台湾の情報機関「国家安全局」の陳明通(ちん・めいつう)局長は、ロシアのウクライナ侵攻で中国の台湾侵攻が難しくなったと指摘しました。この考え方、なかなかに興味深いところがあります。もちろん、中国も独裁国家なので、非合理な判断が下される可能性は排除できませんが、それ以上にロシアのウクライナ侵攻は「独裁国家群」全体の立場を悪くしたのかもしれません。
短期決着に失敗したロシアに生じる損害
ロシアによるウクライナ侵攻を巡っては、以前の『ロシアのウクライナ侵攻の目的は「キエフ公国回復」?』などでも取り上げたとおり、どうもロシア側がこの戦争を48時間以内に終わらせる算段だったのではないか、という可能性が議論されています。
「プーチンは独裁者」=一般教書演説「ウクライナ戦争は自由主義国対独裁国家の戦いに」――。バイデン大統領の一般教書演説を眺めていると、米国側のそんな決意が見て取れます。その一方で、『クーリエ・ジャポン』によると、ロシアの国営メディアは誤って2月26日付で「勝利記事」を公表してしまい、あわてて削除したものの、その内容からは今回のウクライナ侵攻におけるロシアの「真の目的」が「キエフ公国の回復」にある、との指摘が出てきました。バイデン大統領の一般教書演説現地時間の3月1日(日本時間の本日)、ジョー・バイ... ロシアのウクライナ侵攻の目的は「キエフ公国回復」? - 新宿会計士の政治経済評論 |
古今東西、戦争というものは戦力を一気に投入し、相手国を圧倒的な火力で制圧してし短期決着を図るのが王道というものでしょう。ロシア側もその「王道」に従い、ウクライナを短期間で制圧してゼレンスキー政権を排除したうえで親露政権を打ち立ようとしていた、という仮説です。
個人的には、この仮説を強く支持しています。
そして、ロシアがこの短期決着に失敗したことに関しても、間違いありません。『相手国のメディアで相手国のウソを見抜けることもある』などでも指摘したとおり、ロシアのメディア自身の報道を眺めていると、ロシア自身がこの戦争の目的を達成できていないことを、暗に認めているとも読み取れるからです。
「西側はウソツキだ」、「ロシアの主張が正しい」。そう主張する人がいます。ただ、そのような主張をする人のアドバイスに従い、ロシアのメディアをチェックし、情報を時系列・客観的に整理すると、むしろロシア側の主張の矛盾点が次々と出てきたりするものです。面白いですね。そういえば、「外国の主張のおかしさを客観的事実で整理すること」は、インターネット時代の私たち日本人にとってはお手の物なのかもしれません。コメント自由の原則当ウェブサイトではコメント自由です当ウェブサイトでは「読者の皆さまの知的好奇心を刺激... 相手国のメディアで相手国のウソを見抜けることもある - 新宿会計士の政治経済評論 |
ロシアはこの戦争で、ウクライナに対して多くの経済的損失をもたらした(『ロシア側に70兆円以上の賠償義務=ウクライナ経済相』参照)とされていますが、それと同時に、ロシア自身も非常に多くのものを失ったと考えて良いでしょう。
ウクライナのユリア・スビリデンコ経済相はロシアの侵攻により5649億ドルもの損害が生じており、その金額を賠償する義務がある、とする見解を公表しました。1ドル=125円で計算すれば、70兆円にも相当する途方もない金額です。その一方で、ロシアの外相は「非友好国」に対し、入国ビザの制限措置を導入すると述べた、とする話題も出て来ました。ロシア処分の行方西側諸国の対ロシア制裁の影響は、日が経つごとに大きくなりつつあります。今朝の『ロシアをさらに孤立させるフィンランド鉄道路線の停止』でも取り上げたとおり、フィンラ... ロシア側に70兆円以上の賠償義務=ウクライナ経済相 - 新宿会計士の政治経済評論 |
たとえば、ロシアは西側諸国からの金融・経済制裁で、外貨準備を凍結され、起債制限を受け、主要銀行についてはSWIFTNetからの排除措置を受け、半導体などさまざまな戦略物資の輸入制限措置を受けています。
また、一説によるとロシアは1日当たり数億~数十億ドル(試算によっては数百億ドル)の戦費負担が生じており、これに加えて西側諸国が供与した対戦車武器「ジャベリン」を含めたさまざまな兵器の威力で、戦車、戦闘機などに多額の損失が生じているとの報道も相次いでいます。
台湾情報機関局長「中国に警告」
ただし、ロシア、あるいは「独裁国家群」が失ったものは、それだけではありません。
今回の戦争では、ロシアに同調する、あるいはロシアに対する非難決議に加わらなかった諸国に対しても、大きなコストをもたらした可能性が指摘されているのです。
台湾メディア『中央通訊』(日本語版)に本日、こんな記事が出ていました。
ウクライナ侵攻「中国にとっては警告」国家安全局長、米の台湾関係法に言及
―――2022/03/28 17:48付 中央通訊日本語版より
