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タス通信「キエフ方面などの軍事活動を大幅に削減へ」

まるで「大本営発表」?事実上の敗走を言い換えている可能性も

ロシア防衛省は日本時間の昨日、「キエフ(キーウ)方面などにおける軍事活動を大幅に削減する」などと発表しました。いちおう、ロシア側の公式の言い分は、「停戦交渉が行われていることを踏まえ、ウクライナ側との相互信頼を醸成するため」といったものですが、これを言葉通りに受け止めて良いものでしょうか。むしろロシアの事実上の敗走を「軍事活動削減」などと言い換えている可能性はないのでしょうか。

ロシアは短期決着に失敗した

古今東西、戦争というものは、戦力を一気に投入し、相手国を圧倒的な火力で制圧するという「短期決着」が勝利の秘訣のひとつでしょう。

2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻については、ウクライナの人々の無事を切に望まざるを得ませんが、それと同時に本稿執筆時点では依然として収束していません。ただ、「短期決着に失敗して泥沼化した」という点においては、「ロシアの失敗事例」として位置付けて良いのではないかと思います。

以前の『ロシアのウクライナ侵攻の目的は「キエフ公国回復」?』などでも取り上げたとおり、どうもロシア側の当初の目論見としては、この戦争を48時間以内に終わらせる算段だった可能性が濃厚です。

「プーチンは独裁者」=一般教書演説「ウクライナ戦争は自由主義国対独裁国家の戦いに」――。バイデン大統領の一般教書演説を眺めていると、米国側のそんな決意が見て取れます。その一方で、『クーリエ・ジャポン』によると、ロシアの国営メディアは誤って2月26日付で「勝利記事」を公表してしまい、あわてて削除したものの、その内容からは今回のウクライナ侵攻におけるロシアの「真の目的」が「キエフ公国の回復」にある、との指摘が出てきました。バイデン大統領の一般教書演説現地時間の3月1日(日本時間の本日)、ジョー・バイ...
ロシアのウクライナ侵攻の目的は「キエフ公国回復」? - 新宿会計士の政治経済評論

そもそもロシア軍は補給をあまり重視していないフシがありますが、こうした点も、「とにかく短期間で首都・キーウを制圧し、ウォロディミル・ゼレンスキー政権を追放して親ロシア派の傀儡政権を打ち立てる」ことをロシアが狙っていたことの間接的な証拠です。

戦争を続けること自体が大きなコストに

そして、見たところ、ロシア軍は「戦力の逐次投入」という、戦争においては「やってはならない」とされる行動を取ってしまったように見受けられますし、最近だと、民間施設などに対するなりふり構わぬ無差別砲撃という、国際法に違反する疑いが濃厚な軍事行動も積極的にとっているフシがあります。

(※もしもウクライナとロシアの間で停戦で合意されたとしても、ロシア軍による国際法違反、戦争犯罪行為などについては、国際法廷などの然るべき場において、きちんと裁かれなければならない、というのが著者自身の持論でもあります。)

これに加えてこの戦争は、戦費、ロシア軍の装備や人員に対する被害を含め、ロシアに対し、直接・間接に多大なコストを強いていることは間違いありません。

まず、日米欧などの主要国による制裁の結果、外貨準備の凍結、起債制限、輸出規制、SWIFTNetからの主力銀行の排除、航空便の制限、さらには西側企業によるクレジットカード決済網からの排除、マクドなどの事実上の撤退などの大きな影響が生じています。

また、西側諸国がウクライナに対し、武器供与などを行っていることで、ロシア軍の戦車などは次々と撃破されているようですし、おそらくはウクライナにおけるロシア軍の装備、ロシア軍の戦力などに関する情報は、すでに西側諸国に筒抜けになっていることも間違いないでしょう。

このように考えていくと、ロシアはこの戦争で、本当にさまざまなものを失いましたし、もしも戦争を継続するなら、もっと多くを失うことは間違いありません。

ロシア防衛省「ウクライナとの信頼のため軍事活動を縮小する」

こうしたなか、ロシアのメディア『タス通信』(英語版)に昨日、こんな記事が掲載されていました。

Russian top brass decides to decrease military activity in direction of Kiev, Chernigov

