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佐渡金山の登録支援:このタイミングで議連発足の意味

自民党が佐渡金山の世界遺産登録実現を目指す議連を28日に発足させます。ただ、その発起人に岸田文雄首相自身が含まれていないほか、参加を募る案内文を読むと、どうも岸田内閣に対する強い牽制ではないかとも読み取れる記述があるのです。いずれにせよ、日本政府には「3つのポイント」を守り、やるなら徹底的にやっていただきたいと思う次第です。

2022/03/30 22:30追記

本文中、岸田首相が「時差の都合を言い訳にしている」と記載している箇所がありましたが、これについては情報ソースが確認できませんでしたので、該当する記述を修正しています。

田文雄首相の「先送り癖」

岸田文雄首相という人物を巡っては、さまざまな評があることは事実でしょう。

昨日の『内閣支持率上昇の一方で支持率で苦戦する「野党共闘」』などでも指摘しましたが、複数のメディアの世論調査では、少なくとも岸田内閣に対する支持率は総じて高く、これらの調査結果を信頼するならば、国民は岸田首相を支持していることになります。

あいかわらず、立憲民主党が支持率の低迷に苦しんでいます。ふと気になって、いくつかの世論調査について、共闘をしている4政党(立憲民主党、日本共産党、社民党、令和新選組)について調べてみたところ、どの調査でも4政党への支持率は自民党1党に遠く及ばない状況にあります。最新の内閣支持率:朝日新聞以外は50%超今朝の『「脱マスコミ」進む日本、対ロシア制裁を85%が支持』では、共同通信の最新の世論調査についての話題を取り上げました。該当するリンクは、次の日経電子版の記事です。内閣支持60% 共同通信世論調査―――2...
内閣支持率上昇の一方で支持率で苦戦する「野党共闘」 - 新宿会計士の政治経済評論

ただし、その一方で、当ウェブサイトなりに懸念点があるとしたら、岸田首相の「先送り癖」です。

たとえば昨年、子育て世帯への10万円給付を巡り、当初は「5万円を現金で、5万円を商品券で」、といった措置を打ち出していましたが、国会で追及されるなどした結果でしょうか、現時点では全額を現金で給付することを認めています(『岸田首相「年内現金一括給付も選択肢」と言及か=国会』等参照)。

また、北京冬季五輪への閣僚級の派遣を巡っても、米国が昨年12月初旬の段階で「派遣しない」とする方針を明らかにしていたのに、日本政府はこの決定が遅れました(『外交ボイコット:米国は岸田首相を信頼していないのか』等参照)。

「米国側は岸田首相の人となりを知悉しているがために、現在の日本政府を信頼していないのだとしたら」――!?岸田文雄首相が「北京オリパラへの外交ボイコット」に即座に賛否を明らかにしなかった件について、もう少し考察してみると、なんだか嫌な予感がします。それは、そもそも米国が「外交ボイコット」の方針を、事前に日本に伝えていなかったのではないか、という仮説です。もしこの仮説が正しければ、現在の米国政府は日本の岸田首相のことを信頼していない、という可能性が出て来るのです。ビジネスは「人」だ!大企業の従業員...
外交ボイコット:米国は岸田首相を信頼していないのか - 新宿会計士の政治経済評論

さらには、今年2月26日のG6の対ロシア制裁声明で、日本は半日遅れるという醜態をさらし、岸田首相は「遅れたとは認識しておりません」など、言い訳にならない言い訳をしています(『日本政府、対ロシア追加制裁への参加を半日遅れで表明』等参照)。「時差の都合」、とでも言いたいのでしょうか?

西側諸国によるロシアのSWIFT遮断・外貨準備凍結などを巡って日本が半日遅れで参加を発表しました。そして、これに対しホワイトハウスのサキ報道官は日本の対応を「歓迎する」との声明を出しているようです。その一方で、ウクライナ危機を巡っては米韓同盟という「意外なところ」に微妙な波紋も投げかけているようです。ウクライナ情勢を巡るさまざまな進展ウクライナ情勢を巡っては、次から次へとさまざまな進展が続いています。欧米主要国は日本時間の昨日、ロシアの一部の銀行をSWIFTから遮断したうえで、外貨準備を凍結...
日本政府、対ロシア追加制裁への参加を半日遅れで表明 - 新宿会計士の政治経済評論

岸田さん、大丈夫ですか?

