視野が極端に狭くなる!「歩きスマホ」の危険性の記事

歩きスマホの弊害が指摘されて久しいなか、愛知工科大学の小塚一宏名誉教授が時事通信に興味深い論考を寄稿しています。「歩きツイッター」をしている歩行者の視野が極端に狭くなるなど、事故の危険性が飛躍的に上昇すると指摘。公共の場所での「歩きスマホ」は、一歩間違えば重大事故につながりかねない、と警鐘を鳴らしているのです。

スマホは全世帯の9割近くが所有

当ウェブサイトで以前からしばしば取り上げている論点のひとつが、「スマートフォンの爆発的な普及」です。

総務省が公表する『令和3年版 情報通信白書』の第1部に出て来る「図表1-1-1-1 情報通信機器の世帯保有率」と題した図表によると、スマートフォンの世帯所有率は、いまや9割近くに達しているという状況です。

図表 情報通信機器の世帯保有率

(【出所】『令和3年版 情報通信白書』)

当然のことながら、使いやすい機器が普及すれば、その分、インターネット環境は我々にとって身近なものとなりますし、また、このように便利な手段が出現すれば、新聞、テレビを中心とした既存のマスメディア(あるいは「オールドメディア」)の社会的影響力が低下するのも当然の話かもしれません。

スマホ依存症という社会的な弊害

その意味で、当ウェブサイトにおいては、スマートフォンなどのデジタル機器の普及を前向きに捉えることが多いのは事実ですが、ただ、それと同時に、スマートフォンの普及を手放しで喜んで良い、という話ではありません。なにごとも「副作用」というものがあるからです。

やはり、現代社会においては、「スマートフォン依存症」とでも言えばよいのか、片時もスマートフォンが手放せない、という人をよく見かけるようになりました。

この点、「スマホ依存症」を巡っては、調べたところ、一部機関などが散発的に調査を行っているようですが(たとえばMMD研究所というウェブサイトに昨年10月時点でそのような調査結果が公表されています)、まだ総合的な統計などが取られているわけではなさそうです。

ただ、「個人的体験」や「個人的印象」で申し上げるならば、このスマホ依存症、結構深刻ではないかと思えます。

たとえば、街中の公園に行くと、お父さんやお母さんが小さい子供を遊ばせているのを見かけますが、なかにはスマホをじっと見つめ続けていて、子供から目を離している親御さんもいらっしゃいます。実際、親が目を離している隙に子供が遊具から転落し、あわや大参事、という現場を、個人的には最近、頻繁に目にします。

また、昨年夏には、女性が警報音が鳴る踏切内に進入し、そのまま電車にはねられて亡くなる、という事故も発生しています。

「ながらスマホ」が原因か 女性が電車にはねられ死亡…警報音が鳴る中を踏切内に侵入

―――2021年7月14日 19:18付 FNNプライムオンラインより

報道によれば、警察はこの女性がスマホに気を取られていて、「踏切の外にいる」と思い込み、自身が踏切内にいることに最後まで気付かなかっただ可能性がある、などと分析しているそうです。

本当に痛ましい事故です。

日本人がイグ・ノーベル賞まで受賞した「歩きスマホ」

ところで、こうしたスマホの弊害のなかでも、やはり到底看過できない社会問題のひとつが、「歩きスマホ」でしょう。

祝・日本人が「15年連続」で受賞=イグ・ノーベル賞』などでも取り上げたとおり、京都工芸繊維大学と長岡技術科学大学、東京大学の研究者らが実施した実験によれば、「スマートフォンに熱中している歩行者がほんの2~3人含まれていただけで、周囲に大きな影響が生じる」ことが明らかになったというのです。

「歩きスマホ」は、こうして歩行中の集団を混乱させる:日本の研究チームが明らかにしたメカニズム

―――2021.03.21 12:30付 WIREDより

WIREDというウェブサイトの記事によれば、被験者を54人集め、これを27人ずつのグループに分け、歩きスマホで気が散っている3人を混ぜて互いに向かって歩かせる実験を行ったところ、向かい合う集団同士でぶつかりそうになった、などとしています。

実際、著者自身もそうですが、街中でスマホとにらめっこしながら歩いている人間とぶつかりそうになった(あるいは実際にぶつかった)という経験を持っている方は多いでしょう。耳にイヤホンを付け、大音量で音楽を聴きながらスマホを凝視して歩いている、という者もいます。

しかも、さらに酷いケースだと、こちらとぶつかりそうになったら「チッ」と舌打ちして「逆ギレ」する場合もあります。

本当に困った話です。

時事通信「歩きスマホを実験データで検証」

こうしたなか、時事通信には1月31日付で、こんな記事が掲載されていました。

見えてない!「歩きスマホ」◆実験データで検証

―――2022年1月31日付 時事通信より

記事を執筆したのは、愛知工科大学名誉教授の小塚一宏(こづか・かずひろ)氏です。

小塚氏は株式会社豊田中央研究所にて、自動車エンジンの燃焼研究やETCの基礎研究・開発などに従事され、2004年に愛知工科大学工学部教授に就任されるなどの経歴をお持ちですが、その小塚氏は歩きスマホを巡り、こう警鐘を鳴らします。

