゃないすかね?
      たとえば若年運転者の交通規範意識形成不全の根っこにクサイモノニハフタ的な「3ナイ運動」の弊害がぁとか

  • こんな突飛なアイディア、それなりに金が動く産業であるAV業界が
    認めてくれるとは思えないですね。それが良いか悪いかは別として。

    恐らくは、「モリカケサクラ」がもう使えなくて困り果てた立憲が
    残り少ない支持者に見捨てられない為に、「ジンケン!センシンテキ!」と
    叫ぶのを目的として始めた奇行だと思います。

    ウクライナの事とか、対米関係とか、対中関係とかで役に立つ事なんざ出来やしない。
    しかし今の情勢であからさまに足を引っ張ったらさすがにマズい。
    だからこんな奇行を試している……もしそうだとしたら、哀れな物ですねえ。

  • 「性行為」って表現も気になるよなあ
    口や身体にキスをするのは「性行為」じゃないの?

  • こりゃ奇妙キテレツです。
    初鹿高井ハッピーさんなどなど
    スキモノオッサン系の印象の強い
    立憲民主党さんからですか?(笑)

    昔は裏ビデオはカバン屋さん
    とかでしか買えませんでしたが
    禁止しても地下に潜るだけでしょう。

    字幕で「これは演技で本番ではありません」とテキトーに書けばオッケーとか、
    国産はだめで輸入K-AVはオッケーとか
    おかしなことになるのではと懸念します。

  • 私は立憲民主党を一切信用していないので推進派の立憲議員宿舎から大量のアダルトビデオが発見されたり、出演されていても特に驚きはしません。
    言ってることとやってることが違うことこそ立憲らしさであるとすら最近思います。

    〇〇の癖に真面目なフリをしないで欲しいものです。

  • びっくり仰天アンチあちら系としてはこの「やらかし」歓迎します。Netflix欧米系ドラマでは、女性上位のあのシーンや男性同士と女性同士のあのシーンがほとんど必ず挿入され、宮廷物語や騎士物語に必ずリーダー的黒人さんが出る等、歴史の捏造に本当に辟易としておりましたが、まさか日本のあちら系がこう来るとは。憲法9条と核廃絶を、プーチンや近平にではなく絶対侵略などしない平和ボケ多数の日本国民にのみ喚き唱えることと全く同じ構図ですね。

  • AVを禁止するためにはどうすればよいのかまで頭が回っていないのではないですか。現在のインターネット環境を考えれば日本だけ禁止したところで、海外にある無数のAVサイト(日本人のコンテンツも多数)にアクセス可能であり、それこそ尻抜け法になってしまいます。
    中国のようにネットに常時多数の監視人を置いて都合の悪い内容は即座に消去するか、インターネットも鎖国してしまわない限り取り締まりは不可能に思えます。
    そんなことより、中国を中心とする海賊版の取り締まりをどうするかに知恵を絞る方が有益と思いますが、立憲の議員さん方はAVの方にばかり興味があるようで、付き合いきれない。

    • 「下ネタという概念が存在しない退屈な世界」を目指しているのでしょうけど、それより、現在でもモザイク修正を要求する無意味な行政コストの方がよほど問題です。
      考えてもみてください。
      今でも、AVのモザイクのかかりが甘い業者を摘発するために、どこかの警察職員が勤務時間を費やしてガザ入れし、検察が起訴し、裁判が行われるのですよ。税金の無駄遣い以外の何物でもありません。
      AVのモザイク撤廃を訴える政党が出たら、比例代表くらいは考えてあげてもいい。

      • モザイク処理のほとんどは能登半島の漁師の奥様方のアルバイトらしいです。監督によって処理し難さがあってブツブツ言いながらやってるそうです。彼女らの仕事が無くなるのは忍びないです。というか、処理の判定するのは映倫では?警察はモ無し販売を摘発するぐらいではないかと。

        • ですので、警察の仕事は摘発から先にしたんですが、ガザ入れって何だよw。
          ガザ地区かんけーねーwww。

          アクシズのMSの変換が学習されていたのか…。

        • うーむ、モザイク消しも奥が深そう。立憲民主党発AV法が成立したら、全画面モザイクとなるのでしょうね。んなもん、誰が買うか。

          • マニアを侮ってはいけません。

            究極のドライ・マティーニはベルモットを想像しながらジンのストレートを飲むことらしいので。

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