こうした優柔不断さは、外交・内政の諸課題に対処するうえで、命とりとなりかねません。

もちろん、岸田首相個人の政治生命が終焉するくらいなら、どうぞお好きにしてください、と言いたい気持ちでいっぱいです。しかし、残念ながら岸田首相は現在、日本のかじ取りをしている人物でもあるため、岸田首相の判断のミスや遅れは、私たち日本国民全体の生活を道連れにしかねません。

さらには、岸田首相を巡っては、どうも会社法制や財務論の基本のキすら理解していないのではないかと思えるほど、株式市場に関する「妄言」も目立ってきています(『岸田首相「株主還元で成長の果実流出」=企業収益分配』等参照)。

岸田妄言録がまたひとつ追加されました。企業収益の分配の在り方について「株主還元という形で成長の果実等が流出していることについてはしっかりと受け止め、この現状について考えていくことが重要」などと述べたのだそうです。岸田首相が個人として「新しい資本主義」とかいう怪しい考え方を信奉するのは自由ですが、首相という立場に就いた以上、不勉強な発言自体が日本の資本市場全体に対する信頼を揺るがしかねないという危機意識を、自民党の各位にも持っていただきたいと思う次第です。岸田文雄首相といえば、『岸田首相肝いり...
岸田首相「株主還元で成長の果実流出」=企業収益分配 - 新宿会計士の政治経済評論

結局、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」という考え方自体が、極めて「インチキ」に近い代物であるという問題点(『岸田首相肝いり?「四半期開示廃止」に賛同ゼロの衝撃』等参照)については払拭し切れない、というわけです。

岸田文雄首相が「新しい資本主義」の一環として掲げる「四半期開示見直し」への賛同がゼロだった――。こういう衝撃的な記事がありました。「新しい資本主義」の「元ネタ」になったと思しき「公益資本主義」なる書籍を執筆した原丈二氏は、「短期主義は投機につながり、バブルを発生させ、中間層が貧困層に没落する」、「したがって四半期決算を廃止すべき」とする趣旨の発言をしているのですが、そんな浅薄で誤解に満ちた考え方が否定されたことは、ある意味では当然のことかもしれません。岸田首相の驚くべき発言岸田首相の「株主は賃...
岸田首相肝いり?「四半期開示廃止」に賛同ゼロの衝撃 - 新宿会計士の政治経済評論

この状況で内閣支持率が横ばいというのも、なんだか奇妙に思えてなりません。

菅義偉総理のときには菅総理が掲げた「1日100万回ワクチン接種」を達成したときも、、メディアはこれを無視し、「菅叩き」に一生懸命でした。それなのに、岸田首相に対しては、ワクチン3回目接種の初動が遅れたことを含め、メディアの追及は鈍いようです。

本当に、不思議ですね。

佐渡金山の世界遺産登録を巡る混乱

さて、岸田首相の先送り癖のひとつが、佐渡金山の世界遺産登録でしょう。

世界遺産登録見送りが10年後の日韓関係に与える影響』などでも議論したとおり、1月中旬に一部メディアが「佐渡金山の世界文化遺産登録推薦を今年は見送るつもりだ」と報じました。

こういうことが続けば、長い目で見て、日韓関係は確実に傷つきます。何の話かといえば、一部メディアが相次いで、「政府が佐渡金山の世界遺産登録を見送る方針だ」と述べたことと関連しています。そして、こうした状況を見ていると、今から約9年前に、エドワード・ルトワック氏が上梓した『自滅する中国』という書籍の一節を思い出さざるを得ないのです。世界遺産登録見送り?一般読者、自民党保守派などが反発「2011年12月14日には『従軍慰安婦』を表現する上品ぶった韓国人少女の像が日本大使館の向かい側で除幕された。<中略>こ...
世界遺産登録見送りが10年後の日韓関係に与える影響 - 新宿会計士の政治経済評論

その理由はおそらく、「韓国が佐渡金山の世界遺産登録に反発しているから、十分に反論できる準備を整えてからにしよう」という、悪い意味での先送りでしょう。韓国は「佐渡金山では戦時中、朝鮮人に対する違法な強制労働が行われた」などと虚偽の事実を主張し、世界遺産登録を妨害しているからです。

当ウェブサイトとしては『やるなら徹底的に:佐渡金山登録を巡る3つのポイント』を含め、以前から指摘してきたとおり、(今回の世界遺産登録に限らず)対韓外交において注意しなければならないポイントは、3つあると考えています。

それは、①ファクト(事実関係)をベースにすること、②(韓国に対して、ではなく、)「全世界に対して」説明すること、③その過程で、相手国のウソについては徹底的に粉砕すること、です。

