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鈴置論考で読み解く次期韓国大統領の「難しい舵取り」

またしても、待望の鈴置論考が出て来ました。「日韓関係改善論」を巡る、これ以上ないほどのわかりやすい解説です。というのも、韓国で尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏が次期大統領に選ばれて以来、韓国側で、あるいは日本の側でしつこく出て来る「日韓(韓日)関係改善論」を巡って、これを「いつもの二股外交」という側面から、見事に見抜いているからです。

共同軍事訓練に関する補足

なぜ韓国で「3ヵ国軍事訓練」報道が出てきたのか?

最初に、少しだけ昨日の議論の補足をしておきたいと思います。

昨日の『「日米が提案の3ヵ国軍事訓練を韓国が拒否」=韓国紙』では、複数の韓国メディアの報道をもとに、「日米が朝鮮半島付近での日米韓3ヵ国の合同軍事訓練を提案したが、韓国が拒否した」とされる話題を取り上げました。

日米両国が韓国に、朝鮮半島付近での「日米韓3ヵ国軍事訓練」を提案し、韓国政府が拒否した、などとする報道が出て来ました。まさに、朴槿恵(ぼく・きんけい)政権末期の状況を見せられているような気がします。おそらくは政権交代まで1ヵ月少々というタイミングを踏まえ、日米韓3ヵ国連携への尹錫悦政権の「本気度」を巡って、この手の報道は今後もしばしば出てくるのかもしれません。日米韓3ヵ国軍事訓練を韓国が拒否韓国で文在寅(ぶん・ざいいん)政権が退陣し、尹錫悦(いん・しゃくえつ)政権が発足するまであと1ヵ月少々...
「日米が提案の3ヵ国軍事訓練を韓国が拒否」=韓国紙 - 新宿会計士の政治経済評論

これらの報道については、「保守系」とされる朝鮮日報、「革新系」とされるハンギョレ新聞がほぼ同時に同じような内容を報じたことから、いずれも韓国政府・外交部、もしくはそれに近い筋が情報の出所であろうと想定しておいて良いと思います。

では、なぜ文在寅(ぶん・ざいいん)政権にとって不利な内容となりかねない、こんなリークが出て切るのでしょうか。

これについてはおそらく、文在寅政権も末期を迎えていることと無関係ではないと思います。しかも、次期大統領に選ばれたのは、「保守政党」とされる「国民の力」の公認を得た尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏です(※尹錫悦氏自身が「保守政治家」かどうか、という問題はありますが、それについてはここでは脇に置きます)。

すなわち、政権交代を控え、外交部関係者の間では、もう文在寅政権、あるいは文在寅氏に任命された鄭義溶(てい・ぎよう)外交部長官の意向には従わなくて良い、などと考えている可能性も濃厚ではないかと思うのです。

韓国外交部報道官「軍事訓練の前に韓日信頼回復が必要」

つまり、「文在寅政権は、日米韓3ヵ国連携に後ろ向きだったよ」、「次期政権では韓日関係、韓米関係の改善に乗り出すよ」、といったメッセージとなっている、という見方です。こうした見方が正しいかどうかについては、現時点ではよくわかりません。

そして、こうした見方自体はさほど見当外れではない証拠でしょうか、韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)には昨日、こんな記事が掲載されていました。

韓米日軍事訓練に否定的 「韓日間の信頼回復が必要」=韓国外交部

―――2022.03.31 16:40付 聯合ニュース日本語版より

聯合ニュースによると、韓国外交部の崔泳杉(さい・えいさん)報道官は31日の定例会見で、日米韓3ヵ国の軍事訓練を巡って、「現在の韓日関係では不可能だ」とする見解を示したのだそうです。

具体的には、「北の核・ミサイル脅威に対応するための韓米日間の安全保障協力が重要だとの認識は共有している」としつつも、「韓日間の軍事協力は両国間の信頼回復とこれに対する国民の共感があってこそ可能だという政府の立場に変わりはない」、などと述べたのだとか。

