X

河野大臣「VRS数値悪い自治体は1クール飛ばしも」

VRS問題は一部自治体の事務処理能力の限界をあぶりだしたという側面も

当ウェブサイトで最近、力を入れているのが、『ワクチン接種記録システム(VRS)』の生データの分析です。現在のところ、日本全体で1日あたり接種回数は100万回を達成しているのではないかというのが当ウェブサイトなりの見解なのですが、ただ、やはりVRSのデータがおかしいと思わざるを得ません。こうしたなか、河野行革担当相は先週火曜日の会見で、「VRSの数値が極めて低い自治体へのワクチン配布を1回クールを飛ばすかもしれない」と警告しています。真っ当な見解でしょう。

ワクチン接種、1日100万回達成したのか?

昨日の『東京都で高齢者の新規陽性者数はこれからどうなるのか』を含め、最近、当ウェブサイトでは政府が公表するワクチン接種数について、いくつかの観点からさまざまな分析を試みて来ました。

当ウェブサイトの議論において、現時点までに作り上げている仮説は、だいたい次のようなものです。

  • ①菅義偉政権が続ける、医療従事者等、次いで65歳以上の高齢者に対する優先接種の方針は、コロナ禍による医療崩壊リスクを著しく低減する
  • ②日本は主要先進国と比べ、ワクチン接種の遅れが目立っていたが、こうした状況は6月以降、急速に解消されつつある
  • ③現時点において1日当たりの接種回数は日本全体で100万回前後に達していると考えられ、これに新しく始まった職域接種などを加えれば、接種回数はさらに増える見込みである
  • ④65歳以上で希望する人に対する接種は、自治体等によるバラツキはあるものの、7月末までにおおむね2回目接種まで完了し、64歳以下の若年層に対しても9月ないし10月にはおおむね2回目接種が完了する

①についてはこれまでも何度となく紹介してきたとおり、統計的事実に基づくものです。

たとえば、『新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識』の4ページに掲載されている図表によれば、「30歳代と比較した場合の各年代の重症化率」は、60歳代で25倍、70歳代で47倍、80歳代だと71倍にも達します。

30歳代と比較した場合の各年代の重症化率
  • 10未満…0.5倍
  • 10歳代…0.2倍
  • 20歳代…0.3倍
  • 30歳代…1倍
  • 40歳代…4倍
  • 50歳代…10倍
  • 60歳代…25倍
  • 70歳代…47倍
  • 80歳代…71倍
  • 90歳代…78倍

(【出所】『新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識』P4)

つまり、感染すれば重症化する確率が圧倒的に高いのは、若年層ではなく高齢層であり、高齢層の多くが重症化し、病床を占有し始めてしまうと、そこから医療崩壊につながる可能性も出てくるのです。だからこそ、まずは医療従事者等と高齢層へのワクチン接種を急がねばならなかったわけです。

そして、これらに対するワクチン接種が一巡し、免疫が出てくれば、コロナ危機はまったく違う局面を迎える、というわけです。ここまでの議論に、おおむね大きな問題はないでしょう。

ただし、これらのうち②、③の部分については、実際のデータを見ていると、どうも「何か変」なのです。

そもそも、ワクチン接種総回数に関するデータは、政府のウェブサイトのあちらこちらに散らばっているのですが、それらのデータのなかには、登録がかなり遅れているデータもあると思われるからです。

VRSの1日あたり接種数がやっぱり「おかしい」

これらのうち「医療従事者等」に対する接種データに関しては、少なくとも4月12日分以降については首相官邸のウェブサイト『新型コロナワクチンについて』のページにまとめられていて、エクセルファイルで簡単に確認することができます。

しかし、「医療従事者等」以外に対するデータについては、『ワクチン接種記録システム(VRS)』から提供されているのですが、そのデータを入手するためには政府CIOポータルからアクセスする必要があり、データのフォーマットも特殊なので、加工するにはある程度の技術が必要です。

元データは「https://vrs-data.cio.go.jp/vaccination/opendata/latest/prefecture.ndjson」をウェブブラウザのURL欄に打ち込むと入手可能で、また、バックデートのデータに関しては、上記文字列のうちの「latest」以降の部分を「{dt}/prefecture.ndjson」(※)に変えれば入手できます。

(※なお、{dt}の部分には10ケタの文字列「yyyy-mm-dd」が入ります。たとえば「2021年6月21日時点のデータ」であれば、{dt}の部分を「2021-06-21」という10ケタの数値に変換していただければ取得可能です。)

そして、これについて昨日時点でデータを取得し、グラフ化したものが、図表1、というわけです。

図表1 1日当たり接種数(医療従事者等+一般人)

(【出所】VRS『新型コロナワクチンの接種状況(高齢者等)』オープンデータ、首相官邸『新型コロナワクチンについて』公表データより著者作成)

