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    Categories: 金融

詳説・直接投資統計:日本と世界の「投資」のつながり

日本の外国に対する直接投資の総額は約2兆ドルで、そのうち約3割が米国向けであり、中国向けは7%、韓国向けは2%、ロシア向けに至っては0.2%に過ぎない――。本稿では、日曜日に掲載した『詳説・国際与信統計日本と世界の金融のつながりを読む』の「続編」として、少し古いデータで恐縮ですが、「投資で見た日本と世界のつながり」についても確認してみたいと思います。

金融で見た「日本と世界のつながり」

総括表再掲

日曜日に掲載した『詳説・国際与信統計日本と世界の金融のつながりを読む』は、日銀が公表した2012年12月末時点における国際与信統計の日本分集計結果に基づいて、日本の金融機関が世界に対し、総額でいくらの投資を行っているかについての基礎データを紹介しました。

日銀が3ヵ月に1回公表する国際与信統計を読み込むと、金融を通じた日本と世界の関係が浮かび上がります。日本にとって圧倒的に重要な相手国は米国であり、続いてケイマン諸島、さらには欧州先進国などがこれに続きます。意外なことに中国の重要性は8番目であり、タイとほぼ並んでいます。また、香港、韓国の地位が下がる一方、シンガポール、台湾の地位は上昇中です。こうしたなか、邦銀は2014年以降、ロシアに対する与信を大きく減らしていたことも判明します。要約 日本の金融機関の2021年12月末時点における対外与信総額は最終...
詳説・国際与信統計日本と世界の金融のつながりを読む - 新宿会計士の政治経済評論

これについて、1位から10位までの各国に加え、アジア主要国、さらには最近話題のロシア、ウクライナ、ベラルーシについて、その与信額、1ドル=120円と仮定した参考円換算額、さらには日本の世界に対する与信への構成割合をまとめたものを、次の図表1に再掲しておきます。

図表1 日本の金融機関の与信相手国(最終リスクベース、2021年12月末時点)
相手国 金額(円換算額) 構成割合
合計 4兆9064億ドル(588.77兆円) 100.00%
1位:米国 2兆1043億ドル(252.51兆円) 42.89%
2位:ケイマン諸島 6752億ドル(81.02兆円) 13.76%
3位:英国 2351億ドル(28.21兆円) 4.79%
4位:フランス 2002億ドル(24.02兆円) 4.08%
5位:オーストラリア 1410億ドル(16.92兆円) 2.87%
6位:ルクセンブルク 1309億ドル(15.71兆円) 2.67%
7位:ドイツ 1275億ドル(15.30兆円) 2.60%
8位:中国 1060億ドル(12.72兆円) 2.16%
9位:タイ 986億ドル(11.83兆円) 2.01%
10位:カナダ 969億ドル(11.63兆円) 1.98%
11位:シンガポール 810億ドル(9.72兆円) 1.65%
14位:香港 624億ドル(7.49兆円) 1.27%
16位:韓国 514億ドル(6.17兆円) 1.05%
17位:インドネシア 483億ドル(5.80兆円) 0.98%
19位:台湾 418億ドル(5.02兆円) 0.85%
20位:インド 416億ドル(4.99兆円) 0.85%
37位:ロシア 98.16億ドル(1.18兆円) 0.20%
76位:ウクライナ 1.09億ドル(131.16億円) 0.00%
104位:ベラルーシ 0.02億ドル(2.64億円) 0.00%

(【出所】日本銀行『BIS関連統計』より著者作成。なお、円換算額は1ドル=120円と仮定して著者が計算した参考数値)

日本の与信額の相手は欧米諸国が中心

これで見ていただければわかりますが、日本の金融機関の与信額は、総額4.9兆ドル、円換算すれば589兆円と日本の年間GDPを凌駕する金額であり、しかもその約40%が米国に、約14%がケイマン諸島に向けられており、さらには英仏独など欧州主要国や豪州などが上位を占めています。

