ウソツキというものは得てして、基本的な用語をわざと正しく使わないという傾向があります。コロナ陽性者を「感染者」と呼ぶわが国のＮＨＫを含めたオールドメディアもそうですが、輸出管理を「輸出規制」、福島原発ＡＬＰＳ処理水を「汚染水」と呼ぶ隣国も、たいがいだと思います。こうしたなか、非科学的な態度が行き着くとどうなるかという典型的な事例を発見しました。単なる噂で歴史的建造物を損壊しようとしているようなのです。一事が万事、この調子、というわけでしょうか。

コロナ陽性者を「感染者」と言い換えるオールドメディア

当ウェブサイトではときどき、「用語はきちんと定義したうえで、正しく使わなければならない」と申し上げることがあります。

たとえば、コロナ禍の最中、新聞、テレビなどのオールドメディアは、こんな具合に、「新規感染者数」という言葉を好んで使います。

• 「2021年８月13日の東京都における新型コロナウィルス感染者は5908人で過去最大となったことが明らかとなった」。
• 「2021年11月１日の東京都における新型コロナウィルス感染者は９人で今年最小だったことがわかった」。

しかし、何度となく指摘してきたとおり、これは正しい用語ではありません。

東京都が『新型コロナウイルス陽性患者発表詳細』などのページで発表しているデータに収録されているのは、「感染者」ではなく「新規陽性者」のデータです。

一般に、「陽性」と「感染」は異なる概念です。

たとえば福岡県のウェブサイトに掲載されている『新型コロナウイルス知っておきたい基礎知識と人権』というページの『陽性と感染は同じですか』という項などによれば、「陽性と判定されたものの症状が認められない（無症状である）」というケースは、「無症状病原体保有者」と表現されます。

ちなみに「死因が新型コロナウイルス感染症でなくても、死亡の前後に新型コロナウイルスの陽性が確認された者は、新型コロナウイルス感染症の死亡者に含めて保健所に届け出される」のだそうであり、理論上、「コロナ関連死」は本当に武漢肺炎で亡くなった方だけが含まれているのではありません。

それなのに、みずから「公共放送」を騙るＮＨＫを含め、新聞、テレビなどのオールドメディアは、「感染」、「感染」と日々誤った用語を垂れ流し続けているのです。

本当に、困った話です。

輸出管理は「輸出規制」、ＡＬＰＳ処理水は「汚染水」

ただ、こうした誤った用語を普通に垂れ流すという点では、やはり隣国に一日の長があるように思えてなりません。

たとえば、韓国における輸出管理に関する「不適切な事案」が発生したことを受け、日本政府が2019年７月に発表した韓国に対する輸出管理の厳格化（ないし適正化）措置を巡っては、韓国政府は現在でもしつこく「輸出『規制』だ」と言い続けています。

また、たんに「輸出規制」という誤った用語を使うだけならまだ良いのですが、この「輸出規制」が「強制徴用判決」、つまり2018年10月と11月の自称元徴用工判決に対する「意趣返し」だというストーリーが韓国政府、韓国メディア内に根強く残っているようなのです。

その結果、韓国政府は2019年８月に、日本政府に対し『秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定』（俗にいう日韓ＧＳＯＭＩＡ）の終了を申し入れるという対抗措置を講じました。

そして、このＧＳＯＭＩＡ破棄が撤回に追い込まれた（『韓国の「ＧＳＯＭＩＡ瀬戸際外交」は日本の勝利だが…』等参照）ためでしょうか、韓国政府はもうひとつ、この対韓輸出管理適正化措置に対し、日本を世界貿易機関（ＷＴＯ）に提訴するという措置を講じました。

もっとも、韓国の対日ＷＴＯ提訴を巡っては、米国側から「安全保障の問題と自由貿易の問題を混同したものである」とするコメントが出される（『【資料編】７月29日に開催されたＷＴＯ会合の議事録』等参照）など、基本的に韓国政府のこの行動が国際社会で支持されているとも思えません。

ただ、韓国による「誤った用語」は、ほかにもいくつも例があります。

たとえば福島第一原発で発生し続ける多核種除去装置（ＡＬＰＳ）による処理水を、日本政府は４月、国際原子力機関（ＩＡＥＡ）との協議も踏まえ、海洋に放出する方針を決定しましたが、これに対し韓国政府が「汚染水」と呼んだうえで「近隣国との協議なしにこれを放出するな」と反発しています。

