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徴用工債権差押で債務者「当社は三菱重工と取引なし」

金銭債権差押は自称元徴用工側の意図を超えて波紋をもたらす

先週の『徴用工「金銭債権の差押」の衝撃』でも報告した、例の「自称元徴用工判決問題に関連する金銭債権の差押え」という論点を巡り、昨日、韓国メディアに「続報」が出ていました。LSエムトロン側が「当社は三菱重工と取引がない」と正式に公表したらしいのです。ということは、裁判所は事実誤認に基づいて差押を命じたという可能性が出てきたのですが、そうなると、これはこれで別途、不自然な点が出て来るのです。

売却スルスル詐欺

金銭債権差押の「衝撃」、というか「唐突感」

先週、個人的に最も衝撃的な「事件」があったとすれば、それは間違いなく、『徴用工「金銭債権の差押」の衝撃』で「第一報」した、「三菱重工の資産である韓国企業に対する売掛債権を、自称元徴用工判決の原告側が差し押さえた」、という話題だったと思います。

これについて先週末時点の所感は『徴用工・債権差押が単なる「瀬戸際戦術」ではない理由』でも述べたとおり、もしも韓国側の報道が事実であるならば、それは債権を差し押さえた原告側の「意図」を遥かに越えて、「シャレにならない」レベルの影響を日韓関係にもたらしかねません。

というのも、金銭債権の差押えは、一般に、「差し押さえただけ」で相手に損害を与えることができるからです。

これも繰り返しになってしまい、恐縮ですが、あくまでも当ウェブサイトの見方だと、自称元徴用工側は本気で日本企業から損害賠償金を取り立てる気はありません。

毒にも薬にもならない資産を、ごく一部分だけ差し押さえ、「交渉に応じないとこれを売っちゃうかもしれないよ~」、などと「脅して」、日本企業や日本政府、あるいは日本社会を揺さぶる、というのが彼らの基本戦術だと思われるからです。

(※余談ですが、自称元徴用工側の戦術を「売却スルスル詐欺」などと名付けた『新宿会計士の政治経済評論』は、彼らにとっては「忌々しいウェブサイト」なのかもしれません。だからこそ、最近、ある種の「攻撃」を仕掛けてきているのだと思いますが、その「攻撃」については、機会があれば別稿にて報告します。)

なぜ彼らは「売れない資産」ばかり差し押さえるのか

実際、今回報じられた「金銭債権」以外に、韓国側で差し押さえられている資産は、日本製鉄と不二越が非上場の合弁会社株式、三菱重工が知的財産権(特許権や商標権)ですが、いずれも売却がとっても難しい資産ばかりです。

これについては、「左派メディア」とされる『ハンギョレ新聞』(日本語版)に先週金曜日に掲載されていた、キル・ユンヒョン記者が執筆した次の記事の記載が大変参考になりますので、再掲しておきましょう。

三菱重工に渡る債権は差し押さえたが…強制動員被害者の賠償は依然として困難

―――2021-08-20 07:53付 ハンギョレ新聞日本語版より

キル・ユンヒョン氏は、ハンギョレ新聞の原告弁護団の弁護士に対する電話インタビューの内容を紹介したうえで、金銭債権の差押えについては「特許権と商標権の差し押えのときとは異なり、別途の資産評価などの手続なしに、速やかに現金化の手続きを済ませられる」というメリットがあると説明します。

言い換えれば、特許権や商標権、非上場株式の場合は、裁判所が売れと命じてすぐに換金できるものではなく、まずは資産評価をしなければならず、買ってくれる人を探さなければならない、といった非常に煩雑な道のりがある、ということです。

ではなぜ、こんな面倒くさいことを彼らはやっているのか。

キル・ユンヒョン氏は、次のように説明します。

韓国人強制動員被害者らが、日本製鉄、三菱重工、不二越などの日本企業を相手取った損害賠償訴訟で2018年末に最終勝訴してから3年がたったが、このような複雑な手続きを踏んでいるのは、日本政府と企業が判決の履行をかたくなに拒否しているからだ」。

言い換えれば、彼らの目的は「日本政府と日本企業に判決を認めさせることにある」のであって、決して「裁判を通じて現金化すること」ではない、という意味です。

ここが本質的に重要なポイントです。

差し押さえるなら金銭債権か不動産

よく、世の中の自称元徴用工問題に関する解説を眺めていると、「果たして韓国側では資産の売却は行われるか」、といった議論が非常に多い気がするのですが、そもそも原告側が、「売却がほぼ不可能な資産」ばかり選んで差し押さえている、という事実に着目したものは非常に少ないと思います。

そこを踏み外しているからこそ、「売却が行われるのかどうか」という、非常に見当違いな議論がなされているのだと思う次第です(聞いてますか?自称クオリティ・ペーパーさん?)。