公共の場所での『歩きスマホ』は、一歩間違えば重大事故につながり、被害者になるばかりか、全く関係ない人を巻き込んで加害者となる危険性まである。加害者となれば、刑事責任とともに民事責任(賠償)を問われる」。

まったくそのとおりでしょう。

ただ、歩きスマホでどのように事故が生じるのか、そのメカニズムについては、私たち一般人は、意外と認識していないかもしれません。

ここで興味深いのは、この記事の記載です。具体的には、愛知工科大小塚研究室では、「ながらスマホ」時の「視線」を計測するなどの手法で、「科学的データに基づき、歩きスマホの危険性を検証してきた」というものであり、その結果がこの記事でわかりやすく説明されているのです。

小塚氏によると、2015年から19年にかけての5年間、「▼東京消防庁管内で『歩きスマホ等に係る事故』で211人が救急搬送されている、▼鉄道会社から国交省に報告された、『携帯電話使用中に駅ホームから転落した(列車とは接触しなかった)人数』は223人にのぼる」、などと指摘しています。

これについて小塚氏は、「軽度~中度のけがで住んだケースでは、報告に含まれていない者があると推測」されるとしつつ、実数はもっと多いのではないかとの考えを示しているのですが、いずれにせよ、「歩きスマホ」が何らかの事故につながっているケースは多いということを認識すべきでしょう。

「ながらスマホ」では「見えてない」

さて、この時事通信の記事では、大変に興味深い記述が出て来ます。

「視線計測装置」を使い、スマホでツイッターをしながら駅のホームを歩いてもらう実験、横断歩道を渡ってもらう実験などを行った結果、どちらのケースでも通常歩行時などと比べ、被験者の視野が極端に狭くなり、視線がスマホ周辺に偏っていることが、写真で判明します。

これについて、小塚氏はこう指摘します。

ツイッター歩行の場合は、左右には全く視線が移動しないことが分かった。画面に集中してくぎ付けとなり、前方を数度チラ見する程度。視線はほとんどスマホ画面にとどまっている。視野にはスマホの奥の路面、歩行者の下半身などが入っているが、それらに視線が移動しないので見えておらず、非常に危険だ」。

そのうえで、小塚氏によると、「『ツイッター歩行』では約23メートルの横断歩道を渡り切る速度も、通常歩行と比べ20~30%ほど遅くなる」、「真っすぐ歩いているつもりで蛇行しているケースもある」、「歩きスマホしている人は周囲よりゆっくり歩き、ときに急に止まるなどの特徴がみられる」などとしています。

この記述を読み、個人的にはエスカレーターの入口や出口で前を歩いていた人が急に立ち止まり、あわやぶつかりそうになった体験を思い出します。

テクノロジー進歩の副作用

ただし、スマートフォンの「ながら歩き」が社会問題となっていることは事実ですが、これが「スマートフォン自体を規制せよ」、という話になると、それはまた別の論点でしょう。

そもそもテクノロジーが進化するときには、たいていの場合、何らかの社会問題を発生させます。

たとえば、自動車が出現したら我々の生活は便利になりましたが、そのかわり、交通マナーが社会問題となりましたし、日本の高度経済成長期に生じた「交通戦争」という現象も最近では落ち着きつつあるにせよ、依然として横断歩道手前で減速しない自動車が多く見られるなど、運転マナーの向上は社会的課題です。

このように考えていくならば、歩きスマホについても、「スマホを見ながら歩くことで事故が生じるリスク」をどう軽減するかが社会的課題であり、これらをうまく克服していくには、いずれ歩きスマホの罰則化は避けられないのかもしれません。

もちろん、やはりスマートフォン自体は大変便利な情報デバイスであり、街中でのスマホの利用については制限すべきではありませんが、「スマホを利用するときには必ず立ち止まる」、「子どもから目を離さない」、「運転中はスマホを使わない」など、いくつかの社会的コンセンサスを形成しなければなりません。

テクノロジーの進歩は、それを使いこなす社会の側にも変革を求めているのではないかと思う次第です。

本文は以上です。

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読者コメント一覧

  1. ジロウ より:

    歩きスマホの連中って、相手がよけてくれる前提でやっているとしか思えません。歩きながらまで見ないといけない情報なんてそんなにないと思うし、だいたいSNS、動画、ゲームやっているのが大半。本人が怪我するのは自業自得ですが、人身事故で電車遅れたり、他人に怪我させるリスクを考えれば刑罰も必要なんじゃないかと思います。また、運転中のながらスマホもよく見かけますし、本当、危ないと思います。自転車で女性にぶつかって死なせてしまった事件後でも自転車スマホがなくならないのも、自分は大丈夫と思っているからなんでしょうね。

    1. 墺を見倣え より:

