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    Categories: 金融

「ロシアはデフォルトに直面していない」=露中銀総裁

ISDAから「ポテンシャル・デフォルト」を宣言されたロシアが、この期に及んで「デフォルトのリスクに直面していない」と言い出したようです。ロシアのメディア『タス通信』(英語版)によると、ロシア中銀総裁は「債務を履行するうえで必要はものはすべて存在する」、などと述べたのだとか。しかし、彼女が何を述べようが、このままでいけば5月4日にロシアが公式にデフォルト認定される可能性はそれなりに存在します。

ロシア中銀「ロシアはデフォルトに直面していないもん!」

ロシア中央銀行が、またなにか言いだしたようです。

Russia does not face risks of default — Bank of Russia

―――2022/04/21 19:47付 タス通信英語版より

ロシアの『タス通信』(英語版)が昨日配信した記事によると、ロシア中央銀行のエリビラ・ナビウリナ総裁は木曜日、ロシアには債務を履行するための「必要なものはすべて存在する」として、同国のデフォルト懸念については「まったくない」と否定したそうです。

タス通信はまた、ロシア財務省が2022年2月1日時点で、ロシアの対外公的債務残高が595億ドルであり、その内訳については対外担保付融資が389.7億ドルで、償還期限は2022年から2047年までである、とも述べたのだそうです。

なんだか、メチャクチャな言い分です。

この「ロシア国債のデフォルト」とは、おそらく、国際スワップデリバティブ協会(ISDA)の決定委員会(DC)が20日に下した「ロシアが契約条項に違反し、外貨建ての国債を元利金をドルではなくルーブルで支払ったことは、ポテンシャル(潜在的)デフォルト(PD)に該当する」とする決定を念頭に置いたものでしょう。

彼女が何を述べたところで、国際社会によるロシアのデフォルトという判定を覆すことは難しいからです。

ISDAはすでにPDの判定を下している

昨日の『ロシア外貨建て国債にポテンシャル・デフォルトの判断』でも触れましたが、DCは、ロシアが今月4日に米ドル建ての2本のソブリンユーロ債に関する元利金を一方的にルーブルで支払ったことが、支払不能(failure to pay)に該当すると判定したそうです。

ロシアが誇る対独戦勝利記念日である5月9日に向けて、首都の名を冠したモスクワ艦の撃沈以外に澪、もうひとつの「戦果」(?)が出て来ました。ISDAのDCは20日、ロシアがドル建てユーロ債の元利払をルーブルで行ったことを「ポテンシャル・デフォルト」と認定したようなのです。もしも猶予期間内にドルでの支払いがなされなければ、ロシアは5月4日に正式にデフォルト認定される可能性が出て来ました。5月9日に向け目標を修正『ロシア「5月9日までの勝利宣言」に合わせ目標修正か』でも取り上げたとおり、ウクライナに対...
ロシア外貨建て国債にポテンシャル・デフォルトの判断 - 新宿会計士の政治経済評論

ただし、現時点においてはまだ30日の「猶予期間」にありますので、もしもロシアが5月4日までに米ドルで元利金を支払えば、デフォルトにはなりません。したがって、「デフォルト」状態が確定したわけではないという意味で、「ポテンシャル・デフォルト」と判定された、というわけです。

ちなみにCDSの仕組みやDCの概要などに関しては、『ロシア国鉄のCDSが発動:ソブリン債もCE申し立て』でそれなりに専門的でありながら、できるだけわかりやすい解説をしたつもりですので、よろしければご参照ください。

予想どおり、ロシア政府に対するCDSのCEがDCに対して申し立てられたようです。もしもロシア政府が公式にデフォルト認定されたとしたら、西側諸国の金融制裁もあらたな局面に達したといえます。おりしも現地時間月曜日には、同じくDCがロシア国鉄のスイスフラン建ての債務についても、CEのひとつである「支払不能」の認定を下したそうです。CDSとは?クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれる金融商品があります。これは、ある「参照組織」に「クレジット・イベント(CE)」が発生した場合に、プロテクシ...
ロシア国鉄のCDSが発動:ソブリン債もCE申し立て - 新宿会計士の政治経済評論

勝手に口座を開設し、勝手にルーブルを振り込んだ

さて、ロシア政府が4月4日に支払期限が到来したドル建てユーロ債の元利金を自国通貨であるルーブルで支払った、とする話題については、『S&Pがロシアの外貨建信用格付を「SD」に引き下げ』でも触れたとおり、かなり噴飯物です。