ちなみに手前味噌ですが、当ウェブサイトでは今から2年以上前の時点で、「本気で差し押さえるならば知財権や株式ではなく、金銭債権でしょう」と指摘してきたつもりです(『徴用工判決問題、三菱重工の知財差押えという動きをどう見るか』『韓国経済に「突然死リスク」があるとすれば「資金ショート」』等参照)。

あるいは、判決から3年近くが経過するにもかかわらず、日本企業の資産売却が一歩も進んでおらず、「売却するぞ」、「売却するぞ」、「今度こそ本当に売却するぞ」と壊れたレコードのように繰り返していること自体、当ウェブサイトの想定どおり、というわけです。

ちなみに、金銭債権には「いずれ換金される」、「金銭的価値の確定が容易である」という特徴を有していて、換金手続自体が不要なのですが、ほかにも裁判を通じた換金が容易な資産としては、不動産や上場株式などが挙げられます。

換金が容易な資産の特徴
  • 金銭債権…債権者の債務者に対する金銭の請求権そのものを差し押さえる行為であり、弁済期が到来したら自動的に現金化されるため、「競売」手続自体が不要
  • 不動産…落札者は、物件を自身で使用しても良いし、賃貸して賃料収入を得ても良い。日本の場合は路線価や固定資産税評価額などで簡便的に価値を測定するケースもあるほか、裁判で競売する場合にはあらかじめ不動産鑑定士による調査が行われることが一般的
  • 上場株式…落札者は、保有して値上がり益や配当収入を期待しても良いが、市場で売却しても良い。上場株式の場合は譲渡制限が存在せず、また、たいていの株式は毎日のように市場で価格がついているため、売却が大変に簡単である

(【出所】著者作成)

フェーズがまったく異なる

金銭債権は差し押さえただけで相手に損害を与えるかもしれない

このように考えると、やはり今回報じられた金銭債権の差押えは、大変に唐突です。

何が「唐突」かといえば、自称元徴用工側の意図はともかく、結果的に事件の展開が大きく変わる可能性があるからです。

これについては先週の数本の議論でもくどいほど繰り返した通りですが、金銭債権の場合、ひとつのシナリオとして、債務者(この場合は韓国企業であるLSエムトロン)が債権者(ここではとりあえず「三菱重工」としておきます)に対して支払うべき金銭を「供託する」、という手続をとることがあり得ます。

この「供託」という手続は、LSエムトロン側が本来ならば三菱重工側に対して直接支払うべき商品代金を、いったん供託場所(日本の場合は法務局)に預けることで、とりあえず法的な「債務不履行」にはしない、という仕組みのことです。

もしその供託という仕組みをLSエムトロンが利用するようなことがあれば、三菱重工側には、裁判が片付くまで、商品の販売代金が入金されない、という事態が生じます。

三菱重工ほどの大企業であれば、たかだか数千万円から数億円の売掛債権の入金が遅延したとして、経営はビクともしないと思いますが、中小企業等の場合だと、このレベルの売掛債権は入金が遅れただけで資金繰り計画が狂い、場合によっては経営問題になりかねません。

つまり、日本政府が「越えてはならない一線」として示している、「日本企業に不当な不利益が生じる」という状態が、金銭債権の差押えによってあっけなく実現してしまうかもしれないのです。

当ウェブサイトが「じつに唐突感がある」と申し上げたのは、まさにこの点にあったのであり、そして、これは同時に、大変に楽しみ困ったことになってしまった、ということでもあります。

もっとも、この金銭債権については、いつものごとく「売却スルスル詐欺」のつもりで差し押さえてみたものの、実際に差し押さえてしまった結果、「差し押さえただけで日本企業に実害をもたらす」という認識が、もしかしたら原告側や裁判所の側になかったのかもしれない、ということでもあります。

ちなみに三菱重工も日本政府も、本件についてはほぼ沈黙を守っていますが、内心では「どうせなら、早くやっちゃいな」、などと思っているのかもしれませんね。

不自然な点が多すぎる

ただ、この話題を巡っては、不自然な箇所がいくつもあることは事実です。

先ほど申し上げたとおり、自称元徴用工側のこれまでの「売却スルスル詐欺」戦略と比べ、金銭債権の差押えがあまりにもダイレクト過ぎて唐突だ、日本政府や三菱重工も沈黙を守っている、といった点もさることながら、もっと大きな違和感があります。

それは、当ウェブサイトでは第一報の時点から指摘してきたとおり、、「差し押さえた債権は三菱重工の資産ではない」、という論点です。

これも報道ベースですが、差し押さえてしまったのは、三菱重工ではなく、その孫会社である「三菱重工エンジンシステム」のLSエムトロンに対する金銭債権であるようなのです。

