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岸田首相「年内現金一括給付も選択肢」と言及か=国会

産経によると岸田首相は本日の予算委員会で高市早苗・自民党政調会長に対し、「年内に10万円を現金で一括給付することも選択肢に加えたい」と述べたそうです。10万円の給付を巡っては、年収逆転を含めた制度設計の複雑さもさることながら、現金とクーポンの併用という点にも批判があったのですが、「批判された」という理由で方針をコロコロ変えるのが、岸田首相の政権運営にとって吉と出るか、凶と出るか、その答えが出るまでにさほど時間はかからないのかもしれません。

給付金案の制度設計

コロナ対策に関連し、岸田文雄首相が「目玉」のひとつとして掲げている(らしい)政策のひとつが、10万円の給付金です。

これについて、報道された内容には若干不明な部分もあるのですが、著者自身の理解も踏まえて可能な限りわかりやすく整理すると、次の図表のようなものです。

図表 今回の給付金案
区分 現金 クーポン
住民税非課税・子供あり 10万円+5万円×子供の人数? 5万円×子供の人数?
住民税非課税・子供なし 10万円 なし
所得960万以下・生活困窮でなく子供あり 5万円×子供の人数? 5万円×子供の人数?
所得960万以下・生活困窮でなく子供なし なし なし
所得960万円超・子供あり なし なし
所得960万円超・子供なし なし なし

(【出所】報道等をベースに著者作成)

児童手当制度を流用?「支給金逆転現象」問題も!

この図表もなるべく整理して作成しているつもりですが、やはり自分自身で書いていて、わけがわかりません。なぜ「18歳以下の子供がいる/いない」、「所得が960万円を超えている/いない」で判断するのか、理解が困難です。

この点、「貧困対策」として給付金を支給するならば、所得制限を設けることにも一定の合理性がないではありませんが、「18歳以下の子供がいる/いない」とは無関係でしょう。また、「子育て支援」として給付金を支給するならば、今度は所得制限を設けることの合理性がありません。

さらには、「経済対策」として給付金を支給するならば、なぜ「18歳以下の子供がいる、いない」で判断するのでしょうか。

いちおう、自民党などの立場を忖度(そんたく)して申し上げるならば、現行の児童手当制度にそのまま乗っかって給付金を支給することができる、という点にあるのだとは思います。

ただ、もし児童手当制度に乗っかるのであれば、ここでいう「年収960万円」も「世帯年収」ではありません。おそらくは個人の収入です。

たとえば、わかりやすく、(A)「共働きの夫婦、2人の子供(18歳未満)」という4人家族がいたとしましょう。

ここで、夫の年収が910万円、妻の年収が900万円だったとすれば、世帯年収は1810万円です。そして、この場合は夫の年収の方が10万円高いため、現時点で児童手当は夫に支給されているはずであり、今回の給付金20万円(子供2人分)も夫に支給されます。

一方、(B)「夫が働き、妻は専業主婦、2人の子供(18歳未満)」という4人家族がいて、夫の年収が970万円だったとします。この場合、夫の年収は960万円の所得制限を超えてしまっていますので、今回のケースでは20万円は支給されません。

A家は世帯年収1810万円なのに支給され、B家は世帯年収970万円なのに支給されない、というわけです。

このように考えるならば、「とりあえず所得制限や年齢制限を設けず、一律で1人あたり10万円以上の(クーポンではなく)『現金』を支給しておき、一定以上の所得がある人からは、確定申告で所得税の形で回収する」、といった簡便な方法は考えられないものなのでしょうか。

本当に疑問に感じざるを得ません。

クーポン?それとも現金?

