TBSが昨日、岸田文雄政権と韓国の尹錫悦(いん・しゃくえつ)次期政権が「戦後最悪とも言われる両国の関係を改善させる具体策を検討するチームを立ち上げる方針である」ことが「JNNの取材でわかった」と報じました。事実ならばとんでもない話ではありますが、ただ、それ以前の段階として、TBS以外にこの話題を報じているメディアが見当たらないなど、報道には不自然な点もいくつかあるため、現時点では、この話題は「静観」が政界ではないかと思う次第です。
目次
尹錫悦政権発足を前に(韓国で)盛り上がる「関係改善論」
尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏が韓国の次期大統領に選ばれて以来、個人的にどうしても懸念せざるを得ないのが、「日本が譲歩するかたちでの日韓(韓日)関係改善」、という構想です。
『「韓国が」日韓関係を悪化させた』などでも議論したとおり、この点、韓国側は関係悪化の原因がどちらにあるのかについて、なかば意図的に無視しているフシがありますが、日韓関係における諸懸案を作り出したのは、基本的には韓国の側です。
「日韓関係が悪化」したのではない!「主語」は正しく使おう「日韓関係が悪化した」という表現を見かけますが、これは正しくありません。現在の日韓関係を「悪化」と定義するならば、「韓国が日韓関係を悪化させた」と表現すべきでしょう。もっとも、現在の日韓関係をもたらしたのは、少なくとも韓国側の行動だけでなく、我々日本人の側が、韓国を「正確に」理解するようになった、という側面もあります。このように考えると、現在の状態こそが「良好なもの」だ、とする意見もあるようです。日韓関係が「良好ではない」理由は明らか著... 「韓国が」日韓関係を悪化させた - 新宿会計士の政治経済評論 |
また、韓国側の主張を読んでいると、自分たちに100%の過失がある場合でも、なにかと屁理屈を言いたてながら、相手に過失割合を押し付けようとする屁理屈を見かけることがよくあります。これが当ウェブサイトの用語でいう「ゼロ対100」理論です。
※ゼロ対100理論とは?
自分たちの側に100%の過失がある場合でも、インチキ外交の数々を駆使し、過失割合を「50対50」、あるいは「ゼロ対100」だと言い募るなど、まるで相手側にも落ち度があるかのように持っていく屁理屈のこと。これを仕掛けられた側としては、最大限勝っても得るものはゼロであり、最大限負けると100%を失うおそれもあるので、絶対に相手の土俵に乗ってはならない。
(【出所】著者作成)
この点、日韓関係の「改善」は、日韓間に横たわるさまざまな諸懸案を誠実に解決する以外に方法はありません。
基本的に3つの落としどころ以外にあり得ない
ただ、自称元徴用工問題にしろ、自称元慰安婦問題にしろ、竹島不法占拠問題にしろ、それ以外のさまざまな諸懸案にしろ、基本的に問題の所在は、「韓国が国際法や条約、国際約束をないがしろにしていること」、「韓国が事実ではないことを主張していること」に尽きます。
そして、したがって、これらの諸懸案を、国際的に妥当なかたちで解決するためには、韓国が約束を守ること、ウソをつかないことが重要であり、日本にできることはありません。逆に、日本が少しでも韓国に譲歩したら、その瞬間、それは妥当な解決策ではなくなってしまいます。
これが、普段から当ウェブサイトで申し上げている、日韓諸懸案を巡る「3つの落としどころ」、というわけです。
日韓諸懸案を巡る「3つの落としどころ」
- ①韓国が国際法や国際約束を守る方向に舵を切ることによって、日韓関係の破綻を回避する
- ②日本が原理原則を捻じ曲げ、韓国に対して譲歩することによって、日韓関係の破綻を回避する
- ③韓国が国際法や国際約束を守らず、日本も韓国に譲歩しない結果、日韓関係が破綻する
(【出所】著者作成)
言い換えれば、「日韓(韓日)両国が関係『改善』に向け、ともに努力すること」は、上記①~③のなかでいう②に相当する、というわけであり、かつ、この②の選択肢は、これまでに日本が韓国との関係で取り続けてきた選択肢でもあります。
菅総理「きっかけは韓国が作ってほしい」
そして、今日の日韓関係が「未来志向」的なものでも建設的なものでも生産的なものでもない点を踏まえるならば、日本が韓国に対し譲歩し続けたことが誤っていたことは、今さら指摘するまでもない話です。
だからこそ、韓国における政権交代を機に、「韓国が関係を破壊した」という事実を無視した「日韓(韓日)関係『改善』論」なるものが出て来ることについては、最大限の警戒が必要でしょう。
この点、文在寅(ぶん・ざいいん)政権下で出てきた日韓諸懸案(火器管制レーダー照射事件などの準戦闘行為、違法判決、政治家による天皇陛下・上皇陛下への侮辱発言など)があまりにも酷かったためか、現在のところ、日本の側に「韓国に譲歩してまで関係『改善』を」、という意見は少数派にも見えます。