これも当初から一貫して申し上げているとおり、日本法の常識だと、訴訟当事者の資産ではなく、その子会社が保有する資産を差し押さえてしまう、という点は、ちょっと考え辛いものです(法人格否認法理などを使えば不可能ではないとは思いますが、非常に例外的です)。

これについては、「韓国だから」、という言葉で片づけても良いとは思ったのですが、やはりそれにしても不自然すぎます。

LSエムトロン側の反応が出てきた

こうしたなか、これに関連して日曜日、少しだけ気になる話題が出てきました。

その三菱はない?…LSエムトロン公示ハプニング【※韓国語】

―――2021.08.22 17:07付 韓国経済新聞より

韓国メディア『韓国経済新聞』(韓経)は昨日、そもそも裁判所が下した売掛債権の差押え命令自体が「事実誤認に基づいていることが判明した」と報じました。

具体的には、LSグループが22日、開示資料の誤りを認め、週初にも開示を訂正すると発表したのだそうです。

具体的には、LSグループはグループ企業で非上場のLSエムトロンがトラクターの原材料を三菱重工から調達しているとする開示資料を作成していたものの、これについては「本来ならば三菱重工エンジンシステムと記載しなければならなかった」、というものです。

韓経はまた、同社の関係者が「長い会社名は省略して開示することが慣行だった」、「開示により誤解がもたらされたことによる責任を認め、訂正開示を行いたい」などと述べたうえで、金曜日時点ですでに裁判所に対し、こうした趣旨の内容を記載した疎明資料を提出したとしています。

今回の韓経の報道が事実だとして、そのうえでもし、韓国の裁判所が売掛債権の弁済期到来前にLSエムトロン側の申し立てを認めたならば、当ウェブサイトとしての予想は外れ、今回の金銭債権の差押えは「空振り」に終わることになりそうです。

(もちろん、裁判所の決定が間に合わず、LSエムトロンから三菱重工エンジンシステムへの代金支払が遅延する、という展開があれば、話は別ですが…。)

やっぱり確信犯?それとも…

もっとも、もしこの韓経の報道が事実だとすれば、まったく別の疑問が生じます。

それは、今回の訴訟の原告側が、当該売掛債権の債権者が三菱重工ではないという事実を知らずに差押えを申し立てたのであれば、やはり「三菱重工が韓国企業に対して保有している金銭債権を差し押さえよう」という意図をもってそうやった、という可能性が出て来る、ということです。

そうなって来ると、先日申し上げた論点がそのまま生きてきます。

個人的には、さすがに自称元徴用工側も、金銭債権を本気で換金するために差し押さえようとしているとまでは考えていません。それをやってしまったら最後、「日本企業や日本政府との交渉を通じて徴用工利権を確立する」という自称元徴用工側の長年の目的が達成できないことくらいは、彼らも重々承知しているでしょう。

問題は、金銭債権を差し押さたことにより、万が一売掛債権の入金が1日でも遅れたら、その瞬間、日本企業に「不当な損害」が生じることになる、という点を、彼らが認識しているかどうかではないかと思うのです。

いずれにせよ、先週金曜日時点の「2つの注目点」――「LSエムトロン側の行動」と、「売掛金の支払期日(?)までに三菱重工エンジンシステムに対する差押命令の効力が消滅するかどうか」――のうち、前者については進展があったと述べて良いでしょう。

今後の焦点は「三菱重工エンジンシステムに対する差押命令の効力が消滅するかどうか」であり、その後、ほかの自称元徴用工側から金銭債権の差押えに関する論点が出て来るかどうか、といったところだと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (22)

  • いつも興味深く拝見しております。内容はもちろんですが、重度の自己中心性国格障害の国の人たちに対しても会計士さんが人としての優しさを堅持しておられるところに見習うべきものを感じます。時節柄どうか御自愛を。

  • LSエムトロンの言い分が韓国らしいと感じました。
    「会社名が長いと省略して開示」と言っていますが、知名度の低い子会社ではなく、知名度の高い大会社である三菱重工と直接取引があるように装うことで、自らも小さな会社ではないと見栄を張りたかった。
    そんな 9cm 心理が背景にあるように思えてなりません。

    五輪ボイコットの話も、せっかく盛り上がったのに消えてしまいました。
    今回も、せっかく事態が動きそうなのに、こんなことで差し押さえが取り消されることになれば、日本に対して韓国が「希望拷問」という手段を使うようになったのかと危惧してしまいます。

    • イーシャ様
      三菱重工にとっての三菱重工エンジンシステムは、「『お前(孫)のものは俺(子)のもの』は俺様(親)のもの」状態なんですよね。きっと。
      LSエムトロンがどんな詭弁を述べようとも、生粋(100%)の孫会社は当然に三菱重工の "連結対象" なのかと・・。