中央通訊によると、台湾政府の情報機関「国家安全局」の陳明通(ちん・めいつう)局長は28日、国会に相当する「立法院」の外交・国防委員会で、ロシアのウクライナ侵攻により、中国に対して「容易に戦争を始めるべきではない」というシグナルを与えたと指摘したのだそうです。
陳明通氏はまた、今回のウクライナ戦争に対し、米国は第三次世界大戦への発展を危惧し、直接の軍事介入には踏み切っていないとしつつも、「米国は事実上、すでに相当の介入している」との認識を明らかにしたのだとか。
この陳明通氏の「米国が介入」とする発言は、まさに、ジャベリンなどを含めたさまざまな武器を供与しているという事実のことを指しているのでしょうか。事実関係を調べていくと、たしかに米国政府は3月16日付の声名で、ウクライナに対しさまざまな武器の追加供与を表明しています。
Fact Sheet on U.S. Security Assistance for Ukraine
―――2022/03/16付 ホワイトハウスHPより
具体的には次のようなものが記載されています。
- 携帯型地対空ミサイル「スティンガー」…800基
- 対戦車ミサイル「ジャベリン」…2000基
- AT4携行対戦車システム…6000基
- 戦術ドローンシステム…100基
- グレネードランチャー…100門
- ライフル…5000丁
- ピストル…1000丁
- マシンガン…400丁
- ショットガン…400丁
- ボディアーマー…25000セット
- ヘルメット…25000個
…。
たしかにこれを見ると、事実上、今回のウクライナ戦争には「米国製の兵器とロシア製の兵器の戦い」という側面があると考えて良く、そして、同じ独裁国家として、中国もロシアのウクライナでの戦い方をじっくりと研究していると見るべきでしょう。
自由・民主主義国家の連携は強まった
中央通訊によると、陳明通氏はまた、「米国には台湾関係法がある」として、もしも中国が台湾に侵攻した場合、今回のウクライナ支援と比べて米国がさらに深く台湾に介入することができるはずだと指摘したそうです。
ちなみに中央通訊の英語版の記事によると、陳明通氏は先週木曜日、「中国が今秋に台湾に侵攻することはないだろう」とも述べたそうですが、これもおそらくは同じような文脈からの認識と見るべきでしょう。
China unlikely to invade Taiwan this fall: intelligence chief
―――2022/03/24/2022 15:10付 中央通訊英語版より
もちろん、「台湾海峡危機が発生しない」という前提を置くこと自体が適切かどうか、という問題はありますし、中国のことですから、ほかの独裁国家と同様、非合理的な判断の結果、ドサクサに紛れて台湾海峡危機を勃発させるという可能性は十分に考えられますので、油断は大敵でしょう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ただ、それと同時に、たしかにロシアによるウクライナ侵攻は、世界の自由・民主主義を愛する諸国に対し、「独裁国リスク」を強く意識させるきっかけを作ったことも間違いありません。
あるいは、今回のウクライナ戦争は、「独裁国家」対「自由・民主主義国家」の「代理戦争」、という意味合いもあるのだ、という言い方もできます(※もっとも、ウクライナが西側諸国と同じ意味での「自由・民主主義国家」かどうか、という点についてはやや疑問ではありますが…)。
いずれにせよ、今回のウクライナ戦争では、自由・民主主義国家の連携が深まるという効果が生じたことは間違いなく、自由・民主主義国家群と無法国家群の対決は、今後むしろ深まっていくというのが、著者自身の見解でもあるのです。
View Comments (14)
台湾も大事だが、あくまでも中国包囲網の一環としてのウクライナ戦争だと思う。ロシアを取り込まないと包囲にならないし、西側諸国の旗色も改めて鮮明にすべき頃合いだった。その意味で、ロシアは罠にはまっているとみる。
中国香港問題の時に今回同様の経済制裁をしていたら
ロシアも考えたでしょうか?
匿名様
>中国香港問題の時に今回同様の経済制裁をしていたら
>ロシアも考えたでしょうか?
いいえ、露が考慮する訳がありません。
香港を中共が占領したのは中共による軍事占領でなく、
香港の政治(香港人よりも中共人になりたい)及び中共に協力する集団に
よるものでした。 反対勢力は少数でした。
もし西側が経済制裁したとしても、何の教訓になりません。(何の為の経済制裁?)
又、香港問題は中共と英国との個別問題であり、中共が英国との約束を
守る事を全世界の誰もが信じておりませんでした。
英国として、香港を英国側(自由主義状態)に置きたいのなら、国連等世界組織の中で
中共と新たな協定を結ぶ必要がありました。
というか、植民地を残す事に全世界は賛成していましたか?
