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    Categories: 金融

韓国がイランに資金を変化する場合の「重大な問題点」

韓国が凍結したままのイランの石油輸出代金を巡り、その返還交渉が始まるようだ、との報道がありました。ただ、冷静に考えてみたら、ウォンのようなソフト・カレンシー(国際的に通用しない通貨)の場合、単に「両替して送金すれば良い」、という話にはなりません。重大な問題点があります。それは、70億ドル相当の韓国ウォンを外為市場で外貨に両替した瞬間、ウォン相場が暴落してしまうかもしれない、という点です。

アジアの「国際通貨」

当ウェブサイトのテーマのひとつは、「通貨」です。

日本円は国際的に見ると、非常に通用度の高い通貨ですが、その日本円よりもさらに通用度が高いのは、言うまでもなく、世界の基軸通貨たる米ドルでしょう。

その一方で、アジア諸国の通貨は、日本円を除くと、いずれも国際的には通用しないものばかりです(※例外といえば、米ドルとの事実上のペッグ制度を採用している香港ドルと、主要通貨とのカレンシーボード制を採用しているとされるシンガポールドルくらいなものでしょうか)。

たとえば中国の通貨・人民元の場合、今から5年前の2016年10月に国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)構成通貨に指定されたのですが、そのわりに、現時点までに国際的な市場において、さほど通用度が高いとは言えません。

というよりも、人民元建ての債券自体が国際的な市場でほとんど取引されていないため、通貨としての使い勝手は大変に悪いというのが実情でしょうし、ましてや人民元以外のアジア通貨に関しては、「国際的な通貨」としては、ほとんど存在感がありません。

イランと韓国の「浅からぬ因縁」

私たちの隣国の通貨・韓国ウォンに関しても、これとまったく同じことがいえます。

韓国ウォンの場合も、基本的には外為市場は韓国国内にしか存在せず(NDF等を除く)、国際的に広く通用する通貨とはとうてい言えません。

ただ、そんな「ソフト・カレンシー」であるにも関わらず、なぜか、イランとの原油貿易代金の決済のみ、韓国ウォンでの取引が行われていました。といっても、韓国ウォンは国際的に取引可能な通貨ではありませんので、そのスキームも、大変に特殊なものです。

昨年の『イランによる韓国船拿捕の裏にある両国の浅からぬ因縁』でも取り上げましたが、基本的には、イランの原油輸出代金は、イランの中央銀行が韓国国内の民間銀行に開設した銀行口座にウォン資金を振り込ませる、といったかたちで行われていました。

すでにいくつかのメディア報道で取り上げられているとおり、イランの革命防衛隊は昨日、韓国の貨物船をペルシャ湾上で拿捕したようです。表向きは「海洋汚染」を理由にしていますが、その裏では石油代金を巡る不透明なウォン資金口座決済という仕組みと韓国当局による口座凍結、そしてイランがそれに激怒している、という構図が見て取れます。韓国船舶をイラン革命防衛隊海軍が拿捕韓国メディアの報道によると昨日、イラン革命防衛隊の海軍がペルシャ湾を航行していた韓国船籍の船舶1隻を拿捕したそうです。イラン、韓国の運搬船を拿...
イランによる韓国船拿捕の裏にある両国の浅からぬ因縁 - 新宿会計士の政治経済評論

そのウォン資金が、米国のイラン制裁の関係で、現在でも米ドルに換算し、約70億ドルに相当する資金が、韓国国内に凍結されたなのです(『ウラン濃縮を再開も韓国ウォンを持てあますイラン』等参照)。

昨日の『イランによる韓国船拿捕の裏にある両国の浅からぬ因縁』でも「速報」的に取り上げたのが、イラン革命防衛隊による韓国船舶の拿捕と韓国国内で凍結されている資産、そして「物々交換」などの関係です。現時点においては「韓国がイランに戦略物資を不正に流していた」という点に確たる証拠はなく、単なる仮説の域を出ませんが、それでも本稿では昨日の拿捕事件に関する続報をいくつか補足しておきたいと思います。ウォン資金口座を巡るやりとり昨日の『イランによる韓国船拿捕の裏にある両国の浅からぬ因縁』では、イランの革命...
ウラン濃縮を再開も韓国ウォンを持てあますイラン - 新宿会計士の政治経済評論