とくに、「日本が韓国に譲歩すべき」とする主張を強く持ち続けていた河村建夫・前日韓議連幹事長が、(まったく別の理由で、ではありますが)昨年10月の衆院選で引退を余儀なくされたことは、日韓関係における大きく変化の象徴でもあります。
また、安倍晋三総理の後継者である菅義偉総理は、日韓関係を正常な姿に戻すためのきっかけについては韓国が作らなければならないと述べ続けてきたこと(『菅総理「日韓関係健全化のきっかけ要求」の本当の意味』等参照)も、日本政府の方向性を決定づけているといえます。
昨日の『韓国高官「度量の広い宣言を」/公示送達小出しの狙い』などでも紹介したのが、朴智元(ぼく・ちげん)韓国国家情報院長が来日中である、とする話題です。朴智元氏は昨日、首相官邸に菅義偉総理を訪ね、意見交換をしたのだそうですが、これについて、いくつかの報道を見て気付いた点があります。それは…。朴智元氏の来日と菅総理の表敬訪問訪日中の朴智元(ぼく・ちげん)韓国国家情報院長は8日、二階俊博・自民党幹事長に対し、「韓日関係の葛藤を解くために、韓日両国首脳が度量の広い宣言を発するべきだ」と提案したらしい... 菅総理「日韓関係健全化のきっかけ要求」の本当の意味 - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただし、現政権がこうした菅総理の方針をいつまでも維持するという保証はありません。
この点、菅総理の後継者である岸田文雄・現首相も、所信表明演説や施政方針演説などから判断する限りは、日韓関係に関しては菅総理の見解を(今のところは)踏襲しているようには見受けられます。
ただ、岸田首相が尹錫悦氏との電話会談で「日韓関係改善のために共に協力していきたい」などと述べたことは、日韓関係の先行きに関して不安を抱かせる材料のひとつかもしれません(※ただし、岸田首相に不安を抱くのは「日韓関係」だけではないかもしれませんが…)。
本日は、久しぶりに驚いてしまいました。岸田首相が韓国次期大統領と電話会談し、「日韓関係改善のために共に協力をしていきたい」と発言したのです。所信表明演説などでの「韓国にはわが国の一貫した立場に基づき、引き続き適切な対応を強く求めていく」という発言は、いったいどこに行ってしまったのでしょうか?岸田首相、尹錫悦氏と電話会談岸田文雄首相は、韓国の次期大統領に選出された尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏と、本日、電話会談を行ったようです。尹次期韓国大統領との電話会談等についての会見―――2022/03/11付 首相官邸... 日韓関係改善のために共に協力していきたい=岸田首相 - 新宿会計士の政治経済評論 |
このあたりについては、はやり警戒は必要でしょう。
TBS「関係改善チーム設立へ」=独自取材
こうしたなかで、『TBS NEWS』は昨日、こんな記事を配信しました。
【独自】“戦後最悪”の日韓関係改善に向けた「チーム」設立へ
―――2022/04/07 17:48付 TBS NEWSより
TBSによると、「日本政府と韓国の次期政権が、戦後最悪ともいわれる両国の関係を改善させる具体策を検討するチームを立ち上げる」方針であることが、「JNNの取材でわかった」としています。
個人的には、「戦後最悪」だ、「関係改善」だといった主観的表現にも違和感を覚えますが、それと同時に、この手の「日韓関係は戦後最悪だ」、「関係改善が必要だ」といった記事には、多くの場合、「どちらが関係を『悪化』させたのか」という視点が欠落しているという点も気になるところです。
ただ、TBSの記事には気になる点がほかにもいくつかあります。
まず、この「チーム設立」は、「複数の外交関係者」によれば、「先月の電話会談で岸田首相が尹錫悦氏に対して提案したもの」だ、としている点です。この時点で、この記事自体に信憑性があるのかどうかを吟味する必要があると思います。
この点、公式の発表等からは、岸田首相が本当にそのような提案をしたのかどうかについては確認できませんし、また、岸田首相本人は、現在のところは「関係正常化のきっかけは韓国が作らねばならない」とする菅総理の姿勢を踏襲しています。
もちろん、韓国の側から「韓日関係改善タスクフォースの設立」などの提案が出てくる可能性はありますが、さすがに日本の側からそれを言い出すほど、岸田首相がポンコツなのでしょうか?これについては少し様子見が必要でしょう。
現時点で報じているのはTBSだけ?
また、TBSの記事に疑問点はほかにもあります。
記事では、日本政府が12日から外務省の小野健・北東アジア第一課長を「メンバー選定のために」韓国に派遣し、「チームは歴史問題のほか、未来志向的な協力に向けた具体策などについて話し合う」、などとしています。
このあたり、「外務省の課長が訪韓する予定だ」とする話題を、本件に強引に結びつけている可能性はないでしょうか?