この点、経済評論家のなかには「日中間のつながりは非常に深い」などと主張する人も多いのですが、少なくとも金融面で見れば、日本の金融機関の対中与信額は1060億ドル(12.72兆円)で、日本の対外与信全体の2%少々、対米与信のざっと20分の1に過ぎません。

また、アジア諸国向けに見ると、長年、日本の金融機関にとって重要な与信相手だった香港や韓国が、金額、割合ともに低下しており、これに代わってシンガポールや台湾が上位の与信相手国に浮上しつつあるほか、ロシアやウクライナ、ベラルーシの与信相手としての重要性は極めて低い、という特徴があります。

このあたり、日本の金融機関は、意外と機を見るに敏であり、リスク管理はかなりしっかりしているのではないかという気がしてなりません。

いずれにせよ、詳細については『詳説・国際与信統計日本と世界の金融のつながりを読む』でもじっくりと解説していますので、まだお読みでない方は、ぜひ一度ゆっくりと目を通していただけると幸いです。

日銀が3ヵ月に1回公表する国際与信統計を読み込むと、金融を通じた日本と世界の関係が浮かび上がります。日本にとって圧倒的に重要な相手国は米国であり、続いてケイマン諸島、さらには欧州先進国などがこれに続きます。意外なことに中国の重要性は8番目であり、タイとほぼ並んでいます。また、香港、韓国の地位が下がる一方、シンガポール、台湾の地位は上昇中です。こうしたなか、邦銀は2014年以降、ロシアに対する与信を大きく減らしていたことも判明します。要約 日本の金融機関の2021年12月末時点における対外与信総額は最終...
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対外直接投資は?

対外直接投資の統計数値

ところで、この記事を執筆した直後に、とある方から、「日本の金融機関の対中与信、対露与信は意外と少ないことはよくわかったが、金融機関以外の民間企業の投資状況はどうなっているのか?」というご質問を受けました。

図表1に示したものは、あくまでも金融機関が外国の企業、公的セクターなどに対して貸しているおカネ(貸出金、債券など)の金額であり、トヨタ自動車だの、ソニーだのといった一般企業が外国に投資している子会社の投資持分などについては含まれていません。

これについては統計上、「金融機関の与信」ではなく、「対外直接投資」という項目に計上され、相手国別の投資金額については年に1回、財務省や日銀が公表している『本邦対外資産負債残高(年次)』というデータに収録されます。

ただし、このデータはそのままでは若干使い辛いのですが、うまい具合に、日本貿易振興機構(JETRO)が1996年分以降のデータをドル換算したエクセルファイルを公表しています(※ただし、厳密にデータの連続性があるとは限りませんが…)。

対外直接投資総括表

例年、この最新データが出てくるのは5月下旬ごろであり、残念ながら、現時点では2020年までのデータしかないのですが、これをもとに対外直接投資残高を金額上位順に並べ替え、上位10位までの各国、アジア主要国、ロシアについて1枚の図表に示したものが図表2です。

図表2 日本企業の対外直接投資残高(2020年12月末時点)
相手国 金額(円換算額) 構成割合
合計 1兆9933億ドル(239.20兆円) 100.00%
1位:米国 5915億ドル(70.98兆円) 29.67%
2位:英国 1740億ドル(20.88兆円) 8.73%
3位:オランダ 1549億ドル(18.58兆円) 7.77%
4位:中国 1435億ドル(17.21兆円) 7.20%
5位:シンガポール 990億ドル(11.88兆円) 4.97%
6位:オーストラリア 892億ドル(10.71兆円) 4.48%
7位:タイ 787億ドル(9.45兆円) 3.95%
8位:スイス 766億ドル(9.19兆円) 3.84%
9位:ドイツ 453億ドル(5.44兆円) 2.27%
10位:ケイマン諸島 429億ドル(5.15兆円) 2.15%
11位:韓国 420億ドル(5.04兆円) 2.11%
13位:インドネシア 384億ドル(4.61兆円) 1.93%
14位:香港 378億ドル(4.54兆円) 1.90%
15位:インド 300億ドル(3.60兆円) 1.51%
18位:ベトナム 218億ドル(2.61兆円) 1.09%
20位:マレーシア 187億ドル(2.24兆円) 0.94%
21位:台湾 186億ドル(2.24兆円) 0.94%
22位:フィリピン 169億ドル(2.02兆円) 0.85%
31位:ロシア 24億ドル(0.29兆円) 0.12%