―――2022/03/29 21:58付 タス通信英語版より

ロシア軍が「キエフ」(キーウ)、「チェルニゴフ」(チェルニヒウ)での「軍事活動」を大きく削減することを決定した、などとする話題です(※「戦線」と言わずに「軍事活動」と呼ぶあたり、相変わらず卑怯ですね)。

タス通信によると、ウクライナ・ロシア両国の停戦交渉が開始されたことを受け、ロシア防衛省がキーウとチェルニヒウにおける「軍事活動」を「大幅に減らす」とする声明文を、アレクサンドル・フォミン防衛副大臣が読み上げたのだそうです。

ウクライナの中立性と非核的地位に関する条約の準備、およびウクライナへの安全保障の提供に関する交渉が、本日の会議で議論された原則を考慮して実行されているという事実を踏まえ、ロシア連邦国防省は、相互信頼を高め、さらなる交渉と最終目標の達成に必要な条件を作成するために、上記の合意の承認と署名を行い、キエフとチェルニゴフの方面での軍事活動を減らす」。

つまり、「ウクライナとの停戦交渉を踏まえ、ウクライナとの信頼関係を醸成するために、軍事行動を減らす」、ということであり、一見するともっともらしいことを述べていますが、これを字義通りに受け止めて良いものでしょうか。

ロシアの事実上の敗走開始なのか?

そもそもウラジミル・プーチン大統領自身、2月24日の時点で、「ウクライナにおける特殊な軍事作戦を開始する」と述べていたとおり、ロシア側は当初は「ウクライナに全面侵攻している」という事実を伏せていたフシがあります。

それなのに、この記事では「特殊軍事作戦」とやらが、ウクライナの首都・キーウでも行われていたことを認めてしまっています。ロシア国内でロシア政府の大本営発表のみを聞いていると、思わずわけがわからなくなってしまうのではないかと、他人事ながら心配してしまいます。

そして、今回のこの声明文も、「ウクライナとの信頼関係」云々はウソで、実際にはキーウで大苦戦しているロシア軍が、事実上、戦線を縮小せざるを得ないことろにまで追い込まれた、という意味ではないかとも思えてなりません。

そういえば、日本の「大本営発表」でも、頑なに「撤退」「退却」という正確な用語を使用せず、「転進」だと言い張っていたことを思い出します。

いずれにせよ、今回のロシア軍の発表が、ウクライナ戦争におけるロシアの事実上の敗走を意味しているのかどうかについては、もう少し見極めてみたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (18)

  • ウクライナ領土へ深く侵攻したロシア軍の陸戦能力は急速に失われつつあるようです。
    閉塞し進撃不能になった車列を解いて分散させ雑木林へ潜伏させることを図ったようですが、そもそも長期持久戦が計画に入っていたはずがない状況では場当たり的対応であって、賢明な戦術転換とは考えられません。ドローン偵察機で潜伏の実体を暴かれては次々と破壊されています。現在行われているのは「戦車兵狩り」です。潜伏先からの逃走も始まっているようです。艦砲射撃もしくはミサイルによる無差別都市攻撃が今以上に悪化しないことを心から祈ってます。

  • コロナの影響も大きかったのかも。
    感染力が強いから、ベテラン兵士ですとすぐ高熱でて戦線離脱になりかねないから、練度低くても若者中心の部隊編成にしたとか。

  • まるで「大本営発表」。
    個人的に今回のロシアの行動はかつての大日本帝国の満州での行動を思い起こさせる。違いがあるとすれば1ヶ月で引き上げを開始したことですかね。
    正直、このままずるずる戦争続けるのかと。

  • ロシアの負けかな。

    あとはどうやって体面を繕うか。

    こういう時は交渉を有利にするために大攻勢をかけて悪あがきする。

  • 英国 Sky News の戦況解説が分かりやすかったです。
    北部都市 Kharkiv と港町 Mauripol を南北に結ぶ線から東の領土をロシアは切り取ろうとしていると指摘しています。
    2022-3-29 投稿動画
    https://www.youtube.com/watch?v=g-aKrnnqS9g
    Ukrainian forces claim to have had some successful counter attacks in the battle to hold Kyiv, according to security and defense expert Michael Clarke.