聯合ニュースはこれについて、「共通の脅威である北朝鮮の核に対応するため日米との安保協力は行うものの、日本とは対立する懸案が多く、韓国国民が軍事協力に拒否感を持っていることから、軍事訓練には否定的な姿勢を示した」ものだと解説しています。

要するに、政権交代を機に、韓国は日韓関係を改善し、日米韓3ヵ国連携に回帰する意思はもっているものの、現状では日韓関係があまりにも悪すぎるから、日米韓3ヵ国連携には協力できないよ、といった言い分なのでしょう。

「関係改善のためには日本が変わるべき」

「韓国が歩み寄ったのに…日本が応じない」

そのうえで、もうひとつ思い出しておきたいのが、『韓国紙「関係改善の意志表明の翌日に教科書問題浮上」』で取り上げた、教科書検定と大使面会の話題です。

尹錫悦・次期大統領が駐韓日本大使と面会した翌日に歴史教科書問題が浮上した――。こんな趣旨の記事が、韓国メディアに掲載されていました。べつに日本政府がタイミング的に底を狙ったわけではないのですが、あたかも「せっかく我々が関係改善の意思を示して歩み寄ったのに、日本政府がこうした我々の厚意を無にした」とでも言いたいかのようです。日韓関係改善論尹錫悦氏と相星駐韓大使の会談韓国の次期大統領に選ばれた尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏が相星孝一・駐韓日本大使と面会し、「韓日関係を改善するためには双方の努力が必要...
韓国紙「関係改善の意志表明の翌日に教科書問題浮上」 - 新宿会計士の政治経済評論

これは、韓国メディアが「尹錫悦(いん・しゃくえつ)次期大統領が相星孝一・駐韓大使と面会した翌日に、歴史教科書問題が浮上した」とする記事を掲載したというものです。該当する記事は、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に掲載された、次のものです。

尹錫悦次期大統領、韓日関係に自信を示した翌日に教科書問題に直面

―――2022.03.30 15:37付 中央日報日本語版より

記事を読んでいただけるとわかりますが、この中央日報の記事では、日本政府による歴史教科書検定結果を巡って、たとえば次のように述べています。

尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領が在韓日本大使に会い、韓日関係改善の意志を明らかにした翌日、日本政府の歴史教科書検定結果が発表された。韓日関係の改善が容易ではないという憂慮を生んでいる」。

この点、日本政府が「わざわざ尹錫悦氏と相星大使の面会の翌日というタイミングを選んで教科書検定の結果を公表した」というものではないと思いますし、また、日本の側で尹錫悦政権下での日韓関係「改善」に向けた期待が、韓国の側ほどに高いというものでもないとは思います。

しかし、こうした中央日報の記事を読んでいると、韓国の「保守派」と呼ばれる人たちを中心に、「せっかく我々が韓日関係改善の意思を示して日本に歩み寄ったのに、日本の側はこうした我々の行為を無にした」、とでも言いたいかの雰囲気を感じてしまうのもまた事実です。

「日本が変わらなければ尹錫悦氏は動けない」

こうしたなか、本稿でもうひとつ、補足的に取り上げておきたいのが、同じ日付のこんな記事です。

いくら改善の意志強くても…日本が変わらなければ尹氏は一歩も動けない

―――2022.03.30 15:34付 中央日報日本語版より

昨日の時点ではこの記事を取り上げなかった理由は、「話題が重複するかもしれない」といった配慮もあったのですが、それでも改めて読み返すと、なかなか凄いことが書かれています。「尹錫悦氏が大統領就任後に韓日関係改善に乗り出すためには、日本の側も韓国に対し配慮しなければならない」、といった趣旨の主張です。

冒頭の記述は、こうです。

日本が来年から使用する高等学校教科書で旧日本軍慰安婦被害に対して『強制連行』『従軍』などの表現を削除したほか、独島(トクド、日本名・竹島)に対するごり押し主張を繰り広げてまた歴史問題に火をつけた」。

「歴史問題に火をつけた」、とあります。

しかし、『韓国紙社説「真実を消した日本は関係悪化を望むのか」』などでも議論したとおり、歴史教科書から「強制連行」「従軍慰安婦」などの記述が削除された理由は、それらが「事実ではない」からです。事実ではないものを歴史教科書から削除することが、どうして「ゴリ押し主張」になるのか、理解に苦しみます。

韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に今朝、「日本は真実を消すな」と求める社説が掲載されました。しかし、こうした主張については、私たち日本人にとっては、とうてい受け入れられるものではありません。なぜなら歴史を歪曲し、事実を歪めているのはむしろ韓国の側だからです。菅内閣の閣議決定菅義偉内閣が在任した期間は384日に過ぎませんでしたが、それと同時に菅義偉総理は、日本を良い意味で大きく変革した、歴史に名を遺す宰相ではないかと思います(『菅総理辞職:日本にとって価値ある384日が終わった』等参照)。...
韓国紙社説「真実を消した日本は関係悪化を望むのか」 - 新宿会計士の政治経済評論

ただ、それよりも注目すべきは、こんな記述でしょう。

このような歴史挑発をはじめ、日本が以前と同じ『韓国バッシング』を続けるなら、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政府が掲げた『未来指向的な関係改善』が最初の一歩さえ踏み出すことができないという懸念が出ている」。

…。

「韓日関係改善論」とやらの正体

正直、この記述を読むだけでも、韓国側が主張する「韓日関係改善」とやらの正体が、なんとなく見えてきます。

当たり前の話ですが、日本政府、日本企業、もっといえば日本社会、日本の世論が一致して求めているのは、「ウソをつかないこと」、「約束を守ること」です。

自称元徴用工問題にせよ、自称元慰安婦問題にせよ、竹島不法占拠問題にしろ、火器管制レーダー照射事件にせよ、日韓GSOMIA破棄騒動にせよ、日韓間の諸懸案の根底にあるのは、ウソや約束破りという問題点です。

たとえば、自称元徴用工問題に関しては、「強制徴用された」とする主張自体が歴史的事実ではない可能性が濃厚であることに加え、2018年10月と11月の大法院(※最高裁に相当)の判決自体が、日韓請求権協定に違反する状態を韓国の司法府自身が作り出した、という法的側面を有しています。

また、自称元慰安婦問題に関しても、そもそも「強制連行」「性的奴隷」などの主張自体が虚偽であるという疑いが極めて濃厚であり、これに加えて一種の「政治決着」として2015年12月に交わされた日韓慰安婦合意という国際約束を、韓国政府自身が破ったという問題があります。

したがって、日本が行っているのは「韓国バッシング」ではありません。

「ウソをつかないでください」、「約束を守ってください」という、通常の国と国との関係では当然に求められる、ごくごく当たり前で常識的な要望を韓国の側に伝えているだけの話です。

また、国際法、条約、約束などが破られた場合、少なくともそれらが破られる前の状況に復元する義務があるのは、それを破った側です。韓国の好きな表現を借りるならば、問題を解決しなければならないのは、「加害者」の側だ、という言い方をしても良いでしょう。

韓国保守派の限界

しかも、中央日報の記事の続きを読むと、さらに驚く主張がいくつも展開されています。たとえば、こんな具合です。

そうでなくても尹政府の任期序盤には韓日関係関連の『爆弾』が散在している。毎年ほぼ同じ時期に行われている『カレンダー性挑発』と呼ばれる3~4月の日本教科書検定審査、4月の外交青書の発刊等を通した歴史歪曲(わいきょく)に加えて来年4月ごろには福島汚染水の海洋放流も予想されている。続いて6月ごろには佐渡金山の国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界文化遺産への登載についての決定がある」。

これについても酷い言いがかりでしょう。

そもそも自国の学生に何を教えようがその国の自由ですし、政府の外交方針を示す白書、青書などのたぐいに何を書きこむかはその国の自由です。その国の教科書や白書・青書に、歴史的事実と反する「正しい歴史認識」を書け、などと要求すること自体が不当です。

また、日本政府が海洋放出を決定したのはALPS処理水であり、「汚染水」ではありません。これを「汚染水」と誤った名称で呼称すること自体が不当です。さらには、文化遺産登録に関しても、本来ならばユネスコの手続に従って決定されるべきべき話でしょう。