こうしたなか、給付金制度を巡る論点のなかでも、最近、多くの議論が見られるのが、5万円をクーポン券で支給するとの方針です。クーポン券を印刷するのにコストと時間がかかるという点、おそらくは使用可能な地域などが制限されるとみられる点などに対し、さまざまな不満があるようなのです。

これについて、政府は現時点で、「5万円を現金、5万円をクーポン」という方針を基本としつつも、全額を現金で支給する形も認めるとの考えもあることから、調べてみると、各地で続々と「現金で一括支給する方針」との報道もあるようです。

10万円給付、仙台市も全額現金を示唆 「クーポンは時間かかる」

―――2021年12月11日 06:00付 河北新報より

18歳以下10万円給付 鹿児島・南さつま市長「全額現金で」

―――2021/12/10 19:47付 南日本放送より

子育て世帯臨時給付金 静岡市10万円全額現金給付へ 県中部5市2町で足並み揃え全額現金給付に向け調整

―――2021/12/10 20:14付 日テレNEWS24より

岸田首相の方針変更?

こうしたなか、産経ニュースの本日付の記事によると、岸田首相は13日午前の衆院予算委員会で高市早苗・自民党政調会長の質問に対し、「年内からでの10万円の現金一括給付も選択肢として加えたい」と述べたのだとか。

岸田首相「年内の現金10万円一括給付も選択肢に」 衆院予算委

―――2021/12/13 09:44付 産経ニュースより

大変失礼ながら、この短い報道記事を見て、岸田首相という人物を「批判されたら柔軟に方針を変更できる人物」と見る人もいるかもしれませんが、「批判を恐れずに断行するということができない人物」と見る人もいるかもしれません。

ただ、岸田内閣が発足して以来の2ヵ月間に限定しても、どうも「決断力」という点では、若干の不安材料もあります。

たとえば米国が中国における人権侵害などを理由として、いわゆる「外交ボイコット」の方針を発表しましたが(『米国が北京冬季オリパラ「外交ボイコット」を正式表明』等参照)、岸田首相の煮え切らない態度に対しては自民党保守系議員から反発もあるようです(『外交ボイコット巡り優柔不断な首相に保守系議員が不満』等参照)。

「岸田首相、大丈夫ですか?」――思わずそう言いたくなる今日この頃です。10万円給付金を巡る混乱に続き、今度はバイデン政権が打ち出した外交ボイコットへの煮え切らない態度。どうも岸田文雄政権については、見ていて不安になります。自民党内では保守系議員らからの突き上げもあるようですが、その一方で親中派議員からは政府の煮え切らない態度に理解を示す向きもあるようです。カナダも外交ボイコットへ=産経『米紙「ジェノサイド五輪」:外交ボイコットは広まるか』でも報告した北京五輪の「外交ボイコット」に関連し、その後も...
外交ボイコット巡り優柔不断な首相に保守系議員が不満 - 新宿会計士の政治経済評論

もちろん、世界的な「オミクロン株」流行の兆しを受け、急遽、外国人の入国を原則として禁止する措置を打ち出したこと(『【速報】オミクロン防疫:すべての外国人入国を禁止へ』等参照)は、岸田首相が(珍しく)決断力を示した事例といえるかもしれません。

岸田首相は本日、アフリカで確認された「オミクロン株」の防疫などを目的に、すべての外国人の入国を30日以降禁止すると述べました。また、観光目的の入国について年内をめどに再開の検討に入るという方針については、岸田首相は会見で明言はしませんでしたが、現実的には厳しいのかもしれません。(※なお、18:00付で誤字の修正を加えています。)本日の「速報」であり、メモ的に紹介します。新型コロナウィルスに関連し、アフリカで確認された「オミクロン株」の防疫などを目的に、岸田文雄首相は先ほど、「すべての外国人の入国を禁...
【速報】オミクロン防疫:すべての外国人入国を禁止へ - 新宿会計士の政治経済評論

(※なお、オミクロン防疫騒動に関しては、政府が民間航空会社に「国際線の新規予約の停止」を要請し、それを数日で撤回するなどのドタバタも生じていますが、このあたりは岸田内閣の調整力に疑念を抱かせる材料でもあります。)

いずれにせよ、オミクロン決断を例外としつつも、岸田首相からは総じて「外交でも内政でも、一事が万事、決められない」、「批判されたら方針をコロコロ変える」という雰囲気が漂ってきているように見受けられます。岸田首相のブレーンは、大丈夫なのでしょうか?

