イランとの関係で、韓国は「被害者」ではなく「加害者」では?
イランと韓国といえば、イラン中央銀行が所有する米ドルに換算して100億ドル近いウォン資金が韓国国内の銀行に凍結されてしまっている問題を含め、当ウェブサイトではときどき紹介する論点です。こうしたなか、米国が対イラン制裁で凍結されている資産の一部を使い、日韓企業への債務支払を容認すると述べましたが、これに関連して韓国メディアに出て来た報道に違和感を抱いた次第です。
目次
イランと韓国の関係
イラン「ウォン資金決済」、韓国とは浅からぬ因縁
イランといえば、以前から当ウェブサイトでときどき言及する国です。
そして、かねてより言及してきたとおり、韓国が長年、イランとの金銭トラブルを抱えていたことは事実です。
『イランと韓国の泥仕合は韓国の不誠実な対応に起因する』で解説した内容を、簡単に振り返っておきましょう(※情報源等は上記記事をご参照ください)。
イランが核開発疑惑などに関し、米国から経済制裁を受け、ドル資金決済から排除されているという事情もあるのですが、こうした状況でも韓国がイランとの貿易取引を継続するために、さまざまな「制裁逃れ」をし、その結果、イラン・韓国の両国間のトラブルが深刻化してきたという事情は見逃せません。
その制裁逃れの典型例が、「ウォン資金口座での石油決済」や「物々交換貿易」です。
このうち「ウォン資金口座での石油決済」とは、イランが韓国に輸出した原油の代金を、イランの中央銀行が韓国の2つの銀行に開設したウォン資金口座に振り込ませるという形式の取引ですが、このウォン資金が現在、米ドルに換算して70~90億ドルほど溜まっているらしいのです。
イランはこれまで、韓国に対し、これらの資金の引出(おそらくは外貨に両替したうえでの国際送金)を何度も要求してきたのですが、韓国側はのらりくらり、理由を付けて、その引出に応じていません。
さらには、韓国側は「凍結された資金にろくに金利も付けていない」、「凍結された口座に対し、口座維持手数料を要求している」、などの報道もあります(※ただし、これらについては報道ベースであるため、事実関係はよくわかりませんが…)。
いずれにせよ、ウォン資金口座決済については、事実上、まったく機能しておらず、それどころかおそらくイランも韓国の金融システムに対する信頼を失っているであろうと想像できることから、今後も復活することはないのではないかと思います。
物々交換スキーム
ところで、そうなってくると重要なのが、おそらくは「物々交換取引」スキームでしょう。
これについては、イランが輸出した石油の価値に相当する物資を韓国がイランに輸出するというスキームであるため、少なくともドル決済を使わないという意味では、米国の経済制裁を「回避」することが可能だ、ということです。
ただ、この「物々交換」に使われる「モノ」は、金銭的価値があるもの(PC、スマホなど)だけではなく、イランが「どうしても欲しいもの」、すなわち主要国の輸出管理上はなかなか手に入らない戦略物資だった可能性を、個人的には疑っているのです。
ことに、安倍晋三総理大臣は2019年6月、大阪G20サミットの直前になって、突如としてイランを訪問し、その約1ヵ月後に日本政府は韓国に対する輸出管理適正化措置を発表したことについては、事実関係としてはかなり注目している次第です。
個人的に、確たる証拠を掴んでいるわけではありませんが、公表されている統計などから判断して、韓国は日本から付与された輸出管理上の通称「ホワイト国」(当時の呼称、現在は「グループA」)の待遇を悪用していた可能性は非常に高いと考えています。
というのも、日本政府による輸出管理適正化措置発表以前、貿易統計上の「HS2811.11-000」(フッ化水素、フッ化水素酸)の韓国に対する輸出高が、全世界に対する輸出高に対し、金額面でも数量面でも8~9割を占めていたからです(図表1、図表2)。
図表1 HS2811.11-000の輸出高(数量)
(【出所】『普通貿易統計』の「品別国別表」データより著者作成)
図表2 HS2811.11-000の輸出高(金額)
(【出所】『普通貿易統計』の「品別国別表」データより著者作成)
法制度上は、横流しも不可能ではなかった
もちろん、これらの品目が「イランに横流しされていたに違いない」、と決めつけるつもりはありません。
ただ、あくまでも法制度に限定した議論をするならば、日本産の劇薬なども、2019年7月までの期間であれば、韓国を経由すれば、日本の輸出管理の目を潜り抜け、規制対象品目をイランに流すことができていたことは事実です。
従来から当ウェブサイトで説明し、また、今年2月に刊行した拙著『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』にも転載したのが、日本の輸出管理上のグループ分けです(図表3)。
図表3 日本の輸出管理上のグループ別管理