    • 開戦前の目標は多数あったでしょうが、今は切り取りが成れば、拳を下ろすことを考えているかもしれません。
      「ドンバスの同胞は開放された。我々は目的を達成した!」
      とか。
      あるいは、「そこは譲れん」というメッセージか。
      戦闘はしばらく続くし、停戦しても制裁は続くと思います。

  • ロシア軍がキエフ方面から他へ移動したっていうのは、裏で停戦交渉が煮詰まってきているっていうことじゃないでしょうか。もともとキエフ攻略なんてやる気もなく、ただプレッシャーをかける程度とキエフ政権の様子見で、10万ちょっとだったかの、首都攻めには全く足りない程度の軍を、ちょっと遠くに置いていたぐらいではないのでしょうか。ロシア空軍も制空権取ってしまったら、元友邦国のあちこちを爆撃する必要もないから、あまり飛ばさなかったということなのでは。ウクライナのゼレンスキー大統領が、NATOに、ロシア空軍の飛行禁止区域を設定してくれって、散々懇願してましたよね。どこかで言ってたようなロシア空軍が無力どころの話ではなかったのでしょう。
    思うに、当初、ゼレンスキー大統領の退任の条件は、ロシアが緩和して続投可で、非NATOで中立ぐらいの話で交渉中ってとこなのでは?ウクライナは非武装という条件も緩和されて、国防軍の維持よしぐらいになるんじゃないかな。さもないと、ただでさえ多い失業者が大増加で、反乱まで起きてしまうかもしれませんよね。それやこれやの交渉を迅速化する為の証しとして、ロシア軍がキエフ周辺から撤退したのかなと思うのですけど。かつ、肝心の東部ドンバス地方の増援もできるし、ロシア系住民を人質、人盾に使って残忍なウクライナのネオナチ民兵の息の根を、時間をかけてじわじわとゆっくり攻めながらも、もう少しで止まられそうなんでしょう。
    ウクライナが意外としぶといようで、露軍も実際に思ったより苦労したかもしれませんが、どうにか目的を遂げつつあるように思えます。時期に撤退ってことになるんじゃないでしょうか。
    かたや、金融制裁、経済制裁やってる側ですけど、ロシアも痛むけど、自分達の方がもっと痛みが来るのではないか、不況でも来ないように願ってますが。ロシアは、西欧が買わなくなったら、中国に売ればいいだけなんでしょうし、中国、インド、サウジアラビアとか、対ロシアへの一方的な制裁に反対してる重要国も多いので、かってアメリカ一辺倒だった世界経済が、今では分割されてしまったというような印象を受けてます。とにかく早く終わってほしいものですよね。

    • そうそう、アメリカは、笑いが止まらないでしょうね。今回のことで、成功裡に、西欧によるエネルギーのロシア従属をぶち壊し、自分、アメリカを頼るように仕向けた上、価格が高くて競争力が低かったシェールオイルやガスを、嫌でも西欧に売りつける販路が拓けて、ビジネス界は大活況でしょう。バイデンさんは凄いやりてですね。まあ、そこまで考えて企画してウクライナに軍事援助して、ロシアを挑発したのかな。大したもんですね。

    • ロシアのスパイ乙
      敗走ロシアの苦しい擁護乙
      ロシアのためならここまで都合よく解釈できるおめでたい能力乙

      • この人、またこういうことやってる。こういう悪口が許されるサイトなのでしょうか。知的意見をぶつけ合うっていう趣旨だと、サイト主さんは言われてますよ。皆で、ガイドラインを守りましょうよ。

  • スロバキア首相エドゥアルド・ヘゲル (Eduard Heger) 氏への France 24 局インタビューが印象的です。とても聞き取りやすく英語で 12 分間退屈させません。傾聴に値します。
    2022-3-28 投稿動画
    https://www.youtube.com/watch?v=-oi9gu0NlnU
    Europe 'should crush Putin economically', Slovakia's PM tells FRANCE 24 / FRANCE 24 English

  • >とにかく短期間で首都・キーウを制圧し、ウォロディミル・ゼレンスキー政権を追放して親ロシア派の傀儡政権を打ち立てる

    私は、どのような背景があれ、先に手を出したロシアを支持することはできませんし、非戦闘員、学校、病院、原発への攻撃という、国際人道法の新たな悪しき見本をこの時代に見せつける野蛮さに呆れています。
    戦時のロシアにおいて、戦闘員、非戦闘員の両方の生命は鴻毛のようなものなのでしょう。それだけに恐るべき相手だと思います。

