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韓国で日本製鉄の資産に売却命令

自称元徴用工問題に関連し、日本製鉄が保有する非上場株式に売却命令が出たのだそうです。非上場株式を、韓国の裁判手続ではどうやって売却するつもりなのか、その手腕をじっくりと見させてもらいたいという気持ちもないではないのですが、現実的には売却など不可能に近いでしょう。いずれにせよ、自称元徴用工問題は今年も膠着したままで年を越すことは間違いなさそうです。

今年は(今のところは)大した話題がありません

先日の『この期に及び徴用工・慰安婦で日本の譲歩促す韓国外相』などでも報告したとおり、年末年始のタイミングでは、日韓関係でなにか動きがあることが多いのが昨今の状況です。

鄭義溶(てい・ぎよう)韓国外相の記者会見は、じつに強烈でした。自称元徴用工問題などで日本の譲歩を促したからです。端的に申し上げて、「お話にならない」というのはこういうことだと思います。こうしたなか、意外な話ですが、年末年始は日韓関係が動くこともあります。果たして今年はどうなのでしょうか。いずれにせよ、誰が次期大統領に就任することになっても、日韓関係は前途多難なのかもしれません。年末年始は日韓関係が動く(こともある)年末年始に向けて、世間は休日に突入しつつあります。ただ、『今年は年末年始のタイ...
この期に及び徴用工・慰安婦で日本の譲歩促す韓国外相 - 新宿会計士の政治経済評論

2015年は日韓慰安婦合意、2016年は釜山の日本総領事館前への慰安婦像の設置、2017年は「慰安婦合意タスクフォース」による外交文書の一方的な開示、2018年は火器管制レーダー照射事件、といった具合です。

こうしたなか、今年はいったい何があるのかという観点で、ちょっとだけ戦々恐々としていたのですが、あまり大した話は出てきていません。

強いていうならば、こんな話題があったくらいでしょうか。

韓国裁判所 日本製鉄の資産売却命令=強制徴用訴訟

―――2021.12.30 20:22付 聯合ニュース日本語版より

韓国メディア『聯合ニュース』(日本語版)の昨日の報道によれば、「強制徴用訴訟」(※自称元徴用工判決の誤り)に関連し、韓国の大邱(だいきゅう)地裁浦項(ほこう)支部は30日、日本製鉄が韓国内に所有する資産の売却命令を出した、と発表したのだそうです。

資産売却?まぁ、実現しないでしょう

あぁ!これで日本企業の資産売却が実現してしまう!

そう考えた方は、非常に甘いと思います。

今回の判決で、現在の日韓関係の膠着状況が何か変わるとも思えないからです。

当ウェブサイトでは『売却するなよ、売却するなよ、絶対に売却するなよ~!』を含め、これまでに何度も何度も申し上げてきたとおり、おそらく資産の売却は行われません。

これは「フラグ」でしょうか?韓国メディアが報じたところによれば、今月号の月刊誌『文藝春秋』に掲載されている安倍晋三総理大臣のインタビュー記事では、自称元徴用工問題を巡り、安倍総理が「韓国側が『日韓請求権協定を守る』と話した以上、日本企業の資産は売却されないと考える」と述べたのだそうです。いわば、「売却するなよ、売却するなよ、絶対に売却するなよ~」でしょうか?安倍総理、あまり韓国を追い込まないで下さいよ(笑)安倍晋三総理大臣が月刊誌『文藝春秋12月号』のインタビューに応じているそうです。 こ...
売却するなよ、売却するなよ、絶対に売却するなよ~! - 新宿会計士の政治経済評論

というよりも、『非上場株式の売却、「法治国家では」とても難しい』などでも述べたとおり、原告側が差し押さえている日本製鉄の在韓資産とは非上場の合弁会社株式です。一般に合弁会社には株式の譲渡制限条項が付されており、資産の売却は極めて困難です。

数日前より、読者雑談記事などで議論されていたのが、「非上場会社の株式を差し押さえたとして、どうやってそれを売却することができるのか」、というものです。これについては以前、『非上場株式の売却を「時限爆弾」と呼ぶ韓国メディア』で、某隣国で日本企業の在韓資産が差し押さえられているという問題を巡って、「日本企業の資産が換金される可能性は低い」と述べましたが、「法に定められた手続をまったく守らない国」において、日本と同じ議論が成り立つのか、という点については、あらためて議論しておく価値がありそうです。...
非上場株式の売却、「法治国家では」とても難しい - 新宿会計士の政治経済評論

また、『個人的実体験に基づく「自称元徴用工訴訟の不自然さ」』で述べた内容の繰り返しですが、原告側が本気で「裁判を通じて被害者の損害を回復すること」を目指しているのならば、そもそも差し押さえる資産は金銭債権などの換金が容易な資産であるはずです。