ただ、全体を貫いている論調は、「尹錫悦政権のために、日本は韓国に対して譲歩しなければならない」といった、大変にご都合主義的なものです。最も噴飯物なのは、次のくだりでしょう。

このような機会を生かすのも、日本がまず韓国が動けるほどの最小限の空間を開いてこそ可能なのが事実だ」。

いずれにせよ、中央日報は「韓国の国内世論の説得は、日本の変化なしには不可能だ」などと述べているわけですが、そもそも日本政府が韓国の国内世論に配慮しなければならないという主張は成り立ちません。韓国の国内世論を納得させるのも含めて韓国政府の役割であり、日本の役割ではないからです。

おそらく、このあたりが韓国の「保守派」と呼ばれる勢力の限界なのでしょう。

納得の鈴置論考

鈴置氏の系統立てて整理された論考

ただ、尹錫悦氏が次期大統領に就任することが確定してから現時点までの流れについては、これらよりもはるかにすっきりと系統立てて整理している論考があります。

中国が早くも「尹錫悦叩き」、米国は「なんちゃって親米はやめろ」

「米韓同盟の復元」を訴える尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が韓国の大統領に当選した。中国は直ちに「ナメたら承知しないぞ」と脅した。すると米国が「親米をやるなら本気でやれ」と韓国に喝を入れた。早くも始まった「米中板挟み」を韓国観察者の鈴置高史氏が解説する。<<…続きを読む>>
―――2022年03月31日付 デイリー新潮『鈴置高史 半島を読む』より

論考を執筆したのは、韓国観察者の鈴置高史氏です。

もう全文をまるごと当ウェブサイトに転載してしまいたいほど、大変わかりやすく有益な論考です。全部で6000文字を大きく超える長文ですが、論旨一環していながら具体例が豊富であるため、気付いたらあっという間に読了してしまいます。

(※ちなみに毎度ながら、鈴置論考の最大の欠点は、長文であるにもかかわらず、「短すぎる!」「もっと読みたい!」「続きが見たい!」という、謎の中毒性と逆の意味でのフラストレーションを感じてしまうところにあるのです。)

結局は「いつもの韓国の外交」

さて、今回の鈴置論考、かなり乱暴に要約すれば、「米国の圧力を利用して韓日関係の改善を図る」という、「いつもの韓国の外交」、といったところではないかと思います。

すなわち、韓国の側に「5年ぶりの保守政権が誕生するのだから、米国はそれを歓迎するはず」、「韓国をクアッドの一員に加えようとする動きも出るだろう」、といった目論見があったものの、さっそく中国からクギを刺され、米国からも「韓国をクアッドに加えるという構想はない」と牽制されてしまった、というオチです。

このあたり、今から5年以上前の朴槿恵(ぼく・きんけい)政権時代の話題をそのままリピートで見せられているのではないか、といった錯覚を覚えるのも事実です。

昨日の『「日米が提案の3ヵ国軍事訓練を韓国が拒否」=韓国紙』でも指摘しましたが、朴槿恵政権時代といえば、日本との間では慰安婦合意とGSOMIA、米国との間では在韓米軍へのTHAAD配備という、日米韓3ヵ国連携を機能させる3つの合意がありました。

ただ、結局のところ、慰安婦合意については文在寅政権が実質的に反故にしてしまい、THAADについては韓国政府はその運営に非協力的で、GSOMIAについては韓国側が2019年8月に、日本に対して破棄を通告しています(GSOMIA破棄についてはのちに撤回)。

このように考えると、韓国に対して約束をしたところで、どのみち意味がないということを、日米両国も深く理解しているのではないかと信じたいところです。

THAADが最初の試金石

こうした状況を踏まえたうえで、鈴置論考を読み進めていくと、うまい具合にTHAADに関してこんな記述が出て来ます。

尹錫悦氏は選挙戦でTHAADの追加配備を公約しました。中国はこれに対し、自国の利益を損なうと神経をとがらせてきました。THAADの高性能レーダーが『中国の空』を覗くことになる、との理屈です。そこで当選したばかりの尹錫悦氏に『追加配備は許さない』と強くクギを刺したのです」。