格付業者のS&Pが土曜日、ロシアの外貨建て債務格付を「選択的デフォルト(SD)」に引き下げたそうです。ただ、格付業者に指摘されなくても、ロシアが4月4日にドル建てユーロ債の元利払をルーブルで行ったと発表した時点で、事実上のデフォルトに該当した可能性が濃厚であることは、当ウェブサイトでも『ロシア政府がドル建て債券の元利金をルーブルで支払い』などで取り上げたとおりです。そして、今後の焦点はやはり、まずは凍結されたロシアの外貨準備の「使い道」ではないでしょうか。ユーロ債を勝手にルーブル払いロシアが...
S&Pがロシアの外貨建信用格付を「SD」に引き下げ - 新宿会計士の政治経済評論

というのも、いわば、ロシア国外の債券保有者に対し、債務者であるロシア政府が「勝手に」ロシア国内の銀行に口座を開き、そこに(米ドルではなく)「ルーブルで」元利金を一方的に振り込んだからです。

あたりまえですが、ユーロ債の多くは、契約上、その債券の取扱業者などを通じて確実に債券投資家に元利金が振り込まれなければなりません。それなのに、ロシア政府によって一方的にロシア国内の銀行に口座が開設され、そこに「元利金を振り込んだ」、などといわれても困ります。

債券投資家の多くは、ロシアに渡航する手段も限られていますし、交通・宿泊・滞在費もかかりますし、現地に出掛けたとしても元利金をドルの現金で引き出せるとも限りません。多額のルーブル紙幣を受け取ったところで、それをロシア国内で米ドル紙幣に両替し、ロシア国外に持ち出す、といった対応も困難でしょう。

したがって、自然に考えて、ロシア政府がやったことはデフォルトそのものです。

対独戦勝利記念日に向けて「デフォルト確定」の名誉を手に?

いずれにせよ、これまでのロシア政府の発表や実際の4月4日の行動などに照らし、タス通信が報じたロシア中銀総裁の発言は、基本的には「外貨建ての対外債務も全部ルーブルで支払うから問題ない」という意味だと考えるべきでしょうし、そんなメチャクチャな言い分が国際社会に通用するはずがありません。

やはり、5月9日の「対独戦勝記念日」に向けて、ロシアはまた一歩、デフォルトという「名誉」を手にすることになるのだとしたら、これはこれで痛烈な皮肉と言えるかもしれませんね。

新宿会計士:

View Comments (8)

  • この場合に限らず、契約条件の変更が容認される要件があるとするのならば、
    ①国家消滅・天変地異等の不可抗力に起因するもの
    ②相手側の了承を得た場合
    に、限られるのだと思います。

    決定権は対峙する相手側にあります。

    >債務を履行するうえで必要はものはすべて存在する・・>(でも使えません)

    形の上では、外貨凍結に参加していない中国宛てに"為替手形"を振り出せば、対中債権の放棄と引き換えに米ドル等での代位弁済を要請できなくもないのかと。(でも決定権は中国側にあります)

    無法国家ぶりで、デフォルトが見えてきた。(本性の露呈)
    無法国家ぶりで、デフォルトが見えてきた。(債務不履行)

  • ロシアがどんどん「でっかい北朝鮮」になりつつありますねえ。
    よりにもよって世界最大の面積なんだから、悪い冗談にしかなっていない。

    • 北朝鮮と言えば
      ロシアが北朝鮮からミサイル購入するという噂を聞いたことある

  • デフォルト騒ぎのはじめの頃は、借り倒し上等で確信犯でデフォルトさせると思っていました。デフォルトしようがしまいがロシアの信用は地に落ちていると思いますし、今は外貨の流出を止めるほうがメリットがありそうでしたので。
    「国際社会ざまーみろ」くらい言うのかと。

    ところがどうも、「デフォルトさせたくない」ようなんですね。
    国内的には「デフォルトは悪」、なんでしょうかね。(過去の経済危機の経験?)
    いつもと同じことをしただけなのに、なんで西側がこんなに怒ってるのかわかっていないのかもですね。
    どっちにしても、制裁は長期化させて体で覚えてもらいましょう。

    • 露国民目線でロシア国外産の日用品などの流通に差し障りが顕在化し始めるかも、のタイミングで外国メディアとはいえ"デフォルト"報が流れることに嫌気、でしょうか?
      クレムリンのほうも"生きていくだけ"なら半鎖国上等なのかもしれませんが、生活水準の明確なソビエト返りにはもう露国民も堪えられないと踏んでいるのかも??