この関連でしょうか、昨年の『「イランが韓国製家電の輸入を禁止」、問題の本質は?』などでも述べたとおり、イラン・韓国の両国間では、いまでもときどき、トラブルが発生しています。

日本以外との国との関係で見る「韓国の特殊性」「日韓関係がうまく行かない原因は、『日韓関係の特殊性』にあるのではなく、『韓国の特殊性』にある」――。そうした見解に説得力があるかどうかは、韓国の日本以外の国に対する態度を見てみれば、よくわかります。こうしたなか、参考になる事例のひとつが、イランと韓国の対立でしょう。最近、イランが韓国製の家電の禁輸措置を打ち出すとの報道があったようですが、その背景を改めて振り返っておきましょう。ウォン建て石油取引という闇以前の『イランによる韓国船拿捕の裏にある両国の...
「イランが韓国製家電の輸入を禁止」、問題の本質は? - 新宿会計士の政治経済評論

韓国としては資産の凍結解除は米国との関係で難しい、という立場ですが、そのわりに、イランの韓国ウォン資金を利子の低い口座に留めたうえ、口座維持管理手数料を求めている、といった報道もあります。

こうした韓国の不誠実な姿勢が、イランの怒りに油を注いでいるのかもしれません。

凍結口座の返還推進で合意?

こうしたなか、韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)に本日、こんな記事がありました。

韓国とイラン 凍結資産の移転巡る実務協議推進で合意

―――2022.01.07 14:52付 聯合ニュース日本語版より

聯合ニュースによると、イランのバゲリ外務次官と韓国外交部の崔鐘建(さい・しょうけん)第1次官は現地時間6日、オーストリア・ウィーンで会談し、この70億ドルの資金を巡って「実務協議を推進することで合意した」と韓国外交部が7日に発表したのだとか。

実務協議の詳細については明らかにされていないようですが、聯合ニュースは「外交部や企画財政部など政府関係者が出席」し、「送金ルートや支払方法なども協議するものとみられる」、などとしています。

これまでのらりくらりと資産凍結問題の話し合いから逃げ回ってきた韓国のことですので、本件も一筋縄でいくというものではないのかもしれません。

ただ、万が一、イラン・韓国の両国が凍結資金の返還で合意した場合、ここで困った問題が生じます。ウォン資金をウォン資金のままで外国の銀行に送金することが難しいのです。たとえばスイスなど第三国の銀行を経由する場合であっても、基本的にはウォン資金をウォン以外の資金に両替しなければなりません。

イランが米国からの制裁を受けているという点を考慮するならば、米ドルに両替するというのは少しハードルが高い気がします。そうなると、この資金は韓国国内の為替市場において、スイス・フランなどに両替したうえで、スイスの銀行に送金する、といった方法が考えられます。

市場の厚みが十分でない韓国ウォン独自の問題点とは?

さらにもうひとつの問題があるとしたら、韓国の外為市場は必ずしも市場の「厚み」が十分ではない、という点でしょう。

70億ドル分という資金を一気に韓国ウォンから米ドルに両替しようとすれば、外為市場が混乱してしまいます。たとえば、現時点の為替相場が1ドル=1200ウォン程度だったとすると、イランが8.4兆ウォンもの資金を一気に両替すれば、1ドル=1300ウォン程度にまで下落するかもしれません。

したがって、こうした市場の混乱を避けるためには、韓国の通貨当局が保有する外貨準備と市場外で交換し、イランに引き渡す、といった行動をとらざるを得ないでしょう。

当然、そうなってくれば、どの為替レートを使うのかを巡ってはイラン、韓国の両国が激しい交渉を余儀なくされるでしょうし、交渉次第では再び決裂、といった展開も考えられます。

いずれにせよ、本件については「韓国の通貨・ウォンが国際的に通用しないものである」という論点に関連し、単に「70億ドル相当の資金を送金すれば良い」、というだけの話ではないことだけは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (22)

    • ٩(。•ω<。)وピコーン 参加費用として70億ドル請求して、それと相殺すればウォンの暴落を避けられるのでは?

    • だんな様
      「言葉一つで千両の借りを返す」
      という、韓国の諺がありますね。
      ちょっと、思い出しましたが、不思議な諺だと思います。

  • タイトルのイランに資金を変化する場合、これって資金を返還する場合ではないでしょうか?
    それとも返還と変化を掛けたのでしょうか?