具体的には、中国共産党のマウスピースである『環球時報』(英語版)、すなわち『グローバルタイムズ』が、社説などを通じ、「THAAD追加配備に踏み切れば、また経済制裁をするぞ」と脅した、というのです。

また、文在寅政権時代の初期、2017年には康京和(こう・きょうわ)韓国外交部長官(当時)が中国に対し、「三不の誓い」を立てています。これは、「▼THAADを追加配備しない、▼米国のミサイル防衛(MD)に参加しない、▼日米韓を軍事同盟に発展させない」とするものです。

これを鈴置氏は論考で「3NO」と呼んだうえで、次のように指摘します。

『3NO』はアリ地獄です。一度、この約束を結んだ以上、<中略>抜け出そうともがくほどに身動きが取れなくなっていく」。

すなわち、中国との関係は引き続き苦しい状況が続く、というのが鈴置氏の指摘です。

米国側は韓国の意図を見透かしている

では、米国との関係はどうでしょうか。

これも、端的に言えば、苦しい状況が続きそうです。というのも、今回の鈴置論考では、①米国が韓国に対し、「クアッドに入るなら『正式に』は入れ」と要求する②韓国はこれに対し、「日韓関係」を言い訳に、クアッド入りを拒絶する、という流れが提示されているのです。

韓国の外交関係者は『Quadには参加したいのだが、日本が邪魔するので入れない』と言って回っています」。

このあたり、鈴置氏が10年以上前の時点ですでに見抜いていた、「日本を言い訳に日米韓3ヵ国連携から逃げ回る」という構図そのまんまでしょう。そして、その具体的な動きについても、鈴置氏は次のように指摘します。

3月中旬、尹錫悦氏周辺は日本に対し『米国は韓国のワーキング・グループ入りを歓迎している』と言って日本の賛成を引き出そうと画策。そのうえで今度は米政府に『Quad首脳会議のホスト国、日本が望んでいる』と言って、東京での会議に『+1』として招待させる作戦だったようです」。

なんだか、子供だましの手法ですね。しかし、残念ながら、こうした手口に、日米は乗っかりませんでした。

というより、米政府系メディア『ボイス・オブ・アメリカ(VOA)』が国務省報道官の「Quadは外部パートナーとの協力の手続きは備えていない」とするコメント、日本の外務省の報道官による、「日米豪印がQuad拡大を話し合ったことはない」とするコメントを相次いで報じたのだそうです。

まさに、韓国の行動は、米国によって完全に見透かされているのでしょう。

韓国という「弱い輪」

こうしたなか、シンプルな疑問があります。米国や日本は、韓国が「クアッド入りする」といえば、それを歓迎するのでしょうか。

これについても鈴置氏は明快に、こう断言します。

自分が米国側に戻ると言えば、米国や日本が温かく迎えてくれると信じ込んでいる。本気で戻るのならともかく、韓国は中国と向き合う覚悟もなく、形だけ戻ろうというのですから。それはQuadにとって大きなマイナスです。<中略>米国とすれば、わざわざ韓国という『弱い輪』を作るわけにはいかないのです」。

このあたり、韓国、米国などのメディアを丹念に読み解く鈴置氏の包括的な把握力には、いつも脱帽せざるを得ません。

ただ、鈴置氏も指摘するとおり、尹錫悦氏が当選した直後から、日本語のネットや紙媒体で「米国は親米派の新政権を全面的に支持している。日本は韓国と関係を改善しないと米国から叱られる」といった解説が急増しました。

当ウェブサイトでも『「尹錫悦新大統領で日韓関係が改善へ」、本当ですか?』で、鈴置論考と同じ『デイリー新潮』に掲載された『日本のマスコミや専門家の予想に反して…尹錫悦新大統領で日韓関係は改善する根拠』と題する論考を紹介したこともありますが、これなど氷山の一角でしょう。