      ようやく差押えた かたい繋がりなのですから、"最期"まで全うしなくっちゃなんですよね・・。

  • >なぜ彼らは「売れない資産」ばかり差し押さえるのか

    制裁されないため。
    三菱と交渉して、謝罪と賠償の実績を作るため。

    以上ニダ。

    • この場合自称徴用工の弁護団は「本気」で三菱重工の債権を差し押さえた積りだった筈です。 失敗したのはLSエムトロン社が公式記録に「我が社は天下の戦犯企業である三菱重工と取引があるのだ。(すごいだろう?)」と言う歪曲した情報を入れた為であり、自称徴用工の「売却スルスル詐欺」計画の思惑外であったのでしょう。

      ここで「差し押さえが失敗した」と言う点ばかりに注目すると、原告側が実際に「差し押さえを実際に実行した積りだった」と言う重大な事態を見逃してしまいます。

      • 公認電力管理士 さま
        私は、「差し押さえが失敗した」とは判断していません。
        また、
        >原告側が実際に「差し押さえを実際に実行した積りだった」と言う重大な事態
        についても、見解はまだ有りません。

        基本的に韓国側の行動よりも、日本政府の行動に興味が有ります。

  • 知らなかったニダ・・・
    新宿会計士のサイト見といてよかったニダ・・・

  • 次は、「三菱重工の孫会社への差押えは可能ニダ」の裁判になるんじゃないかな。
    最終目標は、「日本の資産は全て韓国の物ニダ」という判決だと思います。

  • 三菱重工ではなく、その孫会社である三菱重工エンジンシステムの金銭債権である(笑)ボーンヘッドか、確信犯か?韓国ならどちらもアリだが、やはり「一歩出過ぎ」「踏み外した」ではないでしょうか?

    裁判所もろくに確認もしてないの?もし裁判所が裁可したままなら、孫会社に入金が遅れ、日本企業に不当な損害が生まれる。赤っ恥だネ〜。

  • 「日本企業や日本政府との交渉を通じて徴用工利権を確立する」という考えで韓国側がまとまれているのかなぁ…とふと思いました。

    現金が欲しいとある自称徴用工が、利権を確立したい関係者とは別行動を取ったのかも。

    内輪揉めは半島の常みたいですしね。

  •  ネット上で確認できたソースはここしか見つかりませんでした。地元で公正に進めてきた首長選の結果を「汚い手口」(小選挙区で年寄りが引退を拒否した場合、世代交代するにはこの方法しかないのですよ)と表現している記事なので引用はしたくなかったのですが、小さいながらも影響は大きいので引用します。

    女帝死す…山口3区の地獄
    http://endokentaro.shinhoshu.com/japan/post8252/

     「韓国スパイ」の一人(ソースのリンク先によると享年89歳か90歳)がお亡くなりになったそうです。ご冥福をお祈りもうしあげます。戦前派で、韓国人と個人的に親交があり、いまだにGHQ価値観のもとで、韓国に死ぬまで謝罪しつづけるのが善と思う人ほど、日韓関係を結果的に破壊してきた人になります。別のソースによるとこの女性秘書は体調不良で半年前から入院していたとあります。思えば韓国の迷走が目立ち始めたのもこのころからです。
     他にも、このように新時代の価値観に対応できない戦前戦中派はまだ残っていると思います。できれば存命中のうちに引退して、静かに余生を送ってほしいものです。

  • 裁判所への差押申立ての中に、債権の存在を知った根拠をわざわざ書くとは思えないので、裁判所はそれを認識していないと思いますし、差押命令にもそれは書かれてないと思います。
    LSが事業報告書の訂正を発表したのは、あら捜ししているマスコミ対応ではないでしょうか。

    LSに重工向けの債務が存在しない以上、差押命令に書かれていない(関係ない)重工孫会社への支払いを止める根拠が無いので、LSから裁判所への回答とそれを受けた裁判所の動き如何にかかわらず、LSは期限までに支払いを済ませると思います。

    徴用工側が、韓国企業の信用問題を踏まえて、敢えて存在しない債権を選んだとは考えにくいですね。LSにたまたま重工への債務が存在する可能性を、事前には排除できないでしょうから。
    徴用工側は、日本政府のデッドラインしか意識していないと思います。
    やるやる詐欺をやってるつもりが、いつの間にかデッドラインを踏み越える危険を犯していたということでしょう。

  • 三菱重工エンジンシステムは、三菱重工の交通システム及び化学プラント・環境設備のエンジニアリング事業を継承し、2018年1月1日に発足した子会社であることから、事実上一つの会社であることは明白である。

    ゆえに訴訟当事者の資産に相当するものとみなすこと、および強制動員被害者救済の見地から差押命令の効力が及ぶと判断することが適当である。

    とか言い出しそう

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