    さて、開戦時、プーチンが作戦目的を非軍事化と非ナチ化と言ったことから、会計士さまがおっしゃるように、これらがロシアの狙いであったことは間違いないでしょう。
    ただ、失敗した空挺団の突入のように、短時間での首都制圧は博打のような作戦ですので、プーチンとしては想定内の失敗という考え方もあるかもしれません。

    「お前ら、NATOに入って、ミサイルを国内配備しようなんていうのなら、こっちはいつでも首都に殴り込むぞ」と鉄砲玉を使って脅すことで、ゼレンスキー政権、NATO諸国の緊張は一気に高まった一方、ウクライナのNATO入りは双方が諦める結果となりました。親分のプーチンとしてはある程度の目的は達成したのではないでしょうか。

    そして、ロシアも大きな経済的損失を被りましたが、欧州をはじめとする西側諸国はどれだけの損失を被るのでしょうか。
    1,000万人以上の難民の受け入れに加え、停戦後の復興支援にどれだけの資金が投入されることか、頭の痛い問題だと思います。ウクライナに投資していた中国も参入するでしょうし。
    https://www.jiji.com/jc/article?k=2022031200400&g=int

    一方、南東部戦線はロシア本国からアゾフ海沿岸、クリミアまでの回廊を確立しそうで、ロシアにとっては最低限の目的は達成したように見えますし、この地域は撤退せずに掌握し続けるでしょう。ウクライナは諦めるでしょうか?なんとかここら辺で停戦となればいいのですが...

  • 無法者国家のロシアは停戦の約束を守るのでしょうか。

    ウクライナに国家安康プーチン豊楽と書かれている鐘を見つけたら、難癖をつけてまた攻めてくると思います。
    さしずめ今回、真田丸がNATOからの武器供与であたり大阪城の外堀が新たや占領地域とジャベリンさんといったところでしょうか。

    ときにジャベリンの発射軌道は美しい。一回ボトンと落ちそうになってから再噴射する動きが面白いです。

    • 停戦交渉について、命をかけてロシアと向き合うウクライナ人の意志が尊重されるべきでありますが、私も今の状況に『大阪冬の陣』を感じました。壊走間近のロシア軍をみすみす取り逃がしてよいものなのでしょうか。
      いまキエフに迫るロシアの大軍を停戦交渉で無傷で返しても、体勢を立て直して難癖を付けた挙句、次はウクライナの抵抗を織り込んだ装備と兵站を整え(夏の陣として)キエフに戻ってくる気がしてなりません。ベラルーシからキエフに伸びた北部のロシア部隊は補給が欠乏して引くも進むもできない状況に見えますから、ベラルーシ国境側で更にゲリラ活動で前線に食糧弾薬が届かない様に妨害し、ロシア将兵数万人の投降と戦車火砲はごっそり鹵獲するくらいにしないと後々のキエフの平和に影がさすのではなかろうかと。
      先日のプライムニュースにて、眞田幸光さんが今回のキエフの戦いを上田城2000人が徳川秀忠勢3万8000を誘い込んでコテンパンに叩いた合戦に比喩されておりましたね。ゼレンスキーはロシアの兵站を長くして誘い込みキエフ城にて叩いたと。

      • ダメ押しさせないがためもあったかも知れやせんぜ、西側が航空機の提供を渋った底意
        潰走した兵士が厭戦気分をバラ撒くか、臥薪嘗胆を誓うかはワカリマセンが…
        そも帰国できんカモシレナイですね

  • ロシア側にすれば戦線拡大と補給の限界点近くでの停戦交渉が最も有利な状況のように思えるのですが、口では何といっても交渉決着の前に(弾切れで)戦線を縮小せざるを得なくなってしまってるのかもですね。

    内政干渉の末の領土侵攻、無理筋に正当化される無差別攻撃・・。
    (◞‸◟)ユルサレナイ

    Q.敗走ですか?
    A.はい、そうですね。
    で、ありますように・・。

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