現在の関係は、むしろ日本人の韓国への理解が進んだ結果でもある「尹錫悦新大統領で日韓関係は改善する」、「日韓関係改善のために、共通の労働市場を創設し、首脳・閣僚会合を定例化すべきだ」――。なんだか、ずいぶんと現実離れした主張が出て来ました。正直、竹島不法占拠、自称元徴用工・慰安婦問題など、韓国が日本に対して行っているさまざまな不法行為を根本から解決することなしに、関係「改善」を議論したところで、空虚に響くのですが…。「尹錫悦政権で関係改善」?先日の韓国大統領選を制した尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏は...
「尹錫悦新大統領で日韓関係が改善へ」、本当ですか? - 新宿会計士の政治経済評論

これについて鈴置氏は、こう指摘します。

それを主張する人のほとんどは、韓国大使館や領事館と近い人々です。要は、日本の『従韓派』です」。

従韓派は次第に、韓国との関係を良くするためには譲歩が不可欠、と言い出します。『尹錫悦政権は国会で少数与党。日本の譲歩なしでは関係改善に動けない』との理屈です。これも韓国側の主張そのままです」。

これなど、本稿の冒頭で紹介した、「日本が譲歩してくれないと韓国の次期政権としても動きが取れない」などとする韓国メディアの主張とまったく同じですね。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いずれにせよ、正直、日本には本来、対韓外交を行ううえでは「鈴置高史」という最強の武器があるわけですから、これをもっと有効活用しなければもったいないと思わざるを得ないのです。

新宿会計士:

View Comments (15)

  • 韓国はとりあえず米韓関係の改善に全力を尽くせばいいのだわ。日米韓だQUADだなんて言うのは、THAAD追加配備と米韓合同演習をやって中露に「NO」と言える韓国になってからだな。日韓はその後でいいんで。お構いなく。

  • 良い流れですね。教科書の件でも朝日や毎日などのマスコミは
    「現場からは反発も出ています(歓迎の声の存在は否定も肯定もしません、書きません)」と
    言う棒読みの態度で形だけ反発するのが精一杯でしょう。
    ましてや「また韓国が怒っているぞ!」と書きたいのに書けない。
    それを書いたら逆効果になるからイライラしながら黙っているしかない。

    この調子で行けば、次の大統領が就任する前に日韓関係は既に
    「何も変わらなかった!やはり修復不能だ!」と言う状態に陥ってくれそうですね。

  • >最小限の空間
    ふと頭に浮かんだのは、ゴザを敷いたお白洲という空間、ですね。
    次期大統領側は、今月にも協議団を日本へ派遣したい意向のようですが、無駄だと思いますけどね。
    韓国の感染者数の膨大さを指摘して、やんわりとお断りして欲しいです。

  • 鈴置論考
    韓国は本質的に「左派の国」になりました。大統領の性向だけで見ると誤ります。

    大統領が変われば今までの出来事無しにはならない。

  • 現政権のみならず、次期大統領の報道官を務める金恩慧までもが「韓米日の共同軍事訓練は韓米日の安保協力とは次元が違う問題」と、共同で軍事訓練を実施する段階には入らないとの認識を示したようですね。現政権とは濃度の差はあるけれど「コウモリ外交」を続けたい、とのことでしょう。「決断力のない君主は、多くの場合、当面の危険を回避しようとして中立を選ぶ。そしておおかたその君主は滅んでしまう。」(マキャベリ)。尹錫悦は、比較的容易と見られた米韓関係を立て直せるのかな。このままだと、4月後半のクアッド首脳会議後のバイデン訪韓には着任が間に合わず、5月以降の尹錫悦訪米も日程が取って貰えますかね。結構、米国も韓国の対応に腹を据えかねていると思うのですが。仮にバイデンに会えても、きついお灸が据えられるでしょう。それを見た中国は、属国扱いを加速させるでしょう。李在明抜きにもかかわらず、同じような展開が期待出来そうで、嫌韓主義者の私には、朗報です!いいぞ、その調子で頑張れ尹錫悦!日韓関係は、当然「我が国の一貫した立場の固守」です。