グループ | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
グループA(旧ホワイト国) | 4つの国際的な輸出管理レジームのすべてに参加している国 | ウクライナ、トルコ、韓国の3ヵ国を除く26ヵ国 |
グループB | 4つの国際的な輸出管理レジームのどれかに参加している国 | 経産省はリストを公表していないが、韓国などが含まれる |
グループC | A、B、Dのどれにも該当しない国 | 世界のかなり多くの国がCに該当していると考えられる |
グループD | いわゆる「懸念国」 | アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダン、イラン |
(【出所】輸出貿易管理令および経産省『リスト規制とキャッチオール規制の概要』などを参考に著者作成))
これによると、日本は輸出管理上、最も優遇されている「グループA」、これに準じて優遇される「グループB」、そしていわゆる懸念国である「グループD」の3つを設け、それら以外の世界の多くの国々を「グループC」に分類しているものと考えられます。
イランが、北朝鮮やソマリアなどと並び、「グループD」に区分されている点に注意しましょう。
少なくとも、日本からイランに対し、何らかの製品を輸出する場合には、「リスト規制」に基づく細かい個別承認に加え、「キャッチオール規制」、つまりリスト規制品に含まれない品目も含め、幅広く輸出許可を取らなければならないこととされています。
当たり前ですが、日本からイランに対し、軍事転用可能な品目の輸出は決して簡単ではありません。
しかし、日本政府が対韓輸出管理適正化措置を発表する2019年7月以前であれば、韓国は「ホワイト国」に指定されていたため、韓国への「包括許可」に基づき輸出された品目が、さらにこの「物々交換スキーム」に使われていた可能性は、理屈のうえでは十分に考えられます。
この「戦略物資横流し疑惑」については、くどいようですが、確たる証拠があるわけではありません。
ただ、それを疑うに足る状況が存在しているのだ、という点については指摘しておきたいと思う次第です。
凍結解除
米国が日韓企業への代金支払いを容認
さて、イランに関連し、昨日までにこんな記事が配信されていたのを確認しました。
US lets Iran use frozen funds to pay back Japan, S.Korea
―――2021/07/14 16:02付 FRANCE 24より【AFP配信】
(※記事原文では “South Korea” と記載されていますが、本稿では「南朝鮮」「南韓」ではなく「韓国」と意訳しています。)
リンク先記事はAFP通信の配信記事ですが、これによれば、米国政府は現地時間水曜日、イラン核問題に関連して凍結されていた資金の一部を使い、日本と韓国の企業に対する未払金の支払を容認すると発表した、などと記載されています。
ただし、記事によれば、これはイランに対する制裁の緩和ではなく、あくまでも日韓両企業に対する債務の支払のために必要な部分のみ、凍結された資金の使用を認める、とするものであり、しかも、2019年にドナルド・J・トランプ前政権が導入した対イラン制裁の期日以前に発生していた部分に限られます。
(※なお、このAFPが報じた「国務省の報道官が日韓企業に支払う部分のみの凍結解除を認めた」とする部分、国務省のウェブサイトで報道官の記者会見のページ等を探してみたのですが、現在のところ見当たりません。発見したらまた当ウェブサイトでお伝えするかもしれません。)
また、同様に、イランの『テヘランタイムズ』にはこんな記事が掲載されていました。
U.S. waivers Iranian oil trade, allowing access to frozen assets in S.Korea, Japan Economy
―――2021/07/14 16:35付 テヘランタイムズより
この記事でもやはり、「米国はイスラム共和国(※イランのことか)に対し、制裁対象外の品目の輸出に係る韓国と日本の企業への債務を支払うために、凍結された資金の使用を容認した」、としています。
(※なお、テヘランタイムズによると、2019年9月の対イラン制裁発効以降、原油輸出代金が日韓両国に凍結されたままであるとしつつ、これらについては今回の制裁解除の対象外である、などとも記載されています。)
中央日報の記事への違和感
さて、これに関連し、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に今朝、こんな記事が掲載されていました。
米国を説得して「未収金」だけようやく…イラン制裁に泣いて笑う韓国企業(1)
―――2021.07.16 08:07付 中央日報日本語版より
米国を説得して「未収金」だけようやく…イラン制裁に泣いて笑う韓国企業(2)
