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続報がない徴用工金銭債権差押、「月末」での動きは?

自称元徴用工問題に関連し、三菱重工(の孫会社)の金銭債権が差し押さえられた問題に関連し、先週の『徴用工・債権差押「直ちに取り消される可能性は低い」』では、事態が長期化する可能性と「債務者の二重払い」の可能性を考察しました。本件について驚くほど続報は少ないのですが、いちおう、「月末」をまたぐタイミングで何らかの動きがあるかもしれない、という可能性について考えておく価値はありそうです。

金銭債権差押が「衝撃」である理由

徴用工「金銭債権の差押」の衝撃』で報告したとおり、自称元徴用工問題を巡り、韓国で原告側が金銭債権の差押に踏み切ったと発表したことは、個人的にはかなりの衝撃を受けました。これが事実なら、自称元徴用工問題の「フェーズが変わってしまった」からです。

自称元徴用工問題ではこれまで、原告側からの資産差押は、非上場株式、知的財産権など、換金が大変に難しいものに対してしか行われていませんでしたし、正直、それらの資産の差押を喰らったとしても、日本企業に実害はほぼゼロです。

しかし、金銭債権(とくに売掛債権)の場合、債権の弁済期日が到来すれば、債務者(たとえば韓国企業)から債権者(=日本企業)に対する金銭の支払いが実施されてしまいます。

これに関し、一部には、原告側が「とりあえず債権を差押え、それを手掛かりに、日本企業との交渉を続ける」という方針を示していたとの報道もありますが、残念ながら仮に原告側がこのような意図を持っていたとしても、現実にはそのもくろみ通りに行くとも限りません。

平たく言えば、「金銭債権の差押」とは、その「日本企業に支払われるべき金銭」を日本企業に支払うことを禁止するという措置であり、この命令が実行され、債務者がこれに従った瞬間、日本企業に不当な不利益が生じてしまうからです。

もっとも、不自然な点が多すぎる

ただ、それと同時に、本件については第1報の時点から、不自然な点が多々ありました。

それらのうち、とくに大きな論点といえば、まずは差し押さえた対象が、「三菱重工が」韓国企業に対して有している金銭債権ではなく、三菱重工の孫会社である「三菱重工エンジンシステムが」韓国企業に対して有している金銭債権だった、という点です。

つまり、別法人の資産を差し押さえてしまったわけです。

日本法のケースだと、親会社の原告が子会社・孫会社の資産を差し押さえるという事例は、不可能ではないにせよ、非常に考え辛いのが実情です(※あえてそれをやるなら、「法人格否認の法理」などでも使うつもりでしょうか?)。

また、ほかにも不可解な点があるとしたら、本件に関しては「報道」以外の情報が出て来ていないことです。

日本政府、関連する日本企業(三菱重工、三菱重工エンジン&ターボチャージャ、三菱重工エンジンシステム)などは、現時点においてさえ、公式の声明を一切出していませんし、加藤勝信官房長官も記者会見で本件について記者に尋ねられたものの、従来の立場を繰り返すのみです。

いちおう、報道等によれば、差押・取立の命令自体が出て来たのは12日、それが効力を発したのは18日のことだそうですが、債務者である韓国企業「LSエムトロン」側がメディアに声明を出した(『徴用工・債権差押「直ちに取り消される可能性は低い」』等参照)のを除けば、情報源はおもに原告側弁護士です。

しかも、本件については驚くほど「続報」がありません。

いったいどうなっているのか、気になるところですが、日本政府や三菱重工などからの公式発表がない以上、私たち一般人の立場としては、ひたすら「続報」を待つより仕方がありません。

支払期日は多くの場合、月末か?