  • 毎度、ばかばかしいお話を。
    韓国がイランに「韓国ウォンを、ハード・カレンシーとして扱うなら、返金してやる」と言ったんだって。
    おあとが、よろしいようで。

    • すべて純金の、実物大の救急車なら、イランも受け取ります。

  • 偽善者らしい、こういう報道が出てくるだろうと予想していました。
    2 日前にこんな報道があったからです。
    "イラン核合意再建のカギとなるか 韓国第1外務次官がウィーンへ" (KBS WORLD 2022-01-05 12:03:45 ) より。

    外交部の関係者は、「今回の交渉はイラン核合意の再建に向けた正念場とされている。凍結資金問題を解決する機会であると同時に、韓半島非核化に向けても意味を見出せると考えている」と話しています。

    イラン核合意にかこつけて、南北終戦宣言を画策しているのでしょう。
    おまエラの考えていることは、全部お見通しだ!

  • 話し合いに応じることで誠意を見せたのだから、
    今度はイラン側が譲歩して減額すべきすべきとか言いそう

  • イランへの送金手段としては米ドルを介さずに済む”中国経由”がベストだと思うんですけどね。

    イランにしてもケチケチしないで70億ドル相当の対韓債権を中国に七掛けくらいで譲渡すればどうだろう?(対中輸入決済用に50億ドル相当の人民元との交換でも可)
    *中国は対韓通貨スワップを行使して有無を言わせず70億ドル相当のウォンを取立てるのに違いない・・。(債権と相殺するから返済不要)

    そしたら、
    イランは再建や!
    中 国 は 債権屋!!
    韓 国 は 再見(サヨナラ)や!!!・・。

    • 「イランへの送金手段としては米ドルを介さずに済む”中国経由”がベストだと思うんですけどね。」 G7の他で為替市場に影響与えても平気でいられる国(厚顔無恥)なんて他に無いでしょう。そして歴史は繰り返し元の属国に戻るって事になるのをボクの残り少ない人生で見れるのかなぁ〜
      駄文失礼しました<(_ _)>

      • 訂正します。
        「G7の他で為替市場に影響与えても平気でいられる国(厚顔無恥)なんて他に無いでしょう。」→「G7の他に為替市場に影響与えたとしても、知らん顔してこれだけの金額の為替を受けてくれる国なんて他に(厚顔無恥)無いでしょう」

        • 更に訂正します、日本語下手で申し訳ありません。
          「G7の他に為替市場に影響与えたとしても、知らん顔してこれだけの金額の為替を受けてくれる国なんて他に(厚顔無恥)無いでしょう」→
          「G7はともかく、すぐにこれだけの額の為替を受けてくれる国は他には無いでしょう。」

  • 韓国が踏み倒してきたイランへの
    石油代金支払に関する進展が
    よりによって
    韓国中央銀行が1ドル1200ウォンを破られての
    排水の陣の奮戦の際にでてくるのは
    とても興味深いです。

    推測するにおそらくは
    ウォン崩壊で紙くずになってはたいへん!
    と、慌てたイランから
    最後通牒付きつけるぞ!
    と厳しく責め立てられて、
    「いや、待つニダ。 払うニダ・・・」と
    払うつもり無いのに空の約束手形を
    切らされたような構図
    なのではないだろうか? と、
    日頃からおよそモロモロ韓流の流儀を
    見ていると感じます。

  •  これも「ゼロ対100理論」ですかねぇ。
    自分たちで問題を作り出しておいて、その解決のために、相手から何らかの譲歩を引き出して短期的な利益を得る事が出来たとしても、長期的に考えれば、相手の信用を失う事の方がはるかにダメージが大きいとは考えないのでしょうか?
    イランが息をするように不義理をやらかす韓国に対してどのように対処するか、日本も参考になる部分があるかもしれません。
    そういう意味で大変に興味深いですね。

  • イランに資金を変化させるのは、非常にたやすい事である。
    南国の主要食糧であり医薬品である「キムチ」を70億ドル相当を
    輸出すればよいことであるからである。(イランは要らんと言うだろうな~)
    但し、一部問題がある。 南国でそれだけの「キムチ」を生産できるか?である。
    白菜は当然足りないから中共産で賄い、序でに「キムチ」本体も中共から賄う。
    中共様のご協力を受ける事ができるし、南国・中共産「キムチ」をイランに送付
    する事により、食中毒でイランの人口を減らせる可能性すらある。

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