(【出所】JETRO『直接投資統計』ウェブサイトの『日本の直接投資(残高)』【エクセルファイル】を参考に著者作成。なお、円換算額は1ドル=120円と仮定して著者が計算した参考数値)

直接投資の世界でも米国、欧州、豪州の重要性が高い

こちらの図表については、元データにデータの網羅性があるのか、若干心もとないところではあるのですが、とりあえず財務省、日銀、JETROのデータをそのまま信頼するならば、これはこれで興味深いことが判明します。

まず、対外直接投資の総額は、兆ドル未満を四捨五入すれば約2兆ドルであり、1ドル=120円で換算すれば240兆円と、日本の年間GDPの半額近くに達しています。金融機関の与信と比べれば少ないものの、やはり大変な金額です。

また、最大の投資相手は米国で、構成割合は30%近くに達していますが、以下、英国、オランダに続き、中国が4位に食い込んでいます。このあたり、対外直接投資に関していえば、中国が日本企業にとって「死活的に重要」ではないかもしれませんが、「重要ではない」とまではいえません。

ただ、上位10ヵ国のうち、アジア諸国は中国、タイ、シンガポールのみであり、10位にケイマン諸島が来ているのを除けば、6ヵ国は米国か欧州、豪州のどれかです。その意味では、日本企業にとっては近場のアジアよりも米国や欧州、豪州などの方が、金額的には重要性がある、というわけでしょう。

一方、アジア諸国に関しては、10位圏外では11位に韓国、13位にインドネシア、14位に香港、15位にインド、18位にベトナム、20位にマレーシア、21位に台湾、22位にフィリピンが入っており、また、ロシアは31位で金額的には24億ドル、日本の対外直接投資全体の0.12%に過ぎません。

上位10位以内の各国

次に、各国に対する対外直接投資の残高、日本全体の対外直接投資に占める割合のそれぞれの推移についても確認しておきましょう。

まずは、米国です(図表3-1)。

図表3-1 米国に対する直接投資・投資割合の推移

(【出所】JETRO『日本の直接投資(残高)』より著者作成)

これで見ると、日本企業にとって米国向けの直接投資の割合は、かつては世界全体向けの半分近くを占めていたこともありましたが、現在は3分の1を割り込むくらいにまで減少していますが、絶対額で見ればほぼ右肩上がりに増え続けていることがわかります。

一方、英国については興味深いグラフが出来上がっています(図表3-2)。

図表3-2 英国に対する直接投資・投資割合の推移

(【出所】JETRO『日本の直接投資(残高)』より著者作成)

英国に対する直接投資の額、割合は、ともに2010年代から右肩上がりで増え続けていましたが、2019年から2020年にかけては伸び悩んでいます。ちょうど英国の欧州連合(EU)離脱、すなわち「ブレグジット」の時期と重なっていますが、ブレグジットに伴う投資環境の不透明さが嫌気されたという可能性はあるでしょう。

その分、オランダに対する投資が伸びていることがわかりますが(図表3-3)、これは英国に代わってオランダが日本企業にとっての欧州投資の受入拠点として浮上した可能性を示唆しています。

図表3-3 オランダに対する直接投資・投資割合の推移

(【出所】JETRO『日本の直接投資(残高)』より著者作成)

次に、中国に対する投資については、2000年代以降、右肩上がりで上昇し続けていますが、対外直接投資全体に占める割合については2012年の9%少々を天井に、その後は伸び悩んでいることがわかります(図表3-4)。

図表3-4 中国に対する直接投資・投資割合の推移

(【出所】JETRO『日本の直接投資(残高)』より著者作成)

さらには7位のタイについては、2000年代を通じて右肩上がりで増え続けており、また、タイが直接投資先として、日本の直接投資全体に占める割合も、近年は4%前後に達していることがわかります(図表3-5)。