しかも、トリチウムの自然界への放出は韓国自身も「近隣国との協議もなしに」行っていることであり、これを不当な措置だと見るにはかなりの無理があります。

いずれにせよ、韓国による用語の呼び替えは悪質なものばかりです。

• 自称元慰安婦→慰安婦被害者
• 自称元徴用工→強制徴用工
• ＡＬＰＳ処理水→汚染水
• 輸出管理適正化措置→輸出規制

まさにウソツキは言葉から捏造する、というわけですね。

日本にも福島ＡＬＰＳ処理水海洋放出を巡り、「科学を振りかざすな」などと批判した新聞社がありましたが（『朝日「科学振りかざすな」　ＳＮＳで敗北する人たち』等参照）、科学的思考を否定する人たちというのは、たいていの場合、そもそも正しい用語を使うことを拒絶する、という傾向があるのかもしれません。

「日本人農場に２トンの金塊」の噂で建造物損壊を

さて、こうしたなか、隣国のこんな話題を発見しました。

「日本人農場主金塊２トン埋蔵説」…韓国光復会「建物の床掘り返された」

―――2021.11.04 09:47付　中央日報日本語版より

「日本人が所有していた農場の事務室の下に、２トンの金塊が埋蔵されている」として、「光復会」が「盗掘の有無の調査が必要だ」と主張し、当該施設に対する発掘許可などを韓国文化財庁に申請した、というものです。

２トンの金塊といえば、グラムあたり7000～7500円と仮定して、現在価値でいえば140～150億円程度でしょう。むかし、日本でもどこかのテレビ局の番組が「徳川埋蔵金調査」などと称し、自称超能力者の協力なども得てその発掘をこころみたという話題を思い出してしまいますね。

ではどうしてこんな話が出て来たのでしょうか。

どうも、記事を読んでもこのあたりはよくわかりません。単に、「その旧日本人農場の事務所の地下に２トンの金塊が埋蔵されている」という噂が「３月に広まった」、としか書かれていないからです。

要するに、「何らかの文献を見た」、「何らかの合理的な状況証拠があった」、「地下から金属探知機の反応があった」、といった、何らかの科学的な根拠があるわけではなさそうだ、ということです。

あくまでも一般論ですが、根も葉もない噂というものは、科学的思考態度のない人ほど好むものだというのが個人的な感想であり、そういえば例の「徳川埋蔵金」も、テレビ局が垂れ流す番組がいかに科学的思考態度と無関係かという証拠に思えてなりません。

開発を収奪と呼び替える韓国メディア

また、この噂話を信じている人たち、あるいはこれを報じた中央日報の非科学的態度は、それだけではありません。こんな記述には、心底呆れます。

「旧日本人農場の事務室は日帝強占期に日本人の大橋氏が設立した大橋農場の事務室として使った建物だ。大橋氏は日本で自身の名前を取った銀行を所有するほどの富豪だった。彼は1907年に農場を開設し、益山と金堤の土地を取得してあっという間に大農場に育てた。大橋農場には莫大な量のコメを倉庫に貯蔵し、群山港を通じて日本に収奪した。」

この記述を自然に読むと、「大橋氏」はかなりのやり手であったということが伺えます。土地を取得して大農場に育てたということは、現在の用語でいうところの土地開発者であり、大農場化して生産性を高め、それでコメを収穫して日本に輸出したということであり、どう考えても経済的に正当な取引です。

それなのに、「開発」を「収奪」と呼び替えるという非科学的な記述には違和感しかありません。

これが本当に、「Ｇ２０」の一角を占め、最先端のスマートフォンを生産し、世界の半導体供給を担っている国の姿なのでしょうか。

しかも、中央日報の記事によれば、この問題の建物は「日帝強占期の農業収奪の歴史を見せる場所として価値がある」として昨年10月に地元自治体が敷地を取得したというものだそうですが、「２トン金塊」という根も葉もないうわさのためにそれを損壊しようとしているのだとしたら、なんともやるせない気分になります。

結果的に地元自治体が投じた費用、建物の歴史的価値は金塊の妄想とともに消し去られる結果になったとしても、それはそれで彼らの選択であり、私たち日本人にとやかくいう権利はありません。

ただ、それにしても一事が万事、こんな具合なのだとしたら、これはこれで隣国の将来が何となく予想できてしまうのです。