つまり、今回は「佐渡金山の世界遺産登録」という局地的なものではなく、そもそも韓国が日本に対して仕掛けてきているウソの歴史に基づいたプロパガンダに、日本政府がどう対処するか、という問題でもあるのですが、どうも政府(とくに岸田首相)の危機意識が見えてこないのです。

自民党の圧力で世界遺産登録推薦へ

しかし、これに関しては結局、高市早苗・自民党政調会長が国会で質問を行い、岸田首相の姿勢をただしたうえで、先送りしないよう強く迫った(『首相、高市氏の質問に「中傷に毅然と対処」=世界遺産』参照)ことで、流れが変わりました。

高市早苗氏が岸田文雄首相から「いわれなき中傷には毅然と対応していく」との言質を取ったようです。本日の衆院予算委員会で、佐渡金山の世界遺産登録を巡り、高市氏は「必ず今年度に推薦を行うべきだ」と主張したところ、林芳正外相は「今年度の推薦をしないと決めたことはない」と説明したのだとか。佐渡金山の世界遺産登録見送り報道先日の『世界遺産登録見送りが10年後の日韓関係に与える影響』では、日本政府が韓国の反発で、今年の佐渡金山の世界遺産推薦を見送る、という観測報道を取り上げました。具体的には、一部のメディア...
首相、高市氏の質問に「中傷に毅然と対処」=世界遺産 - 新宿会計士の政治経済評論

結果的に、岸田首相は世界遺産登録推薦を決定したのです。

その意味では、世界遺産登録は「(増税以外は)先送り主義」の岸田首相に対し、自民党側から「先送りは許さないぞ」という強い牽制が良い意味で働いた事例ではないかと思う次第です。

こうしたなか、韓国メディア『朝鮮日報』(日本語版)に今朝、その「続報」ともいうべき記事が出ていました。

安倍氏ら自民党大物議員たち、「佐渡島の金山」世界遺産登録支援連盟発足へ

―――2022/03/23 08:30付 朝鮮日報日本語版より

(※朝鮮日報の場合、記事が公表されてから数日経過すると読めなくなってしまうようですので、原文を読む場合は早めにお願いします。)

朝鮮日報は共同通信の21日付の報道を引用する形で、自民党は首相経験者ら重鎮議員が発起人となり、佐渡島の金山のユネスコ世界文化遺産登録実現のための議連を今月28日に正式に発足させる、とする趣旨の内容を報じています。

具体的な発起人には安倍晋三、麻生太郎、菅義偉の3総理のほか、茂木敏充幹事長、二階俊博元幹事長、高市早苗政調会長らが含まれており、議連会長として中曽根弘文元外相を正式に選出する予定、などとしています。

事実上、岸田首相への圧力

ではなぜ、このタイミングで議連が発足するのでしょうか。

朝鮮日報はまた、議連への参加を募る案内文では、次のような記述がある、としています。

岸田首相の決定を支え、佐渡島の金山の文化的価値が国際社会で正当に評価されるよう働きかける」。

…。

これだけを読むと、自民党が岸田首相による世界遺産登録決定を応援しているかにも見えます。

しかし、記事をよく読んでみると、発起人のなかには自民党を代表する5つの派閥のうち、4つの派閥の長(安倍、麻生両総理、二階氏、茂木氏)が含まれているのに、岸田派のトップである岸田文雄首相自身が発起人に名を連ねていないようです。

このように考えると、この案内文自体も、自民党(除く宏池会)が岸田首相に対し、「しっかりやれよ」と強く檄を飛ばすメッセージではないでしょうか。

もちろん、現職首相という立場もあり、発起人に名乗りをあげづらいという事情もあるのかもしれませんが、ただ、それと同時に「自民党vs岸田首相」という構図が透けて見えますし、この動き自体、岸田政権に対する自民党側の圧力ではないかと思えてならないのです。

やるなら徹底的に!日本が守るべき「3つのポイント」

ちなみに朝鮮日報の記事では、こんなウソがさらっと書かれています。

日本政府は先月、日本による強占期に朝鮮人強制労働の現場だった佐渡島の金山をユネスコ世界文化遺産に正式に推薦することを決めた」(※下線部は引用者による加工)。

朝鮮日報といえば、韓国を代表する「保守系紙」です。

その「保守系紙」がこんなウソを平気で垂れ流しているという事実は、「保守勢力が韓国社会で力を得れば、日韓関係は改善される」とする一部論者の認識が完全に誤っていることの、動かぬ証拠でしょう。

