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月刊Hanada見本誌で気付く、紙媒体の長所と短所

現在発売中の『月刊Hanada2022年3月号』に、デジタル人民元に関する論考が掲載されています。先日の『月刊Hanada「デジタル人民元脅威論者たちの罠」』でもお伝えしたとおり、この論考自体は当ウェブサイトのこれまでの議論を一般向けにアレンジしたというものですが、昨日届いたその見本誌を読んでいて、いくつか気付いた点があります。

デジタル人民元に関する見本誌が届く

当ウェブサイトでは以前から、人民元の国際化や「デジタル人民元」などの論点を巡り、実際の統計データなどをもとに、「現状で人民元が国際通貨となる可能性は非常に低い」、「中国が狙っているのは人民元経済圏の創設ではないか」、といった議論を展開してきました。

こうしたなか、先日の『月刊Hanada「デジタル人民元脅威論者たちの罠」』でもお伝えしたとおり、オピニオン誌『月刊Hanada2022年3月号』に、『デジタル人民元脅威論者たちの罠』と題する論考が掲載されています(同P255~)。

【参考】『月刊Hanada2022年3月号

(【出所】アマゾンアフィリエイトリンク)

デジタル人民元論そのもの

じつは、この論考自体、当ウェブサイトで昨年11月に掲載した、『人民元は基軸通貨とならない④デジタル化以前の問題?』という議論を下敷きにしたものであり、これに「国際収支のトリレンマ」などの論点を付け加えたうえで、一般向けに書き換えたものです。

「デジタルカレンシーで人民元は米ドルに代わる基軸通貨になる!」。こんな議論を見かけることが増えてきました。結論から言えば、あり得ません。いや、「あり得ない」というよりも、人民元を国際化させようと思うならば、「デジタルカレンシー」よりも先にやることがほかにいくらでもある、という言い方のほうが正確でしょうか。中国の金融シリーズ当ウェブサイトではここ数日、中国と金融をテーマにした小稿をいくつか連続で掲載してきました。『「のろのろバス」AIIBの資産規模は最大手信金並み』(2021/11/21 05:00)『人民元...
人民元は基軸通貨とならない④デジタル化以前の問題? - 新宿会計士の政治経済評論

具体的には、「中国が進めているデジタル人民元構想は、米ドル基軸通貨体制を揺るがしかねない脅威である」、といった俗説に対して異を唱えるものです。

そもそも米ドルが世界の基軸通貨たり得ている理由は、米ドルという通貨そのものというよりも、米国の債券市場、株式市場、為替市場、デリバティブ市場などのさまざまな市場が高度に発達しているからであり、こうした事情は米ドル以外の通貨(ユーロ、日本円、英ポンドなど)についても同様です。

そして、オフショア人民元市場自体、世界のオフショア債券市場のなかで規模が際立って小さく、かつ、2015年以降、この債券市場の成長がストップした、という話題については、以前の『数字で読む「人民元の国際化は2015年で止まった」』などでも触れたとおりです。

本稿は、昨日の『中国当局には人民元の国際化を容認する覚悟はあるのか』では取り上げ切れなかった統計データをまとめて収録しようというものです。昨日の議論に関連し、これまで当ウェブサイトで解説してきた内容を一気に紹介しています。まだの方は是非、昨日の議論を確認したうえでご一読くださると幸いです。結論的には「人民元国際化の動きは2015年前後でいったん止まったが、油断はできない」、というものです。人民元決済・データ編本稿の位置づけは「統計データのまとめ」昨日の『中国当局には人民元の国際化を容認する覚悟は...
数字で読む「人民元の国際化は2015年で止まった」 - 新宿会計士の政治経済評論

紙媒体ならではの現象

ところで、記事の内容自体については、ご興味があれば是非とも書籍を買ってください、と申し上げておきますが、それと同時にこの『月刊Hanada』の見本誌を眺めていて、気付いた点がいくつかありました。

ひとつめは、紙媒体、というよりも「モノクロ印刷」という現象です。当ウェブサイトでは常々、国際決済銀行(BIS)が公表している債務証券統計(Debt Securites Statistics)をもとにした次のような図表を掲載しているのですが、これを、『月刊Hanada』の論考でもそのまま流用しました。

図表 人民元建てオフショア債券市場の規模と世界シェア

(【出所】the Bank for International Settlements, Debt Securities Statistics より著者作成)

ただ、ひとつの誤算があったとすれば、『月刊Hanada』自体、ページの大部分がモノクロ印刷であるため、若干グラフ自体がわかり辛くなってしまっている、という点です。