こうした岸田首相の態度が政権の運営にとって吉と出るか、凶と出るかについて、見極めるのにさほど時間はかからないのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (23)

  • 世間では岸田首相はどうのこうのという言説が多いですが、総裁選を経ての登板ですから、岸田首相をよく知る自民党議員が、最終的に選んだ形です。もはや岸田首相への非難ではなく、自民党への避難としていいものと思っています。なぜに米中衝突もあり得る、このご時世に岸田を選び出したのか.....

    • kenさま
      自民党(もしかしたら日本人)は、(失敗した時に責任をとらない)自分の意見を聞かない、あるいは(世の中から尊敬されて当然の)自分の声を聞かないで、失敗した時の責任は自分でとる代わりに自分で決定するという(その通りになったのかは別にして)安倍元総理型(または織田信長型)の政治を否定するために、岸田総理を選んだのではないでしょうか。(井沢元彦(著)の『逆説の日本史』の世界によれば、聖徳太子の17条憲法違反の政治を、もとの村の寄り合い政治にしたかったのです)
      もちろん、安倍元総理型政治で上手くいくのか、それとも岸田総理型政治でも失敗しないのか、それともアメリカからの外圧頼みの政治になるのかは分かりません。
      駄文にて失礼しました。

      • すみません。追加です。
        田原総一朗説になりますが、日本人は、「最悪の場合は、家族の誰かを犠牲にして、残りの家族が生き延びる子殺し政治」より、「最悪の場合は、一家心中をする政治」の方が、好きなのではないでしょうか。

  • 岸田さん見てると、本当に「首相になりたかっただけ」の人のように見えて残念です。
    特に信念があるわけでもなく。。。

    それは置いといて、批判されると方針を変えるという事は危険なのでやめて頂きたいですね。
    声の大きい少数派の意見に流されやすいと思います。マスコミ誘導にも。

    何をやるにも信念がないなら、辞めて欲しいです。

    • 確かにちょっと出してみて、ダメなら引っ込めるのは信頼感を欠きますね。
      五輪ボイコット、伸晃辞任、10万円給付まで、全てが同じ。
      自ら決めますって見えを切っても、人の意見を「聞いて」から後出しではねえ・・・。
      遅い事は猫でもするっ、て言うと猫に失礼でしょうか?

      • > 猫に失礼でしょうか?
        猫に失礼ですよ(笑)w

        ってのは冗談で、引っ込める信頼感もそうですが、ノイジーマイノリティ、所謂、半島人、特定野党、左巻きマスコミ・知識人、みたいな、ちょっとおかしな人達の意見ばっかりが、まかり通ることにならないか心配してます。

  • 人の話をきくのがウリらしく「所得倍増」アッサリ引っ込めましたし、君子豹変も目的が椅子に居続けるコトなら無能の謗りは免れますまい
    コレで外相がヤラカシでもしようモノなら、安倍麻生菅総理が積み上げた成果帳消しで更に負債まで背負わされるオソレマデ…

    イヤーキョーモテンキイーナー

  • 懸念はしていましたが、想定以上の無能っぷりですね、このお坊ちゃまは。
    今のところ国民の支持を得られているのは、迅速だった入国禁止措置だけでしょうか。

    しかし、オミクロン株も感染力が強いだけで相当弱毒化していそうですから、この分じゃ、この措置も過剰反応だったと叩かれそうな気がしますね。

    見限っていいですね、この総理。

    • 後知恵で叩くのか
      全知全能の神でないと首相は勤まりませんね

      • 国民は後知恵で叩くしかないじゃありませんか?決定権が無いんですから。
        政治家は少なくとも、国民から半歩は先んじていて欲しいです。

      • 付託を受くるとはスワそーゆー側面を甘受するトコロもコミでありませう
        ま、内閣総理大臣の所管は森羅万象ダソウデスノデ
        高卒からの大学受験はやり直し方向転換を行いうるリソースもあったやもシレマセンが…

        コノオサンニマカセトッテ大丈夫ナンカイナ?圧が上がってくればまたドナイなもんでしょーな
        今回昇圧させるのはマスゴミかネットワークか?