もっとも、著者私見で恐縮ですが、一般的な売掛債権の場合、売上代金の支払いは、「月末締め・翌月末最終営業日払い」などのケースが多いのではないかと思います。

もしそうであれば8月31日、9月30日、10月29日(あるいはそれぞれの翌営業日)などの時点で、事態が動くかどうかには注目する価値がありそうです。

裁判所の差押命令などの影響で売掛債権の入金が滞ったならば、その瞬間、日本政府のいう「日本企業への不当な不利益」が生じたことになりますが、もしかすると商売上の理由で、LSエムトロン側が「二重払い」を決断したとしたら、入金自体はつつがなく終わるでしょう。

そのあたりを見極めるタイミングが、今週中に一回は到来するのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (27)

  • 何度かコメントしていますが個人的な予想では、弁護士の言い訳から、申立てて差押えられたのは、「この世に存在しない重工-LS間の債権債務」だと思っています。

    差押命令は重工(ないと思うけど孫会社も)に送達されているはずなのに、重工または重工孫会社への取材が一切報道されないのは不思議ですね。「三菱は取材に応じなかった」という記載すらも見た記憶がないです。
    韓国側の記事も、公表された後に一部削除したりとか怪しいことが多いです。

    別件ですが、CB223さんへのコメントで、
    「(債務者の)重工にできることは何もないので命令送達の受取りを拒否しないだろう」
    との主旨のことを書いたことがありましたが誤っていました。
    そもそも、日本では裁判所からの送達は拒否できないそうです。また、取立が可能になるのは債務者への命令送達の一週間経過後なので、債務者への送達には意味がありました。また債務者は差押命令の取消しを申立てることができます。「重工にできることはない」は間違いでした。
    ご容赦のほどを。

    • 元ジェネラリスト 様

       8月25日「直ちに取り消される可能性は低い」の論考の際の、元ジェネラリスト様への私のレスでは、「受取拒否等※」と表記しています。
       三菱重工や日本製鉄など(日本政府も含め)が、どのような手段を講じて、韓国裁判所からの強制執行関連書類を「受け取っていないことにしているのか?」は、以前から興味がありました。
       下記、2020年11月9日産経新聞記事では、特許権と商標権の売却処分関係の書類を、三菱重工側が「受け取りを拒否」と書かれていますが、これは単純な「受取拒否」ではないはずです。

      https://www.sankei.com/article/20201109-E3EVHJ74HZPNJGOQMTGFJINKBE/

       確かこれ以前、関係書類が日本国内被告企業に「届かない」からと、韓国政府だか裁判所から、日本大使館だか外務省あてに送達への協力依頼があって、日本側が拒否をした…というようなニュースもあったと記憶しています。
       だからこそ、三菱重工でも日本製鉄でも、「公示送達」だったわけです。そして多分、これからも。 要は、「届いていない(ことになっている)」。
       
       日本では裁判所からの送達は拒否できない…これ、恥ずかしながら初めて知ったのですが、韓国裁判所からの書類に、日本国内法が適用されるのかどうか、また、郵便条約なり協定があったはずですが、こちらの方もサッパリ小生には分かりません。
       ただ、韓国裁判所も多分、書類送達の事実確認(証拠)や送達日付の確認(証拠=確定日付)を必要としていると思われます。
       例えば、「取立が可能になるのは債務者への命令送達の一週間経過後」とありますが、何月何日を起算日とする(した)かを、裁判所は説明(証明)できなければなりません。

       ペーパーレス社会とはいえ、上場企業ともなれば毎日、重要書類(海外郵便を含む)が配達されます。配達証明付郵便物を配達員から「書留で~す」と言われて、仮に、受付嬢や警備員であっても、押印またはサインをしてしまえば「受理」です。配達証明書が交付されてしまいます。

