2022年の成長率はロシア▲11.2%、ウクライナ▲45.1%=世銀
2022年を通じたウクライナの経済成長率がマイナス45.1%に達するとの予測が、世界銀行から出て来ました。世銀によれば、ウクライナでは人口の3分の1が電力、食料、水などの不足に直面している可能性があるとしつつ、輸送ルートの問題で穀物貿易の90%が制限されているとも指摘しています。その一方でロシアの予想経済成長率はマイナス11.2%なのだそうです。
ウクライナのGDPが大幅なマイナスに!
世界銀行が日曜日に公表した、 “War in the Region” と題する、合計118ページからなるレポートによれば、2022年におけるウクライナのGDPが大幅なマイナス成長となるとの予測が示されました(※リンク先をクリックすると、いきなりPDFファイルのダウンロードが始まりますのでご注意ください)。
このレポートは2022年2月に始まったロシアによるウクライナに対する軍事侵攻を受けて、戦争が人々の生活に大きな打撃を与えるだけでなく、両当事国、さらには周辺の欧州や中央アジア諸国の経済にも大きな影響をもたらすとの予測を示したものです。
具体的には、ウクライナについては2022年に少なくとも45.1%のマイナス成長に陥るとし、また、ロシアに関しても西側諸国の経済・金融制裁の結果、11.2%のマイナス成長となるとするのが今回のレポートの予測です。
インフラの破壊により穀物輸出の90%が滞る
こうしたウクライナの状況について、世銀のレポートでは、さまざまな記述があります。
ロシアによる軍事侵攻により、人口4400万人のウクライナにおいて、3月31日時点で400万人が国外に避難したほか、国内でも居住地を離れた人が650万人に達するなど、すでに大きな被害が生じていると指摘。
こうした避難民の数は、戦争が続けばさらに増大する可能性があるほか、安全な水や食料、電力、ガスなどの供給も限られているため、人口の約3分の1が人道支援を必要としている可能性がある、などと述べています(同レポートのP36~37)。
さらには、今回の戦争により、ウクライナでは鉄道、橋、港、道路といったインフラ基盤が破壊され、広範囲に及ぶ地域での経済活動を不可能な状態にしたことで、3月初旬では少なく見積もって1000億ドル(2019年のGDPの約3分の2相当)に達したと指摘。
それ以降、戦争が激しさを増し、さらなる破壊を引き起こしたこと、黒海へのアクセスが失われたことでウクライナの輸出の半分と穀物貿易の90%が遮断され、輸送ルートの損傷により陸路での物品輸送も困難となり、さらには種まきや収穫などへの影響も懸念される、などとしています。
そのうえで、世銀は2022年におけるウクライナのGDP成長率がマイナス45.1%に達する見込みであるとしつつ、物理的なインフラ設備の破壊による影響次第ではさらにマイナス幅が拡大されるとの見通しを示しているものです。
なお、ウクライナにベラルーシとモルドバを加えた「東欧州地域」全体の2022年における予想成長率についてはマイナス30.7%なのだそうです(同P38)。
ロシアについては11.2%のマイナス成長を予測
一方でロシアに関しては、国内需要の低下に加え、国際社会による制裁が貿易や金融などに影響を与え、雇用不安などをもたらすことを通じて11.2%のマイナス成長をもたらす、としています(同P32)。
これに加えて世銀レポートでは、すでに400を超える米国企業がロシアからのロシアから撤退しているなどと指摘し、外国からの投資が急激に減少することに加え、輸入品目が制限されることで供給が減少することなどを通じ、ロシア国内では金利が上昇し、融資が滞る、などとする予測も示されています。
さらには、ロシアが保有している外貨準備の凍結措置など厳格な金融制裁措置により、ルーブル安が続くことなどを通じたロシア経済への悪影響も予測される、といった点にも言及がなされています。
正直、世銀のレポートでは、為替市場でロシアの通貨・ルーブルがウクライナ侵攻前の水準に戻している点などに言及されていないなど、議論としてはやや不十分なところもありますが、具体的なマイナス幅に言及されているという点については、興味深い点だといえるでしょう。
現実にはまた違った展開も?
この点、『ロシアのインフレ率上昇は一時的だが制裁の継続は必要』を含め、これまでも当ウェブサイトで何度となく言及してきましたが、ロシアは意外と「しぶとい」国だと思います。
高血圧治療と同様、即効性はなくとも追及を緩めてはならないロシアで消費者物価指数の前月比上昇率が7.61%に達したと報じられています。前年同月比だと16.69%です。これはたしかに凄まじいインフレであるようにも見受けられますが、物事はそこまでシンプルではありません。今回のCPIの急騰も西側の制裁の影響と考えられるものの、もともとロシアはインフレ体質の国であり、また、ロシアが「内に籠れる国」であるという事情を踏まえれば、このCPIを「ロシア経済崩壊の兆候」と単純に考えるべきではありません。要約 ロシアはも... ロシアのインフレ率上昇は一時的だが制裁の継続は必要 - 新宿会計士の政治経済評論 |
実際、今回の世銀レポートの36ページには、2022年と23年における経済成長予測が示されているのですが、これによれば、ロシアは2022年においては国際的な金融制裁の影響でマイナス成長に陥ると予測されているものの、2023年にはプラス成長が予想されています(図表)。
図表 経済成長予測【単位:%】
国 | 2022年 | 2023年 |
---|---|---|
ベラルーシ | ▲6.5 | +1.5 |
ロシア連邦 | ▲11.2 | +0.6 |
ウクライナ | ▲45.1 | +2.1 |
(【出所】世銀レポートP36 “TABLE 1.4 Europe and Central Asia Country growth forecasts”)
このあたり、西側諸国による対ロシア制裁の影響は一時的なものに留まり、ロシアが「内に籠って」しまえば、ロシア経済に対して経済制裁のみを使って追加で打撃を与えることは難しい、というのが実情ではないかと思います。
ただし、戦争が長期化すれば、そのことはウクライナだけでなく、ロシアにとっても着実に経済を疲弊させることにつながることも間違いありません。その意味では、ウクライナとの和平を本当に望んでいるのは、じつはロシアの側なのかもしれない、などと思う次第です。
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素朴な疑問ですけど、世界銀行は、ウクライナ危機という大きすぎる不確定要素のなかで、どうやって経済成長予測を出しているのでしょうか。(現段階で、最も下落した値というなら分かるのですが)
>戦争が長期化すれば、そのことはウクライナだけでなく、ロシアにとっても着実に経済を疲弊させることにつながることも間違いありません。
きっと、一両日中の短期決着を信じて疑わなかったんでしょうね。
マクドの看板を右回転するだけが「プランB」ではないのに・・。
他の国も軒並みマイナス成長になりそう