なお、世界遺産登録までの流れは、「今秋の現地調査後、来年5月に登録すべきかどうかを勧告し、その後、世界遺産委員会審査会を通じて決定される」、というものです。

その過程で、韓国が「佐渡金山では朝鮮人の強制労働が行われていた」と主張してくるであろうことは想像に難くありませんが、尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏が大統領に就任することで、こうした韓国政府の行動が変化するかどうかについては、いちおう見守ってみる価値はあるかもしれません。

ただ、世界遺産登録をめぐっては、①ファクト(事実関係)をベースにすること、②(韓国に対して、ではなく、)「全世界に対して」説明すること、③やるなら徹底的に、相手国のウソを粉砕すること――こそが、日本がやらねばならないことである、という点については、何も変わらないのです。

新宿会計士:

View Comments (9)

  •  韓国の妨害が静まるまで待つ、という発想自体、全く期待できませんからね。
     韓国人にとって反日はアイデンティティーの一部。待っても交渉してもやむことはないとまだ気がつかないのでしょうか?

    「風評被害」は彼らの伝統的な戦術です。関わるだけ無駄な民族。無視することを覚えましょういい加減に!

  • 前と同じような事をしでかせば、首相交代につながる圧力だと思います。
    韓国は、反発するでしょう。

  • 江戸時代の佐渡金山は、昔から日本では拉致と強制労働の代名詞みたいなものだったから
    そんなのをユネスコに登録しない方が良い

  • この朝鮮日報の記事には、「共同通信は、『・・・ただ韓国大統領選で政権が交代するのを契機に、日韓間に関係改善を模索する動きもある。岸田文雄首相(自民党総裁)は難しい対応を迫られる可能性もある』 と書いている。」とあります。
    微妙な書き方ですが、佐渡金山の登録よりも日韓関係の改善の方が重要だとするのは、韓国側の願望でしかないのですけれど。
    本当に共同通信の記事に、そのようなことを書いてあるのでしょうか。

    岸田首相に、行動指針のご参考のために偉人の名言を贈りたいです。
    (1)「アメリカをやっかいな事件にひきずり込むような国とは、同盟を結ばぬこと。」
       ジョージ・ワシントン(アメリカ初代大統領)の「決別の辞」から
    (2)「朝鮮人を相手の約束ならば最初より無効のものと覚悟して、事実上に自ら実を収むる
       の外なきのみ。」
       福沢諭吉

  • まあ、アベ的な毅然とした態度なんじゃね、自民党的かな
    もう、アベ岸田みたいなマヌケな外交は見たくないけど、
    また何度も何度も見ることになるんだろな
    岸田の顔見てたら、あ~ぁって感じしかしない

  •  個人的に、今の韓国にとっては、徴用工慰安婦で対日工作のリソースをとられ、佐渡金山はノーマークで登録されるような気がします。
     彼らは、単純に日本への嫌がらせのネタとして世界遺産を利用しているだけで、信念があって佐渡金山の登録に反対しているわけでありません。今回はほかの対日工作で忙しくて佐渡金山はスルーする可能性もあります。

  •  岸田首相に対する不信感がマスゴミのネガキャンに引っ掛かった結果ではと感じてなりませんが。保守サイドが否定的な態度なのですからマスゴミは叩かなくて済むのでしょうね。時折フェイクニュースを流せば岸田降ろしで凝り固まってる保守サイドは普段忌み嫌ってるマスゴミの手法にまんまと引っ掛かる訳ですよ。

    • 何て言うか、そっくりなんですよね。

      「独裁者」「民主主義の破壊者」「極右」と叫んで、支持率が下がらないことを一般人が情報に疎いせいだ。不思議だと言っていたアベガーと。

      「国民の敵」「資本主義の破壊者」とか叫んで、支持率が下がらないことを一般人が情報に疎いせいだ。不思議だと考えているキシダガーって。

      信じるものが違うだけで、頭の中身は同レベルなんだろうなと。

  • お早うございます.

    >本文中、岸田首相が「時差の都合を言い訳にしている」と記載している箇所がありましたが、これについては情報ソースが確認できませんでしたので、該当する記述を修正しています。

    次の時事通信の記事によれば,時差を言い訳にしているのは岸田首相ではなくて外務省幹部とのこと.

    日本、制裁で欧米を後追い 岸田首相は否定
    2022年03月01日08時09分
    https://www.jiji.com/jc/article?k=2022022801064&g=pol

    この記事の最後に次のようにあります.
    >決済網からのロシアの閉め出しについて、外務省幹部は「時差の問題があった」と釈明した。