自称元徴用工問題の落としどころのひとつこそFOIP自称元徴用工訴訟を巡り、昨晩は「韓国の大法院(最高裁に相当)が三菱重工の資産差押命令に関する再抗告を棄却した」とする報道が流れていました。これ自体、正直、大した記事ではないのですが、そもそも論としてもうすぐ自称元徴用工判決から3年を迎えるため、少し個人的な「訴訟体験」も交えつつ、彼らの本当の狙いと日本政府のあるべき対応について探ってみたいと思います。要約 本気で訴訟を戦うつもりなら、売却が容易な資産を調べ上げ、最初から差押をするのが当然 非上...
個人的実体験に基づく「自称元徴用工訴訟の不自然さ」 - 新宿会計士の政治経済評論

徴用工弁護士、裁判で勝ったのに「交渉に応じよ」の怪』などでも議論したとおり、結局、自称元徴用工側の真の目的は、差し押さえた資産の強制売却・換金処分にあるのではなく、「交渉に応じないと資産を売却するぞ」、「だから日本企業は交渉に応じよ」と迫るためにあるのでしょう。

裁判で勝ったんだから「協議」だのなんだの言わずさっさと換金すれば良いのに!早いもので、自称元徴用工判決からもうすぐ3年が経過します。こうしたなか、自称元徴用工側の弁護士、支援団体代表らが昨日、韓国で会見し、裁判で負けた日本企業に「交渉に応じよ」などと求めたようです。何を寝言を言っているのでしょう。裁判でもう勝っているのですから、さっさと金銭債権などの日本企業の資産を差し押さえて換金し、自称元徴用工らに分配してしまえば良いのに、ともどかしく感じてしまいます。もっとも、この問題は結局、日韓関係を...
徴用工弁護士、裁判で勝ったのに「交渉に応じよ」の怪 - 新宿会計士の政治経済評論

正直申し上げて、日本製鉄にせよ、すでに商標権や特許権の現金化命令を受け取っている三菱重工にせよ、韓国の裁判手続で即時抗告などをせず、放置しても良いのではないか、という気がしてなりません。

実務的に、これらの資産の売却は大変に難しいからです。

安易な「日韓関係改善論」は避けるべき

いや、もちろん、「絶対に不可能だ」、などと申し上げるつもりはありません。

三菱重工の件にせよ、日本製鉄の件にせよ、資産の強制売却が始まれば、政府系の投資家(たとえば社会保障基金など)なのか、愛国的な金持ちなのかは知りませんが、とにかく経済合理性を無視してそれらの資産を買おうとする者が出現する可能性はあります。

ただし、その場合には、日本政府としては「韓国の司法による国際法違反行為がなされた」と認定し、粛々と、韓国に対する「対抗措置」を発動すれば良いだけの話です。

その一方、日本にとって絶対に避けなければならないのは、「日韓関係の破綻を避けるために、日本が国際法の原理原則をかなぐり捨てて韓国に譲歩すること」です。これを「日韓関係改善論」とでも名付けましょう。

「日韓関係改善論」【想像ベース】
  • ①日本にとって現在の韓国は、経済・産業上も、外交・安全保障上も、大変に重要な国である。
  • ②しかし、韓国が日本との間でさまざまなもめ事を起こしており、これらについて国際法や国際社会の常識に従った解決も期待できない。
  • ③だからこそ、日本が国際法に拘泥するのではなく、多少とも韓国に譲歩し、日韓関係の破綻を防ぐべきだ

(【出所】著者作成)

この「三段論法」、①と②の部分については賛同していただける方が多いとは思いますが、その流れで③の部分を捻じ込もうとするのには感心しません。

日韓テーパリングの準備を粛々と

もちろん、自称元徴用工判決問題で、資産の現金化がなされてしまえば、日韓関係が本格的に破綻の危機に突入することは間違いありませんし、そうなったら日本にも少なくない損害が生じることについては、覚悟しなければなりません。

しかし、この手の「韓日双方が話し合い」云々の主張は、「韓国が」「一方的に」不法行為を日本に対して仕掛けているという事実を無視した不当なものでもありますし、また、ほんの少しでも日本が譲歩することを前提とした議論自体、決して受け入れるべきものではありません。

とりわけ、現在の日韓関係において、法的基盤を覆そうとしているのが韓国の側であるというのも、厳然たる事実です。違法判決を下した韓国の司法府、その状況を是正しようとしない韓国政府など、それぞれに重篤な問題があります。

むしろ、著者自身に言わせるならば、③の部分は次のように書き換えた方が良いと思うのです。

「日韓関係テーパリング論」
  • ①日本にとって現在の韓国は、経済・産業上も、外交・安全保障上も、大変に重要な国である。
  • ②しかし、韓国が日本との間でさまざまなもめ事を起こしており、これらについて国際法や国際社会の常識に従った解決も期待できない。
  • ③もしも韓国が国際法を守らないならば、日本は経済、産業、外交、安全保障などにおける韓国の重要性を下げるべきだ。

(【出所】著者作成)

いずれにせよ、今年もこの自称元徴用工問題、中途半端なままで年を越すことになりそうです。

韓国では非上場株式をどうやって競売手続にかけるのか、金融評論家という立場としては、個人的には見させていただきたいとは思っているものの、その希望が叶うかどうかについては微妙でしょう。

新宿会計士:

View Comments (25)

  • ルーピーコウモリ岸田はどうするんでしょうね?韓国の話に聞く力を使うんでしょうか?