      > だいたいSNS、動画、ゲームやっているのが大半。

      歩きスマホを覗いた事は無いが、電車の中等で隣席を覗いてみると、確かにそうですね。
      LINEなんかやってる連中を見ると、そこまでして韓国に情報提供したいのか、と思ってしまう。
      上記以外では、人ナビ系や、極稀に、取引系(株とかFXとか)があった位。

      > また、運転中のながらスマホもよく見かけますし、本当、危ないと思います。

      自転車・バイク・自動車を運転しながらスマホ操作しているのは、しばしば見かける。
      自転車・バイクにスマホを取り付ける金具(プラスチック製もあるが)も、そこら辺で売られてるし。

      住民の民度が下がっているのでは?
      ネットでものさばっているのは、今世紀以降に使い始めた様な連中ばかり。

      ポツンと一軒家じゃないけど、晴耕雨読のスローライフすべく、最近不動産屋巡りしている。
      なかなか適当な物件に出合わないけど。
      秘密基地遊びは、男のロマン、と言う人も居る様だが。
      ネットからも、NHKからも、汚染された大気からも、都会の喧騒からも離れて、静かに生活してみたい。(地方都市だが、高速インターチェンジから徒歩5分という無地味な所なので、意外に騒々しい。)

      ここに出入りしている人でも、リモートワーク、リゾートワークとかしている人はかなり少ない様な気が。

      1. 墺を見倣え より:

        > ここに出入りしている人でも、リモートワーク、リゾートワークとかしている人はかなり少ない様な気が。

        これは、「都市部を除く」と注釈を入れておかないと。
        23区内・26区内とかでリモートワークしている人は、この御時世、結構居るだろう。

  2. 犬HK より:

    「歩きスマホ」や「ながらスマホ」を条例で禁止している自治体もありますが、いずれも罰則はないようです。

    罰則のない(努力義務)法令等にどれだけの効果や意味があるのか疑問ですが、こうした積み重ねが後々の布石となるかもしれません。

    そういえば、罰則のないザル法がありましたね。
    放送法(第64条第1項…TVを設置したら受信契約しろ)

  3. Sky より:

    近年中にxR(MR/AR/VR)グラス(複合/拡張/仮想現実メガネ)も普及するでしょうから、事態は益々面倒臭い方向に進むと推察します。

  4. りょうちん より:

    そのうち、カーナビのように歩行状態を検知して、「歩きスマホ」ができなくなるようになったりして。

    最近、Apple Watchで、救急車を自動的に呼んで助かったとかよく宣伝していますが、あれ、絶対、その十倍以上誤検知で無駄な出場が増えていると思われ。

  5. 豆鉄砲 より:

    私は歩きスマホしている奴とよくぶつかります。避けないからですが笑

    ほんと邪魔ですよね←どっちが?笑

  6. ビトウ より:

     コメント失礼します。

     私も乗り換えや地図で視ながら歩く事が有ります。広い場所や壁際でのんびり歩いたり、ずっと視続けない様にはしてますが。良くは無いですね。
     単眼鏡や脳に埋め込むヤツが出てくればマシになるのかな?
     ロボコップ2014みたいに視界一杯に無数の画面開いても平気で動ける時代はまだ遠そう。

    1. バシラス・アンシラシスは土壌常在菌 より:

      余計視力が奪われて事故が起きるだろ
      べじーたさんも戦闘に邪魔になるからスカウター外したわけだし

  7. しきしま より:

    ちょっと歩きスマホとは違う話題で恐縮ですが。

    飯屋などで、食べ終わったあとも延々スマホをいじり続けて席を占領している人もいますね。
    満席で、その人のせいで店に入るのを諦める人もいるかもしれません。
    店にとっては損失です。
    そこまでして飯屋でスマホで見たいものってなんなんでしょうか。
    なぜ自宅他、スマホを見ても他人に迷惑かからない場所で見ないんでしょうか。

  8. WLT より:

    極端な話、ロック解除してアプリ動作中に歩行状態(例えば万歩計の応用で十数回カウントが進むと歩行状態になり、一定時間経過すると歩行状態が解除されるよう定義するような感じ)という条件でアプリ内の通信障害が起こるように設計すればかなり減るとは思いますが、まぁ思いもしない新たな問題も発生するでしょうしやらないでしょうね(苦笑)

    とはいえマジでながらスマホは止めてほしいです。
    特に自転車、私も被害に遭いましたしアレはものすごく危ない。
    普通に死人が出ます。

    スマートグラスみたいなのがもっと進化して普及すれば、ながらと安全の両立がある程度は可能にはなると思いますが、いつになる事やら。
    あれは人間の視野角を最大限活かせた設計ができるので、スマホのように「小さい別の画面(世界)を見たあと、顔と目を現実世界に向けて、目の前の景色がどうなっているか状況把握の為のピント調節に全力をかける」という致命的なロスが無く、基本同一世界なのでピント調節と状況把握がかなり早く行えて便利です。

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