この図表1を見ていただくと、総接種回数は先週月曜日あたりをピークとして、その後は徐々に減っており、土曜日以降は急激に落ち込んでいることがわかります。

「医療従事者等」に対するデータについては、月曜日に接種数がピョコンと跳ね上がっている理由は、土・日・祝日分が翌営業日にまとめてカウントされるためです。しかし、VRSデータに関しては、どうも各自治体の入力が大変に遅れているのではないか、というのが当ウェブサイトなりの仮説でした。

ちゃんと検証してみた

いちおう、バックデートでの修正状況を見るにつけ、このVRSデータについては過去にさかのぼって修正される数値を考慮に入れたら、すでに1日100万回の接種を達成しているのではないか、というのが当ウェブサイトの暫定的な結論ではあります。

しかし、ちゃんと数字で確認できていないのに、「たぶん1日100万回を達成したに違いない!」とやるのは、やはりこれは議論として大変に気持ち悪いものです。

そこで、少し(というかかなり)面倒くさい作業ではありますが、こんな検証作業を実施してみました(図表2)。

図表2 VRSデータの過去分の再集計(6月18日分)

(【出所】過去分のVRS『新型コロナワクチンの接種状況(高齢者等)』オープンデータより著者作成)

これは、6月18日時点で取得したデータと、その前日、つまり6月17日時点で取得したデータの「差分」を、過去の日付にさかのぼって計算したデータです。

ちなみに6月18日と6月17日のデータの「差分」は1,101,420回ですが、このうち「6月17日の接種回数の差分」が562,203回、「6月16日の接種回数の差分」が130,543回、「6月15日の接種回数の差分」が48,167回でした。

このように展開してあげると、VRSのデータは過去にさかのぼってかなりの修正が入っている、ということがわかるでしょう。酷い場合で、1日あたり30~40万回分は、バックデートで加算されている、というわけです。ためしに、他の日でも同じようなグラフを作ってみましょう(図表3)。

図表3 VRSデータの過去分の再集計(6月16日分)

(【出所】過去分のVRS『新型コロナワクチンの接種状況(高齢者等)』オープンデータより著者作成)

6月16日時点で取得したデータにも同じような傾向が見られます。

たとえば、6月16日と6月15日のデータの「差分」は1,222,552回ですが、このうち「6月15日の接種回数の差分」は567,185回、「6月14日の接種回数の差分」は102,102回、「6月13日の接種回数の差分」は84,959回です。

種明かししてしまえば、何らかの理由でVRSへのデータの反映が非常に遅い、という実情が出て来ているのでしょう。

同じ要領で、6月15日以前のデータと、それ以降、毎日の差分を取ったデータをグラフ化してみたものが、図表4です。

図表4 VRSデータの過去分の再集計(6月15日~21日分)

(【出所】過去分のVRS『新型コロナワクチンの接種状況(高齢者等)』オープンデータより著者作成)

河野行革担当相「遅い自治体には1回クール飛ばす」

さて、このVRSへの入力漏れについては、河野太郎行政改革担当大臣も認識しているようです。

河野内閣府特命担当大臣記者会見要旨 令和3年6月15日

―――2021/06/15付 内閣府ウェブサイトより

河野行革相は、「VRSの数値が極めて低い自治体がある」としたうえで、次のように述べました。

VRSの数値が極めて低い自治体がありますが、そのような自治体に在庫を積み増しても仕方ないという考え方もあると思いますので、今後、あまりに接種が遅い自治体は、1回クールを飛ばさせていただくこともあり得ると思います」。

至極、真っ当な考え方でしょう。

ワクチン接種が順調に進んでいる自治体で「弾切れ」となる一方、ワクチン接種が無駄に遅れている自治体に貴重なワクチンを送ってしまいっては、効率が悪すぎます。接種のスピードと考えていくならば、VRSにちゃんと入力している自治体を優先するのは当然の話でしょう。

さらに、河野氏はこうも述べています。

今までも何度もお願いをしておりますが、非常に貴重なワクチンですので、余剰が起きた際には廃棄することなく接種をお願いしておりますが、一部自治体で不適切な対応が見られて、廃棄されるということがまだ続いております。自治体から適切に対応するように指示が出ていても、それが途中で消えてしまったりということもあるようでございますので、改めて適切な管理、接種の徹底をお願いしたいと思います」。

政府がワクチン配布を適切に判断するうえで、VRSの入力はその基礎となるものです。

現状のVRSデータの遅延は、図らずも、日本全体で事務能力自体が疑わしい自治体が存在していることを強く示唆したとも言えるでしょうし、ワクチン接種が遅延している自治体においては、次回首長選挙で有権者が適切に判断することも必要ではないかと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (28)

  • 間違っているときほど高圧的な態度を取るのは官僚の宿痾でしょう。
    自治体側は恐喝に乗り出したと発言しているそうです。
    内閣府のメンツをつぶさないだけならいいのですが、離陸前にデジタル庁がとん挫するようなことになれば(狙っている勢力が居そう)選挙前まずいことに。
    どなたか1月25日に開催されたZoom会議の録音を公開していただけないものでしょうか。