これに加え、「関係改善に意欲を示す尹次期大統領の就任を前に、修復にむけた動きが加速している」、「11日からは河村建夫氏が訪韓することがわかった」、などの記述もあるのですが、単なる私人となった河村氏が訪韓しようが、日本政府が日韓関係「改善」に前のめりになっている論拠にはなりません。
さらには、この「日韓関係改善チーム」なる報道をしているのが、(著者自身が調べたところでは)TBS・JNNだけであり、それ以外のメディアからは出ていません。この点、日韓関係「改善」に向けた動きが韓国側で加速していることは間違いないのですが、日本の側でもそれが「加速」しているのかどうかは疑問です。
このように考えていくと、今回のTBSの報道、「日韓関係改善に向けた動きが韓国で加速している」、「こうした動きはこれから日本でも加速するに違いない」、といった、一種の確証バイアスのようなものが働いた記事(あるいは意図的にそのような雰囲気を醸成することを目的とした飛ばし記事)、という印象を受けます。
だいいち、ウクライナ対応などで忙殺される岸田文雄政権に、日韓関係にそこまで力を割く余力があるのかどうかは疑問ですし、「日韓関係改善チーム」なるものが発足したところで、韓国に下手な妥協をしようとしても、与党から厳しい突き上げを食らうのが関の山ではないでしょうか。
以上より、現時点でこの話題については「静観」が正解ではないかと思う次第です。
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TBSの援護射撃なのかフレンドリーファイアなのか・・・
これ、本当に日本人記者の記事でしょうかね。
中央日報を読んでるのかと思いましたw
事実だとすれば由々しきことですが、仰る通り「静観」が正解だと私も思います。
(抗議メールくらい送るかもですが)
関係改善チームというのは、他の国の外交で聞いたことがない
>現時点でこの話題については「静観」が正解ではないかと思う次第です。
同意なのです♪
ただ、今の状態だと外務省の韓国担当は「約束を守れ」って言うだけの仕事しかないから、ここらで一山当てようと思ってたりするんじゃないかな?って思ったりもするのです♪
上手くいかなくても当たり前で、万一、ウクライナ情勢で、対ロシア包囲の仲間を増やすことに成功したら得点になるとか考えてたりしないかな?
韓国が口だけで制裁逃れをやってても、その取締は外務省じゃなくて、他の省庁がやれば良いってくらいに、軽く考えてたりしそうなのです♪
あたし自身は、韓国って政権が変われば、平気で前政権を全否定して、それまでの約束とかを反故にするから、長期的な関係改善なんてムリだと思うし、だから、韓国との協力って、その場限りの等価交換に限れば良いと思うのです♪
いま、必要なことは、
東京で韓国を語ることではなく、
ソウルで日本を語ることなのですが。
さて、できますかね?
>日韓関係の改善に向けたチームの設立は、先月行われた電話会談で岸田総理が尹錫悦次期大統領に提案したもの
これが事実だとしたら、もっと早く韓国メディアから公表されたと思うのですが。どうも、嘘くさい。
岸田内閣ならあり得ると思えるのがこわい。
そういう思いこみがマスゴミに付け入る隙を与えるんでしょうね。昨今の過剰なまでの岸田叩きは正気とは思えません。
さぞマスゴミはほくそ笑んでいる事でしょう。今までにどれだけのガセネタに酷使様が岸田憎しで脊髄反射で飛びついた事やら。
仮にこれが事実だったとしても、何も出来ないと思いますけどね。
具体的にどうするかという話があるのか見えてませんが。
それぐらい、韓国側が積み上げてきた問題は大きく、複雑に絡み合っているので、物理的にも手がつけられないかと。
交渉で大事なことの一つに、どこまでひけるか?もしくは、それ以上退けない線はどこか?を決める事です。
例えば、どんな事をされても韓国との関係を切らないとすると 相手の嘘を認めてでも関係を改善しなければならないのかとなります。
これが今迄の
日韓関係でしたが、安倍総理からは 相手の嘘は認めない。条約はまもる。韓国が条約を守らなければ相手にしない。もしくは関係が切れても構わない。と、なりました。
おそらく、これが日本政府の総意でしょう。
しかし、自民党内には、ここで自分が日韓関係改善の立役者になれば 歴史に名前が残るし、また韓国利権に手を入れられるなどと考える輩がいないとも限りません。
また、マスメディアの方でも韓国に親近感を持った輩がいて、自民党内の親韓派の願望を裏も取らずに報じているのかも知れません。
色々な考え方があり、韓国と仲良くしなければならないと考える政治家もいると思います。韓国との仲が良くなることこそ正義だと。
多分そこだけをフォーカスした記事なのかと疑い、続報を待つのが正解かと。
また「アドバルーン」じゃないの?