       どうやって(どういう手段を講じて)、韓国裁判所からの書留郵便のみを受け取らない(ことにしている)のか、小生はとても不思議なのです。

       元ジャネラリスト様は、「重工にできることはない…は間違いでした。」とおっしゃいます。しかし小生は、元ジャネラリスト様のおっしゃる意味とは180度、真逆の意味で、「重工にできることはない」と思います。
       重工本体への差押命令通知書は、送達されていない、または送達されていないことになっている…と考えるべきです。
       そうすると、重工本体にしてみれば、
         ①重工本体を債務者、LS子会社を第三債務者とした債権差押命令が発布されたこと
         ②重工本体には差押対象の売掛債権は存在せず、重工孫会社のものであったこと
         ③LS側の「誤記」により発生した差押誤り(?)と思われること
         ④LS子会社から韓国裁判所に「申述書」提出されること
         ⑤当該「申述書」が原告側に開示されること
      などが、まとめて、(いい加減な)韓国マスコミから報じられただけ(という立場を堅持)です。
       重工本体は裁判の当事者ですが、重工孫会社もLS子会社も「訴外」です。「訴外者(これは小生の造語、ソガイモノと読む)」です。
       もちろん、韓国裁判所に非はありませんが、重工本体としても、自分のものでもない売掛金の差押に、異議や取り消しを主張するわけにもいかないと思います。

      • 自己レス(訂正)です。

        >恥ずかしながら初めて知ったのですが、韓国裁判所からの書類に、

        韓国裁判所からの書類を
        韓国裁判所からの書留郵便物を…に訂正します。

      • 韓国の裁判所の命令送達を日本ではどう実現するのか調べていたところ、「ハーグ送達条約」というものがあり、今回の韓国裁判所の命令送達であれば、外務省が受け取り、手配して送達することになるのだそうです。
        が、外務省は拒否することもできるそうです。

        と、実はこの命令はそもそも無理ゲーなのではないかと考え始め、色々調べておりましたが、以下の8/31付の聯合ニュースの記事がたまたま流れていました。

        日本企業の資産差し押さえ決定文 外務省が韓国側に返送=徴用訴訟
        https://jp.yna.co.kr/view/AJP20190806004900882

        韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じた強制徴用訴訟を巡り、資産の差し押さえを通知する裁判所の決定文を日本政府が被告企業に送達せず、韓国側に返送したことが6日、明らかになった。
        海外送達要請書には、1月に大邱地裁浦項支部が認めたPNR(日本製鉄と韓国鉄鋼最大手・ポスコの合弁会社)の株式差し押さえの決定文が含まれていた。

        これは株式差押の命令の件ですが、LSの件でも同じ理屈が通るのではないかと思います。
        しかし、株式差押の件が今頃出てくるということは、LSの件の送達拒否は何か月も後になるのでしょうかね。

        記事紹介も兼ねて、ちょっと取り急ぎです。
        債務者に送達できない場合に韓国の法令ではどうなるのか、今時点で不明です。

        • >以下の8/31付の聯合ニュースの記事がたまたま流れていました。

          とんでもない勘違いをしていました。
          2019年8月6日の記事です。

          もう寝ます。(笑)

          • 墺を見倣え 様

             情報ありがとうございます。
             読みましたが、おっしゃるとおり、「続報と呼ぶには値しません」ですよね。
             元ジェネラリスト様ご指摘の「ハーグ送達条約」、これに関する外務省HPの下記説明を読んでみて、私自身はほぼ納得したというか、自分の愚かさを痛感した次第です。

            https://www.mofa.go.jp/mofaj/ca/cp/page25_001296.html

             日本郵便の郵便サービスに関し、多少の知識があるからといって、全て郵便局(郵政省改め総務省)という枠の中で思考していた自分を恥じるばかりです。

             「裁判上の行為」は,国家機関たる裁判所が行う法的効果を伴う行為(裁判権の行使)なので,外国の裁判所が我が国で自由に行うことはできません。

             言われてみればそうですよね。普通の郵便物じゃないですもんね。

             元ジェネラリスト様には、私から「続きは雑談部屋で…」を提案するつもりです。
             情勢はもちろん、会計士様が連発する論考記事から、取り残されてはいけません。
             もちろん、日韓関係は米中関係の従属変数であることを踏まえ、本丸を見失わないことにも…ですよね。

          • 墺を見倣え 様

            記事ご紹介ありがとうございます。

            「現金化を止めれば、輸出規制とGSOMIAが解決する」
            などと、元日本大使がこんな世迷言を言う国だからどうにもならないのだろうなと、思いを新たにしました。(笑)

  • この手の話は、韓国メディアの情報待ちだと思って見てますが、何も情報が出て来ません。

  • 決済期限を凍結し別名目で入金の可能性は?