図表3-5 タイに対する直接投資・投資割合の推移

(【出所】JETRO『日本の直接投資(残高)』より著者作成)

このあたり、国際与信統計のときにも概観したとおり、タイは日本にとって、金融面でも投資面でも、意外と重要な相手国だという点については、この際明確に認識しておいて良い論点のひとつではないかと思います。

アジア諸国に対する投資状況

さて、中国、タイ以外の近隣国に対する日本企業の投資はどうなっているのでしょうか。

次に、11位の韓国については、2000年代を通じて急激に伸びたものの、この伸びが2010年代に鈍化していたのが、ここ数年は再び増え始めていることがわかります(図表3-6)。

図表3-6 韓国に対する直接投資・投資割合の推移

(【出所】JETRO『日本の直接投資(残高)』より著者作成)

金融面では日本の金融機関が韓国に対する与信を金額、割合の両面において絞り始めている点と比べれば、日本の一般企業は韓国向け投資をむしろ小幅増やし続けている、ということです。

続いて13位のインドネシアについては、2020年においては2019年と比べて直接投資が落ち込み、日本の対外直接投資全体に占める割合についても、2000年代以降はほぼ2%前後で安定している状況にあります(図表3-7)。

図表3-7 インドネシアに対する直接投資・投資割合の推移

(【出所】JETRO『日本の直接投資(残高)』より著者作成)

さらに、台湾に関していえば、金額自体は増え続けているものの、日本の対外直接投資全体に占める割合についてはジリジリと下がっています(図表3-8)。

図表3-8 台湾に対する直接投資・投資割合の推移

(【出所】JETRO『日本の直接投資(残高)』より著者作成)

こうした、中国、韓国、台湾、その他アジア諸国に対する直接投資の状況は、金融機関の対外与信統計とはまた少し違った傾向を示しているのは興味深い点といえるかもしれません。

続いて日本が「クアッド」と呼ばれる連携相手として、近年重視している相手国のひとつであるインドについては、投資額が2008年ごろから伸び始め、さらに2016年以降、伸びが加速していることがわかります(図表3-9)。

図表3-9 インドに対する直接投資・投資割合の推移

(【出所】JETRO『日本の直接投資(残高)』より著者作成)

直接投資で見た日本とロシア

最後に、ロシアに対しては、投資額、投資割合は、いずれも2012年をピークにいったん下がっていたものの、2019年、2020年に増加に転じていることがわかります(図表3-10)。

図表3-10 ロシアに対する直接投資・投資割合の推移

(【出所】JETRO『日本の直接投資(残高)』より著者作成)

ロシアに対する投資額がやや増加傾向で推移しているのは気になるところですが、金額的にみれば24億ドル、あるいは1ドル=120円換算で2879億円程度と、「ニッポン株式会社」にとっては意外なほどに小さい金額であることがわかります。

もちろん、天然ガスの50%をロシアから購入している広島ガス(※FNNプライムオンラインの下記記事等参照)のように、地域によってはロシアとのつながりが深いケースもあります(※奇しくも広島といえば岸田文雄首相のご地元でもあります)。

広島ガス「ロシアからの天然ガス供給 滞ることはない」50%はロシアから購入

―――2022/04/04 18:10付 FNNプライムオンラインより

しかし、一般論としていえば、総じて日本とロシアの金融、投資におけるつながりは、金額的にいえば非常に少ないと考えて良いのではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (2)

  • >タイは日本にとって、金融面でも投資面でも、意外と重要な相手国だ

    タイに進出している日本企業が5000社を超えているという。これらの企業は現地で人を雇用しタイの経済に貢献している。
    1985年のプラザ合意以来の円高、輸出採算の悪化、海外への工場移転により日本企業はタイに限らず東南アジア、中国に経済面で貢献してきたのではないだろうか。
    失われた30年などと言われているが、原因の一つがこれなら腑に落ちる。
    この辺のこと研究している経済学者、評論家はいないのだろうか。

  • ロシアにおけるタバコ(JT)の製造・販売は休止されたのでしょうか?
    マクドナルドの撤退以上に、訴求効果が高そうな気がするのですが・・。