このあたりは、なかなか興味深い現象でしょう。ウェブ媒体の場合だと、色をふんだんに使用してグラフを作ることができますが、紙媒体の場合、カラー印刷にはコストがかかるためでしょうか、どうしてもモノクロが基調とならざるを得ません。

この点、普段から当ウェブサイトで申し上げているとおり、紙媒体、とくに新聞の場合だと、物理的にかなり場所を取る、情報を保存しておく手段が限られる、といった限界があります。雑誌くらいのサイズだとさほど気になりませんが、新聞を過去分すべて保存するというのは、一般家庭では不可能でしょう。

しかし、それと同時に、やはり紙媒体には紙媒体の良さもあります。それは、「流し読み」「飛ばし読み」ができる、という点です。

ウェブの場合だと、トップページに記事のリンク(と記事本文の抜粋)のみ掲載しているため、そのリンクをクリックしなければ、全文が目に入ることはありません。しかし、紙媒体の場合だと、ページを順番にめくっていけば、基本的にはほとんどの記事の本文が目に入ります。

記事の全文を熟読するかどうかは別として、ざっと「流し読み」をすることができるというのは、やはり、紙媒体ならではの良さではないかと思う次第です。

デジタル版と紙媒体版の融合?良いものは売れる

もっとも、この『月刊Hanada』を含めたオピニオン誌に関し、アマゾンで検索してみたところ、昨今だとKindle版も販売されているようです。つまり、紙媒体とウェブ媒体を融合させたようなバージョン、というわけです。

おそらく紙媒体の場合と異なり、バックナンバーが容易に手に入る、保存するのに場所を要しない、といった長所もあるのだと思いますが、はたして今後、紙媒体のメディアも電子媒体に移行していくのでしょうか。

興味深い論点だと思わざるを得ません。

なお、昨日、アマゾンの販売ランクを眺めていると、『月刊Hanada』と『月刊WiLL』が「文芸総合雑誌」の「ベストセラー1位」の地位を激しく競っているようであり、閲覧する時間によって両者が入れ替わるというものでした。

やはり、「読者の興味を引く記事」を多く掲載している雑誌が売れるというのは、紙媒体であってもウェブ媒体であっても、事情はあまり変わらないのではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (8)

  • おはようございます。
    (数年前までの状況ですが)大学等研究者の方が応募する科研費の提案書の図は、黒白印刷しても判別できるように修正されます。なぜなら、審査者に印刷物を渡す役人が、白黒印刷するからです。
    雑誌で色分けした図を白黒印刷してしまうというセンスのなさは改めるべきとは思いますが、「今時白黒印刷?」の最も強大な抵抗勢力はお国の官僚だと思います。科研費の事務局官僚が、図など書いたことない文系で、「経費削減に努めている」ふりをしているだけではないでしょうか。

    • 現在でも、コンビニでコピーを取ると、白黒とフルカラーとでは大きな差があります。例えば、セブンイレブンだと、A4コピーで、白黒ならば1枚10円、フルカラーだと1枚50円です。
      ならば、セブンイレブンの経営陣は図などを描いたことのない文系ぞろいで、不当な暴利を貪っているということでよろしいですか?

      • 7-11カラーコピー
        機材の管理コストと顧客の利便性を天秤に載せ、経営的に望ましい顧客像メガネレンズを透しての解…
        だったりして??

    • 雑誌の製本上1箇所の図だけカラー化するのに16ページのカラーページを作らなくてはなりません。コストは印刷費で白黒の5倍、紙も違います。
      コストの問題だと。
      まあ、文系の学問ですが色彩学上でも色を使えばいいっていうものではありませんし。

    • 全部カラーにしたら経費が膨大だからね

  • 少し前の学術雑誌だと、印刷版は白黒、WEB・PDF版はカラーってのがよくあったけど、雑誌の電子版の図表はカラーだったりしないんだろうか?

  • 最近、電子書籍の隆盛により、名作漫画のカラー化が流行っています。
    明治時代の白黒写真に着色するようなものですが、ガンダムなどはかなり気合いを入れて色づけしているみたい。
    安彦良和氏はアニメーターなんで自分の絵に他人が色を付けるのに無頓着なのかともいましたが、かなり細かい注文を付けたとか。

  • 先日、トンガの噴火では1000年に一度レベルの現象で日本の津波予測が機能しませんでした。
    そして10年前には、1000年に一度の津波で実に多くの物を失いました。
    そして紙媒体はそんな1000年以上の歴史の中を曲がりなりにも生き抜いてまいりました。
    さぁて、電子媒体には今後1000年、どんな災いが降りかかりましょうや?