  • 今の総理はもう総理になって目標を達成されています。あとはお身内である財務省さんの言うことを聞くだけ。良く聞いているのは財務官僚の言葉です。国民が滅んでも財務省が残って徴税できればいいんでしょうね。財務省のカウンター組織が必要だと常々思います。できれば武官がいい。

    • 第100代、101代と二代続けて就任されたのですから、一刻も早くお引き取りいただきたいですね。

      そしてやはり財務省から税務署は分離して歳入庁にすべきですね。
      まあ岸田内閣では無理か。

  • 先月だったかのテレビで、コメンテーターが、「人の話を聴く岸田総理の耳は機能してるが耳と耳の間は機能していない」とうまいことを

  • 「実行困難な目玉政策」を「軽率短慮で繰り出して」「自縄自縛」というふうに国民の目に映っているはずです。これからも同様の「自爆事例」があるかもしれないのは憂慮すべき未来です。

  • 以前にこちらの記事でも紹介されましたが、豊田章男社長が株主総会で話した「ロバと老夫婦」の話を思い出しました。

    方針を中途半端にコロコロ変えるのは、その問題に対して大した考えも持っていないからだろうと思います。
    だいたい「請うに依れ」と仰ってるように聞こえます。

    じゃあ、岸田氏は何を日本の重要課題だと思っているのでしょうかね。
    聴いてみたいものですが、総裁選でも衆院選でも、世間の風向きに合わせた発言しか記憶にありません。

  • 今回の十万円給付は、安倍内閣の時に出して引っ込めた案の焼き直しのようです。
    あの時失敗した案をまたぞろ出してくるのは「ぼくが考えたアイディアが一番正しいんだ」というのを証明したかっただけかも知れません。
    あの時は貯金に死蔵された10万円が多数あったので、使わなそうな金持ちと子供のいない世帯をぬいたら死蔵されない10万が無くなるし、更に半分クーポンにすれば絶対使うだろう。という、現実を知らない頭でっかちの人物が 脳内シミュレーションで金を使わず最高の結果を出そうと考えた感じがアリアリですね。

    不確かな情報ですが、確か前回の10万円給付 1年もの国債で出してたとききます。
    間違ってたらすみません。
    せっかく1兆円配ったのに、1年後国債を償還したら 一兆円が市場から消えて 配った意味がなくなると思います。

    また、何故貯金に死蔵されるのか理解出来ないのでしょうか?官僚には。

    日本をインフレにするのは簡単なのに、その簡単な方法を頑なに拒否しつつ自分達以外が悪いと嘆く日本政府。

    毎年1月と7月に国民一人あたり10万円を配り(10年以上の国債で)、クレジットカードのように、使った証拠を提出したら非課税。しなければ 年収により課税。
    インフレ率が五%位になる迄続けます。としたら、企業も投資をし、人手不足で人件費もあがり、銀行貸出も増え、インフレ率も上がると思うのですが。

  •  戦前に杉山元という陸軍大臣という人がいました。
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    綽名は「便所の扉」。理由は「どちらでも、押した方向に動く」「日和見主義者」であったことから。「グズ元」とも。(引用 ウィキペディア(Wikipedia))
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     第2次世界大戦前後について書かれた書物を読むと、岸田総理はこの杉山元という無能な大臣によく似ているような気がします。あっちから強く言われればあっちの方へ、こっちから強く言われればこっちの方へ、まるでクラゲのようです。
     「国家観」や「きちんとした価値観」がないため、フラフラと定見なくさまよっているうちに、時を失い大事なことがなおざりになってしまう。そして、悪いことに、外務大臣ともども交渉能力がないため、いいように相手にやられてしまう。
     最近私は内心では「岸田総理」をクラゲ総理、外務大臣は「はやし」ではなく「リン」と呼んでいます。

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