  • 河野大臣、ナイスです。
    徒競走で仲良くお手てつないで同時にゴールインさせられた世代には理解できないでしょう。
    今まではそんな輩からの批判を恐れて出来なかったが、ここは評価できます。
    もっと言えば民間企業のように自治体同士で競争を煽ってもよいのではないかとは思います、競争はブラックにならないようにすれば問題なし。。

  • >酷い場合で、1日あたり30~40万回分は、、、、
    >6月18日と6月17日のデータの「差分」は1,101,420回ですが、このうち「6月17日の接種回数の差分」が562,203回、
    なので、1,101,420-562,203=539,217 となり、この日は約54万回分バックデートされています。調べてみると多い日は70万回もバックデートされています。
    なお、やはり土日の登録数は少なく、その分を翌日以降登録している様子が覗えます。

  •  >事務能力自体が疑わしい自治体

     そう言えば未だに「検査ガー」を連呼してワクチン接種に回すべきリソースを浪費してる自治体がありましたっけ。

  • 済んでいる市は民主・共産・社民(の生き残り)が勢力を持っているのですが、ワクチン接種の手続きが郵送・電話でネットを使ってません。高齢者へのクーポン券の郵送も今月になってからで他の市町村より遅かった。当方は運よく19日に第一回目接種できたのですが、今日になってまた郵送で中間F/upの依頼(接種状況、または予約状況)の郵送返信依頼が来ました。
    それで、仕事を増やして雇用を守るのが第一義のお役所、と考えてしまいます。
    VRS登録について意図的に遅らせている、とは思いませんが、いろいろな事務を手仕事・郵送・システムの統合性が無くてあちこちで再入力の繰り返し、などで人手ばかり使っていて結局データ作成が遅れるのではないかと思います。それで逆恨みで「恐喝に乗り出した」になることの方が実態に近い場合が多いのではないか、と邪推します。

    ZOOm録音が公開されるというのは、守秘義務のある情報の駄々洩れのような気がして、それの方が中身より問題がイヤらしいと思います。いろいろな企業で共産党に情報が洩れるのは、過去、よく目にしたと思っています。

  • 河野大臣の”警告”は良いとしても、それぞれの自治体に事情はあるでしょうから、実施は問題があると思います。多分実施はしないでしょう。

    其れより河野大臣は、補正予算で、接種状況をVRSと接種台帳へ一気に反映する様システムを改修する予算を、総務省が確保し各自治体に配分する様、総務大臣を指導すべきと思います。

    その前に、業務フローを全体最適(ディジタル庁、総務省、厚労省で)に整理する必要があると思いますが。

    接種⇒(手動)接種台帳⇒(多分手動)VRS  を  接種⇒(半自動)VRS⇒(自動)接種台帳 とか。

  • 今回の動きは平井大臣の「失言」が関係していると当方は思います。
    彼は民間出身であると聞いていますが、力欲しくなると、どうして一様に周近〇化していくのか理解に苦しみます。自治体首長どのあっては職員から聞き取りをして実態把握を急ぐと同時に事業主体の立場を死守されることを提案します。

  • 更新ありがとうございます。

    河野太郎大臣「一部自治体でワクチンの不適切な対応が見られて、廃棄されるということがまだ続いております。」信じられない。そんな事してる自治体、自治体首長名、幹部職、すべて明らかにするべきです。

    消費期限が迫っているのに、何をグズグズしてるのか?余りそう(接種率低いのは言いにくいだろうが)なら、上級機関に報告するべきだろう。

  • 不適切事例の中身の検討が必要だと思います。
    ささいなミスなら、次回はという事でカバーされますが、
    廃棄と偽って他に横流しの事例が隠れている事が想像できます。
    特に隣の国でワクチン騒動が起きている事から、その国に横流しする為
    廃棄したとしているのではないかという事です。
    又、ワクチン目的の外国ツアーも聞く事から、闇ワクチンとして高額でも
    受けたい人も多くいるでしょうから。

  •  反政府集団が「ワクチン接種が難しい自治体のことも考えずにこんなことを言うなんて庶民感覚ガー上級ガー」と噛みつくのが容易に予想できます。少し前なら支持しつつも「言わなければ良いのに」と思ったところですが、ここ最近はそんなノイズに乗せられる人もだいぶ減ったので、事実は事実として最善手を尽くすというアピールをしていくべきだと安心して思えるようになりました。乱暴に言えば「バカは無視して問題なし」です。
     考えなしに1億2千万人分(2億4千万回分)あれば良いと思っていましたが、ロス率があるとなると余剰は結構な数量必要なのでしょうか。種類が異なるとは言え、なおさらアストラゼネカ製の用意を進めていたのが妥当性を増しますね。

1 2