    • ジロウさま
      これで岸田総理は、聞いた意見のなかから、選択する力と決断する力が問われることになるでしょう。
      蛇足ですが、これから日本国民は、「聞く力のある(村の)長老総理より、決断する力がある総理の方がよかった」と言い出すのでしょうか。

      • ジロウ様 引きこもり中年様

        奇しくも、文大統領も次期大統領候補筆頭らしい李在明も

        「聞く力のある」
        「国民との対話を重視する」

        を標榜しています。
        ちなみに、韓国の請願制にて

        「文大統領の辞任を要求する」

        という請願が青瓦台が返答する要件を満たす数が集まったのですが、それに対する大統領と青瓦台の返答は

        「励ましととらえ、今後も一層頑張る」

        でした。
        聞いても理解する能力が無く解決を試みるつもりが毛頭無い「聞く力」はいくらあっても意味も無く能力ではありません。

  • 韓国メディアによると、日本側が引き延ばし作戦を実行している、と考えているようなので、日本政府は反対するでしょうが、日本製鉄には即時抗告をしてほしくないですね。この遅々として進まない状況がもどかしくてしょうがない。

    • 即時抗告しないと「罪を認めた」ことになるから
      韓国側からもっと無理難題をかけてくるし
      日本政府も韓国への制裁がやり難くなる

      • 日本政府は、強制徴用賠償に関連する韓国国内の司法手続きは国際法違反だとする立場なのに、まともにこの大法院の裁判に向き合う必要はあるのかな、と思う次第です。

  • 被害者ビジネスなんですから、弁護団が率先しての換金(食い扶持をなくしたり)はしないと思います。

  • ボールは韓国側にあるのにそれを認めたくないので
    日本人の気持ちを逆撫ですることで日本側から「協議しよう」に
    持っていきたいのがミエミエ。そんな古びた手法はすでに通用しないし
    日本側も学習してるので、相手にされません。やってることは北朝鮮の
    ロケット挑発と同じ。本当に南北相当ヤバい末期状態だよ。

  • 現金化がレッドラインなんて言っちゃって失敗でしたね。
    現金化の一歩手前までなら、嫌がらせのし放題です。
    相互主義が原則なので、相手が差し押さえたらこちらも差し押さえれば良かった、と思うのです。
    でもとうとう現金化してくれそうで、やっと日本も動くことが出来ます・・・かね?
    岸田クン、聞いてる?

    •  現金化がデットラインと決めたのは安倍政権です。不満があるなら安倍氏に文句を言って下さい。

      • 安倍政権で決めたのは承知しています。
        私の中では、安倍政権の評価は否定的でも無いんですが、これは頂けません。
        で、岸田クンが引き継ぐのか、媚韓にかじを切って土下座外交になるのか、或いはさっさと制裁措置に踏み切るのか、興味のあるところなんです。

        • 韓国じゃあるまいし、線引きを明確にするのは当然だし、法治国家では法に基づかなきゃ相互主義だからと言って差押ができるけじゃない。
          上から目線の割に抜け作ですな。

  • 適当に対応しつつ、韓国側がしがみついて来ても無視を続ければ良いと思います。かまってちゃんなので、かまってくれないと勝手にキレて自爆しますし。

  • 本件については、12/28に岸田首相が共同通信とのインタビューに尽きています。「最低限、国と国との約束は守らないと、これから先、どんな議論をしても意味がない」。韓国民は、リプリー症候群(自ら作り出した嘘を信じる精神状態)に陥りやすい嫌いがあり、奴隷のように扱われたと主張する韓国人がいれば、事実を確かめようともせず、それを信じます。韓国の裁判所がどんな判決を下そうと放って起き、本当に現金化したら、断固たる対応措置を取る、その対応で良い、と考えます。我が国は、一貫した立場に基づき、粛々とテーパリング(段階的縮小)を進めましょう。

  • 来年3月の韓国大統領選の直前に売却が実行される可能性があります。もちろん、「文在寅大統領(与党)だからこそ『正義』を実現できたのだ」と宣伝するためです。政治的な煽動が目的なのですから、経済的合理性が顧みられることはありません。きっと、政府系金融機関か政府の息のかかった人物が買い取りを実施することでしょう。

    現在、韓国大統領選は、私が記憶している限りでは、これまででも一番酷い泥仕合になっています。今後、泥仕合が激化することはあっても、政策を戦わせるような選挙戦になる見込みはかなり低いだろうと思います。そんな中で「正義を実現した」と叫べば、一瞬くらいは愚民を欺ける可能性があります。いよいよ不正手段を用いなければ与党候補が敗けそうとなった時には、売却実行の可能性が高いのではないかと思います。

    # まあ、絶対に敗けられない従北左派としては、すでに各種「保険」を用意しているだろう
    # とは思いますが。

    もっとも、日本としては、売却が実行されたら間髪を入れずに報復措置を発動するだけのことですので、話に何も面倒はありませんが。

  • 大法院に行って、売却するなという判決が出ると面倒くさいですね。

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