―――2021.07.16 08:09付 中央日報日本語版より
中央日報によると、韓国企業が「回収した輸出代金」は約7000万ドルだそうです(※「ダヤニ家への損害賠償金と相殺にすれば良いのに」、と思ってしまったのはここだけの話です)。
ただ、この記事、あわせて3000文字弱と、中央日報にしてはやや長めの記事ですが、読んでいて抱くのは、まるで韓国企業が米国による対イラン経済制裁の「被害者」であるかのごとく位置付けているように見えることへの違和感です。
中央日報はイランと韓国の経済関係が2010年ごろから深まってきたとしつつ、それがさらに急拡大するきっかけが、2015年から16年頃に生じたと解説します。
「2015年7月核合意妥結で一歩遅れて開かれたイラン市場は『チャンスの地』とまで呼ばれ、韓国企業も大挙として進出した。2016年5月には当時朴槿恵(パク・クネ)大統領がイランを訪問して『セールス外交』まで繰り広げて、韓国政府次元で韓国企業のイラン市場進出を支援・督励した」。
たしかに、先ほどの図表でも、日本の韓国に対するフッ化水素等の輸出が急増していた時期が、2017年~2019年であることが確認できます(イランと韓国の関係が密接になっていた時期に、日本からの韓国への軍事転用可能な物資の輸出が増えていたのだとしたら、何だか嫌な予感もしますね)。
イランへの同情の余地はないが…
ただ、こうした蜜月関係も、3年前のトランプ政権下での米・イラン関係悪化を受け、終わりを迎えます。
- 「だが、3年前からイランの街頭からサムスン電子やLGエレクトロニクスなど韓国企業の広告看板が撤去され始めた」。
- 「2019年4月からはイランとの交易でウォン決済まで禁止され、韓国企業の活動は事実上、全面的に中断されていた」。
これが、韓国メディアを読んでいて抱く、「違和感」の正体でしょう。
要するに、自国を被害者かなにかだと勘違いしているのです。
ただ、忘れてはならないのは、このウォン資金決済や物々交換スキームなどを作り上げて来た目的が、米国の対イラン制裁への「迂回路」にあった、ということです。
その意味では、イランにも韓国にも同情の余地はあまりありません。
しかし、韓国メディアの報道では、自国がイランの資産を凍結してしまっている立場にある、という側面が、ほぼ丸ごと無視されています。あえて韓国が大好きな用語を使えば、韓国は「被害者」ではなく「加害者」、というわけです。
また、米国の対イラン制裁には猶予期間も設けられていたはずなのに、いざイランの資産が凍結されてから大騒ぎするという姿勢にも疑念を抱かざるを得ません。
ダヤニ家の一件で見る不誠実さ
もちろん、国際社会の制裁がイランに向けられているのは、結局のところ、国際社会に脅威を与える行動をイラン自身が行っていたのではないかと疑われているからであり、その意味ではイランの自業自得という側面もあります。
もっとも、イランの資金凍結問題は韓国だけでなく、日本にも存在しているはずなのですが、そのイランとの間で国家単位の金銭トラブルがとくにこじれている相手国が韓国であるという点を踏まえると、やはり韓国の対応に何らかの問題があると思わざるを得ません。
ついでに、国際社会の対イラン制裁とあまり関係なしに生じていると思しきトラブルが、ダヤニ家の一件です。
同じく『イランと韓国の泥仕合は韓国の不誠実な対応に起因する』でも紹介したとおり、イランの投資家一族であるダヤニ家が企業買収案件を巡り、手付金を韓国政府に没収皿ことを不服として、「投資家・国家間の紛争解決手続(ISDS)」に基づいて韓国政府を英国の裁判所に提訴。
2018年6月に勝訴し、韓国側は約7000万ドルという損害賠償の支払いを求められている、というものです。ただ、韓国側はイランの国際的な制裁を理由に、この賠償金の支払いを渋っている(らしい)、というのがこのトラブルの概要です。
このダヤニ家の一件については少なくとも日本語メディアでは続報が見当たりませんが、いずれにせよ、こうしたさまざまなトラブル、疑惑については、まさに「泥仕合」というにふさわしい気がします。
いずれにせよ、今回の一件を見るにつけ、「外国とのトラブルにも誠実に対応すること」の重要さを改めて強く認識した次第です。
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毎日の更新御疲れ様です。米国の今回の制裁緩和は南朝鮮切り捨ての一環ではないかと思います。
南朝鮮は米国の制裁を盾に支払いを拒否していましたので、その盾を撤回されると支払い拒否が不能になる=米国すっきりするかと。日本も一緒とはハテナですが、日本にも未払いがあるので構わないでしょうし、米国からのサインと見えます。南朝鮮よりも精算を完了し、公表すれば南朝鮮に圧迫する事が出来ます。
アメリカの意図が見えない。
イランへの救済措置?それとも日韓への踏み絵的なもの?
