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    Categories: 金融

3メガバンク、対ロシア貸倒引当計上にも関わらず増益

三菱UFJに至っては親会社株主純利益が1兆円超!

時事通信によると3メガバンクのロシアに対する貸倒引当金が3000億円を超えた、などとしていますが、そもそも論として3メガがいずれも増益となったこと、そして邦銀全体の対外与信に対し、ロシア関連エクスポージャーが0.2%に過ぎないことを踏まえると、ロシア危機が邦銀の経営に影響を与える可能性はゼロと考えて良いでしょう。

時事通信「ロシア引当金、3000億円超 事業継続に苦慮」

時事通信に今朝、こんな記事が掲載されていました。

ロシア引当金、3000億円超 事業継続に苦慮―3メガバンク

―――2022年05月17日09時19分付 時事通信より

これによると、3メガバンクが2022年3月期の連結決算で計上したロシア関連の貸倒引当金が3000億円を超過したほか、「最悪の場合はロシア現地法人が接収されるリスクもある」状況で事業継続を巡って苦慮している、などとしています。

具体的には、ロシア関連の引当金は三菱UFJが約1400億円、みずほが約969億円で、三井住友に至っては約750億円の貸倒引当金以外に航空機リース関連で470億円の減損損失を計上した、などと記載されています。

「1400億円」だ、「969億円」だ、「750億円」だと聞くと、一般の人々はきっと驚くはずです。私たち一般市民の生活からは、想像もつかない金額だからです。邦銀の対ロシア与信から巨額の損失を計上し、邦銀の経営の土台が揺らいでいるかのような印象を抱く人すらいるでしょう。

邦銀の対露与信は対外与信の0.2%に過ぎない

では、ここで「ファクトチェック」をしておきましょう。

以前の『世界の金融機関の「カネの流れ」とウクライナ復興金融』などでも指摘しましたが、じつは、日本全体の対ロシア与信は、2021年12月末時点でせいぜい98億ドルに過ぎず、これは日本の対外与信全体(4兆9064億ドル)に対し、0.2%に過ぎません。

国際決済銀行(BIS)の国際与信統計のデータ
  • ①日本の対外与信(2021年12月末時点、最終リスクベース)…4兆9064億ドル
  • ②日本の対露与信(2021年12月末時点、最終リスクベース)…98億ドル
  • ②÷①…0.1997%

(【出所】the Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics より著者作成)

ちなみに西側諸国のうち、ロシアに対する債権国の上位3ヵ国はフランス、イタリア、オーストリアであり、この3ヵ国だけで全体の60%を超えていますが、日本は5位に留まります(図表)。

図表 ロシアに対する債権国一覧(2021年12月末時点、最終リスクベース)
金額 構成比
1位:フランス 252億ドル 23.99%
2位:イタリア 229億ドル 21.81%
3位:オーストリア 179億ドル 17.06%
4位:米国 157億ドル 14.93%
5位:日本 98億ドル 9.33%
6位:ドイツ 46億ドル 4.34%
7位:英国 16億ドル 1.54%
8位:韓国 14億ドル 1.35%
9位:フィンランド 6億ドル 0.56%
10位:スペイン 3億ドル 0.26%
その他 51億ドル 4.84%
合計 1052億ドル 100.00%

(【出所】the Bank for International Settlements, Consolidated Banking Statistics より著者作成)

日本の大手メディア報道は「木を見て森を見ず」

さらには、金融専門紙『ニッキン』の記事に至っては、3メガグループの「ロシア向け与信」については話題にすら触れられていません。

3メガバンクG、純利益34%増 顧客部門収益が寄与

―――2022.05.17 00:45付 ニッキンより

次に、実際に3メガバンクのIR資料についても確認してみましょう。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が昨日発表した『2021年度決算ハイライト』(P2)によれば、親会社株主純利益は1兆1308億円と、「MUFG発足以来の過去最高益」だった、と記載されています。

また、MUFGのロシア向け与信は2022年3月末時点で約3100億円だそうですが(同P16)、この金額は22年3月末の総資産(373兆7319億円)に対し、0.1%以下(!)に過ぎないのです。

その一方で、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の決算単信によれば、同社は円安の影響などもあり、連結業務純益ベースで前年度比689億円増益となる1兆1529億円を計上。ロシア情勢を踏まえた引当を計上したものの、親会社株主純利益は7066億円(前期比+1938億円)だったそうです。

さらには、みずほフィナンシャルグループ(MHFG)の決算単信によれば、ロシア関連先での引当金計上に伴い与信費用は増加したものの、顧客部門の増益などの影響もあり、最終的な親会社株主純利益は前年度比594億円増加し、5304億円に達した、などとしています。

ちなみに同社の『決算説明資料』によれば、ロシア関連エクスポージャーは29.2億米ドルで、みずほ銀行、みずほ信託銀行の合算与信の0.2%に過ぎず、ウクライナ、ベラルーシ向けのエクスポージャーはそもそも存在しない、などとしています。

このあたり、メディアの報道を全否定するつもりはありませんが、最近のメディアの報道は「木を見て森を見ず」、というケースが多すぎます。

そもそも日本の銀行全体のロシアに対する与信が、対外与信全体に対して0.2%に過ぎないという点を無視していますし、とくに1兆円を超える純利益を計上しているMUFGにとって、ロシア関連エクスポージャーが全損したとしても、経営の屋台骨を揺さぶることはあり得ないと考えて良いでしょう。

新宿会計士:

View Comments (2)

  • またしても「別に嘘は言ってませんよ、嘘は。本当の事?意見や解釈で異なるでしょうね」
    と言うケースですかね?

    言論と思想と報道の自由がある限り、こういう報道はコストとして割り切るしか
    ないんでしょうかね……