中共の核心的利益のうち未達のものが台湾と尖閣なので、必ず行動を起こすとみて対策を怠らないことが肝心と思います。
日本国が万全の対応ができる法整備と備蓄をと思っているのだけど、なかなかorz
閑居老人様
日本又は沖縄をお忘れです。
準備を!!というなら、自民以外の野党、特に立憲共産党の
議員を国会そして都道府県議会・市町村議会から追い出す事です。
自民党はどうなんだ? という声がありますが、自民党は極左~極右の集団です。
極左の人は、自分達が望む事を実際にやりたい為、自民党に入党しているのです。
(この人達は立派です。 珍念よりも実行を!タイプの人達です)
他の野党は左~極左までです。 ちなみに公明・維新も同じです。
中立がいないのが、若干の問題点です。 国民が今の姿勢を取り続ける事が
できれば中立になるのですが、元々が極左なので、何時迄もつやら。
自分はトランプ落選を残念に思ってたし、あれは不正選挙だとも思ってました。
しかし、結果論ですが今回バイデン大統領で良かったのかも知れません。
トランプ大統領だったら、絶対にウクライナ戦争はなかったと思います。
民主党政権は、戦争をしたくない故に、逆に戦争を引き起こす政権です。
今回もバイデン大統領の不用意な発言が戦争を引き起こした可能性が大です。
しかし、ロシアへのスイフト排除を見て、中国の台湾侵略が遠退いたのも事実です。
中国共産党の恐れている事は、権力からの脱落。そして、現在の生活です。
貿易の出来ない中国、米国に逃した資産の凍結は共産党員にとって絶対に避けたい事実です。
貿易が出来なくなる、豪奢な生活が出来なくなるくらいなら 台湾領有などなくてもいいでしょう。プーさん以外。
プーさんは毛沢東を超える実績をもって歴史に名を残す必要があります。
故に台湾領有を諦めないでしょうが、他の共産党員が許すかどうかはわかりません。
私も、プーチンは
弱腰バイデンに、
しめた!勝てる!と思って
冷静な分析行わずに
墓穴を掘りつつ在るのが
今の局面と感じています。
いまさら悔やんでも後悔先に立たずで
大ロシア復活の偉大な指導者どころか、
ヒトラー、カダフィー大佐、サダム・フセイン、
ムサマビンラディンと同列線上の
歴史の人となりつつある
プーチンサンさんだと。感じます
もしかするとバイデンはロシアとウクライナの両方をつぶす作戦を考えていたのかもよ。そうすると、今回の戦争はバイデンの思うつぼ。さらに今頃、習近平の側近に「台湾を攻めればすぐに勝てますよ」というように罠をしかけているかも。
今回の戦争で、台湾有事が遠退いたとは思いますが、
支那は、今回を教訓に体制を整えてくるとも思いますね。
>あるいは、今回のウクライナ戦争は、「独裁国家」対「自由・民主主義国家」の「代理戦争」、という意味合いもあるのだ、という言い方もできます(※もっとも、ウクライナが西側諸国と同じ意味での「自由・民主主義国家」かどうか、という点についてはやや疑問ではありますが…)。
ウクライナは、例えるなら自由民主主義《志向》国家ってところでしょうか。
まだ自由民主主義国家ではないけれど、なろうとしている国家という事で。
…はやく中国が分割される時が来て欲しいものです。
今の中国は大き過ぎ。
自分も中国は分割されるべきだと思います。
しかし、分割され小回りの効く様になった中国はとてつもなく経済成長する強大な国家となる可能性があると思います。
もし、分割されたら、呉のあたりは 重りを外したスプリンターの様に駆け出しそうです。
どうでしょう。
もし自分で線引できるなら、まず言語の違いで分けると思う。
それから民族の違い。
あと揉めそうなのは降雨量の多い地域と少ない地域なんかもよさそう。
発展した都市と貧しい都市とかもいいかも。
風習とか価値観とか因果関係とかあればなお良し。
勝手に揉めだすように仕向ければ、自然と自滅してくと思います。
中国は漢民族を含め56の民族があると言われてます
そのうち55の民族が少数民族に分類されます
http://honkawa2.sakura.ne.jp/8231.html
http://honkawa2.sakura.ne.jp/8230.html
ウイグル・チベット・内モンゴル・満州なら独立の意思があれば独立もよいと思いますが
>勝手に揉めだすように仕向ければ、自然と自滅してくと思います。
※このような考えには賛同できません
「ウクライナ戦争」は、
プーチン組長の反社会(反世界)組織Rが、シマ(縄張り)を欲張り
掟破りのカチコミ、しかも、カタギを無差別に巻き込む大失態実演中
です。
恐喝&不正なシノギ等で大躍進中のキンペイ組長の反社会(反世界)組織Cも、
台湾及び尖閣(更に沖縄)を狙って画策中ですが、、、
なんちゃって義兄弟のプーチン組長の体たらくをみて、お悩み中かも・・・
そんな状況を踏まえ、
我が国においては、もはやCに取り込まれているらしい!?
マスゴミ(ATM等々)、政治家(リン欠伸大臣とか)、コメンテータ(H本徹氏とか)
多数なので、、、反社会(世界)組織に如何に対処・対峙していくのか?
を真剣に考える必要があり、次の参議院選挙も意思表示をする良い機会と思う次第です。