誠実に対応し続けることが信用につながり、信用を重ねてゆくことから信頼がうまれる
とりあえず話聞いてると、韓国の自業自得に見えますね。そんな不安定なイランにわらわらと進出するのが意味分からない。いわゆる自己責任です。
半グレ国家と、詐欺師国家が泥試合をやってる様相。まあこれが、偽らざる国際政治の実情かもしれませんが、、
韓国企業は、債務者の所持金ではなく、”韓国内での凍結資金”から未収金7000万ドルを回収したんですよね。
ってことは、ダヤニ家やイラン政府も自国企業の未払金保持者から7000万ドルを回収すればいいような気もします。
けれどもそのための原資は凍結されたウォン口座にプールされてたりするのかな・・??
日本国内での報道がほとんど皆無なんですが、南アフリカの暴動が酷いことになっているらしいです。
日本企業も略奪にあっているようですが、LGに至っては略奪された挙げ句に拠点に放火されているようです。
イランとの屁理屈のゴリ押し騒動も酷いもんですが、UAEにでばっていた韓国軍にコロナ感染者が出て全員緊急帰国だの、イスラエルに必要以上に接近してワクチンスワップだの…
イスラム圏の中東やアフリカ諸国が、いつまでも笑って済ませてくれるわけがないのでは?
と、他国ながら心配になります。
元々外交がわかっている国ではないのですが、直近3ヶ月あたりですら狂喜乱舞の踊狂運動が凄まじくなって来てないですかね韓国って。
武器を捨てて我先に逃げ出すので有名な韓国軍ですが、これは仕方ないでしょうか。
"「ノーワクチンに退却」…韓国清海部隊、来週全員「輸送機帰国」作戦" (中央日報日本語版 2021.07.16 14:30)
きっと、中東も通りますね。
イランさん、原油代金を踏み倒している韓国に、領空通過なんて許可する必要はありません。
あいつらのことだから、許可なんてなくても通ろうとするでしょうから、強制着陸させるとよいでしょう。
逃げようとしたら、撃墜もあり得ますね。
こういうとき、世界各国と友好関係を築いているか、世界中で忌み嫌われているかの違いって、大きいですね。
ところで、乗員は海上で積み降ろしするのでしょうか。
武漢肺炎が蔓延した韓国軍艦なんて、入港させてくれる奇特な国はあるのでしょうか。
イーシャさまご指摘の通りで ただ、
威勢のいい口先でも誇りもなく
ずるして逃げ足早いことにかけては
世界一の韓国軍ですからこれは
お得意十八番と思います。
ま、
清国と講和して日本に引き上げる
豊臣軍の背後を卑怯に襲ったものの
反撃食らって逃げぞこなって
あっという間に戦士した
李瞬臣という笑いものでしかない
小物を韓流ファンタジーで
英雄扱いしてるお国なのですから(笑)
私も
計画的借金踏み倒しの韓国なのに
この韓流メディアの記事を見て
なんてこったと思っていたら
新宿会計士様がしっかり
明らかにしてもらいました。
言論に寛容な日本をいいことに
反日国の韓流メディアが
日本語で好き勝手するのみならず
捏造までして日本の道を
左に西に踏み外した韓流立ち位置の
朝日新聞などが目に余る狼藉し放題です。
日本はイランとは
今は距離があっても
しっかり外交ルートもあって
どっかみたいな反日の国でもありません。
日本にイランの人も少なからずいるので
私たち日本人にイランの姿勢を日本語で
説明するメディアがあってもいいのにと
思います。
こうした韓流メディアの身勝手な主張に対し
ここ日本を舞台に堂々と主張して貰えばいいのに
と期待します。
韓流に騙され続けた日本の世論は
イランを理解しイランに与するだろうと
思います。
ふーむ、米国の意図がよくわからないですね。
韓国による使い込みを防ぐ目的なのでしょうか。