  • 利することにしか動かず、責任と義務から逃げ回り矢面に立たないことが彼らの矜持。

    諸懸案のボールは韓国側にありながらも、いいとこ取り(つまみ食い)の結果あっちこっちから蹴飛ばされ、その主体性の無さから韓国自体がボール状態に陥っているのかと。

    二股公約(膏薬?)の実現に向けて問われるリーダーシップ。
    末路は、国内外から叩かれて満身創痍の「リーダー湿布」
    ・・。

    日韓関係にしても、改善の意思を示すだけでは努力に非ず。
    *「自助努力」の意味をはき違えているとしか思えません。

  • 今更ですが、素朴な観点に立ち戻って。

    >日本が以前と同じ『韓国バッシング』を続けるなら、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政府が掲げた『未来指向的な関係改善』が最初の一歩さえ踏み出すことができない
    >毎年ほぼ同じ時期に行われている『カレンダー性挑発』

    中央日報が日韓関係の改善を望んでいるなら、風物詩的な「カレンダー性挑発」をいちいち報道しなければいいと思うんですけどね。どうせ、ニュース性がないのだし。(つぶらな瞳)

    いつもいつも思いますが、韓国の行動は先の読める詰将棋のようです。

  • 次期大統領候補が一応決定しやそうですが(負けた人、訴訟しないのかな~)
    大統領を決める必要が有るのでしょうか?
    誰がやっても、誰かに代わっても、南国の行動はまるっきし変わらず。
    せめて、一国の指導者となったからには、世界の中での自国の立ち位置
    なるものをほんの少しでも良いから、確認して欲しいものである。
    そうでなければ、他国から無視(虫)されるのが、目に見えて可哀想~。
    (絶対!!面白いに決まってる)
    日米に政策協議団を送るそうですが、それよりも先に自国での意見統一(特に慰安婦様)
    そして宗主国様のご指示を受けに行く事が大事だと心より思っております。
    所で日米と何の協議をするの? 反日も立たずに忘れてしまうのに。

  • 日韓問題は、韓国にとっては国民感情のみならず、
    二股外交をするための武器なので、解決してはならないのでしょう。

    あわよくば、日本から何か引き出せれば国民感情的に支持率あがるし、
    蒸し返さないと米国への盾がなくなるので、バランス外交()が出来なくなる。

    地学的優位性が消滅すれば、米国も韓国を切るのだろうから、
    嫌韓勢力は日本の防衛力を強化するのに前向きになるべき。

  •  韓国政府は、左派・保守派に関係なく、米中二股外交により双方から利益だけを受け取り、不利益は極力避けることが国益だと考え、何とかしてうまく立ち回ろうとしているようだ。
     しかし、鈴置論考を読んでいると、アメリカは、もはや韓国に対して真の同盟国としての連帯や行動を期待していないが、韓国内の米軍基地や半導体産業など利用価値があるので同盟関係は維持しつつ、「いかにして利用するか」という方向へ舵を切ったように思える。
     中国も、韓国を自分の陣営に引き入れるつもりは毛頭無く、アメリカの陣営に置いたままで「いかにして利用するか」という方針で首尾一貫している。
     北朝鮮も、建国以来、韓国を対等の国として扱ったことは無く、「いかにして利用するか」という方針を貫いてきた。
     しかし、我が国だけは、いまだに首相が「国交正常化以来、築いてきた日韓の友好協力関係を基盤としながら、日韓関係を発展させていく必要があり、是非、尹次期大統領のリーダーシップに期待をする。そして日韓関係改善のために共に協力をしていきたい。」と発言し、韓国を対等の国として関係改善に向けて共に協力していく方針を表明している。
     日本政府も、いい加減にアメリカ・中国・北朝鮮の様に韓国を「いかにして利用するか」という方向へ転換しても良いのではないかと思うのだが、それが出来ないのが日本人の欠点でもあり、長所でもあるのかなと思う。

    • >「いかにして利用するか」

      煮ても焼いても食えないと思いますよ。
      食べれば食中毒間違いなしです。
      相手にしないのが吉です。
      福沢先生の教えを守るべきかと思います。

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