    エムトロン側の仕訳
    差入保証金×× / 現金預金 ×× 

    三菱側の仕訳
    現金預金 ×× / 預り保証金××
    ウリ掛金 ×× / 売掛金  ×× 

    なんてね。 

  • LSエムトロンが現金を差し押さえられるけど、それは補償金としてプールされる。
    また別途、LSエムトロンは買掛け支払い期限の前に三菱重工エンジン&ターボチャージャ社に現金で代金をし払うだけでしょ。
    売掛け代金の回収ができなきゃ、今後の商取引をやめるだけ。

    他の、かの国の企業の全てに、やってほしいものだ。

    この方式が自称徴用工20万人に対して行われる。
    結局、事実上、隣国企業は自称徴用工に賠償金を払うだけ。
    あとはあちらさんの問題なのでご自由に。

  • 差押えされたとされる売掛債権の決済日とは直接関連性はありませんが、10月末がひとつの大きな転換点になるかもしれません。そして、その転換点を前に、原告側(実態は原告を「支援」しているとされる反日活動家団体)は相当に焦っているのではないかと思量します。
    元朝鮮半島出身戦時労働者問題で国際法に反する司法決定(文在寅大統領が抜擢した韓国大法院院長の下で確定された判決)がなされたのが2018年10月30日。で、確かその判決には、当該判決確定日(すなわち2018年10月30日)から起算して3年経過で彼らの言う「徴用工」被害に対する慰謝料(損害賠償)請求権は時効となる旨も示されていたかと記憶しています。恐らく反日活動家団体も文在寅政権のもとで3年もあれば日本政府・企業が資金を拠出する「基金」をつくらせ、いくらでも金を吸い取る仕組みを作り上げられると踏んでいたのでしょうが、安倍政権、菅政権は全く姿勢がブレずに残すところ3ヶ月を切り、売掛債権の差押えにでた、ということなのかと。売掛債権差押えにも日本政府・企業が10月末までこれまでどおりブレない姿勢を堅持しているとなれば、原告側はやぶれかぶれ的に現金化を実行するかもしれませんね。
    不安材料は、日本の政局。自民党総裁選や衆議院議員総選挙の結果、対韓国融和(譲歩)政権誕生となるとやっかい。

  • 命令自体出てきたのは8月12日。もう30日、時間が経ち過ぎです。こういう時は、韓国は「次の一手」に困っている、乃至は水面下で(日本側と)交渉をしたいと望んでいると見ます。ところが、日本は安倍ー菅ラインになってから(ほぼ)中途半端な妥結をしなくなった。韓国は日本側の強硬さ、ウンともスンとも言わない対応に、相当困っていると思います。支払いサイトは知りませんが、孫会社の債権を止めたら、次の局面に移行ですね。

  • 確かに本件はその後動きが無さすぎですね、韓国サイドも日本サイドも。
    明らかに次のフェーズに入ったかと思いますが(企業の実取引に影響)、ことの重要性のわりには静かすぎです、
    日韓政府が裏で何らかの交渉を行っているのではないかと危惧&邪推してしまいます。

  • ややこしいことを続け、現金化をいつまでもしないということは原告側もそもそも不当な訴えであり、不当な判決という自覚はあるのだろうと思います。北朝鮮もそうですが結局は小心のコケ脅しで妥協しなければ自滅するのだろうと思います。ジーソミアもそうでしたが原則論を言い続け、韓国のそういったトリックは通用しないとシャットアウトすればいいと思います。

  • 韓国にレッドラインを超える意思がない(現金化する意思はない)と仮定すれば、ギリギリを責めながら日本を揺さぶる事が目的なんでしょう。
    ポイントは、おそらくレッドラインを超えないギリギリを狙ってるという事。
    ギリギリを責めてくる。それは韓国がどの程度追い込まれているのかを計る材料になりそうですね。
    近いうち(年内?)に韓国側が大きく譲歩する事になる流れではないでしょうか。

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